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第31話 午後からも仕事です。

投稿間隔が開きすぎていて申し訳ありません。



「もうダメ。ふぅ…疲れたわ……」

「私に捉まって。次の人達が待ってるから、ここからは早く出ないと」

「……そうね、そうだったわね」


 ブラッキーさんはホワイティさんの肩を借りてフロアボス部屋の奥の扉に入って行く。

 そりゃ、ポーションで回復させたとはいえ、何度もやれば精神的にもキツいし、魔力を短時間に何度も消費と回復を繰り返せば魔力の流れがおかしくなって体調不良をきたす。しかもそれが自分の全魔力の半分以上の出し入れを繰り返せば誰だってフラフラになるだろう。

 だけど……


 おいおい! 僕は!? 置いてかれちゃうの? それにドロップ品が出てるよ? キングゼリーの魔石も忘れてんだけど!


 おーい! 僕ってパーティメンバーのはずなんだけどー?


 僕を置いて二人は出て行った。

 両肩に乗る妖精から頭を撫でられて慰められたので、最後の力を振り絞って無理やり笑顔を作り、ドロップ品と魔石を回収して、僕も二人の後を追った。


「キズナ様~、もう帰るの~?」

「僕は面白いものが見れたから満足だったよ」


 そうだった、この子達をいつまでも連れてられないんだった。

 『クロスオーバー』の世界からこっちの世界に来るのには、この世界にいる僕がスキル【クロスオーバー】を使うか、母さんが作った短剣を使うしかない。

 他にも方法があるのかもしれないけど、僕はその二つしか知らない。


 【クロスオーバー】の世界に住む友達は、こちらの世界に喚び出してあまり長い時間滞在すると、こっちの住人になってしまうんだ。

 そうすると、【クロスオーバー】側から喚ばないと戻れなくなってしまう。こっちの住人になってしまうと、こちら側で出したゲートを潜れなくなるんだ。

 それが本人達の希望ならそれでもいいんだけど、僕の都合で喚び出しておいて、【クロスオーバー】の世界に帰れなくなったら可哀想だ。


 【クロスオーバー】の世界から喚べばいいって? 僕だって本当に帰れるかどうかわかんないのに、そんな無責任な事はできないよ。


 ポットちゃんとパンくんを送還して、ダンジョンから帰還した。


 ダンジョンを出ると、既にブラッキーさんとホワイティさんの姿が見えない。

 恐らく、先のほうに見える人だかりの中心にいるんだろう。あれって、二人の取り巻きたちだと思うから。

 あの取り巻き達って、ヒマなの? いつ出てくるか分からない僕達がダンジョンから出てくるのを待ってたんだろ?

 いや、僕達じゃないか。ブラッキーさんとホワイティさんを待ってたんだ。その証拠に僕は置いてかれてるもん。

 僕も同じパーティメンバーなんですけど? なんでブラッキーさんもホワイティさんも待っててくれないの? ねぇねぇ、なんで?


 そういや迷宮ダンジョンから出る時も待っててくれなかったね。ブラッキーさんの様子を見る限り、精も梱も尽き果てたって感じに見えたから周りが見えなくなってても仕方が無いか。

 ホワイティさんにしたって、そんなブラッキーさんを介抱してるんだから、僕より優先するのも当たり前か。なにせブラッキーさんはお姫様だもんね。

 うん、きっとそうだ。そうに違いない。忘れられてるわけじゃないって!


 そう自分に言い聞かせながら、ある程度の距離を保って取り巻き達の後ろを付いて行く。

 なんで合流しないかって? だってあの取り巻き連中が苦手なんだよ。

 基本、ブラッキーさんとホワイティさんを囃し立てるけど僕の事は無視だし、稀に僕の話題になると、『スラ五郎』の事を棒だと言ったり、『スライム戦士』ってなんだと言ったり、基本バカにする発言が多いんだよ。


 そりゃ僕は偉くもないけど、バカにされる理由も無いはずなんだ。

 あるとすれば背が低いから幼く見られて子ども扱いされるぐらいだ。だけど、あの取り巻き連中の場合は違うんだよね。

 ブラッキーさんとホワイティさんはしっかり持ち上げるくせに、僕の事は取り巻きの最下位ぐらいの扱いをされるんだ。僕は取り巻きの一員じゃないのにね。

 後から入って来た奴を邪険に扱うってのは聞いた事があるけど、その類いのものなのかな?

