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第37話 迷惑な招待


 ゲートを出して皆を送り還し、カゲールくんに薬草などの荷物運びを頼んで身軽になった時、不意に声が掛かった。

 聞き覚えのある声だ。以前、不慮の出来事とはいえ、城を破壊し多くのメイドさん達を傷つけてしまったのは記憶に新しい。

 城は直したし、メイドさん達の傷も癒した。

 だが、まだ根に持ってたのか、城主である始祖が態々出張って来ている。


 それに、この黒い雨に見えるのは魔力か。ラピリカさんやギルバートさん達、魔術師が魔法を使う際に身体から出ていたものに似ている。

 確か、昼に弱い吸血鬼系の魔物で、力の強い者が昼間に行動するためにこういうのを使うって習った覚えがある。見たのは初めてだけど。


「さぁキズナよ、行くぞ!」


 どこへ?


 キョトンとしてると、また声が掛かった。


「早くしないか! 宴の準備は既に整っておる。後はキズナ待ちだ!」


 キズナキズナって、僕名乗ったっけかな? 魔物相手にはあまり名乗らないようにしてるんだけど。

 しかも宴って。魔物の宴って言ったらバトル的なやつじゃない? ここは何としてでもお暇させてもらおう。


「それで、どこへ行くんでしょう。僕は町に戻らないといけないんですが」

「ぬっ? 余をここまで待たせて、まだ我が侭を言うか。其方そなたに決定権は無い。早く付いて参れ」


 そりゃ、約束を忘れてたのは悪かったと思うけど、何の約束だったか思い出せないんだから、こっちの用事を優先させてよ。

 昨日は何も稼げてないから、今日は稼ぎまくるつもりなんだから。


「その…町に用があってですね」

「問答無用だ。まずは城に来い! そこでなら話を聞いてやろう!」


 来い来いって、なんで僕が城に行かなくちゃいけないの? 僕には薬草の納品の方が大事なんだよ。


「さぁ、下僕共よ。キズナを城まで運ぶのだ。丁重に頼むぞ」


 キィ! と返事をするように鳴き声をあげて、大勢のアンダーバット達が現れた。

 一瞬身構えたが、アンダーバット達に殺気が無いと分かったので反撃ができない。

 悪意ある者には悪意で返すけど、今のアンダーバット達からは悪意が全く感じられなかった。


 そんな僕の一瞬をつき、両手と両足を大勢のアンダーバットに抱えられてしまった。

 振りほどけそうではあるけど、無理やり振り解くとアンダーバットを傷つけてしまうだろう。

 こいつらに敵意は無いと分かった時点でキズナの負けだった。

 敵意の無い者には、人だろうと魔物だろうと争うつもりはキズナには無いのだから。


「だからー! ちょっと待ってってばー! 今日を逃すと困るんだってー!」

「問答無用だと言ったであろう! まずは我が城に来い! 話はそれからだ!」

「そんなぁ~」


 カゲールくんに持って行ってもらった薬草がダメになってしまうかもしれない。

 一応、妖精達に採取してもらったから、二~三日は鮮度保てると思うけど、それでも直射日光に長時間晒されると一発でダメになっちゃうからな。

 天日干しにする薬草もあるけど、それでもキチンと広げて一枚一枚干さないといけない。

 それにハーフムーン草は天日干しにしてはいけない薬草だ。葉が瑞々しい間が魔力を沢山内包してる薬草だ。乾燥させてしまったら効能が半減どころではない。

 カゲールくんなら影に置いておいてくれるかもしれないけど、暗くなる時に頼んだし僕もすぐ行くつもりでいたから細かい指示は出してない。


 諦めるしかないか……いやいや、まだ明日の朝までに戻れれば何とかなるかもしれない。

 このアンダーバット達の拘束を解く事はできないけど、一度城に行けば始祖も納得してくれるだろうから明日の朝までには解放してくれないかな。

 未だに薬草の事を諦めきれずに未練がましく思っているのだが、無理やり拘束を解いて敵意の無いアンダーバットを傷つけるわけにも行かず、大人しくアンダーバットの集団にドナドナされて行くキズナだった。

