第30話 Side ホワイティ&ブラッキー
Side ホワイティ
「冒険者になるわよ!」
久し振りに訪れた幼馴染の一言で、私の人生は一変する。
「冒険者? 冒険者って、あの薬草を採って来たり魔物を倒したりする人達ですか?」
「そうよ! その冒険者よ!」
この幼馴染は考えなしによく行動する。その度に周囲が振り回されるのだが、彼女はそんな我が侭を言える立場にある。
彼女の名前は、ブラッキィ・ウル・バルバライド。私の幼馴染にして、この国の第二王女様だ。
昔から私も彼女の我が侭にはよく振り回された。
そんな彼女が唐突に冒険者になると言う。今回も周囲の者達は大変だなと心の中で合唱した。
「そうなのですね。では、貴女の冒険者人生に神の加護があらんことを」
どうせいつもの病気だろうと思って、心の籠らない事務的な声で、それでも聖女候補としてキチンとした手順で彼女の行く末を神に願った。
「なに他人事みたいに言ってんのよ。あなたも私と一緒に冒険者になるのよ」
「え!? いえいえ、私は聖女候補としての役目が……」
そうなのです。私は次代の聖女を、もう一人の聖女候補と争っているのです。幼馴染の王女の戯言など当然他人事です。
そんな戯言に振り回されないようにもう一度言います。幼馴染の王女の道楽になど付き合ってられません。
「聖女なんてもう一人の娘に任せればいいの。貴女は私と冒険者をするの。これは決定事項よ!」
「なっ!」
なにを勝手に決めてるのでしょうか。私にはそんな貴女の道楽に付き合う暇などありません!
「まさか断ろうなんて思ってないわよね?」
黒い笑みを浮かべて微笑むブラッキー。
いつもこの小悪魔の微笑みに負けてブラッキーのペースに巻き込まれてしまうけど、今回ばかりは負けられない。
私の聖女への道が掛かってるのだから。
「まさかとはなんでしょうか。私は聖女候補、冒険者などなるわけがありません」
「ふ~ん。私にそんな口を聞いてもいいと思ってるんだ」
「い、いくら貴女が王女様でも、私も聖女候補です! 理不尽な要望は断固として拒否いたします!」
「なに言ってるのよ。私は幼馴染として誘いに来てるのよ? それに貴女は聖女ではなくあくまでも候補なんだから別にいいじゃない。候補も貴女一人ってわけじゃないんだし」
この王女は何を言ってるのか。教会の未来を担う聖女を何だと思ってるのか。教会の未来を担うという事は、この国の未来を担うと同義なのに。
そんな大役の候補に選ばれるだけでも名誉な事なのに、それを辞めろとどの口が言ってるのか。それでも貴女は王家の者なのかと問い質したくなる。
「別にいいのよ? 貴女の弱味なんて山ほど知ってるんだから。聖女ね…聖女様が十歳までオネショをしてたなんて信者が知ったら軽蔑されるんでしょうねー」
「なっ!」
そんなたった一度の過ちを何故この女は知ってるのか! あれは完全に証拠を隠滅したはず!
「つまみ食いなんかもよくやってたわよねー。それにお祈り中の居眠りなんてしょっちゅうだし、そうそう、男子に声を掛けられた時なんて、ポーっとしちゃって川に落ちたなんて事もあったわねー」
「ななっ!」
そんなの貴女だってやってたじゃない! さすがに貴女は川には落ちてないけど、それは仕方ないでしょ!
だって、ずっと修道院と王立女子校だったから男子となんて話した事も無いんだから!
「何度、川に落ちたんだっけ?」
「十六回……」
「十六回も! 私の情報では八回だったのに…倍じゃない! でも、そんなドジっ娘が聖女になんてなったら信者も大変よねー」
だって仕方ないじゃない! 凄くドキドキしちゃって何も見えなくなるんだから!
「でもね、冒険者になるって言ってくれたら、ぜーんぶ黙っててあげるわよ?」
「えっ? 本当!?」
「当たり前じゃなーい。仲間の弱味を言いふらすなんてするわけないでしょ?」
「う、うん……」
「なら決まりね! さ、行くわよ!」
「え……?」
そのまま、何の準備も無く、着の身着のままドナドナされて連れ出されて行く私。
「え? え?」
「大丈夫よ。貴女の私物は後で持って来させるから」
「え? え?」
「これで、条件は後一つね。ホワイティ! ちゃんと協力するのよ!」
「え? え?」
なになになにー!
