表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/126

第51話 依頼追加


 あけましておめでとうございます


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 フロントラインの町には何事も無く、無事に辿り着いた。ランガンの町より明らかに魔素が濃いね。『初心者の森』を少し奥に入ったぐらいか。

 でも…これって護衛の意味があるのかな? などと思わなくも無いけど、まだ始まったばかりだ。これから何かあるかもしれないから気を引き締めて行こう!


 町に到着したのが夕暮れ前だったからか、町に入るために並んでいる人は冒険者ばかりだったが、それなりの人数は並んでいた。五〇人以上いたように思う。

 さすが最前線の冒険者の町と呼ばれるだけあって、中級以上の魔物が跋扈する森での仕事をしている冒険者が多いのだろう。


「こういうのは羨ましいですね。魔物の素材だけで冒険者ギルドが潤いますからね」

「そうじゃの、高級な薬草も多く採れそうじゃ」


 お互いに視点は違うけど、羨ましく思ってるのは同じのようだね。

 でも、それなら何でメメジーさんはこっちを拠点としなかったんだろ。薬草がある『初心者の森』に近いから王都では無くランガンの町を拠点にしてたって聞いた気がするんだけど。


「やはり、獣人が多いのぉ。しかし彼奴あやつらの儂らを睨む目も見飽きて来たの」


 入門のために並ぶ冒険者には確かに獣人が多かった。しかも、その獣人達はこちらをずっと睨んでいる。

 あれは羨ましいという目では無く、殺気が含まれているね。僕は殺気だけには敏感なんだよ。


「はい、私も素材などは羨ましいとは思いますが、ここに赴任しなくて安堵しています」

「そうかの? お嬢ならそれなりにやっとったかもしれんがの。フォッフォッフォ」


 メメジーさんも同じ理由でこの町にしなかったんだろうな。あまり工房から出ないとはいえ、毎日あんな視線に晒されてるような環境では住みたくないだろうからね。


 居並ぶ入門待ちの人達を横目で見ながら門まで到着した。

 超順番抜かしだ。周囲からの視線が更に悪化する。

 そんな中、五名の門兵が出迎えてくれた。

 敬礼と共に歓迎の声をあげてくれたのは人族の兵士さんだった。


「ラピリカ様! ようこそフロントラインへ! 歓迎いたします!」


 入門チェックをしているのは十名ぐらいいる獣人だけど、こちらを出迎えてくれたのは人族だった。

 どちらも同じ制服に身を包んでる所を見ると、同じ兵士さんだと思うんだけど、何か意味があるんだろうな。


 先触れの連絡が通ってたようで、こちらの入門チェックはすぐに終わり、町の中へと通された。


「気にはなさらないように。これがこの町のルールですから」


 僕が気にしているのを察してくれたのかラピリカさんが説明してくれた。


「普段は今私達が通った側が人族用で、反対側のあちらが獣人用なのです。何人か人族が並んでいたのは同じパーティだからなのでしょう。人族だけではあまりこの町に来ませんから、こちら側はいつでも空いているんです」

「まぁ、何人か並んどっても、今回はギルマスが乗っておるんじゃ、優先的に通らせてくれたじゃろ」

「それをおっしゃるならメメジー様もですよね?」


 凄っ! 一人でも優先的に入門できる人が二人も乗ってたら、超優先じゃん!

 そんな僕の感動をよそに、二人は通常運転で町を走らせた。

 二人はそのまま冒険者ギルドへと立ち寄り、カウンター脇から奥へと入って行く。

 どうしたものかと考えたが、僕の役割は護衛なので、そのまま二人の後を追った。


「いらっしゃいラピリカ! メメジー様もようこそ。そして君は今話題のキズナかな?」


 迎えてくれたのは人族の男性だった。

 年は四〇歳前後に見える。細マッチョって感じの元イケメンだ。

 武術師とも魔術師とも取れる感じで、爽やかな笑顔で迎えてくれた。


「ええ、お久し振りです、ビリーさん」

「久しぶりじゃな」

「こんにちは、お邪魔します」


 同僚だから様付けじゃないんだな。話し方はあんまり変わってないけど、さん付けするラピリカさんって初めて…じゃないな。アルガン統括もさん付けだったか。

 挨拶が終わるとラピリカさんが僕を紹介してくれた。


「先触れの手紙でもお伝えしましたが、この方が我が冒険者ギルドのホープ、キズナ様です」

「儂の師匠でもある!」

「キ、キズナです……」


 ホープってなんですか! 初めて聞いたんですけど! しかもメメジーさん! 自慢気に師匠って放り込まないでよ! 居辛いわ!


