第38話 三人の名付け
「すべてお任せします!」
元気良く丸投げしてくれたのは、今から僕が名付けるバンパイア君だ。
一応、種族はバンパイアなのでここにいるんだけど、その実力は低い。アンダーバットの中堅クラスにも負けるほどだ。
なので、起死回生の一発逆転を狙っての名付けなのかと思ったが、実はそうではなかったようだ。
前回、僕が城に来た時に、実は彼もいたのだそうだ。
それで、僕が一番槍と名乗ったバンパイアを倒したのを見て、僕に憧れてたんだそうだ。
そこに今回の名付けの話が出て、名乗りを挙げたという事のようだ。
「もう一度聞くけど、希望の名前は無いの? 僕が付けると変な名前になっちゃうよ?」
「はい、キズナ様が付けてくださる名前でしたら何でも構いません! どうぞよろしくお願いします!」
マジか。苦手なんだよね、こういうのって。
でも、本当に名前を付けるだけで強くなれるのかな。『クロスオーバー』の世界では、皆名前を持ってたから、こんな話は初めて聞いたよ。授業でも教わらなかったしね。
ホント、どうなっても知らないからね。
「キズナよ。まずは名前を決めるのだ。そして、名付ける時に相手が望むだけ魔力を分け与えてやるのだ。魔力を与えれば与えるほど強くなるのだが、相手にも許容量がある。それを見極め、できる限り多くの魔力を分け与えるのだ」
「魔力だけでいいんですか?」
「そうだ、魔力だけでいい」
それはいい事を聞いた。魔力量には自信があるんだ。毎晩、母さんの抱き枕にされてたけど、そのお蔭でレベルは低いけどMPだけは高いもんね。
「えーと、じゃあ、先に名前を決めてからだね。う~ん、バンパイアのバン? パイア? 吸血鬼のキュー? ケッキ? ドラキュラのドラ? キュラ?」
「どれも素晴らしいです! どれにするか迷っちゃいますね!」
いやいや、全然ダメでしょ。ねぇ、っと隣に目をやると、他のバンパイアも目をキラキラさせてウンウン肯いてる。
こんな名前でいいの!? マジ? おいおい、始祖までサムズアップでオッケー出してるじゃん! こいつらのネーミングセンスって僕以下か?
まぁ、本人がいいと言うならいいんだけど、本当にいいんだね?
「最終確認ね。僕も初めての名付けだから名前より魔力の方に集中したいんだ。だから決めてくれると有り難いんだけど」
「では、さっきの候補の中からキュラにします」
あー取られたって声が方々から聞こえてくる。
おい! お前達も名付けを待ってるのか? やらないからね? この子と、あと出来るかどうか分かんないけど、もし出来たら始祖だけだからね!
「じゃあ行くよ」
「はい! お願いします!」
「『境界心繋』が名付ける。今日、今この時より、『キュラ』と名乗れ」
「はい!」
「お、おお!?」
おおおおおおおお! 何か吸われてるー! 魔力だ、魔力を吸われてるんだ!
はれ? もう終わり? なんか吸われ出したと思ったらすぐに終わっちゃったぞ?
でも、まだ余裕がありそうだな。もう少し渡しても問題無さそうだし、魔力を渡しちゃおうか。
魔力操作はお手の物だ。さっきの感覚で魔力の流れが分かったから、どんどんと魔力を流してやる。
すると今度は向こうが呻き始めた。
「ぐぅ…ううぅぅぅぅ……」
ちょっと辛そうだけど、もうちょっと行けそうなんだよね。魔力を流した分だけ強くなるって言ってたから、あとちょっとだけ我慢してね。君の限界は分かってるから、そこまでの辛抱だよ。
バンパイア君は手を床に付き、俯いた状態で肩を小刻みに震わせて耐えていた。
「ふぅ、こんなもんかな…どう? 痛いところとか無い?」
「……」
「バンパイア君……じゃなかった、もうキュラになってたね。大丈夫かい? キュラ?」
「……」
「キュラ? キュラくん? キュラちゃん? 大丈夫?」
「は、はい……だいじょ…ぶです」
全然大丈夫そうには見えないんだけど。これは失敗だったかな?
