第50話 護衛依頼
それぞれを見送った後、断る事ができなかった『護衛依頼』に挑んでる最中だ。
ブラッキーさんとホワイティさんはスカウトしたバンさんと共にダンジョンに向かい、ハーゲィさんはキュラ君と薬草採取へと出かけた。
共に張り切りようが凄かった。テンション高すぎだと思うんだけど、それも致し方ないのかもしれない。
ハーゲィさんは言うに及ばずだけど、ブラッキーさんのテンションも高かった。というのも、二〇階層を突破した後、行き詰まり気味だったんだとか。
狼系の中位種でブルーウルフという魔物が群れて現れるので前衛職が欲しかったのだそうだ。狼系は連携もするし速度も速い。
通称クィックウルフとも呼ばれるぐらい機敏さに優れているブルーウルフだから、ずっと前衛を探してたところにバンさんが現れたのはブラッキーさん達にとっては渡りに船ってところだったみたい。
因みにノスフェラトゥさんは単独で城へと寂しく帰って行った。
で、僕はというと……
この世界のゴトゴトと馬車は走る。街道もしっかりと整備されているわけではないので、十キロ程度のスピードでも乗り心地は非常に悪い。
馬車にはクッションなど付いてなく、悪路の影響をそのまま受ける。これなら走った方がずっとマシだ。と普通の馬車ならそうなるはず。
だけど、今回は隠しているとはいえギルドマスターのラピリカさんと、ポーション界の重鎮であるメメジーさんが同行するとあって、乗り心地のいい馬車での移動となった。しかも非常に速い。
進行方向に向かって横並びに三人が座り、目の前は御者席のみ。後部には多少の荷物が詰める荷台があるだけのスピード重視タイプの三人乗りの馬車だ。
屋根は無く、雨や日差しが厳しい時に幌が後ろから出せるようになっているオープンカーのような仕様で、両サイドには大きな車輪が一対のみ。二輪の車輪で走るタイプだ。
車輪が大きいからか、何か良いショックが付いているのか。
ショック―――ショックアブソーバーと言う部品だけど、サス―――サスペンション(バネ)の内側の棒の部分の事だ。
サスだけだったらちょっとした窪みでいつまでもビヨンビヨンとしてるから、乗ってて余計に気持ちが悪くなる。それを制御するのがショックなのだ。
本当に乗り心地がいい、スーという感じで走行しているのだ。
街道は土だ、町中のメイン通りのように石畳ではない。
道幅はそれなりに広いけど、土の部分が大半だ。
それなのに乗り心地がここまでいいのは、それなりの技術なんだろう。
そう感心していると、ラピリカさんが説明してくれた。
「驚いていますね。うふふ、この馬車は冒険者ギルドの、しかもギルマスのみに許された仕様の馬車なのです」
「そうじゃったか! 儂も感心しておったところじゃ」
僕に対して言ったはずなのに、メメジーさんが驚いていた。
三人の横並びの真ん中に座ってるラピリカさんが僕の方に向いて話したのだから、僕に対して話してるのに、反対側に座っているメメジーさんが驚きの声を上げたのだ。
仕方なく、といった感じで、ラピリカさんは今度はメメジーさんに向かって話し始めた。
「はい、ありがとうございます。この馬車はどの王室にも未だに採用されていない技術を駆使しておりまして、詳細は言えないのですが馬車に細工がされているのです」
説明を終えたラピリカさんは、再びこちらに向き直り、ドヤァって感じで満面の笑顔を見せてくれた。
「王室でもまだって事は、最近の技術なんですか?」
たしかに冒険者ギルドも権力はあるだろうけど、王室でまだ採用されてないというのは不思議だと思い、率直な感想を話した。
「いえ、そういうわけでは無いのですが、この馬車のように小型のものしか開発されていないので、警護の面からも王室では不採用とされたようです」