 ドナドナというより、祭りの神輿にされてるようにしか見えないのだが。


 ドナドナされる事、一時間。ようやく始祖の城に着いた。まだ宵の口とはいえ、もう辺りはすっかり暗くなっていた。


「ようこそキズナ、久々の我が城はどうであるか」


 城に到着するとアンダーバットの拘束から解かれ城の方に目をやると、城門から城までズラーっとアンダーバットやメイドさんが並んでいた。


「おおっ!?」

「ほぉ! 驚いたか! そうかそうか驚いたか。そうかそうか、わっはっはっはー」


 何故か僕が驚いた事にご満悦の始祖だ。何がそんなに楽しかったのだか。


「さぁ、付いて参れ」

 始祖に促されるがまま後ろを付いて行くと、城壁に沿って並んでるアンダーバットやメイドさん達が、僕が前を通ると順にお辞儀をしている。


 こういうのって実家でもあったな。毎年、母さんの誕生日に城のような家で同じようにしてたなぁ……僕の友達も、このメイドさん達の様に並んでお辞儀してたっけ。

 懐かしいなぁ、帰れるのかなぁ。

 ふと、郷愁に駆られ『クロスオーバー』の世界に帰るための条件を思い出す。


 腰に下げた短剣を長剣にまで成長させる。

 成長させるためには、スキル【クロスオーバー】を沢山使わなければならない。

 スキル【クロスオーバー】は使うたびに経験値を取られるから、そのために魔物を倒して経験値を得なければならない。


 もう結構使ってると思うんだけど、まだまだなんだろうなぁ。

 と、短剣に意識を向けると、少し伸びてる気がした。

 え? と思って確認しようとしたら、目的地に到着したようで、始祖から声を掛けられ短剣を確認できずじまいになってしまった。


「今日は、余の従者も勢揃いさせた。食事会でもしてキズナとの交流を深めたいと思うのだが、どうだ」


 どうだと言われても、完全強制で連れて来られて拒否していいの? そんな事したら、あんた泣いちゃわない?

 僕としては、早めに解放してくれればいいので、それを条件に了解した。


「そうは言うがキズナが約束を守らないからであろう。今日は従者のバンパイアも、従者の下僕であるアンダーバットも集結させておる。キズナに皆の顔を覚えてもらわねば、皆も安心できぬ。全員との顔合わせを終えぬと帰られぬと思ってくれ」


 全員と顔合わせ? 安心できない? どういう意味だ?


「なんで覚えないといけないんですか? それに安心って……」

「もう先日の件を忘れたのか。余の従者の中でも一二を争う手練れの一味を一網打尽にしてしまったと言うに」

「あれは、そっちが僕の友達を」

「その件に関してどうこう言うつもりはない。城や従者の被害も釣りが来るほどの施しを受けている。最後にケチがつく行動を起こした者がいたが、その者も既に処分しており、余はキズナには感謝しかしておらん」


 一の子分とか言ってたバンパイアの事だよね? たしか命までは取ってなかったはずだけど、処分したって事はもうこの世にいないって事だよね。

 それでも、僕に感謝してるって、そこまでの事はしてないと思うんだけど。

 壊したり怪我させたのはこっちなんだし、それを治しただけだからね。

 恨みを買う事はあっても感謝される筋合いじゃないよね。

 まぁ、元を辿れば、従者の下僕であるアンダーバットがカゲールくんに手を出したのが原因だけど、それでもやり過ぎちゃった自覚はあるしね。


「そうなんですね。僕も不慮の事故だったとはいえ反省していますので、僕に感謝してくれているというのでしたら始祖さんももうそれぐらいにしてください」

「ふむ…あい分かった。先日の話はこれで打ち切りだ。今からはお互いに友好関係を深めて行こうと思うが、どうであるか?」

「はい、友好関係はいい案ですね。僕も争いは嫌いなので友好を結べる関係がいいです」

「では決まりだな。まずは皆と楽しく晩餐を共にしてくれ」

「はい、ご馳走になります」


 もうここまで来てしまったのなら断る理由もない。友好的なのは分かるし態々敵対する理由も無い。

 ただ、惜しむらくはカゲールくんが運んでくれた薬草を納品したかった。納品できないのなら、せめて瓶があるだけでもポーションを作りたかった。

 瓶も一緒に運んでもらっている。瓶は腐らないからいいんだけど、薬草はもう諦めるしか無いだろうなぁ。


 そして、招き入れられた晩餐会場では、長ーい長ーいテーブルに向かい合って座るんだけど、お誕生日石には始祖が座り、僕はその隣に座らされた。


 ここって普通は奥さんの座るとこでしょ!? なんで僕を座らせるの? 僕にそっちの趣味は無いよ?


