第25話 ダンジョンに入るために
別に隠してるつもりは無かったんだけど、冒険者ギルドにもあまり顔を出してなかったのもあり、結構長時間説教をされた。
ラピリカさんが主体となり、冒険者ギルドについてのノウハウを説明しながら理詰めでチクチクと言われ、途中で合いの手のように「そうだそうだ、お前は何考えてやがるんだ!」とアルガン統括が入ってくる。
これじゃ、どっちが統括か分からないんだけど。
でも、ラピリカさんの立ち位置は、こうして統括をサポートする役だそうで、普段は登録受付として窓口にいるけど、メインはアルガン統括やギルバート統括のサポートをするんだそうだ。
登録受付は毎日仕事があるわけじゃないので、片手間な感じで窓口に座ってるのだとか。
「はい、カードの更新が終わりました。これでキズナ様はCランクになりましたが、先ほどのアルガン統括からの依頼は忘れずに熟してください」
「はい……」
何故か、Dランクを飛ばしてCランクに昇格してしまった。
元々、Cランクにしようと思ってたらしいんだけど、薬草採取を優先させるためにEランクにしたと説明してくれた。
初めの試験というか、実力確認の時に、ギルバート統括がCランク査定したのとアルガン統括の見解は同じだったのだ。
なぜEランクにすると薬草採取を優先できるかも説明してくれた。
冒険者ギルドではDランクよりダンジョンに入る許可が下りる。そのため、冒険者はまずDランクを目指すのだ。
それはダンジョンに行きたいからだ。
何故ダンジョンに行きたいかと言うと、やはり稼げるからだという。
ダンジョンにはダンジョン産まれの魔物が多く生息していて非常に危険である。だが、危険が伴う分、実入りも大きい。
森や草原も同様に魔物はいるが、ダンジョンに生息する魔物の方が強い。
ステータス値には大差が無いので強いと言うと語弊があるが、凶暴性が増しているため強くなっているのだ。
狂化―――狂暴化して思考能力を犠牲にして身体能力を高めるという魔法がある。ダンジョン産の魔物のほとんどは狂化状態になっている。思考能力を犠牲にとは言うが、アホになるわけではない。下級の魔物にはそういったものもいるだろうが、中級以上の魔物は戦闘に特化した思考能力になるのだ。
そのため、ダンジョン産の魔物の方が強く、狂暴化による興奮状態のため、自分より強いと分かっている相手にでも掛かって行くのだ。
但し、同士討ちはしない。これはダンジョン産の魔物限定だが、ダンジョンから産まれダンジョンの支配下に置かれているからではないかと言われている。
というのも、外から迷い込んだ魔物とは戦うからだ。
それでも、冒険者がダンジョン探索を好む理由は大きく三つある。
ダンジョンは通路が多く少人数単位での戦闘に向いている。これはパーティ単位で行動する冒険者に非常に向いている。
もう一つは手間が省けるという点だ。
ダンジョンでは倒した魔物はダンジョンに吸収されて行き、最後は魔石だけを残して消えてしまうから解体の手間がいらない。
人一人が運べる量はそう多くない。大きなオーク一体なら肉や牙などの素材も運ぼうと思えば一体分しか運べない。力自慢で素材を厳選すれば二~三体は運べるかもしれないが。
その点、ダンジョンでは魔石を回収するだけだ。中級の魔物でも魔石の大きさは十センチも無い。重量は石の半分以下の重さだ。
五~六人パーティ単位で行動していれば、百体分ぐらいの魔石は運べるだろう。
そこまで魔物を討伐できるかどうかは別の話だが。
最後の理由としてはレベルアップだ。
やはり、魔物とのエンカウント率は地上のそれより遥かに遭遇率は高い。
