第36話 冒険者ギルドにて。 side ハーゲィ・ブラッキー・ホワイティ
「おはようございます」
「……おはよ」
「十階層達成、おめでとう、ブラッキー。昨日は宿に着くなり二人とも寝てしまったので言えませんでしたので、改めてお祝いを言いますね」
「……」
ホワイティからのお祝いの言葉を素直に受け取れないブラッキー。
苦虫を潰したような顔で俯いていた。
「納得行きませんか?」
「……そうね、あれだけ準備もして挑んだのに結局キズナに助けてもらったもの」
「でも、十階層初踏破ですし、素直に喜んでは?」
「たかが十階層で喜んでなんていられないわ。もう冒険者になって二年になるのよ? お父様からの条件は、一年以内にダンジョン制覇だったのに」
「でも、ダンジョンに入れる資格を取ってから一年以内に延ばせたのですよね?」
「そう。でも、その代わりに、達成できなければと嫁がなければならなくなったじゃない」
「でも、ダンジョン制覇なんて、ブラッキーだって初めから無謀だと思ってたんでしょ?」
「そんな事ない、行けると思ってたわ。自分の力を信じてたし、キズナの指導で先も見えた。でも、自分が思ってた以上に私は弱かった。ただそれだけ……」
現在挑んでいるダンジョンは未だ誰にも制覇されていない。
最高到達階層は六五階層。
だがそれは過去の記録で、現役で一番進んでいるパーティでは五十階層台だ。冒険者の間では中層と呼ばれている階層だ。
おさらいだが、三〇階層までが下層(浅層)、六〇階層までが中層(中層)、六〇階層以降が上層(深層)となっている。
通常、ダンジョンでは一番下っ端になるDランク冒険者では中層に届けばいい方で、ほとんどの者は十階層か二〇階層の階層ボスに挑む周回プレイで稼いでいるのが現状であった。
それで十分、お金も経験値も稼げるので、力をつけ装備が整うまで次の階層に挑むものは少ない。
武器・防具・アイテムを消費してしまうと、買い揃えるだけで終わってしまう。
特に武器・防具が高いのに、階層ボス戦に一~二度挑めば修理や買い替えになってしまう事がほとんどだ。
いくら魔石で稼いでも、大きな買い物ですぐに無くなってしまう。死なないためには重要な出費だ。
しかも今はポーションが高騰している。効き目は徐々に悪くなって行っているのに価格は逆にどんどん上がって行く。
それも薬草採取をする冒険者が激減しているためだ。
そんな中で、まずは現役トップの六〇階層を目指しているブラッキーだが、十階層ごときに単独踏破もできない自分を責めていたのだ。
「では、もう一度キズナに教えを請いますか? キズナに援助を求めますか? それとも、もう一度チャレンジしてみますか?」
「え?」
「ブラッキー、あなたは一度躓いたらそこで終わりだと思ってたのですか? 違いますよ。何度でもチャレンジしていいのです」
「! 確かにそうだわ! ノーミスでクリアするまで、何度でも挑めばいいのよ!」
ホワイティの言葉でようやく俯いていた顔を上げる事のできたブラッキー。
十階層への再チャレンジを心に決めたのだった。
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「いくら統括の命令でもそれは聞けねぇ!」
心機一転、心を新たに冒険者ギルドにやって来た【三叉槍の魔法使い】の二人、ブラッキーとホワイティだったが、受付の奥から聞こえた怒鳴り声に注意を惹かれた。
「あれって、キモいハゲよね?」
「ブラッキー…ハーゲィさんです。薬草採取ではキズナもお世話になったと言ってましたでしょ?」
「いいのよ、キモハゲで。どうせ本人には聞こえてないんだから」
「そういう事を言ってるのではないのです。そういう影口を言ってると、自分も言われる立場になるのですよ? 正しい心根を持つ事が大事なのです。それに咄嗟の時に口走ってしまいますよ?」
「はいはい、流石は元聖女候補様ね。私はそんなヘマはしないって。でも、あのキモハゲがいるって事はキズナもいるのかしら」
「どうでしょうか。あそこには武術部門のアルガン統括とハーゲィさんしか見当たりませんね」
昨日は、ダンジョンから帰ってからキズナとは話をしていなかったので、冒険者ギルドに来れば会えるだろうと思ってやって来たのだが、お目当てのキズナの姿が見当たらなかった。
「やっぱり来るのが遅すぎたかしら。キズナといるとやたら絡んでくる受付もいないしね」
「……ラピリカさんですね。名前を覚えましょうね」
「いいのよ、城にいると関わる人間が多くて覚えきれないんだから。あなただって取り巻きの振りして付いて来る鬱陶しい奴らの名前なんて覚えてないでしょ?」
「ここは城の外です。それに皆さんのお名前は覚えていますよ」
「えっ!? うそ!」
冒険者ギルドや食堂や宿・ダンジョン入口周辺などの、町中では絶えず付いて来る取り巻き達は、数は決まってないが二十~三十人いる。
それも、毎回いる者もいれば偶にしか見ない者もいる。延べにすると五十人以上いると思われる。