「ふむ、噂は聞いてるよ。やはり君がキズナだったか。私はこのフロントラインの冒険者ギルドで長を務めているビリーだ。よろしく」


 うわぁ、なんか話し方もイケメンだ。今でも相当モテるんだろうな。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

「君は腕の方も相当やり手らしいじゃないか。ランガンの町だと物足りないだろ。こっちに移籍して来ないか?」

「ビ、ビリーさん!」

「いいじゃないか、本人の自由だろ? ここは魔物の最前線なんだ、強者はいくらでも欲しいのだよ」

「それでも会っていきなり、それも私の前で勧誘する事はないでしょ!」

「そうじゃ! 今のは儂も捨て置けん! 事と次第によってはこの町におる儂の弟子達は撤収じゃ!」


 突然のビリーさんのスカウトに、怒りを露にするラピリカさんとメメジーさん。

 そんな二人の怒りも意に介さないような仕草で受け流しているビリーさん。

 肩を竦めて余裕の笑みを崩さない。余裕のある態度だ。


「ま、半分冗談だ。挨拶のようなものだよ」


 それって半分本気って事だよね。ギルマスをやってるんだから幾らでも戦力が欲しいって気持ちは分かるけど、さすがにルール違反じゃないかな。


「それで? ラピリカは挨拶に来ただけなのか?」

「むぐぐぐ、そうです。今回は鉱山の町マインに行く予定でしたので、宿のために途中で立ち寄っただけです。さすがに挨拶も無しに通り過ぎるのはいけませんから来ただけですのに」

「たちの悪い冗談じゃ!」


 二人とも、まだ少し怒ってるね。当然と言えば当然か。


「あと、道中の最新情報が分かればいいと思って寄りました」

「おっと、そうだった。言われなければ忘れる所だったな」

「何かあったんですか?」

「ふむ、マインの町とのちょうど中間あたりに盗賊が出たと情報があった。例の馬車で来てるのなら大丈夫だとは思うが、落石や倒木があったら要注意だな」


 乗って来た馬車のスピードなら盗賊に追いかけられても問題なさそうだけど、落石や倒木を道に置かれたら止まらないといけない。

 そこを突かれるなよって事だな。止まってしまえば速度なんて関係ないかなね。


「あと、少し魔物が増えている。街道まで来る事は無いだろうが、十分注意した方がいい」


 むぐぐ、これって先日のスタンピードとも関係ある話かもしれない。余波がこっちまで来てるのかもな。


「もう一つ。魔物が増えだす少し前に吸血鬼が大量に死んでるのが確認された。そのせいかもしれないんだが、少し魔物のテリトリーに変化があったようなのだ。普段は森の奥にいるような魔物も確認されている。これは未確認情報なんだが、地龍を見たという噂まで出ているから十分に注意する事だ」

「ち、地龍ですか!? 走竜などの見間違えでは?」

「まだ噂の段階だからな。はっきりと確認されたわけではない。だが、用心に越した事はない」


 走竜や飛龍などの下位の龍に対して地龍や水龍、火龍、空龍は中位の龍だ。身体も格段に大きく、それぞれ特殊能力も持っている。Aランク冒険者でも一人では逃げる事も難しいだろう。

 地龍のアースクエイクに巨大岩弾、火龍の火炎放射に炎弾、水龍の渦巻きに大津波、空龍のエアカッターの嵐に稲妻などが有名どころだ。他にも中位の中でも上位にあたる嵐龍や光龍、闇龍に火炎龍、氷龍などまでがこの世界で知られている龍達だ。

