第33話 それぞれの役割
何か説明回みたいになってしまったので、早めに出してしまいました。
次話は明日の予定です。
朝、冒険者ギルドに来てみたが、ブラッキーさんもホワイティさんもまた来ていなかった。
受付窓口にはラピリカさんの姿も見えないし、この時間ならいるはずのハーゲィさんの姿も見えない。
顔見知りが誰もいなくても、冒険者ギルドの中は普段通りの賑わいを見せている。
Eランクまでの冒険者は討伐依頼を奪い合い、上級の冒険者も依頼ボードを見て目ぼしい依頼を剥がして受付に持って行く。
下位ランクの冒険者は、まだダンジョンに入れないから腕を上げるために『初心者の草原』に行く事が多い。
僕達が行ってた時も、何組か出くわした事はある。
弱い魔物しかいないから、魔物素材の買い取り金も大して高くは無い。でも、討伐依頼が出ていれば、買い取り金に達成報酬が足されるので、偶に出る討伐依頼は奪い合いになるのだ。
対して中位・高位ランクの冒険者はダンジョンに行く。
しかし、三〇階層を過ぎたあたりから魔物が強くなり、頭打ちになる冒険者が多いのだそうだ。
三〇階層を過ぎれば魔物が強くなる分、魔石の買い取り金も高くなる。
でも、その分だけ危険も多く、周りが思ってるほど稼げているわけではないのだ。
魔物が強ければ、装備やアイテムにお金が掛かる。
魔物との戦闘で装備が壊されれば修理や買い替えになるし、回復アイテムは消耗品だ。無くなれば買い足さないといけない。
その回復アイテムが高ければ、稼いだお金などすぐに無くなってしまう。
では、どうすればいいか。自分達より少し弱い魔物を相手にレベル上げをしつつ、お金を稼ぐのが堅実な方法だ。
それが三〇階層前後だという冒険者が一番多い。中堅冒険者の冒険者が頭打ちとなる階層だ。
それ以上に行こうとすれば、強くなるかパーティ編成を充実させる方法か、装備やアイテムに頼る方法となる。
しかし、三〇階層付近で堅実に魔物を倒しての魔石集めをしていれば、それなりの稼ぎになる。そこそこの宿に泊まって、毎晩飲んでも十分に貯金ができる程度は稼げるのだ。
貯金したお金で装備の買い替えやアイテムの補充をすれば、また三〇階層付近で稼げるという良いサイクルが出来上がる。
平均して週に四回ほどダンジョンに潜れば、このサイクルに乗れるようだ。
その中でも大まかに二手に分かれる。
四日以上ダンジョンに籠りっぱなしの階層突破を優先するイケイケチームと、毎日外に戻ってダンジョン町の宿屋で寝泊りする堅実派チームだ。
その中でも更に細分化されるのだが、大まかに分けるとこの二通りになる。
で、何故このような話になったかというと、イケイケチームの階層攻略には回復アイテムが必須。その回復アイテムがキズナの持ってきたポーションによって激変する可能性があるからだ。
その可能性をよく知る冒険者ギルドの職員達。
中でも特別受付のラピリカや統括の二人は薬草を重要視している者達だ。
魔術師統括のギルバートはダンジョン重視派の筆頭。少々高価な回復ポーションでも効果が高い回復が見込めれば、それでダンジョン攻略が捗り、中級・上級の魔石が冒険者ギルドに入り、それを捌けば冒険者ギルドが潤う。そして、高価な回復ポーションを冒険者が購入して行き、その冒険者が中級・上級の魔石を冒険者ギルドに納める。
そのループのためにも上級回復ポーションの存在は欠かせないと思っている。
逆に、武術師統括のアルガンは下級冒険者のために回復ポーションが不可欠だと思っている。
それも効果はそこそこでいいから、なるべく安価なものを求めていた。
下級冒険者の腕は拙い。ゴブリン相手でも重症を負う事もある。そうすると、ただでさえ実入りの少ない下級冒険者はすぐに干上がってしまう。
そして借金をする。そして返済のために無理をする。そして、また怪我をする。怪我で済めばいいが、命を失う者も中にはいる。
負の連鎖だ。
それを防ぐためにも安価な回復薬は必須なのだ。安価なだけで掠り傷を治す程度のものなどいらない。掠り傷など冒険者には日常茶飯事だ、唾でも付けときゃ治る。というのがアルガンの口癖だった。
だが、唾をつけても治らない深い傷ならポーションが必要だ。
そのためにアルガンは薬草採取を奨励しているが、中堅と呼ばれるようになり、ダンジョンに入れるクラスになると、誰しもがダンジョン優先にしてしまって薬草採取をする者などいなくなる。