それをホワイティは全員の名前を覚えてると言うのだ。
「だってあなた、話だってした事ないでしょ」
「いえ、初めて来た方は必ず自己紹介に参られますので覚えています」
「自己紹介って…そんな一度だけで……でも、私には一度だって挨拶には来ないわよ!」
「それは、貴女が陛下にそうお願いしたのでしょ? 見張りは妥協するけど話しかけるなと」
「それはそうだけど……なんだか納得行かないわ!」
賑やかに話している二人に噂の人から声が掛かった。
今は取り巻きも集まって来ているところで少なかったせいもあるが、用件は共通の話題のようだった。
「今日はキズナは一緒じゃねーのか?」
「キモハ……」
「おはようございます、ハーゲィさん。キズナとは昨日別れてから会っていません。私達も探してたのですが、ハーゲィさんもご用でしたか?」
いらぬアダ名を呼びそうになったブラッキーを遮ってホワイティが答えた。
『やっぱり言いそうになってるではないですか!』と心の中でホワイティが罵るが、そういった感情を出さずに笑顔で対応した。
「ご用ってほどのもんじゃねーんだがな。今日は一緒に行動しねーのか?」
「……知らない」
「……ええ、昨日、ダンジョンを出てから会ってないものですから」
「なんでぇ、もう解散か?」
「違う! 解散なんてしない!」
「はい、解散はしませんけど、今日は何処に行ったのか……私達もここに来れば会えると思ってたものですから」
ブラッキーとホワイティの二人は、今日もダンジョンの十階層を目指す予定だ。
キズナもそのつもりなのだろうと冒険者ギルドに来てみたのだが、当のキズナの姿が見えないのだ。
「がっはっはっは、そうか、解散しねぇか。だったらキズナに伝言しといてくれ」
「私達も、今日会うかどうか分かりませんよ?」
「ああ、かまわねぇ。もし会ったら冒険者ギルドには寄らず、直接宿に帰って来いって伝えてくれ」
「あの……何かあったのですか?」
心配そうに尋ねるホワイティに、ハーゲィさんは、まぁいいかとガシガシと頭をかいて答えた。
その際、ブラッキーとホワイティが口を押さえて顔を背け二歩下がったが、ハーゲィは気にせず答えた。
「そうだな、お前達は同じパーティだったな。だったら聞いておいた方がいいか」
そう言ってハーゲィが二人に近寄る。
スススと、二人が二歩下がる。
ハーゲィが二歩近寄る。
二人が四歩下がる。
「おい! 大きな声じゃ言えないから近寄ってんだ! 逃げんじゃねー!」
「ここで結構です。耳をすませますので、小声でおっしゃってください」
「そうだ! 不潔だ! ハゲー!」
「俺はハゲじゃねぇ! ハーゲィだ!」
「ハゲてんじゃん!」
「これはハゲじゃねー! これから生えて来んだ!」
「うそー!?」
これから生えると言うハーゲィの言葉にブラッキーが固まる。
「ブラッキー……そんな訳ないではありませんか。もういいですからその場で話してください」
してやったり顔でニヤケつつ、再びガシガシとハゲ頭をかくハーゲィ。
ハゲでもフケは出る。ただ、髪の毛という溜めておく場が無いので都度飛んで行ってるだけだ。
それが、今回一度かいた時に偶々ハゲ頭の上に根強く溜まってたフケが飛んだのを目にした二人がハーゲィに近寄りたくなかったのだ。
「わかったよ。じゃあ、大きな声じゃあ言えねえからシッカリと聞けよ」
二人は腕を組み合って肯く。
「さっき統括にキズナが何処で採取しているのか、場所を聞けって言われた。もしかしたら、いや、さっき俺が断ったからお前達も聞かれるだろうが、知らんふりして惚けとけ」
「そんなのアリなの!?」
「声がでけぇ!」
「本当にそんな事を聞かれたのですか? それは冒険者ギルドとしてどうなのでしょう!」
「だから声がデケぇっての! 俺だって嫌だから断って来たんだ! それに俺にだってプライドがあらぁ!」
もう、誰も小声でなんて話してない。
既に内緒話ではなく、普通の会話になっていた。
「一応、聞いとくが、お前達もキズナの採取場所は聞いて無いんだな?」
「聞いてないわ。私達といる間に、キズナは一度だって薬草採取なんてしてないから」
「はい、してないと思います」
「あーそうだったな、お前達は『初心者の草原』に行ってたんだったか。『初心者の森』にぁ行ってねーんだろ?」
揃って肯くブラッキーとホワイティ。
「だったら大丈夫だ、惚けようがないからな。今の話は忘れてダンジョンにでも励んでくれ。キズナは薬草採取に向かったみてぇだし、俺も今から薬草採取に行って来るからよ。もし俺が入れ違いで先にキズナに会ったら伝えといてくれや」
二人から了承を得て、薬草採取に向かうハーゲィだった。
残された二人も、今日はキズナが薬草採取に行ったのだと分かり、昨日のおさらいがてら二人でダンジョンに向かう事にした。
ここにいて質問されるのも面倒だったし、何より今は少しでも力を付けたかった。
それには実戦で魔法を使い続けるのみ、と二人は再び十階層を目指すべく、ダンジョンに向かうのであった。