「ふむ、興味深い話じゃの。小型でなければならぬ理由があるんじゃな? という事は浮遊魔法でも付加させておるんじゃろか。それとも風魔法? いや、風を遮断する風障壁魔法も使われているようじゃから、風魔法を付与するのはナンセンスじゃの」
そう、体感だけど、五~六〇キロぐらいは出てると思う。それだけの速さで走っているにも関わらず、オープンカー仕様なのに正面からの風を感じない。風障壁が成されているためだろう。
メメジーさんの解析は正しいと思う。
そのメメジーさんの言葉にガッカリしたようにラピリカさんが答えた。
「…さすはメメジー様です。その探求力の前では冒険者ギルドのトップ技術者達の秘密も解明されてしまうのですね」
「いやいや、なんのなんの。使われている魔法がどのようなものか分かったとしても、それをどのように使うのかが分からなければ作りようも無い。そもそも儂は、付与魔法も多少は出来るが、ものづくりは専門外じゃでの」
僕もこんな仕様の馬車があるのには驚いたけど、メメジーさんの見解と同じだったし、作り方も想像できた。
馬車を作った経験もあるしね。
『クロスオーバー』の世界では、一通り何でもやらされたからなぁ。ただ、浮遊魔法を付与した馬車は作ってない。だからサスとショックが優秀なんだろうと思ってしまったんだ。よくよく思い起こしてみると車輪が回ってなかったのにね。
「それはそうとキズナ様。あのお三方とは何処で知り合われたのですか?」
ラピリカさんの言うお三方とは吸血鬼の三人の事だろう。
何処で知り合ったか……『初心者の森』なんだけど、どこまで説明したものだろうか。
当然、彼らは魔物枠なので教える訳には行かない。でも、僕が紹介したとバレてるんだから説明も必要だ。さて、どうしたものか。
「昨日の魔物の暴走を共闘して一緒に治めたのでしたね」
「なんじゃ!? 昨日の騒動を治めたのは小僧じゃったのか!」
そういう事になっている。本当は彼らは原因を作った側で、治めたのは僕と精霊の三人でなんだけど、説明すると精霊の存在まで説明しないといけないので黙ってたら、吸血鬼の三人と僕で治めた事にされてしまったからね。
でも、何も知らない部外者であるメメジーさんの前でしゃべっちゃってもいいのかな?
「まぁ、そうですけど…いいんですか?」
「メメジー様の事でしたら心配無用です。メメジー様はうちの冒険者ギルドの顧問も務めていただいてますので、今日報告しようと思っていたところですから」
メメジーさんって冒険者ギルドの顧問も務めてたんだね。色々と手広くあちこちに引っ張られてるのかもね。
冒険者ギルドと言えば薬草やポーションが付きものだから分かるけど、貴族や商人の方々とも付き合いがありそうだもんね。例えば領主様とか。
「この件に付きましては領主様にもご内密に願いますね」
「……儂の誘いも断った小僧じゃ。心得ておるよ」
やっぱり領主様とも面識があるんだね。しかも報告担当みたいに言われてるね。
「どうせ調査に数日掛かると思われていますし、今回の遠征も数日掛かりますから、戻ってからご一緒しましょうか」
「そうじゃの、それがいいじゃろ」
なにやらトップ同士の会談が簡単に行なわれ可決したようだ。
普段は冒険者ギルドの受付に座ってるラピリカさんと、僕の事を小僧とは呼ぶけど師匠とも思ってくれている二人だから、とても重鎮とは思えない印象の二人なんだけど、間違いなく二人とも町の上位者、国でもトップクラスの権力者だ。トップテンとは言えずとも、トップ百以内には入ると思う。
王族だけでも十人は超えるだろうし、公爵・侯爵・伯爵あたりの身内まで入れると百人は優に超えるだろう。
そんな話をしてる場所に僕なんかがいてもいいの? って思っちゃうけど、話の内容が僕の事だからいいの、か?