 そして出て来た料理を見て「普通だね」と意外に思った。

 町の食堂で出てくるようなステーキが僕の前に出て来たのだ。

 お城で出て来るような豪勢な料理も少しは期待してたんだけど、そこはやっぱり魔物だ。これでも僕に合わせて奮発してくれた方かもしれない。


 魔物の食事に関しては、友達の多い僕でも知らないからね。

 どんな時でも食事は毎食、母さんと食べてたから分からないんだよ。


 そして居並ぶバンパイア達の前には赤い液体の入ったワイングラスが一つだけ置かれていた。う~ん、トマトジュースでは無いようだね。

 総勢で三〇名ほどのバンパイアだったが、誰も話をしないもんだから、場はシーンと静まり返っている。


「では、皆の者。今後のキズナとの友好を願い、乾杯をしよう。かんぱーい!」

「「「かんぱーい!」」」


 もちろん僕も乾杯には参加したよ。僕のはオレンジジュースだった。他の人とは色が違うし、オレンジジュースって言われてたから迷い無く飲んだよ。

 でも、大袈裟すぎない? 歓迎ってムードを出してるのは始祖さんだけだし、他のバンパイア達は、我関せずって姿勢でいるんだよ。


 一部には、凄く睨んで来る奴がいたり、ごく一部には恥かしそうにチラ見して来る奴もいるんだけど、大半は知らん振りしてるんだよね。


 シーンと静まり返った会場で、黙々とグラスを傾けるバンパイア達。聞こえる音は、僕のナイフとフォークの音だけ。

 う~ん、あまり美味しいと感じないね。これも場が重過ぎるからだろうね。

 始祖がそんな静寂を破り、発言をした。


「キズナよ」

「はい」

「余に名をくれんか」

「え?」

「王よ! 何を考えておられる! 人族のような脆弱な者に名付けを許すなど有り得ぬ事でございます!」

「王よ! 我は反対だ!」

「我が王よ! 有り得ぬ! 有り得ませぬぞー!」


 僕から見て、左右の前から二番目までの四人の内の三人が猛反論した。

 立ち上がって大声を張り上げ、始祖に向かって反対だと申し立てる。

 僕の丁度前のバンパイアだけは、乾杯以降、終始腕を組み目を瞑ったまま静かにしていた。今、怒声が続いてる中でもその姿勢は変わらなかった。

 だが、そのバンパイアが徐に顔を上げ、王に向かって一言問うた。それは殺気立つ場には似合わない穏やかな口調だった。


「ふむ、王よ。我にもその人間に感ずるところがある。許されるならば、我にも名を頂戴したい」

「なっ! 序列一位のお主が何を!」

「そうだ! お主も止める立場だろう! 何を訳の分からん事を言ってるのだ!」

「王の従者を辞すと言うのか!」


 寡黙そうなバンパイアの一言に、さっきは始祖に怒鳴っていたバンパイア達が矛先を変えた。


 序列一位なんだ。だったら席順も強い順なのかな? でも、この人が一位? この前のバンパイアは、自分で一番槍って言ってたけど、一番強いって意味じゃなかったの?

 それより、なんで僕が名付ける事になってんの? そんなの自分で付ければいいじゃん。


「あのー、始祖さん?」

「なんだ」

「すみません、なんで僕が名前を付ける事を希望されてるんですか? 僕にネーミングセンスはありませんよ? 自分で付けた方がいいと思いますが」

「ん? キズナは名付けの意味を知らんのか? そうか知らんのか。そうか、そうか、わーはっはっはー」


 始祖が大声で笑うと、その会話を聞いてたバンパイア達のシラーっとした雰囲気に変わってしまい、力が抜けたようにドスンと着席をした。


「では、そこから語ってやろう。魔物にとっての名付けというのは……」


 始祖が言うには、魔物は力が上位の者から名付けられると、その上位者から加護を受け、一気に力が上昇するのだとか。

 中には、名付けによって進化したりする者もいるそうだ。

 ただし、力がそんなに変わらない者や、下位の者から名付けられると、名付けた者の命が無くなるのだ。

 しかも、名付けられた方も力は少ししか上がらないし、名付けた者が死んでしまってはすぐに加護が切れて、ペナルティとして元の力より下がってしまうのだ。

 更に、運良く名付けた者が生き残ったとしても、加護のある間中、従者として従う事になる。力は上がっても強制的に従者になってしまうのだ。


 なので普通はよほどの事が無い限り名付けを頼まないし、名付けてやると言われても断るものなのだ。

 名付けはお互いの了解が無いとできないものなのだから。



 そんな重要なものを僕に頼むの? 僕って、まだレベル二十ぐらいだと思うよ? 始祖さんって、もっとレベル高いよね?


