第03話 登録
「おい、大丈夫か」
「……んん…」
「生きてるようだな?」
「……ん? えーと……うおっ!」
いきなり目の前にツルピカ髭もじゃの大男がいた。
「なんでぇ、坊主は徹夜かい。気合入ってんだな」
「え…えーと……はい、気合は入っていますが、ここはどこなんでしょう」
『クロスオーバー』の世界とは違う言語に少し戸惑うが、『ラックル語』だとすぐに分かった。
とすると、ここは『アナクライム』という世界なのだろうと当たりをつけた。
周りの雰囲気からすると、若干薄暗いから朝早い時間帯のようだけど、どこかの町の中にいるように見える。
知らない建物の扉の前で気を失ってたようだ。
「あん? 冒険者ギルドの前だが、知らなかったのか? 並んでるんじゃなかったら俺が一番でいいかい?」
「それはいいですが…冒険者ギルド?」
ここはどこの世界かという意味で聞いたのだが、場所を答えられてしまった。
普通はそうだろうな。と、一人苦笑いするキズナ。
知らない世界の、しかも冒険者ギルドの前に送るなんて……母さんのスパルタがまだ続いてるんだろうか。
冒険者ギルドというと、依頼を熟してお金を稼いだりランクを上げて行くという歩合制の日雇いの会社だって勉強で習ったな。確か、習った当時はまだ覚えていた記憶でも『まぁ、大まかには合ってるか』という印象が残ってる。
職種としては誰かが何処かに行く時に付いて行くとか、植物採取などをするんだったか。
あっ、あと魔物を倒したりするんだった。魔物には友達いっぱいいるんだけど、この世界の魔物とは一部例外はあるものの友達にはなれなかったはずだ。
魔物を倒すのか…一度見てみないと分かんないけど、どのぐらいの強さか分かんないしな。
倒す事はできても殺す事が僕にできるかなぁ。友達にも魔物は多いからなぁ。でも、キチンと見極めが出来るはずだから間違いはしないと思う。
一応『クロスオーバー』の世界でも一つだけあったダンジョンで魔物の討伐は経験はしてるんだ。
その経験から友達になれるのと、なれないのが分かるから大丈夫だとは思う。
お金を稼ぐ手段としては、魔物の討伐は自分には向いてない気はするけど、植物採取もあるし、今はお金が無いので手っ取り早く稼ぐには良い職種かもしれない。結構、薬草採取は得意だったりするんだよね。
それに、確か身分証明書もくれるって習ったな。どこで発行してもらってもいいけど、折角ここにいるんだし、タダだったら発行してもらおうかな。
「冒険者ギルドでは登録料っているんでしょうか」
先頭を譲ったツルピカ髭もじゃ大男に聞いてみた。
「ん? 坊主はまだ冒険者になってねぇのか。見ねぇ面だが結構いい身形だし、別の町でもう稼いでんのかと思ったぜ。だったら、さっさと登録しちまえ。登録料はタダだしな。だが……」
ツルピカ髭もじゃ大男は、僕の顔をジッと見て気になる事があるのか、言い淀んで言葉を切った。
「無料でしたか。情報ありがとうございます」
「だがよ、登録は十五歳からだぜ。まだ十二~三に見えるんだが……しかも、それは普段着だろ?」
「いえ、今日十五歳になりましたので大丈夫です。この服も確かに普段着ですが、破れ難い素材だから大丈夫です」
「そうかい、若く見えたんでな。ま、初めはお手伝い系か薬草採取あたりだろうし、格好はそれでも問題ないか」
登録料は無料、年齢制限もクリア。だったら登録だけでもしておいた方がいいだろうな。身分証明書は必要だって習ったしな。
服装の方は、ほら、母さんが用意してくれたやつだからね。薄茶のジャケットに濃茶のズボン。見た目が庶民に見えるだろうとこの色合いにしてくれたんだろうけど、実際は最高の素材で誂えてくれてあるんだよ。しかも、付与をたくさんしたとか言ってたし。甘いのか厳しいのかよく分からない母さんだよ。
「しかし十五……小せぇな……それに黒目黒髪とはな」
やはり気になるのか、ツルピカ髭もじゃ大男が僕を見ながら呟いた。
小さい言うな! 確かに小さいとは思ってるよ! 僕だって気にしてんだから、指摘すんじゃねー!
