第41話 工房の仕事と報酬
「小僧! 頼む! 儂を弟子にしてくれ!」
唐突に土下座をして頭を下げるメメジーさん。
「え? え――――! 嫌ですよ、僕は薬師じゃないんですから!」
「そうか…そうじゃの。今更、儂が修行したところで小僧の足元にも及ばんじゃろうからの」
ガックリと肩を落とすメメジー。
そんなメメジーを見かねてラピリカがフォローを入れた。
「キズナ様? それならメメジー様のポーション作成を見て、アドバイスをするというのは如何でしょうか。それぐらいなら一日か二日で済むでしょうし、冒険者ギルドからも報酬を出します。ご一考願えませんか?」
「そうじゃ! 金なら出す! これでも国一番と言われた儂じゃ。儂は自分の手で、このポーションを作ってみたいのじゃ!」
ラピリカの案に便乗し、キズナに詰め寄るメメジー。
その気迫に圧倒され、反射的に防御魔法を張るキズナ。
「むおっ!? これは魔法壁か! 小僧は魔法も一流じゃったか」
「メメジー様、落ち着いてください。それで、キズナ様。如何ですか? 冒険者ギルドからも報酬を出すというのは本当ですよ。メメジー様の腕が上がればそれだけポーションが出回ります。お弟子さん達の腕も当然上がるでしょうし、下級ポーションの質も上がるでしょう。冒険者ギルドとしても願ったり叶ったりなのです」
そういう思惑もあったんだね。まぁ今日と明日ぐらいならいいかな。
「分かりました。でも……」
「そうかそうか! それはありがたい! ならば早速じゃが」
早速とばかりに薬草を並べ始めたメメジーに困惑するキズナを見て、ラピリカがフォローを入れた。
「キズナ様。ブラッキー様とホワイティ様には私から報告を致しますので、どうぞこのままメメジー様にお付き合い願えますか?」
「そういう事でしたら。分かりました、ブラッキーさんとホワイティさんには僕が謝ってたと伝えておいてください」
わかりましたと肯き、メメジーさんに挨拶を済ませると、ラピリカさんは冒険者ギルドへと戻って行った。
残された僕は、メメジーさんとお弟子さん達に囲まれ、彼らにポーション作成の手解きをする事になってしまった。
彼らのポーション作りは僕とは根本的に違った。魔力をほとんど使わないのだ。
解析と錬金の時に少し使うぐらいで、しかも無駄が多い。
だから、解析に時間を掛ける事にして、遅くとも五秒以内に解析を完了できるまで頑張ってもらった。
元々解析はできていたんだけど、魔力操作がお粗末過ぎて、次の段階へ行けなかったのだ。
当初は長くとも二日の予定だったのに、解析を覚えるまで一週間も掛かってしまったのだ。
しかも、五秒以内に解析ができるようになったのはお弟子さんの一人で、あとは平均十秒ぐらい掛かっていた。メメジーさんも十秒を少し切るぐらいだ。
そのお弟子さん達だけど、初めに見たのは二人だったのに、奥の工房で作業をしていた人もいたみたいで、総勢十人いた。
多いと思ったけど、これでも厳選なる試験を受けて合格した人たちなのだとか。メメジーさんの弟子になりたい人は物凄く多くて、この十人の枠に収まるのも凄く大変なんだそうだ。
そんな優秀なお弟子さん達とメメジーさんだから、もっと早く理解してくれると思ったんだけど、解析だけで一週間も掛かってしまった。
そう思ってたのは僕だけで、僕的には凄く時間が掛かったと思ってたんだけど、メメジーさんやお弟子さん達からすると、今までの解析作業時間をここまで正確に、しかも超時間短縮できたのは革命だと言われてしまった。
まだポーション作成の入り口にも入ってないのに、そこまで喜ばれるのは気まずかったよ。
次の工程の回復水に関しては、誰も回復魔法が使えないため清水を使用する事にした。
「回復魔法が使えないからポーションを作るのだ!」と逆ギレされてしまったけど、確かにそうだなと納得し、清水での作成となった。
抽出と合成は魔道具を使うようなので、一式見せてもらったけど、これも無駄が多すぎた。
なので、まず土魔法を使い、直径一メートルの強靭な平皿を作った。高さ五メートルから落としても割れない頑丈な平皿だ。
そしてその皿に魔法陣を描いて魔力を通してもらうだけで抽出と合成ができるように改造した。
魔力操作は解析の修行でうまくなってたから、皆スムーズに魔力を通していた。
これってブラッキーさんやホワイティさんにもいい練習になるかも。今度やってもらおうかな。
あー、二人はどうしてるのかな。折角、パーティに入れてもらったのに、ダンジョンではまだ役に立ってないもんな。もう二十階層ぐらいまで進んだのかな。
革命だ! と大騒ぎする薬師さん達の前で、全然違うブラッキーさん達の事を考えていたよ。
そしていよいよ錬金だ。そして精製して薬効固定で完成になる。
錬金には、これまた土魔法で大きな釜を作り、釜の底や側面に魔法陣を描きまくり、蓋の裏側に全部の魔法陣を纏める司令塔の役割をする魔法陣を描いた。蓋の表から魔力を流すと自動的に魔力を釜全体に流せるようにした。
まぁまぁの量の魔力を消費するので、お弟子さん達は交代で魔力を流す事になりそうだ。
できれば一気に淀みなく魔力を流すのがいいんだけど、休み休みで流してもポーションはできる。薬効が八割ぐらいに落ちるぐらいかな。
後は固定。
これはポーション瓶に固定の魔法陣を描くだけでオッケー。
ポーションの効能を長持ちさせるだけなんで、大した魔力はいらない。ポーション瓶を作る時に練り込んだ魔力だけで十分だ。
こうして全工程を簡易化? 僕には時間が掛かるだけで面倒な魔道具なんだけど、工房の人達には大袈裟なぐらい喜ばれた。
メメジーさんには「儂の称号を継ぐのは小僧しかおらん!」などと言われてお弟子さん達に恨まれるかと思ったけど、何故か当然と言うようにウンウン肯くお弟子さん達だった。
いやいや、僕は薬師じゃないですから! 冒険者だから!
