第49話 それぞれの依頼に向かって
吸血鬼達を冒険者ギルドに登録した翌朝、宿の食堂に行くとハーゲィさんの姿を見つけた。
朝食時に一緒になるのは久々だな。
「おはようございます」
「おっ、今日は珍しく早ぇじゃねーか」
「うぐっ…普段からそんなに遅いわけでも無いんですよ。ハーゲィさんが早すぎるんだと思うんです」
「ふんっ、そうかいそうかい、そういう事にしといてやるぜ」
いや、実際早すぎると思うんです。僕だって朝はちゃんと起きれるんですけど、毎朝四時起きって早すぎません? 新聞配達の人か! って思っちゃいますよ。
冒険者ギルドが開くのが五時半ぐらいだから、まだ十分余裕があると思うんですよね。
しかもハーゲィさんって常時依頼の薬草採取なんでしょ? なんで毎日そんなに一番乗りに拘ってるんだか。
「薬草採取だからこそだ。最近でこそキズナに教えてもらった方法で、そこそこ稼げるようにはなったが、薬草採取だけなら大した稼ぎにはならなかったからな。ついでに受けられる依頼を取るために一番乗りで良い依頼を取ってたんだ」
なるほど。先日のオーク討伐みたいなやつだね。そんなにしてまで薬草採取に拘ってたんだね。
何故それ程までに薬草採取に拘っているのかは聞かされていないけど、薬草採取を中心の冒険者活動にはブレがない。芯のある拘りだね。
「お、そうだ。昨夜冒険者ギルドの酒場で飲んでたらラピリカが来てよ、キズナに頼みたい依頼があるって言ってたぜ」
「ラピリカさんが、ですか? 僕が報告に行った時は何も言ってませんでしたけど」
「あー、その後に依頼が入ったらしい。もし会うようなら冒険者ギルドに来るように伝えてくれって言われたんだ。ちゃんと伝えたからな」
「はい、ありがとうございます。でも何でしょうね」
「『指名依頼』かキズナに適した依頼かだろ。もうBランクになったんだろ? 昨夜は酒場でも噂になってたぜ。予想通りなんだが、簡単に抜かれちまったな」
この道うん十年のハーゲィさんでもDランクだからね。それが成人仕立ての駆け出しの小僧に抜かれたらショックだろうな。
「俺は俺でポリシーを持って薬草採取に拘ってるからな。ランクを抜かれるのはいつもの事だ。それによ、俺が薬草採取を教えた奴が登って行くのを見るのは嬉しいもんなんだぜ」
寂しくもあるけどなってボソっと呟く姿にハーゲィさんの哀愁が見えた気がする。
いつも思うけど、ホントいい人だよな。面倒見もいいし、男気もある。ちょっと抜けてるとこもあるけど、普通なら女性にモテるはずなのにな。
やっぱり頭か? 育毛剤を再検討してみるか。
「それと、昨日の三人な。今日は俺と依頼を受ける予定だから心配しなくていいからな」
「そうなんですか!?」
大丈夫かなぁ。ボロを出して魔物だと気付かれやしないだろうな。
冒険者ギルドに登録させたのは薬草を運んでもらうのに町に入る門を簡単に通行できるようにするためだけだったんだけど、妙な方向に進み出してるよね。
バレた時が怖いんで、誰かと組んだり冒険者ギルドからの直接の依頼などは敬遠したかったんだけど、ハーゲィさんなら…いいかな?