「まずは冒険者ギルドね! さっさと登録を済ませて一年以内にはDランクになって迷宮を目指すわよ!」
「え? ダンジョン?」
「そう! 一年以内にダンジョン制覇! それにはまず迷宮に入る資格を取らないとね!」
「なんで私まで……」
「だって私が冒険者になりたいとお父様…陛下に申し出たら、出された条件がそれだったんだから仕方ないじゃない!」
条件って……その前に、なぜ冒険者なのか。
「その条件を聞いてもいいでしょうか」
やっと少し落ち着いてきて、質問を言えるようになってきた。
私も冒険者になるってところは、少し…いえ、全然納得ができないところなんですが、王様から姫殿下に出された条件によっては王命として私も従うしかない…かもしれません。
王様が聖女候補を冒険者になどしないとは思いますが、この友が絡んでるとなれば可能性も無くは無いので。
「いいわよ? お父様から出された条件は」
「条件は」
「私の身を守れる優秀な回復師を連れる事と、一年以内に迷宮制覇する事。それだけよ!」
「なっ……」
それだけ? それで私が回復師に選ばれたって事? 城には優秀は回復魔法の使い手だっているでしょうに!
それに一年以内に迷宮制覇!? 回復魔法しかできない私に何をしろと。
他にも支援魔法は幾つか使えるけど、そんなの魔術師のブラッキーに使っても意味の無いものが多いのに。
あっ! そうか! 他に仲間がいるのね!
「ブラッキー。他にも剣士や戦士がいるんでしょ? どこで合流するんですか?」
「そんなのいないわよ! 貴女と私の二人パーティ! パーティ名は二人とも魔術師だから【乙女魔女】でいいわよね」
厳密には私は魔術師では無いのだけれど、大枠で言えば魔術師に入る。
でも、二人だけ? そんなの無理でしょ!
「ブラッキー、それは無理があると思うの。攻撃できるのが貴女だけなんて……」
「私だけで十分でしょ? それにホワイティだって少しは杖術も使えるでしょ? 自分の身は自分で守ってね」
「そ、そんなっ!」
確かに私は杖術の心得も多少はあります。だけど、それは護身術であって、攻撃手段ではないのです。
自分の身を護るとは言っても限度というものが……
「それに、パーティの人数は少ない方がランクも上がりやすいのよ。二人パーティならすぐに迷宮に入れるDランクになれるわ!」
確かにそういう話もあります。同じ依頼を五人パーティで行なった場合と二人パーティで行なった場合は二人パーティの方が大きく評価されると。
でも、それはポーションなどの回復薬をふんだんに用いた剣士などの前衛と、魔術師の後衛の攻撃的なパーティの話です。決して魔術師と回復術師の二人パーティの話ではありません。
そんなのバランスが悪すぎます!
「そうかもしれませんが、攻撃がブラッキーだけでは火力不足というか、危険が多いというか……」
「大丈夫よ! 攻撃は私に任せてればいいの! 貴女は私の回復と自分の護りをしっかりやってくれればいいのよ!」
「そう…なの?」
「そうよ! 一気に駆け上がるんだから、貴女もしっかり付いて来るのよ!」
確かにブラッキーが優秀な魔術師である事は認めるけど、果たして攻撃役一人、回復役一人でやっていけるのだろうか。やはり前衛は必要なのでは無いのか、と思案に耽るのであった。
Side ブラッキー
この子は何なの!? これが『火球』ですって!?
有り得ない。私の【炎弾】よりも威力があるなんて認めたくない!
でも、実際に見せられたら認めるしかない。
偶々依頼ボードで出会った男の子だったが、自分との実力差を見せ付けられてガックリとさせられた。
だって鉄? の棒しか持たない男の子だったのだ。誰が見ても前衛職だと思うだろう。
その男の子…一応冒険者らしいので十五歳にはなってるのだと思うけど、どう見てももっと年下にしか見えないから男の子としか形容のしようがない。
名をキズナというのだそうだけど、そのキズナが見せた魔法は私の錬度の遥か上を行くのは明らかだった。
ただ、これは私にとっては僥倖だったかもしれない。
お父様に一年と期限を切られて既に半年。私は未だにEランク。ここでキズナから教えを請えればもしかしたら、あと半年で迷宮制覇ができるかも。
半ば諦めかけていた野望がせり出して来る。
そう、私は冒険者になりたいのだ。今も冒険者と言えば冒険者だが、今はあくまでも仮の冒険者だ。一年の期限内に迷宮を制覇しなければ冒険者の夢を諦めて王室に戻らなければならない。残りあと半年。
しかも、自分の実力を見せ付けて制覇しなければお父様も納得はしてくれないだろう。
ホワイティの言うように強者で仲間を固めれば迷宮制覇もできるのは確実だ。
それでお父様が納得してくれるのか。否! お父様どころか、私が納得できない!