 しつこく言うけど、僕は取り巻きじゃないからね。パーティメンバーなんだからね。


 ここまで来れば僕にだって分かるけど、あの取り巻き達って、王女様―――ブラッキーさんの関係者だろ? 護衛や伝令も兼ねてそうだけど、一応、一線は引いてるようで、冒険中の僕達に干渉して来る事は無いんだよね。

 それは『初心者の草原』でもそうだったし、この迷宮ダンジョンでもそう。冒険者中は近寄って来る事さえしないんだ。

 今のところ、D難度までの依頼しか熟してないから、無理をしなければよっぽどの事が無い限り命に関わる相手でも無いと思われて距離を置いてるのかもしれないけどね。


 そんな取り巻き達と一緒に歩くブラッキーさんとホワイティさんだったが、冒険者ギルドには寄らずに、途中にある常宿へと直帰してしまった。

 てっきり冒険者ギルドへ行って報告を済ませた後、十階層達成の食事会でもすると思ってたから、なんか肩透かしだ。


ブラッキーさんが結構疲労してたからね、あの様子だと一度休んでからじゃないと食事するのも辛いかもな。

 じゃあ、僕はどうすればいいんだろう。

 魔石やドロップ品は僕が持ってんだよね。魔石は売ってもいいと思うんだけど、ドロップ品については勝手に売ってもいいのかどうか分からない。

 ホワイティさんもブラッキーさんについて行っちゃったし、とりあえず僕の宿に置いておこうかな。


 先に宿に向かい今回のダンジョンでの戦利品を部屋に置いた後、冒険者ギルドへと向かった。帰還報告のためだ。

 ダンジョンからの帰還に関しては、ダンジョン入り口の担当者から連絡は入ってると思うけど、帰還報告と戦果は報告の義務があるからパーティの誰かが報告に行かないといけないのだ。

 ブラッキーさんとホワイティさんのあの様子じゃ行ってないだろうから僕が行ってあげないとね。

 僕だってパーティメンバーなんだからね。取り巻きじゃないからね。


 冒険者ギルドの受付窓口に着くと、端に座るラピリカさんを避けて別の人の窓口に並んだ。

 だって、あの人と関わるといつも面倒な目に合ってる気がするんだ。

 母さんには面倒事に関わりなさいって言われただけで、自分で面倒事を作りなさいって事じゃないんだから。


 受付で帰還報告をし、戦利品は後日話し合った後で持ってくると伝えて隣接する食堂兼酒場に向かった。

 今日はもう何もする気が無かったからね。時間的には昼は過ぎてたけど、陽が落ちるまではまだ時間に余裕があった。だけどブラッキーさんもホワイティさんもいないし、一人で依頼を受けてもいいのか分からなかったからね。


 だって、パーティなのに一人で受けちゃダメなんじゃないかと思うんだよ。

 報酬や成果の配分にも困るでしょ。

 一人でやったのだから全取りなのか、パーティなんだから分配なのか。ここは揉めるところだと思うんだ。

 コンビ芸人がピンで仕事した時みたいだね。


 こういう記憶は残ってるんだよね。

 他にも色々日本の記憶は残ってる。何故なのか。

 少し考えると分かる事だったよ。だって、誰だって十年前に何をしてたのか詳しく覚えてないでしょ。思い出として幾つかは残ってても、全部は覚えてないし、その思い出だって更に年を重ねると忘れちゃうでしょ。

 だけど、生活を行なう上での記憶ってずっと残ってる。思い出だって何処の小学校に通ったとか中学校に通ったとかは覚えてるけど、クラス全員の名前なんて覚えてない。計算や文字や地名は覚えてても、それをどの先生が教えてくれたなんて覚えてない。