「昨夜はここの宿を取った後、親睦を兼ねて冒険者ギルドの酒場で飲み食いしたんだが、三人ともキズナのためになるのなら! ってよ、薬草採取は任せろって張り切ってたんだぜ」
「そうでしたか、何だかすみません。もし、お代が足りないんでしたら言ってくださいね」
僕の従者だし、連れて来たのも僕なんだ。ハーゲィさんには冒険者ギルドへの登録も手伝ってもらったし、報酬を払ってもいいぐらいだよね。
「ちっ、水臭ぇな。俺の方がキズナには迷惑掛けっ放しなんだ。俺ができる事なら何でも頼ってくれていいんだぜ。お金だって、お前に教えてもらった方法で貯金も増えて来てる。新人の飯代ぐらい任せろって」
かっけーな、ホントいい人だよな。ちょっとウルって来ちゃったよ。
朝食を終えるとハーゲィさんと一緒に冒険者ギルドの前で並んだ。開始待ちだ。
僕は並ぶ必要なんて全然無いんだけど、何となく流れというかノリというか、付き合いって大事だよね。
朝一の混乱時でもラピリカさんのところはガラ空きだし、ラピリカさんも早い方がいいだろうしね。
そして、そろそろ扉が開くんじゃないかという時間にノスフェラトゥさん、バンさん、キュラ君の三人が姿を見せた。
何故か、その隣にはブラッキーさんとホワイティさんがいるんだけど、いつ知り合ったんだろう。
「おはようございます、キズナ様」
「おはようキュラ君。ノスフェラトゥさんもバンさんもおはようございます」
「「おはようございます」」
「ブラッキーさんとホワイティさんはどうしたんですか? こんな朝早くから」
ダンジョン探索組の朝はもう少し遅くていい。
もちろん、ダンジョンに関する依頼もあるので、冒険者ギルドに立ち寄って依頼を受けてからダンジョンに向かう人達もいるようだけど、ブラッキーさん達は魔石とドロップアイテムで稼ぐ方針だから冒険者ギルドには帰りしか立ち寄らないはずなのに。
そもそも王族なんだからギスギス稼ぐ必要も無いだろうしね。高価な魔力回復ポーションも使いまくってたし。ホワイティさんは庶民派っぽいけど。
「おやようキズナ」
「キズナ、おはようございます」
「おはようございます」
「キズナにちょっと話があってね。バン達も朝一に待ち合わせてるって聞いたから一緒に来たのよ」
ん? バン達? 知り合いだったの? いや、そんなわけないか。でも、昨日初めて町に来たんだよ? 昨夜のうちに知り合ったのかな? ハーゲィさんと飲んでたって言ってたし。
「バンさん達と知り合いだったの?」
もしかしたら、今までも壁を越えて来てたって言ってたからその時にでも知り合った? いや、それは無いな。その時は人間にとって脅威となる吸血鬼だったんだから。
「昨日ね、酒場でスカウトしたのよ」
「スカウト…ですか?」
「そう、うちのパーティって前衛不足でしょ? だからバンをスカウトしたの」
「えーっ! バンさんを【三叉槍の魔法使い】に、ですか!?」
「そう、他の二人もスカウトしたんだけど、外せない役割を持ってるみたいでバンだけになっちゃったんだけね」
いやいや、バンさんも外せない役割ってやつを持ってるはずですよ?
っていうか、なんでそんな情報を知ってるの? ノスフェラトゥさん達って、昨日冒険者ギルドに登録したばかりなんだけど。
「ボクは薬草を納品するという役割を頂いてますから」
あ、そうだね。それ僕がお願いしたやつだよね。
「余は不本意だが一位になってしまったからな。今後、魔物が町を襲わぬように管理をせねばならぬのでな」
やっぱり責任を感じてくれてたんだね。それは有り難いんだけど、ここで言っちゃってもいいの? 何の事だか誰も分からないとは思うけど。
「彼ってどっかの王様みたいでしょー? ウケルよねー!」
「ブラッキーにも少しは見習ってほしいのですがね」
どっかの王様じゃなくて、吸血鬼達を統べる始祖の王なんだけど。
あと、ボクもホワイティさんに賛成だよ。ブラッキーさんにはもう少しはお姫様然としてほしいよね。
「でも、いつ知ったんですか?」
「え? この三人の事?」
「はい。昨日、ハーゲィさんの紹介で登録したばかりだと思うんですが」
「キズナこそよく知ってるわね」
「僕もちょうどいましたので」
っていうか、僕がお願いしたんだけどね。
「冒険者ギルドには前からずっと有望な新人が来たら知らせるように行っておいたの。冒険者ギルドに常駐し見張ってる者もいるしね。それでもキズナの事は教えてもらえなかったんだけどね」
僕は薬草採取希望だったしね。スライム戦士という職業も理由だったのかもしれない。
「あ、開いたみたいだよ。先に用を済ませてから、後で合流しましょうか」
僕の意見に全員賛成してくれたので、まずは冒険者ギルドに入る事にした。スライム戦士の話題が出る前に話が終わってホッとした。
でも、他の人達の職業も気になるところだね。ブラッキーさんとホワイティさんは黒魔道士と白魔道士だろうけど、ハーゲィさんって何なんだろ。戦士なのかな?
