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第27話 ブラッキーの秘策


「今日こそは間違いなく十階層に行くわよ!」


 ダンジョン探索三日目。第一階層でブラッキーさんが気合の一言を放った。

 二日目の昨日は、初日に引き続きブラッキーさんの魔力切れでダンジョン探索を終えたのだった。

 初日、五階層。二日目、五階層。それで今日なんだけど、昨日の帰りでは落ち込んでいたブラッキーさんが、今日は自身に満ちてる気がするんだけど。何か秘策でもあるのか?


「何か対策をしてきたんですか?」


 こんな上層でも浅い層で助言などしてるようでは見込みが無い。なので、あえて何も言わずにサポートに徹してるんだけど、昨日と違って今日は何か対策を講じてきたようだ。


「ほーほっほっほ、これを見なさい」

「バッグ…ですか? もしかして……」

「そうよ! これは収納バッグ。そして中には魔力回復ポーションを百個入れてるわ。どう? これで今日こそ十階層よ!」


 なんだよそれ! ただの金持ちの力押しじゃねーか!

 僕に正体が知れたもんだから、遠慮無しに王家の力を使ってくるよ。

 もっと向上心を持とうぜ。


 ブラッキーさんの正体は、この国の王の子供。つまりは王女様。姫と呼ばれることもあるそうだけど、一般的には王女で通っている。

 何番目の子供だとか、第何位継承権を持つとかは聞いてないけど、女性だから継承権順位は低いだろうし、相手が言わないのならこちらからも聞かないでおこう。


 魔力回復ポーションですか……王女様なんだから別にいいんだけど、それで満足できるの? それに低層でそんな高価な薬を使っちゃうと、採算取れないよ?

 あ、上層と下層の関係がややこしいので、僕の中で低層・中層・深層と変換して考える事にしたんだ。

 地下一階で下層、地下六十階で上層なんてややこしいだけだからね。


 それと、このブラッキーさん。王女と言う割りに護衛が付いて来ない。

 もちろん冒険者として護衛が付いた時点で『辞めれば?』って思うけど、実際護衛が付いて来ないだけマシかな。


 大量の魔力回復ポーションね。それだけじゃ対策としてはちょっと足りないんだけどね。危なくなったらフォローに入るつもりだから安全面は心配して無いけど、自信を無くされるのも困る。ヒントぐらいは与えておくかな。