でも、僕が死ななかったので大成功とも言えるんだけど、キュラは今後、僕の従者として生きて行くんだな。連れて行く気は無いけどね。
「ぷはー! はぁー! はぁはぁ、キツかったー! やっと息ができる!」
あれ? 何か雰囲気変わった?
「キズナ様! すっごくキツかったけど、今は凄く爽快な気分です! 今ならドラゴンにでも勝てそうな気がします!」
いや、それは絶対気のせいだから。
「ちょっと行って来てもいいですか!」
いや、ダメだから。
「じゃあ、ちょっと行ってきます!」
そう言って出て行こうとするキュラの肩をガシッと掴む者がいた。序列一位のバンパイアだった。
「おい、今どんな感じだ。ん? お前……その姿は……バンパイアプリンス?」
「なに!? バンパイアプリンスだと!? 余にも見せるがいい!」
そうか! そうだよ、たしかにバンパイアプリンスだ! 何か雰囲気が変わったと思ってたんだ。青白かった顔色から血色の良い顔色に変わって、目も血走ったところが無くなって金色の瞳に変わってるもんね。
そうかそうか、バンパイアプリンスか。僕の名付けで進化したんだね。よかったよかった、大成功じゃん!
それからは、キュア君はバンパイア達に囲まれてドラゴン退治どころでは無くなってしまった。
たしか、バンパイアプリンスって、始祖の直径から枝分かれした傍系の王子だったよね。
それで、成長すると真祖になったり、その上の吸血鬼王になったりするんだったよな。
そして新たな始祖を作って従えて行くって習ったっけ。
そうなるとキュア君は独立して旅立って行っちゃうのかな? このままここにいても成長できないもんね。ちょっと悪い事しちゃったかな?
「坊主……いや、キズナだったか。次は我の番だな」
「え?」
「なに惚けてる。王の前に我で試すと言っただろ」
「……」
たしかにそんな事を言ってたね。でも、もう成功したんだからいいんじゃない?
「それは僕が死なないか心配で言ってただけだと思うんですが」
「でも、言っただろ」
「はい……言いました」
言ったっけ? 言ってない気がするんだけど。でも、断れる雰囲気じゃないんだ、迫力が凄いんだよ。つい、言ったって言っちゃったじゃないか。
「我は『バン』で行く」
「え?」
「我の名を『バン』と名付けろ」
「えっと…名付けると、僕の従者になるんですよ?」
「分かってる」
いやいや、この人全然分かってる態度じゃないんだけど!
周りも、また『取られたー』って言ってんじゃないよ! もう打ち切りだからね! 絶対やんないから!
名づけるのは嫌だけど、さっさとやらないと次から次へと候補者が上がりそうだ。
この人を名付けて始祖を名付けたら、とっととお暇しよう!
「『境界心繋』が名付ける。今日、今この時より、『バン』と名乗れ」
「御意」
おおおお! やっぱりさっきのキュラ君より魔力を吸われるな。ん? でも、もう終わりっぽい。キュラ君の三倍ぐらいかな? これぐらいなら全然余裕だね。【火球】千発ちょっとぐらいっぽい。
大体の体感だけど、たぶん合ってると思う。だって、魔力が減ると身体がだるくなって来るのは体験済みだけど、まだまだ余裕っぽい。半分も使ってないと思う。
ならば、後はこの人―――バンさんの限界まで魔力を注いであげようかな。
「…………」
おお! バンさんって我慢強い! キュラ君は呻いてたのに、バンさんは全然声を出さないよ。凄い人だな!