それだけ戦闘回数を熟せて、魔物を倒す数が増え、その分レベルも上がるという寸法だ。
但し、それは全て死なないという前提での話で、死んでしまえば冒険者もダンジョンに吸収されて何も残らない。人間には魔石が無いのだから、装備も含めて本当に何も残らないのだ。
それでも、ダンジョンを目指す冒険者は後を絶たない。
元々が一攫千金を夢見る腕自慢ばかりなのだ。戦って稼げるダンジョンは冒険者にとって魅力的な稼ぎ場なのだ。
だが、その分死亡率も高いので、冒険者ギルドとしては部門別にダンジョンに挑める最低ランクを設けている。
魔術部門はDランク、武術部門はCランクの設定だ。
これは統括の独断で決めるため、よほど低ランクでない限り冒険者ギルドから認定される。
これはダンジョン毎に設定されるため、各部門の統括が設定し、冒険者ギルドが認定して決まるのだが、同じ魔物を倒せるランクの冒険者なのに、このランガンの町のダンジョンでは武術部門のランク設定の方が高い。
これはアルガン統括が厳しいのか、ギルバート統括が甘いのか。その思惑は本人達しか分からないが、アルガン統括に限っては冒険者に対して甘いので設定を厳しくしているようだ。
Cランクだと単独でもダンジョンに入る許可も下りるため、そこまで強くなってから許可を与えるというのもアルガン統括の優しさからだろう。
甘い設定だと死亡率が上がるため、厳しめの設定にしてる事は受付譲なら全員が知ってる周知の事実であった。
今回の説教ではキズナもラピリカ譲から聞かされていた。アルガン統括はラピリカさんの説教が長く、寝たふりをしていたが、顔が真っ赤になっていたので起きていたのはバレバレだった。
一応、そういう設定はあったが、抜け道もあった。
パーティランクをDランク以上にすれば、Eランクの冒険者でも同じパーティにいればダンジョンに入れるのだ。
だから、今回キズナはランクアップしなくとも、【三叉槍の魔法使い】でブラッキーとホワイティがDランクに上がり、パーティランクをDランクと定められればキズナもダンジョンに入れたのだ。
ようやく、お説教から開放されたのは二時間後だった。もう、完全に陽も落ちていた。
「キズナ様、統括とのお約束の件、お忘れなく。実は私も楽しみにしているのです」
「はい、わかりました」
約束とは、Cランクに昇格するにあたり、条件を出されたのだ。
先日の薬草採取の時に持って来た籐の篭に満タンの薬草を『月に十杯採取してくる事』が無試験で昇格する条件だった。
僕にとっては面倒な事でも無いし、『初心者の森』には行きたいと思ってた。
ハーゲィさんも同行すると喜んでくれるだろうし、種類も下級でも中級でもいいから量が欲しいと言われたし、僕には断わる理由は無かった。
それよりも、こんなに遅くなってしまってブラッキーさんとホワイティさんはもう帰ってしまっただろうな、と少し困ってしまった。
明日の予定も聞いてないから、帰りに宿に寄ってみるか。宿は先日お邪魔したから知ってるしね。
統括室から受付に戻ってみると、冒険者で溢れ返っていた。満員御礼状態だ。
陽が暮れてから帰って来る冒険者は多く、この時間は様々な手続きで混み合うようだ。
これは困ったな。ブラッキーさんとホワイティさんの事を受付で聞きたかったんだけど、これじゃ並ぶだけで三十分以上掛かりそうだ。
二人の昇格試験やパーティ登録についてなら受付で聞けるかもと思ってた自分の考えが甘すぎたようだ。
さて、どうしよう。直接宿に行った方が良さそうだな。と、思っていたら、受付横の一角が急に騒がしくなった。
あそこは修練場の入り口だったよな。あんなところで騒ぎになるようなものってあったかな?