「今日も一人で無双をするつもりですか?」

「当たり前でしょ! こんな下層の雑魚相手なんか私一人で十分よ。キズナは手を出しちゃダメよ!」


 確かに危なげなく倒してるけど、まだ無駄が多いし最大魔力もそこまで高くない。

 僕には鑑定スキルが無いからハッキリとした数字は分からないけど、魔法を放った感じで使われてる魔力量はだいたい分かる。

 そして、魔法を使った回数から凡その最大魔力量を予想すると、MP300ぐらいじゃないかと見立てていた。


 それでも倒した魔物の数は結構多くて、その魔石だけでもいい稼ぎになっていた。

 雑魚魔物だから屑魔石なんだけど、それなりに量があったから、一日で金貨三枚。一人頭金貨一枚になっていた。


 確かに、薬草採取をするより儲かるかもしれない。なにより、雑魚相手とはいえ、倒しまくれるのは痛快だろう。

 だが、今回の大量のポーション押しだと絶対に大赤字だ。

 王女様なら採算よりプライドなのかもしれないね。


 あっ、ポーションなら僕が作ってあげればいいのか。今度『初心者の森』に行った時にでも素材になる薬草を探してみよう。

 それならタダだしね。ブラッキーさんも多く魔法を放てて練習にもなるな。

 でも、その前に。


「ブラッキー……王女?」

「今まで通り『さん』でいいわよ。なんなら呼び捨てにしてくれても構わないわよ?」

「いえ、年上の、しかも王族の方を相手に流石に呼び捨ては……」

「どこの風習か知らないけど、この国に年上を呼び捨てにしてはいけないって、そんな慣習は無いわよ? そういえば、キズナって超田舎者だったかしら」


 田舎者って……遠い所の出身だけど、田舎者じゃないからね。

 これもラピリカさんのせいだな。境界さかい村って読んじゃったからね。境界さかい村…実は本当にあったりするんだろうか。


「じゃあ、お言葉に甘えて今まで通りブラッキーさんで」

「わかったわ」

「それで、僕からアドバイスがあるんですけど聞いてくれます?」

「もちろんよ! キズナは私の先生で弟なんだから!」


 ……もうそこから離れてほしいな。


「……まぁ、今はいいです。それでブラッキーさんの戦い方なんですけど、無駄が多すぎるんです。そのため、魔力が空になるのが早いんだと思います」

「無駄? キズナに教わる前より遥かに無駄が無くなって威力が上がったと思うんだけど」

「はい、確かに威力は上がりましたし、魔力効率も上がってるので、以前より一発撃つ時の消費魔力も抑えられています」

「だったら何も無駄なんて無いじゃない」

「いえ、人の魔力量は限られてますので、それを戦法で補うんです」

「戦法?」

「はい、まずは一度見てください。それから指導しますので」


 と、第一階層の雑魚相手の一戦目を僕が担当した。


「まずは、込める魔力の量をもっと落としてください。それと魔法陣の線の交わる所に込める魔力を均等にすればするほど、魔法の威力は上がりますから」


 本当は威力は上がらないんだけどね。でも、無駄が多いと威力が落ちるから、本来の威力で放たれた魔法の威力が上がったように感じるんだ。


「これぐらいで十分だと思います」


 態と魔法陣を隠さず見せて、込める魔力量も見せて風魔法を放った。


「え? そんな少しで?」

「はい、雑魚魔物相手ならこれで十分です。あとはしっかり狙ってやれば、はいこの通り」


 二匹で現れたゴブリンを風魔法であっさり倒した。


「ブラッキーさんの魔法技術なら、もうこれぐらいはできるはずです。注意する点は均等化と発射速度ですね。威力を弱めたからといって速度まで落としては意味がありませんから」

「……わかったわ。今日はその練習だけで終わっても意味がありそうね」


 うん、二日も無駄にした甲斐があったね。それにブラッキーさんって向上心もあるから言う事をよく聞いてくれる。この様子ならすぐにものにできそうだね。


「キズナ?」

「はい、なんでしょうホワイティ……様?」

「私も今まで通りで構いません。ブラッキーも言ってましたけど、呼び捨てでいいんですよ?」

「いえいえ、聖女様を呼び捨てにできませんから」


 そう、ホワイティさんは聖女候補の一人だったんだ。

 現在、神殿には聖女候補が二人いて、その内の一人だという事だった。

 実力は同じぐらいだったんだけど、今なら二人いるから一人抜けてもいいでしょ? とブラッキーさんから誘われたそうだ。

 もちろんホワイティさんは断ったそうなんだけど、幼馴染のブラッキーさんに何か弱みを握られていて、渋々冒険者になったそうだ。


 弱味ね……もちろん教えてくれるはずもなかったよ。

 でも、王女と幼馴染なら、ホワイティさんも相当上に貴族たと思うんだけど、聖職者には爵位はありませんから。と、出自に関しては教えてもらえなかった。


「まぁいいです。それより、さっきブラッキーに言ってたのは私にも当てはまるのでしょうか」

「魔力の込め方ですか?」

「そうです。大怪我の時と小さな怪我の時はハイヒールとヒールで使い分けていましたが、キズナに教わってからの今のヒールは、以前のはいひーる程の効果があります。それならば、今までヒールで治していた怪我なら込める魔力を落としてもいいのではないかと思ったのです」

「正解です。ホワイティさん、その通りです。ここに怪我をした人はいませんが、魔力を込める練習はできます。昨日も一昨日も誰も怪我をしませんでしたし、ホワイティさんも練習をしましょう」

「でも、もし……」

「僕が回復ポーションも用意してますから大丈夫ですよ」


 そう言ってバッグからポーションを出して見せた。

 先日作ったポーションはまだ使わずに持っている。結構、自信作だから、部位欠損程度なら治せると思う。


「分かりました。では、お言葉に甘えさせてもらいますね」


 そう言ってホワイティさんも練習を始めた。

 戦法を教えると言っておいてなんだけど、これは戦法を使う前段階だから。

 群れで現れた魔物に対して、威力の小さな魔法で誘導して魔物を固め、そこに大威力の魔法を放って仕留める。そうする事で魔力の節約をすると教えようと思ってたんだけど、これで納得しちゃわないよね?