と、大声で文句が言えたらいいなぁ。このツルピカ髭もじゃって強そうだもんなぁ。
だけど、十五歳で一四五センチはやっぱりこっちでも小さいんだな。とほほ。
「あの…黒目に黒髪って、そんなに珍しいですか?」
「まぁな。ここらじゃ、見かけねぇな。噂じゃ勇者様が黒目黒髪だって聞くが、勇者様はこの国にゃいねぇからな」
勇者かぁ……座学でも異世界から召喚された者って習ったけど、僕と同じ日本人だったりして。
僕は転生して来たけど、その勇者って召喚されたんだろうか。そもそも勇者ってどうやってなれるんだろ。
ツルピカ髭もじゃにも聞いてみたが、「俺が知るわけねぇだろ」と一蹴されてしまった。
それなら別の話題とばかりに、仕事内容について聞いてみた。
このツルピカ髭もじゃって、見た目は怖いのに、聞いた事には親切に答えてくれるんだ。見た目はアレだけど、結構いい人みたいだ。
それからも、ツルピカ髭もじゃに色々と質問し、この世界の事や冒険者ギルドについても色々と情報が得られた。
結局、名前は聞かなかったけど、ツルピカ髭もじゃは見た目を裏切ってとてもいい人だった。
それから間もなく冒険者ギルドの扉が開いた。営業開始したようだ。
僕はツルピカ髭もじゃに言われた通り、登録専用窓口に向かい、緊張をしながらも一番目に並んだ。ツルピカ髭もじゃの場合は、寝ぼけていた事と向こうから声を掛けてくれた事もあり普通に話せたけど、自分から知らない人に声を掛けるのは初めてだから緊張しているのが自分でも分かる。
緊張しながらカウンターに並ぶ五つの受付窓口の一番奥へとやって来た。
更に奥には壁を隔てて別のカウンターが並んでるが、そっちは上級者用のカウンターだとツルピカ髭もじゃが言ってたな。今日から登録の僕には関係ない世界だな。
既に受付にはお姉さんが座っていて、僕を確認すると声を掛けてくれた。
「ようこそ冒険者ギルドへ。ご登録ですか?」
「はい…そうです。登録は、その…無料だと聞いたのですが」
「はい、登録は無料です。仕事の内容などはご存知ですか?」
「はい、さっき親切な冒険者の方に教えてもらいました」
「親切な冒険者……あー、この時間だとハーゲィ様ですね。見た目は怖いですけど優しい方ですよね。ああいった方がもっと上位にランクしてくだされば冒険者ギルドももっと居心地がよくなるんですけどね」
ハーゲィさんって……まんまハゲじゃん! でも、見た目と違って実力は低いみたいだね。
「では、説明はしなくてもよろしいですか?」
「はい、結構です」
座学でも習ったからね、大体は分かるよ。
最上位ランクがAだとかSだとかSSSだとか、その世界によって違うようだけど、まずは最下位ランクから依頼を熟してランクを上げて行くって話だ。
初めは、薬草採取や低レベルの魔物を倒してポイントを稼ぎ、ポイントが溜まるとか試験によってランクが上がって行くんだ。
一部、例外もあるようだけど、大体そんな感じだったな。
だったら僕の場合は薬草採取かな。魔物討伐って友達を倒すみたいで、なんとなく二の足を踏んじゃうね。武器も無いし、薬草採取でいいんじゃないかな。
一応、魔物討伐の経験はあるんだよ? 『クロスオーバー』の世界にも討伐対象の魔物だっていたしダンジョンもあったしね。
だから、討伐や解体の授業では、経験してるんだよ。でも、僕の場合は討伐してレベルを上げるんだけど、スキル【クロスオーバー】のせいでレベルは1なんだよね。
ま、でも、初めは薬草採取でいいと思うんだ。得意分野だし、今後のために回復ポーションなんかも作っておきたいしね。
「では、まずこの水晶に手を置いてください」
冒険者ギルドの仕組みや今後について考えてると、受付のお姉さんがカウンターに置いてある水晶玉を示した。
特に警戒する事も無く、言われるがままに水晶に手を置いた。
すると、水晶玉から白い輝きが放たれた。