「ふぅ、終わったね。どう? バンさん。うまく行ったと思うんだけど」
「……」
まだキツイのかな? そういえばキュラ君も、終わってすぐは返事もできなかったな。もう少し待ってみるか。
「……」
「……」
「……」
「……」
もうそろそろいいんじゃない? なんで黙ってんの?
あー! この人って寡黙な人だったね。じゃあ、こっちから聞いてみよう。
「バンさん? そろそろ感想を聞かせてくれない?」
「……」
「バンさん? バンさん?」
「……」
返事が無い。
見かねた始祖が、バンさんに近寄り声を掛けた。
「おい。そういえば、名前を授かったのだったな。バン、返事をせぬか」
堪り兼ねた始祖が、振り向かせようとバンさんの肩に手を置いた。
すると、バンさんの身体がグラァっと傾き、そのままドターンと床に倒れた。
「おい、おい! 此奴、気を失っておるわ」
「えー! 大丈夫ですか!?」
「ふむ…命に別状は無さそうだ。しかし、この姿は……真祖か!」
バンさんの進化した姿に驚く始祖。
確かにその姿はキュラ君に似て血色の良い顔色になっていた。
目は開いてないから分からないけど、キュラ君と同じ金色になってると思う。
髪の毛がキュラ君とは違っていて、真っ赤になっていた。
他のバンパイアは、僕と同じ黒い髪をしている。それに対してキュラ君の髪は黒にメッシュのように赤が混じっていた。
バンさんはキュラ君より上の地位を示す真っ赤な髪の毛になっていたのだ。
「次は余の番だな」
「え? いや、バンさんは……」
「問題ない。此奴はこのままにしておく。目覚めた時に、すぐにでも礼を言いたいであろうからな」
いやいや、それでも倒れたままってダメじゃない? せめて、長椅子か何かに寝かせてあげようよ。
「此奴の事はいい。魔力は足りるか? 回復するまで待つか?」
「んー、いえ、大丈夫そうです」
そんなに使ってないし大丈夫かな? 全然余裕な感じだよ。
それもそのはず。今のキズナのMPは十桁に届こうかとするほど多い。しかも、回復速度も多くの加護のお蔭で半端無い。
今の名付けでキュアには3000、バンには10000のMPを消費したのだが、もう満タンになりつつあるのだ。
「そうか。ならば早速お願いしたい」
「わかりました」
「余の所望する名は『ノスフェラトゥ』だ」
「ノスフェラトゥ、ですか?」
「そうだ、偉大なる原初の初代の名だ。余は二代目ノスフェラトゥとなるのだ!」
おお! っとどよめくバンパイア達。
へぇ~、それは知らなかったな。初代の名前ね、いいんじゃない? 呼びにくいからノッサンって呼んじゃうかもしれないけどさ。
だって僕の従者扱いになるんだから、気軽に呼んでもいいよね?
「『境界心繋』が名付ける。今日、今この時より、『ノスフェラトゥ』と名乗れ」
「ははっ!」
おうっ! これは一気に来た! 半分とは言わないけど、1/4は一気に行ったかも。
実際は1/10も行ってない。初級魔法しか使わないキズナには、一気に50000ものMPを取られたので、そう思えたのだ。
キズナのMPは十桁弱。高々五桁のMPを取られても屁でも無いのだ。
先に行なった二人同様、一気に魔力を取られた後、始祖の限界まで魔力を流し続けた。
結果は、バン同様に失神し、バンパイア達に介抱される事となった。
気を失ってるだけのようだし、バンパイア達も動揺して騒ぎになっている。今の内にお暇してやろう。
シメシメと思いつつ、そぉっと城から出て、逃げ出したのだった。
始祖―――ノスフェラトゥの進化も確認した。髪の毛がシルバーになってたから、吸血鬼王になれたようだ。
でも、これって序列はどうなるんだろうね。
力は得たと思うけど、始祖じゃなくなったんだから序列には入んないじゃないの?




