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第04話 修練場にて①


「よぉ、坊主。登録は済んだかい?」

 手持ち無沙汰に待っていると、ツルピカ髭もじゃが声を掛けてくれた。

 たしか名前は…ツル・ピカ・ヒゲ・ハゲ……だからハーゲィさんだったな。


「いえ、まだなんです。さっきは色々と教えていただいてありがとうございました。受付の方に教えてもらったんですが、ハーゲィさんですよね? 僕はキズナで登録しました」

「ああ、ハーゲィだ。だが、引っ掛かる言い方だな。本名じゃねぇみたいな言い方じゃねぇか」

「いえ、間違いなく本名です!」


 境界サカイ 心繋キズナで登録したかったんだけど、サカイ村のキズナさんで登録されちゃったからね。本意じゃ無いんですよ。


「じゃあ、登録は済んだんだな。今日から登録って事は薬草採取に行くんだろ? どうだ、俺と一緒に行かねぇか?」


 おお! この人やっぱりいい人だ。新人の僕のために採取場所まで連れて行ってくれるって言ってくれてるよ。


「それが…是非ともお願いしたいのですが、今から修練場で実力を見せろと言われていまして」

「ほぉ~、という事はだ。Gランクスタートじゃねぇって事か。いや、朝一で登録受付はヒマだから見るのかもしれねぇな」


 ヒマだからって、あんた……そんな理由でしたりするの?


「一応、Dランクだと言われました」

「D!? おめぇ、何したんだ!? 俺と同じランクじゃねぇか!」


 ハーゲィさんってDランクだったんだ。別に下位ってほどじゃないじゃん。

 いや、見た目はAランクでもおかしくないからDランクだとイメージより低すぎて、逆に舐められたりする事もあるんだろうか。


「ちょっと魔法を披露しただけなんです。そしたら、もっと見せろと言われまして、まだ登録も完了していないんです。今は待ってろと言われて待機中で……」

「魔法!? お前ぇ、魔法を使えんのか! そりゃ期待の新星ニューカマーだな、実力を見せろって言われんのも分かるぜ。よぉし分かった、待っててやる。登録が済んだら一緒に薬草採取に行こうぜ」


 やっぱり薬草採取は新人には鉄板依頼なんだな。でも、一緒に行こうなんて、見た目をとことん裏切って優しい人だよな。Dランクって中堅クラスだと思うけど、それでも新人の僕を薬草採取に連れて行ってくれるって、やっぱりいい人だぁ。


「いいんですか? 僕としては凄く助かるんですが、ハーゲィさんも仕事があるんでしょ?」

「なぁに、いいって事よ。坊主はこの辺の地理に詳しくねぇんだろ? 俺はこんなナリしてるが、薬草採取にはちょいと煩いんだぜ? とっておきの場所を教えてやるからよ」


 どこまでいい人なんだ。ツルピカ髭もじゃなんて渾名を付けてすみませんでした!


「それによ、今日はついでの依頼を見つけたから無駄じゃねーんだ。いい小遣い稼ぎになりそうな依頼があってよ。だから途中でちょっと消えるがお前ぇは薬草採取してればいいからよ」

「ありがとうございます。では、甘えさせてもらいます。僕も薬草採取は得意な方なんです」


 森で遊んでた時に、友達から教えてもらって結構得意なんだよね。先生達からも教わってたし、選別や採取方法とかも教わってるからね。

 先生達と一緒の場合は、その後にその場ですぐにポーション練成の授業が待ってたりするんだけどね。


 ハーゲィさんとの同行の約束を終えると、ちょうど受付お姉さんが戻って来た。


「お待たせしました。では、付いてきてください」

「おー、ラピリカ。俺も一緒に見ちゃいけねぇか? この後、この坊主と一緒に薬草採取に行く約束をしたんだが」

「んー…ハーゲィ様なら……キズナ様、よろしいですか? 本来なら他人を立ち会わせる事などしないのですが、ハーゲィ様なら信用もできる方ですし、この後同行されるのでしたら見ておいて頂くと連携にも良いと思うのですが」

「はい、僕は構いません。ハーゲィさん、よろしくお願いします」

「お、おお、悪りぃな。俺も魔法には興味があってよ」


 受付お姉さん…ラピリカさんと言うのか。ラピリカさんに連れられてハーゲィさん同行のもと、裏の修練場に案内された。

 修練場では二人の男性が待っていた。

 一人は、いかにも戦士って感じの大柄な人で、腰には大きめの剣を差していた。だが、やる気無さそうに欠伸をしている。僕には興味が無さそうだ。


 逆にもう一人の人は黒いローブを着て長杖を持っていて、いかにも魔道士って感じだけど、凄っごく僕をガン見してくる。品定めされてるようだ。もしかして『鑑定眼』でも持ってるのだろうか。僕には無い能力だから、もし持ってるとしたら羨ましいんだけど。

 でも、ローブの人からさっきのインクから出ていたような薄黒い湯気が少し立ち上ってるように見えるのは何なのだろう。大柄な人からは出てないのに。


「この少年が四属性の使い手ですか?」

「はい、そうです」

 薄黒い湯気の観察をしている間に、二人が確認の言葉を交わしていた。

 ローブ男が問い掛けた言葉に答える受付姉さんのラピリカさん。

 ラピリカさんから肯定の返事を聞くと、ローブ男がツカツカとこちらに歩み寄って来た。

 少し身構えたけど、待っていた時とは別人のようにニコやかに話しかけられた。


「私はこの冒険者ギルドで魔術部門を統括しているギルバートです。君が四属性の使い手なら諸手を挙げて歓迎します。ラピリカには披露したようですが、ここで私にも見せてもらえますか?」