「……は、はい、結構です。次に……どうなさいましたか?」
「いえ、白く光ったのでビックリしちゃって」
「おや? 初めてでしたか? 町へ入る入門の時に同じ事をしませんでしたか? ここまでの光を放つのでしたら、何か言われると思うのですが。あまりの光の強さに、私も少し驚いたぐらいですから」
町へ入る時って……僕はいきなり町の中に飛ばされて来たから、門から入ってないんだよね。この水晶玉は授業で習わなかったし。
でも、入門時にも同じものがあったのか。こういう場合は誤魔化した方がいいかな。
「そ、そうですね。その時も光ったんですけど、理由は教えてもらえなかったので」
「そうでしたか……担当の門兵も光の強さに驚いて、呆けていたのかもしれませんね」
分かります分かりますと納得する受付お姉さん。
驚くほど光が強いって事? 標準の光がどうなのか分からないし、聞いて墓穴を掘ってもバカらしい。ここはスルーだな。
「町に入るのは今日が初めてですか?」
「はい」
これは嘘じゃない。この世界でも初めてだけど、『クロスオーバー』の世界では町という概念が無かったからね。僕が育った世界は、例えて言うなら世界全体が一つの町って感じになるのかな。
国境も無いし、町にも境目なんて無かったし、母さんの勤める城以外はどこにでも自由に行き来できたからね。こんな水晶玉も初めて見たよ。
「この水晶玉は犯罪履歴を調べるものです。もし、重犯罪を犯していれば黒く光ります。あなたの場合は白く光ったので犯罪者では無いと証明されました」
「そうでしたか」
「ただ、光の強さは魔力の大きさに比例しますので、あなたは魔術師に向いているのでしょうね」
光の強さで魔力量が分かるのか。便利な水晶なんだな。
「あと、レベルもある程度なら分かりますが、お知りになりたいですか?」
「……いえ、分かってますので結構です」
知ってるよ、自分がレベル1だって事ぐらい。母さんに教えてもらったから。
でも、鑑定でレベルが分かるのか。いいなぁ、鑑定スキル。いや、鑑定スキルなのかな? 母さん達がやってくれる感じとちょっと違う気がする。
「……レベル最低ランク? いえいえ、今の光り方だともっと……でもレベルは最低ランク? 低ランクなら分からなくも…いや、でも最低……これはどういう……」
しばし考え込む受付のお姉さん。
そんなにレベル最低ランクって連呼しなくてもいいんじゃない? 分かってはいるけど結構グサグサ来るんだけど。
でも、最低ランクや低ランクって言うって事は、大まかにしか鑑定できないんだろうな。
「わかりませんね……犯罪者ではありませんので登録はできますね。先に登録をしていただきましょう。そうすれば、何か分かるかもしれませんから」
どうやら自己解決できたようで、受付のお姉さんは一枚の用紙を出した。
「この登録用紙に名前と年齢と職業を記入してください」
出された用紙を見ると、名前と年齢と職業欄があった。しかし、これって紙じゃないよな。何かの皮のようだけど、羊皮紙か?
『クロスオーバー』では紙があったんだけど、この世界では紙は無いのかな?
ペンは……何だこれ。鳥の羽? これがつけペン代わりか。『クロスオーバー』には先が金属のつけペンがあったのにな。
でも、このインク……何か湯気のようなものが出てるんだけど……
あまり観察しすぎて待たせても悪いので、さっさと記入した。
境界心繋
15歳
スライム戦士
「サカイキズナ様と読むのですか? それに、職業が……スライム戦士?」
!!
自分で書いておいて何だが、まさかこの当て字を読めるとは思わなかったので、驚いて一瞬ギョッとした。
一応、この世界の文字で書いてはいたが、『何と読むのでしょうか』と言われると予想していたからだ。僕だって、さっき母さんからこう書くと教えられたばかりなのに。これって一般的に読める字だったの?