「やったな! ブラッキー!」
「ホワイティも見違えましたよ!」
「しかし、凄い魔法を覚えたもんだな。俺にも教えてくれよ!」
「迫力があったよなー!」
「格好よかったぜー!」
「さすが期待の星だな! 遅かったぐらいだぜ!」
「二人でパーティ組むのか!? 俺も入れろよ!」
「二人なら俺達のパーティに入れよ! 大歓迎だぜ!」
「俺のとこならちょうど二人募集中だ! こっちに入れよ!」
「うちは前衛ばかりだから、後衛ならこっちに入った方が安全だぜ!」
騒ぎの中心はブラッキーさんとホワイティさんみたいだ。まだいたんだね。
まだ二人がいたのは良かったんだけど、あの輪の中に行っていいのかどうか迷っていた。二人の事は知ってるけど、他の人たちの事は知らない。僕は人見知りでは無いけど、流石にあの中には行き辛い。意外と人気者だった二人の取り巻きに対して、どう接していいか分からず困ってた。
そう思案してると、二人と目が合った。向こうも僕の事を探してたようだ。
「キズナ! やったわよ!」
「はい、やりましたよ! これで私達はDランクになりました!」
笑顔で報告してくれる二人。
美人が笑いかけてくると、何故こっちもニヤけてしまうんだろうね。
でも、そんな小さな幸せの時間も周囲の人達の、ギンッ! という鋭い視線で終わってしまった。
「なんだ、あの野郎は!」なんて声まで聞こえてくる。
そんな周囲の雰囲気など置き去りにして、ブラッキーさんとホワイティさんは僕に駆け寄ってきた。
「お、おめでとう、ご、ございます……」
周囲の視線が痛すぎて、これが今の精一杯だった。
「ありがとう! これもキズナのお蔭よ!」
「本当! キズナのお蔭です!」
「え!?」
僕を挟み込むように二人が抱きついて来た。
抱きつかれた経験が無いわけじゃないけど、流石に戸惑ってしまう。
周囲からは悲鳴と怒声が上がるが、全然気にならない。それよりも二人の行動の方が気になってしまったからだ。
「キズナには感謝ですね。では、約束通り、早速登録してもらいましょう」
行きますよ。と言われて、手を引かれて受付に並ぶ。今のは何だったんだろうと考えるが、正解が思いつかない。
恐らくだけど、試験で昂ぶった気持ちが合格という結果で箍が外れた結果かもしれない。
もう一つ思いついたものがあったけど、自分からは口に出したくないから封印しておこう。
本来は代表者が一人か二人で列に並ぶのだが、今回は登録窓口なので空いている。
三人で登録窓口に行き、登録をお願いした。
その間も、何人かはゾロゾロと付いて来る。さっきの怒声や悲鳴を上げた人だかりの一部の人達が付いて来てるのだ。
昇級試験やパーティ登録ってそんなに珍しいものなの? と怪訝に思ったけど、ブラッキーさんもホワイティさんも特に気にした様子が無かったので、僕が言うのも変だし放っておくしかなかった。
「昇級おめでとうございます」
登録窓口にはラピリカさんが座っていた。
そうだよね、登録受付はラピリカさんが担当だったよね。
「ありがとう」
「書き換えですか?」
「それもあるけど、パーティ登録をしてほしいの」
代表してブラッキーさんが話している。
こういう時はホワイティさんの担当だと思ってたので、ちょっと意外な気がした。
「【三叉槍の魔法使い】ですね? 先ほど、キズナ様よりお伺いしております」
そうだった。ダンジョンに行きたい理由を説明する時に言ったね。
二人が意外そうな顔でこっちを見たけど、ラピリカさんが先を続けたので流してくれた。
「メンバーは三人でよろしいですか?」
「ええ、三人よ」
「リーダーは誰になさいますか?」
「リーダーは私、サブリーダーはホワイティ。だったらキズナは昇級しなくても一緒にダンジョンに行けるのよね?」
「……」
ブラッキーさんの問いへの答え代わりに、黙って僕を見つめるラピリカさん。
『お前ぇ、まだ言ってねぇのかよ!』って言ってるのがアリアリと分かる。なぜ、女性は視線で物を語れるのか。それも文句だけ。
ブンブン首を振って言い訳をする僕。
だって、説明する時間なんて無かったんだから仕方ないって!
一つ、溜息をつき、答え始めたラピリカさん。
「もちろん問題ありませんが、キズナ様は単独でも行けるよう、アルガン統括が手配されましたから、その心配は必要ありません」
そうなの? って顔でブラッキーさんとホワイティさんが見つめ合う。
続いて二人は僕を見るけど、僕はラピリカさんから視線をはずさない。ここはラピリカさんに説明してもらおうと視線でお願いしてるのだ。これは逃げではない。そう、受付の仕事を取ってはいけないのだ。
また、溜息をついたラピリカさん。僕の思いは届いたようだ。
「キズナ様も先ほど昇級されましたので、ダンジョンに入れる資格を持っておられます」
「でも、さっき単独でって言わな……」
「これがパーティ登録用紙です。リーダーのあなたが書かれますか?」
ブラッキーさんの言葉を遮って、登録用紙をサッと出すラピリカさん。
説明が面倒だったんだね。うん、その気持ちは僕も分かるからスルーしておくよ。
「記入はホワイティがするわ」
そう言ってホワイティさんに用紙を渡した。
サラサラと澱みなく書き込んでいくホワイティさんだったが、まだ途中なのにペンを止め僕を見た。
「キズナって何歳ですか?」
あ、僕の情報は知らないか。
「十五歳です」
「やっぱり年下でしたか」
「この見た目だもの、そうだと思ってたわ」
それは背の事だよね? 背が低いのは自分でも分かってるさ! 予想通りで悪かったな! 成長期だから今から伸びるんだよ!