吸血鬼の三人が登録した職業も気になるよね。後で聞いてみよ。
ブラッキーさん達は後から来たので当然後ろに並んでいた。王族といえども冒険者ギルドのルールには従うみたいだ。冒険者ギルドのルールと言うより、モラルの問題だけどね。
中に入ると、全員が一斉に依頼ボードに群がる。人気の依頼は下の三つF・E・Dとその上の二つC・Bだ。
F・Eの依頼は町の近くの『初心者の草原』や『初心者の森』での討伐や採取依頼で、偶のDランクのものがある。
C・Bの依頼はダンジョン系のものが多く、偶にDランクのものがある。Dランクは被ってるけど、下位ランクの冒険者はF・E寄りに群がっているから依頼ボードの前は均等に混雑していた。
一番乗りのハーゲィさんはDランク依頼の前で仁王立ちして依頼を物色していて、後から入って来たブラッキーさん達は、その隣のCランクの依頼を見ているようだ。
均等とは言ってもCランク以上の冒険者の絶対数が少なめだから混雑も幾分マシな様子だ。
そんな様子をラピリカさんの話を聞きながら眺めていた。
「キズナ様? 聞いてらっしゃいますか!?」
「あ、ああ、すみません、聞いて無かったです」
いや、それ僕が聞く必要があるの? って依頼なんだよ。
依頼内容としては『護衛依頼』だし『指名』も付いてるみたいなんだけど、対象者が『ラピリカさん』って聞いた途端に何も頭に入って来なくなったんだよ。
意味不明…うん、わけ分かんないよね。
「もう一度説明しますね。このランガンの町から隣のフロントラインの町を経由して、鉱山の町マインまで行って帰って来る間の護衛をお願いしているのですよ」
「それって、なんで僕なんですか? しかも、僕一人なんですよね?」
「はい、メメジー様も同行しますが馬車は一台で済みます。護衛を多く頼むと馬車が二台になってしまうので、今回の冒険者はキズナ様だけです」
うん、もうね、基準が色々とおかしい。イジメなんじゃないかと思ってしまう。だから現実逃避してたんだけど、『指名依頼』ってBランク以上の冒険者にはほぼ断れないらしい。
断るような指名依頼なら冒険者ギルドの方でストップをかけて、通常の依頼に変えて先に声を掛けてくれるそうだ。事情があるなら仕方が無いと冒険者ギルドの方で冒険者を守ってくれるようだ。
だけど依頼者がギルマスと来たら、強引にでも捻じ込んで来る。そんな強権発動の依頼だから断れる猛者は皆無なんだそうだ。
「こう見えても私も戦えますし、メメジー様も回復役として控えてくれています。何も問題は無いかと思いますが」
僕からすると問題アリアリのメンツにしか見えないんですが。
「報酬も弾みますよ?」
今はお金に困ってないから、そういう誘惑は僕には意味が無いんだけど。
「活躍次第ではAランクへの昇格も考えますが」
それも興味無いんだよね。だって、僕の熟す依頼って、あまりランクに関係ないものばかりな気がするんだよ。ダンジョンに入れるCランクをクリア出来ていれば、それ以上のランクには興味ないんだよ。
「いつまでもBランクでいいんですか?」
別にいいんです。ただ、B級って言われるのは感じが良くないよね。B級グルメっぽくて安物って言われてる気分になりそうだ。
この世界では知られてないだろうから、そういう風に思ってる人はいないと思うけどね。
「出発はメメジー様が見えられましたらすぐに出ます。馬車と御者の段取りも終えていますし、食料や野宿の準備も済んでます。ですので、キズナ様も遠出の準備を早急に整えて来てください」
やっぱり決定なのね。興味を惹こうと色々と並べてくれたけど、初めから拒否権なんて無いじゃん。やっぱり聞く必要なんて無かったよ。
出発の準備か。そう言われても、僕は現地調達主義だから何も準備はいらないんだよ。鍋などの必要なものは背負い袋に入ってるしね。
特に用意するものは無いけど、みんなの様子も気になるので、一旦カウンターを離れる事にした。