 それ以上になると魔素の薄い人間のテリトリーまで来る事は無い。もし来たとしても発見した者は言葉通り全滅するのだから伝える者がいない。後世に伝わる事が無いのだ。

 僕は知ってるけどね。先生や加護を授けてくれた人達にいたからだけど。


「わかりました。地龍が現れたからといって出来る事は無いんですが、走竜の体調管理といざという時のために身体能力強化のアイテムでも用意しておきましょう」

「それよりも盗賊の方が現実味があるのぅ。何も対策はしとらんのか」

「今のところはまだです。ちょうど中間あたりというのもあって、こちらから出すのかマインの町から出すのか揉めているところです」


 噂の地龍より現実味のある盗賊ね。たしかにメメジーさんの言う通りだよ。


「何故揉めとるんじゃ? そんなもんは早いもん勝ちじゃろ! とっととやっつけてしまえ!」

「それが、今は魔物が増えてまして、こちらから出すのは厳しい状況なのですよ」

「ふむぅ、だったらマインの町からでもいいじゃろ」

「その地龍の噂がマインの町からの方が近い場所なもんで、その調査に当たらせてるようです」

「むぅ…うまく行かんもんじゃの。ならば小僧の出番じゃな!」

「なっ!」


 何言ってんのよ、この爺さんは! 僕の出番なんて無いから! そんなのいらないから!

 メメジーさんの言葉に驚いて大きく目を見開いていると、三人が一斉に僕に注目する。

 ほぉ、やる気だな。なんて言葉をかけてくるビリーさん。ビックリ目玉で迎え撃つ僕。

 期待満々の眼差しで見つめてくるラピリカさんとメメジーさん。


 ちがーう! 驚いてるだけだって! この表情のどこにやる気が見えるのさ! おっかしーんじゃねーの?


「いやいや、僕の仕事は護衛ですよね? 別の依頼を重複して……」

「さすがはキズナ様です! 盗賊退治など片手間仕事でしたか。私もBランクへの昇格を認めた目利きが確かであると証明されて嬉しいです!」

「うむ、さすがは小僧じゃな」

「助かったよ、これ以上は放置できないと思ってたんだ。そうか、頼んだよ。報告では大体二〇名程度の奴ららしいからね」


 誰も聞いちゃいねぇ! なんでこんなに話の通じない人ばかりなんだ? 偉いさんって普通は聞き上手じゃないの?

 メメジーさんも、二〇名程度など小僧なら楽勝じゃな。とか言ってんじゃないよ! 煽るなって!

 何かここに来てから色々とフラグが立ったような気がしたんだよ。こんなテンプレいらないのにー。


 その日は冒険者ギルドの用意してくれた高そうな宿に泊まり、しっかりと身体を休め、翌朝は早くから町を出た。

 今日は一気に鉱山の町マインを目指すそうなので、休憩もあまり取らない予定だ。

 僕の方はやっぱり心配だったから、保険としてピッピとキラリちゃんとカゲールくんをこっそり喚んで同行してもらってる。

 妖精の特技の一つで、他の人には見えないようにしてもらってる。

 キラリちゃんは高高度から、ピッピは低空飛行で、カゲールくんには影の下から見張ってもらってた。


 この馬車って、全然前が見えないんだ。牽き馬の走竜が大きすぎてね。

横と後ろは警戒できても前方は御者さんに任せるしかない。

 そんなの後手後手に回るだけだから皆に手伝ってもらう事にしたんだ。姿もそうだけど、声も僕にしか聞こえないしね。

 喚ぶ時にだけ門が見られてしまう恐れがあるけど、それさえ気をつければバレないし、還ってもらう時は別の場所に【クロスオーバー】で門を出せばいいだけだからね。


 予想通り、マインの町までの中間地点まで、何事も起こらなかった。魔物も走竜が牽いている時点で弱い魔物は近寄って来ない。

 追いかけて来ようとしても追いつけないみたいだしね。

 そろそろ中間地点を越えようとした時に、アクションがあった。


「キズナ様ー! 大きな木が倒れて道を塞いでるよー!」

「こっちもいたいた。木の向こう側とこっち側の両側に隠れてたよー」


 ピッピとキラリちゃんが報告に来てくれた。

 やっぱりか……出て来なくていいのにね。

 っていうか、依頼を受けなかったらカゲールくんに木を撤去してもらって走り抜ければよかった? でも、受けちゃったんだよね、ラピリカさんが。

 ギルマス二人の公認依頼だから、これって討伐しなかったら依頼失敗になっちゃうのかな?

 どうなんだろ。

 仕方が無い…対人戦は久し振りだけど、行ってきますか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