 威力調整の練習をしながら魔物を仕留めていくブラッキーさん。

 その後ろでは同じく威力調整の練習をしているホワイティさん。偶にブラッキーさんに回復魔法を放ったりして具合を確かめている。


 僕は最後尾で後方警戒しながら全体を見ている。

 まだ始めたばかりで苦労してるみたいだけど、二人ともセンスがいいので、すぐに物にしそうだよ。

 ま、魔力の威力調整は、魔力の均等化より格段に簡単だからね。できて当たり前ってとこかな。


 地下三階層まではその調子で進み、地下三階層の後半でまたアドバイスを送る。戦術とまでは言わないが、戦法の初歩としてはこれぐらいはやってほしい。


「また、見本を見せますから、見ていてくださいね」


 と言ってブラッキーさんの前に出る。

 今回の相手はスライムが六匹、ゴブリンが五匹。Eランク冒険者だと、少し厳しくなる数だそうだ。以前のブラッキーさんなら一戦か二戦で魔力切れしてたみたいだけど。


 まず二グループを一グループにするために両端に極小の火魔法を撃つ。

 ビビッた魔物が中央に寄ったところを大威力の魔法で一気に仕留める。大威力といっても僕の場合は下級の【火球ファイアボール】なんだけど、雑魚魔物ならこれで十分。逆に自分で思ってた倍以上の威力が出たので少し焦ったぐらいだ。

 自分の想定ではレベル十ちょっとだと思ってたんだけど、それでもこの威力になるなら、もっとレベルが上がったらどうなるんだろう。と、ちょっと未来の自分を思い浮かべ、笑いが込み上げて来るキズナであった。

 現在のキズナのレベルは二百を上回っているのだが。


「なるほど…これは回復魔法にも通じるものがありますね」


 とは、ホワイティさん。

 もちろん正解だ。負傷者が複数出た場合への対応としては同じく威力調整をした方がいい。

 魔力の節約にもなるし、その方が効果的だ。

 ブラッキーさんも考え込んでるところを見ると、自分で戦法をイメージしてるんだろう。

 二人とも優秀な生徒だね。先生としても鼻が高いよ。



「よし! 五階層突破よ! 魔力は…うん、まだまだ余裕ね」


 ブラッキーはキズナから教わった魔力の出力調整をし、威力を加減しながら魔力を節約するという方法を練習しながら来たため、昨日や一昨日よりも魔力が残っていた。

 未だに魔力回復ポーションには一本も手をつけていない。それでいて、昨日までと同じ魔石を回収できたのだから、成果としては十分に上がっている。


 因みに、他の冒険者とも何度も出会っている。

 その場合、ほとんどブラッキーが先制してこちらの取り分になってしまっているんだけど、何故か誰からも文句を言われていない。

 戦闘中でも乱入した事もあったんだけど、それでも文句を言われなかった。

 但し、魔術師は見なかった。恐らく、魔術師はこんな低層にはいないのだろう。


 危なげなく五階層目を突破し、六階層目へと突入した。


「ブラッキーさん、そろそろ僕も手伝いますよ」

「ダメよ! 十階層までは私一人でやるんだから!」


 何をそこまで拘ってるんだろう。


「ホワイティさん。なんでブラッキーさんはあそこまで拘ってるの?」


 答えてくれなさそうなブラッキーさんではなく、答えてくれそうなホワイティさんに尋ねた。


「それは……十階層を突破した時にブラッキーに直接聞いてください」

「そう、ですか……」


 ホワイティさんにも教えてもらえなかった。

 という事は、十階層を突破できないと、ずっとこのまま? ずっと僕は付いて行くだけなの?


 そりゃ、ブラッキーさんの分まで荷物持ちはやってるけど、大した量じゃないしね。これで一日金貨一枚は貰いすぎじゃないだろうか。


「でも、このままでいいの?」

「十階層まではこのままやらせてあげてください」

「……分かりました。でも、理由は聞きますからね」

「はい、もしブラッキーが言わなければ私が教えましょう」


 そうして、納得はできなかったが了解をして、ブラッキーさんの後につき、フォローに回るのだった。


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