 記憶なんて自分に都合がいいものしか覚えてないんだよ。恥かしい事や後悔した事はいつまでも覚えてるのにね。


 そんな事をボーっと考えながら冒険者ギルドに隣接されている食堂兼酒場で遅めの昼食を食べていたんだけど・・・・・・


「キズナく~ん」


 聞き覚えのある女性の声で現実の世界に戻されてしまった。


「は、はい」

「今、大丈夫かなぁ?」

「はい、大丈夫です」

「少し話を聞いてくれる?」

「はい、どうぞ」


 それはラピリカさんだった。受付の端の登録窓口に座ってたはずなのに、なんでここにいるんだろ。

 確かに普段はヒマだと言ってたけど、それでも業務を放棄して食堂に来てはいけないと思うんだよね。


「キズナくんさぁ、何か忘れてない?」

「えーと・・・・・・」


 なんだろう。帰還報告はしたし、ゲット品は後で持ってくるとも伝えた。後は・・・なんだろう。

 でも、なんだろう。いつもは『様』付けで呼んでくるラピリカさんに『くん』付けで呼ばれると無性に逃げ出したくなるほど怖いんだけど。


「と・・・特に思い当たりませんが・・・」

「そうですか?」

「は、はい・・・・・・たぶん」

「最近、ダンジョンで頑張ってらっしゃるようですね」

「はい、頑張ってるというか、見てるだけというか、僕はただ付いて行ってるだけなんですけどね」

「寄生されてるんですか?」

「いえ、ブラッキーさんから十階層までは手を出すなと言われてまして」

「だったらキズナ様はいなくてもいいんではないですか?」

「ぐっ・・・たしかにそうかもしれませんけど、僕はパーティの一員ですから」

「でも、見てるだけなんですよねぇ、薬草採取を放ったらかして」

「あっ!」


 そうだった、一ヶ月に十籠分の薬草を冒険者ギルドに納める約束だった。

 ダンジョンばかり行ってたので、まだ一籠も納めてない。


「今、何も忘れてないっておっしゃってましたけど、まさかキズナ様、本当は忘れてたんではないですかー?」

「い、い、いやだなぁ。そんなわけないじゃありませんか。今日も今から行こうと思ってたとこなんですよ。ははははは」


 ぜーんぜん忘れてました。でも、ここで忘れてたとは言えないって!

 こんな氷の微笑の前で忘れてたなんて言ったらどんなお仕置きが待ってるか!

 ん? ラピリカさんからお仕置き? 別に僕の世話役ってわけじゃないんだからお仕置きなんてされるわけ・・・・・・ありそうです。怖いです、絶対に忘れてたなんて言えません。


 この人って、ルールを守らなければアルガンさんにだって説教をする人だ。アルガンさんに比べれば、僕なんてひよっこもいいとこだし、ケチョンケチョンにされる未来しか見えない。

 うん、決めた! 今日はこれから薬草採取だ!


「サーテ、ショクジモオワッタシ、ソロソロ『薬草採取』ニ、イコウカナァ」


 超棒読みになってしまった。

 演技もそれなりにできる方なんだけど、ラピリカさんのプレッシャーでガチガチに緊張してしまった結果だ。

 それでも、ラピリカさんはその演技に乗ってくれた。


「まぁ。今から行く予定でしたのですね。それはお引止めするわけには行きませんね。今からだとそんなには採れないかと思いますが、冒険者ギルドでは最近特に薬草が不足しています。少しでも薬草を納めて頂くよう、よろしくお願いします」

「わかりました・・・・・・」


 心の中では『忘れててゴメンなさい』と懺悔しつつ、食堂を後にした。

 ラピリカさんは僕が門に向かう様子を最後まで見送ってくれたよ。

 あれは見送りという名の見張りだね。本当に今から薬草採取に行くのか見張ってただけだと思う。

 その証拠に、僕の宿へと向かう角を通り過ぎるといなくなってたから。


 さてと、薬草採取ならハーゲィさんなんだけど、ハーゲィさんは早朝から出かけるからこの時間だともういないだろうね。

 今日もハーゲィさんは『初心者の森』なのかな? だったら今から行くと出くわすかもしれないね。


 『初心者の森』と言っても、森の浅い部分を言うだけで、森は深く広大だ。

 前回行った、始祖の城も『初心者の森』の延長にあり、森はまだまだ続いていたのだから。

 そういえば、あれから始祖達はどうなったんだろう。との思いが少しぎったが、すぐに薬草採取に頭を切り替えた。

 もう日暮れまであまり時間も無いのだから。


 せっかく宿で泊まれるのに、あえて野宿を選択する必要は無い。

 町から出たキズナは大急ぎで前回の採取場所を目指した。

 ハーゲィさんに教わった場所ではなく、僕の知ってる“薬草”を採った場所に向かった。

 お金に目が眩んだわけじゃないよ? ハーゲィさんに教わったサラーム草は、やっぱり僕の中では薬草として認めたくないんだ。

 あれを薬草と言ってしまうと、僕がこれまで苦労して教わってきたものは何だと思ってしまう。

 しかも作れるポーションだって微妙なものしか作れない。

 一度で運べる量が決まってるんならいい物を採りたいって誰だって思うよね?