都合一ヶ月工房にキズナが滞在したお蔭で、ポーションの質はすこぶる向上した。
その結果、下級ポーションでもかなり深い傷を回復させられるようになった。さすがに斬り落とされれば斬られた手などがあってもくっつけるまでには至らないが、今まで出回っていたような劣悪なものを今後作る事は無さそうだ。
「小僧…やはり行くのか……」
「はい、僕が冒険者ですし、【三叉槍の魔法使い】のパーティメンバーですから」
「そうか…じゃが、称号は小僧のもんじゃ。今後、儂も名乗る事はないじゃろう」
「いえ、そこは名乗ってくださいよ。冒険者の僕が名乗るとおかしいじゃないですか」
「いやいや名乗れんよ、あそこまで小僧の卓越したアビリティを見せつけられたら恥かしくて名乗れんわい」
そんなもんなのかな。この中で一番なら別にいいと思うんだけど。僕はいなくなるんだしさ。
さて、明日からようやく冒険者に復活だ。
ブラッキーさん達にはラピリカさんに伝言を頼んでたんだけど、一度も会ってないから心配だな。
ラピリカさんは私に任せておけば問題ありません。なんて言ってたし、冒険者ギルドの特別受付だとか自慢気に言ってたけど、特別受付って何なんだろうね。そういった細かいところまでは習ってないんだよね。
そうそう、報酬も気になるところだけど、面と向かって聞きにくくて、未だにこの仕事の報酬がいくらか聞いてないんだ。
あれから何度も薬草採取はしてるし、最低でも金貨百枚はある…よね?
だって、クレセントムーン草は一籠だけで、あとはハーフムーン草しか採って来てないんだ。ハーフムーン草って、保留中だから金額を聞いてないんだよ。
クレセントムーン草は一籠で金貨百枚だったんだから、最低でも金貨百枚からのスタートだよね。だよね?
午前中に総点検をして、問題なくポーション作成ができる事も確認し、昼食後にメメジーさんとお弟子さん達に見送られ、工房を後にした。
一ヶ月間、薬草採取以外はずっと缶詰だったから、物凄く解放された気分だ。なんか『自由だ!』って感じ。うん、気分爽快!
ポーション作りも嫌いじゃないんだけど、ずっと籠りっきりってのは性分じゃない。やっぱり現地調達・現地精製だよね。
高額報酬の夢を見て、足取り軽く冒険者ギルドの扉を潜った。
「お久し振りです!」
いつもの如く、誰も並んでない端のカウンターで元気良く声を掛けた。
そこに座るのは、勿論ラピリカさんだ。
「お疲れ様でした、キズナ様」
「はい、慣れない指導が多くて結構疲れましたが、今から薬草採取に行けるぐらいは余裕はありますよ」
「当然、薬草採取はお願いしたいところですが、今日はお疲れでしょうから、また明日からお願いします」
「はい…え? 明日から?」
冗談のつもりで薬草採取を振ったんだけど、本気に取られてしまったみたいだ。
でも、明日からって何? 僕は【三叉槍の魔法使い】だからダンジョン探索に戻るんだよね?
「はい、ブラッキー様、ホワイティ様のお二人は、先日まで十階層までのループをしておられまして、今は十一階層から先に進まれ二十階層を目指しておられます」
へぇ~、そうだったんだ。ブラッキーさん達の情報が全然無かったから知らなかったよ。
「お二人から…というよりはブラッキー様より伝言を預かっています。『二十階層のフロアボス戦まで別行動をしましょう』だそうです」
「え……?」
なんで?