「はい…えーと…はじめまして、サカイキズナです。見せるって、さっきのやつですか?」

 軽く挨拶をした後、ラピリカさんに問い掛けるような視線を向けた。

 すると、ラピリカさんが答えてくれる前にギルバートさんが答えてくれた。


「報告によると、受付で小さな魔法を四つ同時発動したそうですね。ここは広いので、あの的に向かって放ちましょうか」


 確かにここの修練場は広い。三〇メートル四方はある空間だ。普段は他にも冒険者がいたりするのかもしれないけど、まだ朝早い事もあって誰もいなくて静かだから余計に広く感じる。

 奥の面には土で作られたマネキンみたいな的が十体並んでいた。

 あの人型の的に向かって魔法を放てという事のようだ。


 このぐらいの距離なら楽勝かな。

 その前に、確認だけしておこう。


「あの、何の魔法を放てばいいんでしょうか」

「君の得意な魔法で結構ですよ」


 得意ね……全部を均一にやってきたから得意って無いんだよね。


「特に得意って無いんですが、どれでもいいですか?」

「ええ、順番はどの属性からでも結構ですから、四属性とも見せてもらえますか?」

「はい、それはいいんですけど、大した威力ではありませんよ? 僕は初級魔法しかできませんから」


 一応、中級も上級も習ってはいるんだけどね。でも、レベルが20になるまでは中級を使っちゃいけないって言われてるし、上級なんかはレベル50までは封印だって言われてるんだよね。


「それで結構です。あっ、君はレベルが最低ランクだそうですね。魔力は足りますか?」

「はい、大丈夫です。初級魔法ですから」


 レベル1的な情報は伝わっっちゃってるんだね。まぁ、それでも魔力|(MP)はふんだんにあるんだけどさ。

 まだ小さかった頃に、魔法が使える世界だと分かると有頂天になって未だに少し覚えてるラノベ知識を導入し、魔力が枯渇するまで魔法を使い魔力総量を伸ばしてやろうとしたんだ。

魔力が枯渇して気絶した後に、目覚めると魔力総量が増えるって話が多かったからね。

 そして実際にやってみたら案の定僕は気絶をしたんだ。そしたら、あの普段は超優しい母さんに大激怒されちゃったんだよね。


「小さい頃に魔力を使い切ると|魔力総量(最大MP)が小さくなるでしょ! 隠れて魔法を使ってはいけません!」

 なんて言われて、僕のラノベ知識を全否定されちゃったんだよ。

 母さん曰く、ダイエットをすると胃が小さくなるのと同じで、魔力を使い切ると魔力総量が小さくなるんだそうだ。

 それで、どうやって大きくするかと言うと、魔力が満タンの状態から更に魔力を足すと魔力総量が増えるんだと教えてくれた。「毎日お腹いっぱいに食べると胃が大きくなるって言うでしょ? あれと同じよ」との事だった。

 満タンの状態からどうやって足すんだと思ってたら、毎晩母さんが添い寝してくれて、僕に魔力を注ぎ込んでくれていたんだ。

 だから、今日まで母さんの添い寝は必須だった。魔力を注ぐのに、抱き枕にされる必要までは無いのを教えられたのは最近だったけどね。

 そのお陰もあってか、僕の魔力総量はフルHPの千倍以上あるらしい。


 “僕”という一人称も母さんの希望だ。

 “俺”なんて言った日にゃ、『キズナが不良になっちゃったー』って言って泣くもんだから、“僕”って言わざるをえなかったんだよね。


 おっと、今は魔法の披露だった。

 試験なのか確認なのかは分からないけど、いいとこ見せとかないと冒険者ギルドに入れないかもしれないからね。ここは真剣にやっておこう。


「では、火から行きます」


 火魔法からと宣言して、的のマネキンを確認する。

 この世界の情報は勉強して分かっている。剣と魔法の世界だ。

 僕が今まで勉強してきた魔法と大差なかったはずだ。僕が使える魔法は初級魔法だけだが、あの的に当てるぐらいならいつもやって来た事だし問題無くできそうだ。

 待っていた大柄な人が前に立ったままなので、その人を避けて的を狙ったため、斜めに位置する的を狙うしかなかった。場所としては一番左奥だ。


 ま、これぐらい出来ないと魔力が枯渇するまで打たすんだよね、うちの先生達は。

 そしたら、すぐに母さんが飛んできて抱き枕にされて一日が潰れちゃうんだ。だから、この程度なら全力で走りながらでも楽勝なんだ。的も動かないしね。


 DOGHOOooooooN!


 という轟音と共に三〇メートル先のマネキンの上2/3が吹き飛んだ。残った足の部分は土なのに火が点いたままだ。まだ僕の魔力があの場に残ってる証拠だな。

 よし、いい感じだ! さぁ、判定は! と、魔術部門統括のギルバートさんを見ると、長杖を持った手を僕に向けて差し出した形で固まっていた。


 でも、それよりも気になったのは、やる気なさげだったもう一人のガタイのいいおっさん。

 こいつは轟音がした的に目を向けたあと、すぐに僕を見て殺気を放った。一瞬だったが、母さんや先生達の殺気に敏感になってる僕には誤魔化せなかった。

 今は、視線を的に向けていて殺気も放ってないけど、一体なんだったんだろうか……


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