 なので、サラーム草という雑草ではなく、僕が【クロスオーバー】の世界でもよくポーションの材料として使っていた薬草―――ハーフムーン草を採りに向かおうと思ってる。


 前回、籠一杯で金貨百枚を叩き出した薬草は、クレセントムーン草。十分上級に部類する薬草だけど、始祖の城付近で採れた薬草の方が更に上位の特級薬草だ。

 ちょっと時間的に心配なのでクレセントムーン草でいいかと悩んでるところだ。

 時間があれば更に森の奥に進んでフルムーン草を探したいところだけど、こればかりは薬草採取を忘れていた自分が悪い。

 元々ダンジョンから帰って来たばかりで時間も無かったのだから仕方が無い。と言い訳をして自分で自分を慰めておこう。


 森の入り口に立ち、ピッピとキラリちゃんとカゲールくんを喚び出した。


「【クロスオーバー】ピッピ! キラリ! カゲール!」


 あれからスライムなんかも倒してるし、まだ喚べるかな?


「【クロスオーバー】ノムヤン! ウーリン! テン!」


「「「キズナ様―!!!!」」」


 六人の妖精達に囲まれ、僕の目じりも思わず下がる。

 そういえば、ずっとブラッキーさんとホワイティさんと一緒に行動していてあまり笑ってなかった事に気付いた。

 ハーゲィさんとはよく笑い合ってたのに、ブラッキーさんとホワイティさんと一緒の時はあまり笑った覚えが無い。

 それを気付かせてくれただけでも皆を喚んだ甲斐があるね。

 でも、今日の本命は薬草探し。それも超特急で急がなければならない。


「みんな聞いて。今日はあまり時間がないんだ。陽が落ちるまでに薬草を集めて持って帰らないといけないんだ」

「えー、今来たとこなのにー」

「そうだよそうだよ、そんなの横暴だよ!」

「ポットちゃんとパンくんはゆっくり遊んでくれたって言ってたよ」

「僕達も遊びたーい」

「わたしもあそぶー」

「ボクもー!」


 出て来たばかりですぐ帰れは無かったよね。反省反省。

 でも、時間が無いのは本当なんだ。ゆっくりとしてる間は無いんだよ。


「ごめん。だったら、明日は朝から来てもらうから、今日は僕の手助けをしてくれないかな」

「ホント?」

「マジマジ?」

「ホントにー?」

「絶対だよ!」

「約束だよー!」

「キズナ様、だーいスキ」


 明日喚ぶ約束をしたら皆が機嫌を直してくれた。

 それからは早かった。

 キラリちゃんが薬草の場所を見つけてくれるとテンちゃんが俊足を生かしてすぐに採りに行き、カゲールくんが追いついて影へと入れる。

 その間にピッピに籠を作ってもらい、ノムヤンにはポーション瓶に使うための素材を集めてもらった。

 このメンバーで集めたらこうなると分かってたから、先に準備をしていたんだ。


 籠は全部で五つ。その五つの籠に満タンにしても入りきれなかったハーフムーン草が山となっていた。

 うん、先に準備しててよかったよ。

 ウーリンに手伝ってもらい、ポーションの効能がアップする水を加えてもらいながらポーション瓶を作製。


 ポーション瓶が出来上がると、今度はポーションを錬成した。

 この時も、ウーリンに癒しの水を加えてもらい、キラリちゃんにも癒しの光を当ててもらった。

 おお! 普段、僕が作るポーションの二割り増しの効果があるんじゃない? たぶんだけど。

 【鑑定】があればわかるんだけど、僕は持ってないからね。


「キズナ様? 【クロスオーバー】にいた頃より五割り増しの効果があるみたい」

「ウーリン? そうなの? だったら二人に手伝ってもらったお蔭だね。ありがとう!」

「私も手伝ったのにー」

「ボクも手伝ったよ!」

「ボクも!」

「ボクもボクもー」


 自分も褒めてと皆が言い出す。


「うん、皆ありがとう! お蔭で助かったよ」

「もう終わりー?」

「えー、まだ集めるー」

「でも、明日もあるから今日はいいか」

「そだね、今日の所はこれぐらいで勘弁してやるか」

「あしたあしたー」

「キズナ様―、また明日ねー」


 言うだけ言って、皆思い思いのお別れの言葉を言って帰って行った。


 おーい! これどうすんの? カゲールくんに門まで運んでもらおうと思ってたのにー。


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