それに職業欄に『スライム戦士』と書いてしまった事も後悔した。
母さんに言われた“職業”『スライム戦士』をそのまま職業欄に書いてしまったのだ。
「はい、サカイキズナです」
「珍しい名前なのですね」
「あ、いえ、名前はキズナです。サカイは苗字です」
「……苗字? あっ! サカイ村のキズナ様ですね。では、登録名はキズナとさせて頂きます」
サカイ村? あー、この世界って、お決まりの家名は貴族しか持ってないって設定だったか。
僕も、身形は小奇麗にしているけど、貴族って感じでは無いからね。女王の息子だから本当は貴族かもしれないけど、別の世界の話しだし、今まで貴族のような生活はして来なかったからね。一応、礼儀作法は習ったから貴族の前でも対応はできるけどね。ホント、色々習ったから。
さっきの『初めて町に入る』田舎者と合わさって、お姉さんの中ではサカイ村のキズナになってしまったようだ。
「サカイ村って訳じゃ……」
「それと、『スライム戦士』とはどんな職業ですか? 剣士ですか? 拳士ですか? 槍士ですか? ファイターですか?」
僕の言葉は軽く流されて『スライム戦士』の話題に変わった。
そこは僕としてもあまり触れて欲しくなかったので、サカイ村の誤解を解くという話の流れにしたかったんだけど、そう上手くは行かなかったようだ。
「えーと、一応何でもできます。大した腕ではありませんけど、とりあえず全部教わりましたから」
タマネギ的なアレの事は伏せて、できる事を前面に出して説明した。スライムの件は無視して欲しいと願って。
「全部……ですか?」
「はい、全部です。あと、魔法も少しは使えます」
「魔法もですか!?」
やっぱり、そうでしたか。と小さな声で呟くお姉さん。
さっきの水晶玉の光の事を考えて期待してるんだろうな。
「はい、本当に大した事はありませんけど」
レベル1だからね。あまり期待しないでくれると助かるなぁ。
実際、大した事は無いと思う。『クロスオーバー』の世界で自慢できたものって駆けっこだけだったもんな。あっ、ジャンプ力も森では一番になったんだ。でも、飛べる友達がいたからあまり自慢にはならなかったな。
「武技が全部とはおっしゃいましたが、何が得意なのでしょう。魔法は、何の属性魔法が使えるのですか?」
「一応、全部です」
「全部!?」
そう、全属性の魔法は使える。だが、使えるだけで、魔法も剣術などと同様に大した実力は無い。一部、中級魔法が使えるだけで、ほとんど初級しか使えないのだから。
それでも、初級にしては中級以上の威力があるとは褒められたけど、それだけだ。初級は初級、自慢できるほどのものじゃない。
この時まで、キズナは思い違いをしていた。
普通、レベル1では初級魔法でも一属性が使えればいい方なのだ。生活魔法などで例外はあるものの、それでもレベル1で全属性の初級魔法が使える方がおかしいのだ。
母マリアのスパルタ教育の賜物でもあるが、それを修得できたキズナ自身も十分チートである事を本人も含め、誰も理解していなかった。
「レベルからして、とても信じられないのですが、練度を見せて頂けますか?」
「見せる? ここで…ですか?」
とはいえ、こんな受付窓口で何を見せればいいんだ? いや、魔法を見せるぐらいならできるか。
「わかりました。武技を見せるには、ここでは狭くてできませんが、魔法なら見せられますよ」
「え?」
今度は受付のお姉さんが驚いていた。
「では、毎日やらされて…いえ、毎日欠かさず練習している簡単なやつですけど、お見せしますね」
「あ…いえ、ここではなく、裏の修練場へ……」
受付のお姉さんの言葉が終わる前に、キズナが魔法を始めてしまった。
腕をカウンターの方へ出し、人差し指を立て、ポッと二センチ程度の火を出した。
すぐに指を左に移動させるが、火は出現した場所に留まっている。
移動させた指を止めると、またポッと魔法を出現させる。今度は直径二センチ程度の水の玉だった。
また腕を移動させるが、やはり水の玉はその場に留まっている。
また指を止め、ポッと魔法を出現させる。今度は二センチ程度の旋風を出した。
同様に指を移動させ、最後は同程度の土の塊を空中に浮かばせた。
今、受付のお姉さんの前には魔法で作られた小さな火水風土が浮かんでいる状態だ。