「ところで、キズナ様は獣人に付いてはお詳しいのですか?」
「獣人? はい、前は友達に何人もいましたけど……あ、そうですね、今から向かう鉱山の町マインは獣人が多いんでしたね」
そうだった。ランガンの町では見かけなかったけど、この世界に住まう人達は『クロスオーバー』の世界と同じだった。ただ魔物なんかに友達になれない者が多くいるだけ。妖精も襲ってくる事は無いけど、話の通じない、というか、声は聞こえてるんだろうけどスルーする妖精しか見ていない。話しかけても反応もされないのだ。
そんな『クロスオーバー』と同じ人達が住まう世界でも、鉱山町マインはドワーフや獣人が多く住んでたと習ったはずだ。
「そうですね。でも、先に寄るフロントラインの町の方が獣人は多いんです。ランガンの町は森の浅い部分しか立ち入り許可を出してませんし、ダンジョンも中級程度。浅い層ならDやEランクでも対処できるレベルです。ですが、フロントラインの町は中級から上級の冒険者が多く住む町で、獣人も多く住んでいるのです」
身体能力や特殊能力を考えると、パーティ単位の少人数での行動ならステータスの高い獣人の方が人族より高ランクになるんだろうな。
もちろん、人族にも強い人もいるし、特に軍などの団体行動や作戦行動は人族の方が優秀だもんな。
「キズナ様が獣人に対する偏見が無くて安心しました。ですが、住人の中には人族への偏見がある者もいますのでご注意ください」
「そうじゃな、未だに奴隷制度を執ってる国では多くの獣人が奴隷にされとるという話じゃしな。恨みを持ってる者もおるじゃろうな」
このバルバライド王国でも奴隷制度は廃止されてないけど、罰則のような軽いものだったよな。
売買というよりは契約って感じで、奴隷の立場もしっかりと護るような契約もされるんだったか。
でも、このアナクライムの世界の別の国では死ぬまでこき使うような奴隷制度が行なわれている国も多くあったよな。
「バルバライド王国では人権を無視した奴隷制度は敷かれていませんので、この国で保護した奴隷については不当な扱いはされないのですが」
「そうじゃの、他国の奴隷は酷い扱いの国も多いと聞くしの。よしんばこの国に逃れて来たとしても、人族への恨みも深かろうの」
逃げようにも逃げられないのが奴隷だ。隷属の首輪や腕輪をされて精神を支配される。
但し、主人が不慮の死を迎えた場合、一時的に主人がいなくなるケースがある。
その場合、仮初めの自由を得た獣人達が脱走を謀るが、主人がいなくなるケースはそこそこあっても、脱走が成功するケースは少ないようだ。
獣人を奴隷としている人族は、そういうものを当然として受け入れられる性格の者だ。当然、悪どい性格の者が多い。
恨まれる事もあるだろうし、魔物が犇めく危険な街道を行く事もあるだろう。
そして、この世界は死亡率が高い。それは魔物が人を襲う世界だからだ。
主人を亡くして、主人不在となった奴隷達は自由を夢見て奴隷制度のない国を目指す。
武器も無く証明書も無く、追っ手や魔物から逃げられる確率は低い。辿り着けるのは身体能力の高い獣人ばかりだが、そういった者達だから冒険者になる者ばかりだ。そして高ランクの冒険者になって行くが、人族への恨みが深い者もいる。
人族に助けられた者もいるのだが、人族への恨みの方が深い者も中にはいるものだ。
「そろそろフロントラインの町が見えて来ると思いますが…コーチマン!」
「はい! なんでしょうか!」
コーチマンとは御者さんの名前だ。
何故、小さな馬車なのに大声でやり取りしてるかというと、彼は牽いてる馬のようなものに騎乗しているからだ。
そもそもこの馬車は物凄いスピードで走っている。目測だけど、五~六〇キロは出てると思う。
そんな速度を馬が出せるはずも無い。牽いているのは魔物だ。分類は魔物、種族は走竜。飛竜や跳竜や潜竜などと同種の小型の竜だ。
見た目は馬に近い部分もあるけど、馬よりズングリとした体系で丸い。足の長さは馬ぐらいあるけど、身体が大きく短く見える。太さも太いので余計に足が短く見える。
だけど、パワーも持久力もありそうで、大人しいのなら馬車を牽くのに最適な生き物だろう。
さっき話に出たけど、隷属の首輪のようなものが頭と首に巻かれているので、魔道具で従えているのだと思う。
目は真っ赤だから友達になれない魔物だけど、倒さなくてもいいのだったらこの方がいいのかもって少し思ってしまった。係わり合いにならないのが一番いいと思うんだけどね。
で、そんなだから御者席はあっても御者は座っていない。風障壁が無ければ、オープンカー仕様の馬車では走竜の弾く土塊で馬車の中は大変な事になっているだろう。
土塊が風障壁にぶるかる音もあり、ラピリカさんは大声を張り上げている。
「町は見えましたかー!」
「はい! 遠くに見えてきました!」
ローテクなのかハイテクなのか……これだけの馬車の技術があるんなら御者と会話する手段もありそうなもんだけどな。
僕は『クロスオーバー』の世界で付与魔法も習ってるから作れるものはあるけど、これってこの世界じゃ作っちゃダメなやつかも。
先日のメメジーさんのとこでの軟禁状態でも思ったけど、全然レベル上げができないから本来の目的である、スキル【クロスオーバー】のための経験値を貯められないんだよ。
ものづくりは嫌いじゃないけど拘束されちゃうから今は遠慮したいね。
え? レベル長者だって? いやいや、なるべくレベルは落としたくないじゃん。ものづくりばかりだと、【クロスオーバー】を使っちゃったらレベルは下がる一方になっちゃうもん。
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皆様、良いお年を。