「職業は? 魔術師?」
「それは違うでしょ。だってキズナは棒で戦うし、武術部門だし……あれ? でも私達の先生?」
「武術家なら、職業によって専門武器があるのですが、キズナの職業は何なのでしょうか」
「そうね、何なのかしらね…棒だから棒術家?」
これは鉄棍だけどね。こっちじゃあんまりメジャーじゃないの? 棒なんて言われたら【スラ五郎】が泣いちゃうよ? ただの鉄だけど。
「キズナ様の職業は『スライム戦士』です」
「「スライム戦士~!?」」
あっさりとラピリカさんが暴露してしまった。薄っすらと笑みを浮かべているところを見ると、さっきのお返しだったのかもしれない。
ブラッキーさんとホワイティさんも驚いてたけど、後ろの野次馬達の方がもっと驚いていた。
「スライム戦士って何?」
「戦士だから何か武器を持って戦うのか?」
「武器ってスライム?」
「スライムを持っては戦えないだろう。スライム製の武器じゃないのか?」
「スライム製の武器って何よ! どんな武器なのよ!」
「そんなの俺が知るわけねぇだろ!」
「スライムって雑魚だから、安もんの武器の事なんじゃねぇの?」
「安物の武器を自在に扱う戦士ね! なんか素敵ね!」
「いや、戦士なら強い武器に憧れるだろ。駆け出しじゃねぇんだから安もんなんて嫌だろ」
「安物はすぐに折れるしな」
「そうそう、欠けたり曲がったり、すぐに使い物にならなくなるよな」
「でも、あいつの持ってる棒って安物には見えないぞ?」
「棒って時点でダメだろ。どうやって魔物を斬るんだよ」
「斬らなくても倒せればいいんじゃないの? 武闘家やハンマーを使う人もいるんだし」
「でも、ちょっとぐらい長くても棒は無ぇだろ、棒はよ」
「だからスライム戦士じゃないの?」
「「「なるほど~」」」
おい! そんな納得の仕方をするんじゃない!
みんな言いたい放題だ。僕だって何故母さんが『スライム戦士』って称号にしたのかは分からないけど、そういう意味じゃ無い事だけは分かる。
もう一度言うけど、棒じゃなくて棍ね。正式名は八角鉄棍【スラ五郎】! 命名、僕。
「因みに、男一人に女が二人ですが、出来る限り長く続けてくださいね」
ラピリカさんがそんな事を言って来た。何か問題でもあるんだろうか。
「ええ、それは大丈夫よ。キズナは先生みたいな弟のようなものだし、うちはパーティ内恋愛禁止だし」
「はい、大丈夫です。キズナは弟みたいな先生のような存在ですから」
それって弟なの? 先生なの? っていうか、恋愛対象として候補にも上がってなかったのかよ!
「それでしたら、私といい友達になれそうです」
え!? ラピリカさんまで!?
三人で顔を寄せ合って内緒話してるけど、全部聞こえてるから!
誰が一番初めに『お姉ちゃん』って呼ばれるかなんて競わなくていいから! 後ろの野次馬共も妙な安堵感出してんじゃねーよ! 後ろにまで聞こえてる時点で内緒話になってないからね!
誰だよ、あの身長なら仕方ねーよなって言った奴! 俺、泣いちゃうぞ!? 泣いちゃうからな!
さっきのハグは家族的なやつだったのか。恋人的なやつだと勘違いしちゃったぜ。フッ、俺の恋愛はまだまだ先のようだな……グスン。