それは当然だろう。薬草採取では稼げないのだから。
通常、慣れた新人が薬草採取をして一日に稼げるお金は銀貨十五枚程度、慣れた中堅で銀貨二〇~二五枚程度。
新人の稼ぎで、宿に泊まって朝晩の飯代と下級のポーションが一~二本程度、中堅でプラス数杯の酒が飲める程度だ。
それがダンジョンに行くと、うまくするとその数倍から十数倍の稼ぎになるのだ。中層に行けば数十倍、下層に行けば数百倍になる。誰しもがダンジョンを目指す理由だ。
もちろん命の危険も数段跳ね上がる。
ダンジョンでは戦いの連続なのだから。戦って魔物を倒さなければ魔石もドロップ品も獲れない。
負傷すれば回復薬が必要になる。
回復魔法が使える者がいれば、それだけ回復薬の節約にはなる。
だが、その回復魔法の使い手も、そう多くは無い。しかも、冒険者をする回復魔法の使い手となると一気に減るのだ。
当たり前の話だが、攻撃手段の少ない回復魔法の使い手は冒険者の道へ進む者が少ない。
町の中で有料で回復魔法を使って癒している方が安全だと誰もが分かっているのだから。
そんな中で、特別受付のラピリカは何とかして薬草を安く確保したいと思っていた。
だが、それと同時に薬草採取をする冒険者の報酬も上げたいと思っていたのだ。
薬草は必要、それも多ければ多いほどいい。冒険者にポーションは必須なのだから。
そのポーションを作るための薬草を採取してくれる冒険者が激減している。それは薬草の買い取り金が低いためだ。
そのため、冒険者ギルドでは薬草の買い取りでの儲けは殆んど無いところまで設定しているが、それでも薬草採取だけで生活をするのは苦しい。
現在できているのはハーゲィただ一人、薬草は見分けるのも難しいし、採取方法も下手だと正規の報酬が支払われない。
この矛盾する二つの事柄(多くの薬草が必要。薬草採取の報酬を上げたい)を何とか打開する方法としてラピリカが取り組んでいるのは、薬草の種類の標本作りと、薬草分布地図、そして薬草採取のためのマニュアル作りだ。
標本は買い取った薬草から作れるが、分布図と採取法はハーゲィの協力が必要不可欠だった。
しかし、現場主義のハーゲィは、『そんなのは身体で覚えるもんだ』と言って協力的ではなかった。
それも、最後の教え子達がダンジョンに行ってしまってから、少しずつ協力してくれるようになり、ようやく完成に至った。
それなのに、完成した標本(薬草を押し花にした紙の束)に載っていない薬草をドヤ顔で持ち込んだ冒険者がいた。
前回、上級薬草を籠一杯納品したキズナという新人冒険者だった。
前回納品された上級薬草はどれも素晴らしく、金貨百枚の報酬を出したにも関わらず、薬師ギルドでは金貨三〇〇枚で買い取ってくれた。
これは現在の冒険者ギルドのルールに反するものなので、後日同様の持ち込みがあれば色を付けてあげなければと思っていたラピリカだったが、全く見知らぬ草を持ち込んで来たのだ。
雑草と思えるその草だが、魔力は感じ取れる。それも、魔力感知に長けたラピリカだから分かったが、普通なら雑草として処理されるだろう。
前回の件もあるので、サービスとして金貨一枚を出した。次回期待の思いを込めて大サービスで出した金貨に不満を持ち、インチキポーションまで出す始末。
HP5000? 毒回復に石化回復? HP5000の意味は分かりませんが、そんな夢のような解除薬など聞いた事などない。
ラピリカは新人冒険者の事が信じられなくなった。が、新人冒険者キズナの実績は知っている。
大量の上級薬草の納品。恐らくだが、Eランクの女性冒険者の育成。どうやって倒したのかは分からないが、大量の魔物の討伐。
そんなキズナが持ち込んだ薬草と証する物。しかもキズナの自信満々なドヤ顔。
これは何かあると思い、冒険者ギルド預かりとした。
それで今も冒険者ギルドで薬草に最も詳しいハーゲィを連れ薬師ギルドに交渉に行っているのだが、今日の彼女は薬師ギルドで一日を終える事になる。
そんな色んな思惑を知らないキズナは、昨日皆と約束した事もあり、今日も『初心者の森』へと出掛けるのであった。
知り合いがいないので、簡単に依頼ボードを確認し、ついでになるような依頼が無いと分かるとさっさと『初心者の森』へと向かった。