受付のお姉さんが驚いていると、四つの魔法が一瞬で消えた。
「どうですか? 四つを同時に消すのって、けっこう調整が難しいんですよ?」
ドヤ顔で、そう言い放つキズナ。
毎日、魔法の勉強の一番最初にやらされてるだけあって、キズナにとっては得意な技だ。
この後に、光・闇・空間・重力・回復でも、同様のウォーミングアップがあるのだが、受付のお姉さんから何の返事ももらえないので、やっていいものかどうか戸惑っていた。
「あのー……」
「……」
声を掛けてみたが、受付のお姉さんは小声でブツブツと独り言を呟いており、一人の世界に入ってしまっている。
この程度では認められなかったのだろうか。小技過ぎて呆れられてしまったのだろうか。結構なドヤ顔を決めてしまったのだが。
「あのー……不合格なんでしょうか……それなら別の……」
「不合格? 何をバカな事を言ってるのですか! 四属性の同時発動など出来る人を私は見た事がありません! 合格に決まってるじゃありませんか!」
おお! 合格か。なぜかキレられてるみたいだけど、発動より同時消しに注目して欲しかったな。でもよかったぁ~、これで登録はできそうだ。なんせ無一文だから、何とか仕事をもらわないと、今日の食事にも困ったところだよ。
寝るのは何とかなるにしても、食事は確保したかったからね。野宿の知識はバッチリだけど、この世界の魔物や動物の分布図をイマイチ覚えてない。だいたいここが何と言う町かも分かってないのだから。
料理はできるから食堂とは言わないまでも、食材ぐらいは確保したいしね。
そうは言っても今日中に仕事を熟さないと、そのためのお金も手に入らないんだけどね。
「ありがとうございます。では、早速ですが、仕事をください。今日の宿代と食事代が稼げるような仕事はありませんか?」
「仕事ですか? もちろんあります。でも、その前にもう少し確認させてください」
「まだ何か試験があるんですか?」
「試験ではありませんが、キズナ様がどれ程の腕前なのか確認したいのです。それによってランクも変わりますので」
確認とは言われたけど、ランクに関係する試験? みたいなものか。
まだ早い時間帯とはいえ、そんなに悠長にしてる時間は無いんだけどな。見知らぬ土地だから、場所を探すだけでも時間が掛かると思うんだよ。
「じつは…今、お金が無くてですね。早く仕事に行きたいのですが」
「大丈夫ですよ、心配はいりません。裏の修練場で技を見せて頂くだけですから、一時間も掛かりません」
「一時間!?」
それは掛かりすぎでしょ! そんな時間があるんなら、薬草の一つでも採取したいんですが!
「一時間はちょっと……一番下のランクで結構ですので、早く登録してくれませんか? 本当に焦ってるんです」
「一番下ですか? でも、ランクによって上位の依頼も受けられるのですよ? 上位の依頼だと達成料も高くなりますが」
たしかにそうだな。でも、薬草採取に上位の依頼ってあるのか?
「あの…僕は薬草採取で生計を立てられればなぁって、ハハ。ダメですかねぇ」
「そんな事はありません。それに丁度いい依頼もあります。その為にも、高ランクになっていた方が何かと都合がいいのです。四属性魔法が出来る時点で、既にキズナ様は中位のDランクスタートは確定なのですから」
あるんだ、上位依頼の薬草採取。それにDランクスタート? 一番下位ランクが何か分からないけど、どうせFかGだろ? 成人したてで実績も後ろ盾もない僕を、いきなりDランクスタートさせてもいいの?
「僕は、今日の宿代が稼げればいいのでどちらでもいいんですけど、やっぱり上のランクになってた方が得ですか?」
「もちろん! そんなの当たり前です! ですので、裏の修練場に行きましょう!」
当たり前って…弱そうな若造がいきなりランクを上げると絡まれるテンプレがあるって習ったよ? そのへん大丈夫?
僕のそんな思いなど関係ないとばかりに、受付お姉さんは「ここで少し待っていてください」と言い残し、カウンター奥の扉に消えて行った。
本当なら、このまま薬草採取に出掛けたいんだけど、まだ登録も終わってないし採取場所も分からない。実力披露は決定事項みたいなので、待つしかないみたいだ。