パーティ解散か? との考えが頭をよぎり、ちょっと泣きそうになったのを察してくれたのか、ラピリカさんがフォローしてくれた。
「キズナ様がご心配するような事はございませんよ。お二人ともキズナ様との差を感じ、少しでも近付こうと努力されているのですから。十階層へのループもそのためだったようです。ようやく目処が立ったようで、その総決算として二十階層のフロアボスまでは二人で踏破されたいのだそうです」
ほぉほぉ、パーティ解散じゃないならいいや。僕との差を感じるぐらいまで魔法が上達したんだね。二人とも雑な魔法だったもんね。
でもそうなると、僕は単独で二十階層まで行かないとボス戦で合流できないな。
十階層までよりワンランク上程度らしいし、それなら一人でも問題ないかな。薬草採取の合間に行っとこうかな。
「それで報酬の件ですが、冒険者カードを頂けますか?」
「冒険者カードですか?」
「はい」
言われるがままに冒険者カードを手渡した。冒険者に登録した時に腕輪と一緒に受け取ったカードだ。
身分証明書にもなって門を通る時にいつも見せてるやつだよ。
ラピリカさんは僕の差し出した冒険者カードを受け取ると、カウンターの向こうでゴソゴソして、すぐに返してくれた。
「これで入金が終わりました。ご確認ください」
「入金?」
「はい、冒険者カードには冒険者ギルドで預かっているお金を記憶させる機能もついているのです。これはCランク以上の冒険者カードにしか適応されないのですが、キズナ様はCランクですし問題なくこのサービスを受けられます。金額が多い方へのサービスなのですが、必要ありませんでしたか?」
いえいえ、非常にありがたいです。
前回の金貨百枚でも結構邪魔だったから助かります。お金を邪魔だなんて罰当たりな事だと思われそうだけど、この世界に来るまでお金なんて使った事が無かったんだから、あれだけ沢山のコインなんて本当に邪魔だったんだよ。捨てられないしさ。
ただ、銀行みたいな感じじゃなく、ただ単に預かってくれるだけ。しかも逆に利用料を取られるシステムだ。
返してもらうのも、このランガンの町の冒険者ギルドでしか返してもらえない。他の町の冒険者ギルドには関係ないのだからと。
でも、証文などは無く、冒険者ギルドのカウンターで見せるだけで入出金ができる。入金額は冒険者カードに記憶されるので、その点は楽だった。
実際、沢山の金貨を持ち歩けないし、預かってもらえるだけでも十分助かるよ。利用料はいるみたいだけど、大した金額でも無さそうだしね。
そして入金額を確かめてみる。
ん? これってどうやって見るんだ? ゼロが多いのは分かるんだけど、金貨や銀貨が何枚とか書かれてないから一体どれぐらい入金額があるのか分からないよ。
仕方が無いので、今後のためにも恥を忍んでラピリカさんに質問した。
「あー、キズナ様はサカイ村という田舎の出身でしたね」と理不尽な納得をされ説明してくれた。
いえいえ、サカイ村なんてありませんから! 苗字がサカイですから!
既に登録名がキズナだけなので、今更感があって言ってないんだけど、これって修正できないのかな?
苗字持ちは貴族だけみたいなので説明も面倒だし、もう少しこのままでもいいか。
それで通貨単位の説明を受けたんだけど、銅貨が一番下の通貨単位で、銀貨・金貨・白金貨と上がって行く。
それぞれ百枚ごとに繰り上がり、今回の数字は銅貨に合わせた数字らしい。
442148731ルピー
通貨単位はあまり使われず、銀貨何枚だとか銅貨何枚というのが通例みたい。
僕も今初めてルピーって通貨単位を知ったからね。あまり使われてないからか、習ってないもん。
で、硬貨単位に変換してみた。
銅貨が31枚、銀貨が87枚、金貨が14枚、白金貨が……442枚!?
僕って凄っげーお金持ちじゃんね!
マジか、マジ白金貨442枚か!?
うっひょー! これってもう仕事しなくてもいい系? メメジーさん、一体いくら報酬くれたんだよ! これは菓子折り持ってお礼に行くレベルじゃね?
毎年、お中元とお歳暮は欠かせないレベルのお得意先だろ!
「キズナ様、キズナ様? キズナ様!」
「あ、は、はい!」
浮かれちまってて呼ばれてたのに気付かなかったよ。
「当方で預かってるお金の引きおろしに関しては、ご本人様しかできませんのでお忘れなく」
それは、その方がいいよ。だって、もし冒険者カードを落としても拾った人には引き出せないって事だもんな。
代理人を立てられないと言っても、僕が誰かに「ちょっとおろしてきて」っていう場面なんて思い浮かばないから問題ない。
手持ち金があまり無かったので、早速金貨十枚をおろし、冒険者ギルドを後にした。
この一ヶ月間、メメジーさんの工房に缶詰になってたからお金は不要だったんだ。
食も住も工房で用意してくれてたし、偶に薬草採取に出掛けても現地調達で食事はできてたしね。
さーて! 何に使う? 何を買う? 久し振りに町に繰り出すぞー!