だけども、現状では迷宮制覇どころか迷宮への挑戦権すら掴めていない。
冒険者に憧れていた私は、十五歳になるとすぐに冒険者ギルドへの登録を済ませた。
そして、Aランク冒険者に囲まれての薬草採取。出てくる魔物はすべてパーティメンバーが倒し、薬草もお付きのものが採取してくる始末。
私は何も冒険をさせてもらえなかった。
料理でさえ、城から出来上がったものを収納バッグに入れて持って来ていた。
そんなのは食べたくないと言うと、パーティメンバーがオークを倒して解体し、お付きの者が料理する。
そんな調味料もふんだんに使われたものを冒険者料理だと言われても全然納得がいかなかった。
だけど、キズナの作る料理は、そんな冒険者料理を軽く上回る美味しさだった。
いえ、いつも王城で食べる料理より美味しかったかもしれない。
キズナは隠さず私たちの前で料理していたが、あの包丁捌きや味付けを見せてもらってるにも関わらず、全く真似できる気がしなかった。
ホワイティは元から料理はしないしできないのは知っている。
だから、いつもは町でパンを買って魔物の討伐依頼を熟し、夕方には町に戻るというような毎日を続けていた。
討伐数はそれなりだったが、素材はいつも手に入らないので、冒険者ギルドへの貢献度としては、そう多くは稼げなかった。
だって私の得意な魔法は火の魔法なのだから。
偶に雑魚なら風魔法で倒す事もあるけど、やっぱり火魔法でないとスッキリしないのよ。
やっぱり魔法は火系に限るわね。
でも、それだと素材も燃え尽きてしまって手に入らない。
素材が手に入らなければ貢献度も思ったより上がらない。
それで未だにEランクだったわけだけど、それをキズナが解決してくれた。
この私に魔法の手解きをしてくれたのだ。全く意味は分からなかったけれど、私の魔法は向上した。
素材を綺麗に取って来てくれる。解体も解体士以上に綺麗に解体してくれる。私には大好きな火魔法を効率よく撃てるように教えてくれる。何故、こんな魔法を知っているのだろう。王城には、彼以上の使い手はいなかった。
王城にいる魔術師は、この国でも最高峰のはずなのに。
ホワイティにも効率よく回復魔法ができるように教えてくれる。いえ、それ以上に範囲内選択や支援魔法など、味方に有利な魔法を丁寧に分かり易く教えてくれていた。
だって彼女は瀕死の魔物をも回復させてたりしたもの。キズナが教えてくれて本当に助かった。
あれで聖女候補だったなんてね。でも、仕方が無いと言えば仕方が無いのかも。
聖女が力を振るう神殿には敵なんていないのだから。
キズナは風魔法も教えてくれた。
これが思ってた以上に楽しかった。
魔物を焼き尽くす火魔法が一番だと思ってたけど、風魔法も魔物を粉々に切り刻めて思いのほか楽しかった。気分爽快だった。
ホワイティがまた素材が取れないと嘆いてたけど、素材はキズナが獲って来る分で十分だった。結果、私達はDランクになれたのだから。
そして契約延長を申し入れ、キズナは受けてくれた。
お金なんてランク昇格…いえ、迷宮制覇のためならば惜しくも無い。それぐらい、私の持ってる宝剣や宝石を売ればなんとでもなるんだから。
パーティに引き入れる事にも成功した。
気に入ってたパーティ名変える事になっちゃったけど、念願のDランクにも昇格できた。
あとは迷宮制覇するだけ。
まずは自分がどこまでやれるのか、それを把握するためにも一人で十階層程度までは攻略しなければならないと思う。
この迷宮は六五階層までしか攻略されてない。そこまでは…いえ、せめて三十階層までは、私が先頭に立って攻略するためだ。
キズナに頼り過ぎたら、今までのAランク冒険者に囲まれた、あの冒険と同じ。そんな結果なんてお父様にも言えないし、私も納得できない。
だからやる! どんな手を使ってでもやりきってみせる! 十階層までは単独で攻略して見せなきゃ私メインで迷宮制覇なんてできるはずがない!
私は絶対、冒険者になってみせるんだから!
早く夏が終わってほしい。
暑さがキツイ……