 そう思ってるのはキズナだけであって、始祖もキズナの大体のレベルは察知している。というか、自分でもできない事を先日まざまざと見せ付けられたのだ。そんな者のレベルが自分より低いなどとは到底思えないのだ。

 始祖の見積もりでは、キズナのレベルは三〇〇オーバー。自分のレベルの凡そ倍だと踏んでいる。

 始祖にも鑑定スキルは無い。しかし、今までの経験で、それぐらいだと目算している。十分勝算があっての頼みだった。


 始祖の目算は大体合っていた。しかし、それは前回キズナが来た時のレベルだ。

 今は既に五〇〇オーバーになっていて、ステータスもHPは七桁、MPは十桁に届こうとしていたのだ。

 当のキズナが自分を超大幅に低く見積もってるのにも程があるが、それにも理由があった。

 『クロスオーバー』の世界でのキズナは一度もレベル十を超えた事がない。レベルを上げるとすぐにスキル【クロスオーバー】を使わされ、レベルを一に戻されるのだ。

 それなのに熟練度やHP・MPは上がって行く。手加減も仕込まれる。全力は出すなと言われる。中級魔法すら使うなと言われる。

 それなのに、授業では高度な武技や、正確で素早い魔法を仕込まれる。

 武技や魔法に関する基礎から奥義、根底まで広く深く教え込まれたのだ。

 しかも、最後の仕上げに、数多くの加護を付けられている。もう自分でも分からなくなってしまっているのだ。

 それでも手加減が上手いため、普段の生活ではうまく対応できていたのだ。だから余計に自分のレベルが分からなくなってしまっていたのだ。


「僕のレベルっていくつか分からないんですけど、そんなに高く無いと思うんですけど。そもそも初めから名付ける気は無いんですけどね」

「高くないわけが無い! あ、いや、つい大声を出してしまった。しかし、余はどうしても名付けてもらわねばならん。このままではいかんのだ」

「何かわけがあるんですね。でも、レベルの低い者が名付けると死んでしまうかもしれないんですよね? しかも名付けられた方もペナルティがあるって」


 そうだよ、こんな事で死ぬのは嫌だからね! ここは絶対に断ってみせる!


「実は余は十三の始祖の中でも序列は十二位なのだ。それで、こんな辺境にいるのだが、序列最下位の者が最近妙に力を付けてきおって、どうやら余が序列最下位になりそうなのだ」


 始祖にも序列があったんだ。そこで最下位だったらちょっと恥かしいかもね。でも、それで何か変わるでもないだろうし、別に恥かしいぐらいいいと思うんだけど。

 あと、辺境? 別に辺境って事は無いと…あっそうか、魔物にとっては辺境になるのか。魔素の濃い森の中心からだと遠いもんね。


「最下位になると、下手をすれば序列上位のバンパイアからも顎で使われかねん。実際、今までの最下位の始祖はそうであった。余はいいのだが、従者共が可哀想でな。キズナよ、なんとか頼めぬか」


 くぅー、泣き落としですか。そんなのに屈する僕じゃないぞ! 絶対負けないぞ!


「そういう事か。ならば我で試してみるか」


 寡黙な序列一位がおかしな事を言い出した。


「試すとはどういう事だ」

「言葉通りだ。そのキズナって人間が、王を引き上げるに相当する者か我を使って試せばいい」

「それはお主にキズナが名付けるという事か」

「御意」


 話が終わると一斉に注目を浴びる。

 おい! 僕は名付けないからな! ぜーったい名付けないからな!


「い、いや、僕も命が惜しいので遠慮させてください」

「ふ~む……キズナの醸し出す雰囲気といい、実力といい、余の目算では間違いないのだが、ここには鑑定できる者がおらんからのぅ」


 全員が一斉に黙考に入った。そんな中で一人立ち上がり発言する者がいた。一番遠くに座ってるバンパイアだ。

 一番向こう側という事は、一番序列の低い者だろう。偶にチラチラとチラ見していた奴だ。


「では、ボクで試せばどうでしょう。まだレベルは二〇も行ってませんし、それならキズナ様も死ぬ事は無いでしょう。それである程度の目安になりませんか?」


 その言葉に始祖も乗った。


「それはいい! よし! それで行くか!」


 なし崩し的に、僕がバンパイアの名付け親になる事が決まってしまった。


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