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第23話 買い取り事情


「わかりました。まずは基本に立ち返ってみましょう。ブラッキーさんは初めに何を習いましたか?」

「初め? 最初は地面や紙に魔法陣を描く事から教わったわ」


 うんうん、まぁいいでしょう。僕の場合は見て覚えろと言われて、延々と先生達の魔法陣を見せられてたけど、イメージするという点ではそれもありだと思います。


「次は?」

「次はって、勿論詠唱よ。その詠唱を教えてもらうまでに何年掛かったと思ってるの。教えてもらうまでは、ずっと下働きだったのよ。もうホント辛かったわ」


 そんなの横で聞いてれば覚えるでしょ。同じフレーズを言えばいいんでしょ?


「その、師匠ですか? その人はブラッキーさんの前で詠唱を唱えなかったんですか?」

「いいえ、よく見せられて自慢され続けたわ」

「だったら、それをそのまま覚えればよかったのでは?」

「そうじゃないのよ。詠唱って人それぞれに合うものがあって、合わないと魔法陣が出るだけで発動まで行かないのよ」


 詠唱だけで魔法陣が出るってのも驚きだけど、発動しないってもっと驚きだよ。魔法陣の適所に魔力を込めるだけなのに。

 それぞれ、その人に合う詠唱ってのも意味が分からない。同じ魔法を使いたければ同じ魔法陣を描かないとダメでしょ。なのに、違う詠唱をしてしまったら違う魔法になるんじゃないの?

 僕の中で『詠唱のセリフ適当説』が拡大していく。


「やっぱり詠唱は辞めましょう。ちょっと杖を貸してください」

「杖? いいけど、何するの?」


 不審な目をしながらも、ブラッキーさんは杖を渡してくれた。

 ひとつ思いついたものを試してみよう。

 『クロスオーバー』の世界でも、ここまでダメな魔法の使い手はいなかったから教え方が分からない。

 何でも思いついたものは試していこう。


「この頭の部分に魔法陣を描いておきます。これなら杖を通して魔力を魔法陣に流すだけで魔法が発動します。一つの魔法陣しか描けませんが、詠唱を唱えない魔法発動に慣れましょう」

「なっ! なんて事するのよ! この短杖、高かったのよ!」

「後でちゃんと消しますから、まずはやってみてください」


 何も、削って魔法陣を描いたわけじゃない。僕の魔力で描いてるだけだから、魔力を消せば魔法陣も消える。

 ほんの思いつきでやってみたけど、これには二つの利点があるね。


 一つは詠唱しなくてもいいって事と、もう一つは魔力が流しやすいって事だ。だって、僕の魔力で描かれた魔法陣だから、魔力の道になってる。ブラッキーさんが少し魔力を込めるだけで簡単に魔法が発動するよ。

 うん、これは魔力の節約にもなるし、数が塾せるな。ホワイティさんの杖にも描いてやろ。


 これは思いのほか上手く行った。

 二つの利点の他に、イメージを作り易いという副次的効果があった。

 そのお蔭でブラッキーさんの【火球ファイアボール】とホワイティさんの【ヒール】が劇的に良くなった。


「キズナ! これでいいの? これでいいのよね? っていうか、もうこれでいいわよ!」

「私の【ヒール】も効果が上がった気がします。というか、絶対上がってます! それに、この感じだと味方にだけ効果を出せます!」


 テンションアゲアゲな二人。

 ブラッキーさんは威力が足りてなかっただけだから、無意味な詠唱を辞めて発動時間が超短縮できて威力が上がったので良かったんだけど、ホワイティさんの【ヒール】は戦闘時に使い物にならなかったからね。


 ホワイティさんも詠唱はしてたんだけど、回復効果が低かっただけじゃなく【エリアヒール】のように全体に回復魔法をかけてたから、敵方にも回復魔法をかけてたんだよ。

 教会で回復魔法を使う場合はそれでもいいんだけど、戦闘時には相手も回復してしまうから使えない魔法だったんだ。

 なんでこんな変な魔法陣が広まってるんだろ。この世界の魔術師は全員同じなのかな。


「じゃあ、魔法陣を消しますので杖を貸してください」

「いやよ!」

「え……」

「私もこのままで結構です」

「え……でもさっきは」

「さっきはさっき、この杖はこのまま使うの!」

「私もそうします」

「いや、でも、明日までには消えますよ」

「「えっ!?」」


 だって、一時的なものだから魔力も少ししか使わなかったし、そうした方が後で消すのも楽だったんだもん。

 お試しでもあったから、上手く行かなければすぐに消すつもりだったしね。


「ダメよ! 消えないようにしてよ!」

「そうです。消えないようにしてください!」


 出来なくは無いんだけど、それだと覚えた事にならないよ。


「無理ですね。だから消えるまでにちゃんとイメージできるように練習してください」

「「え~~~~」」


 初めは弁償しろ! ぐらいの勢いで文句を言ってたのに、上手く行ったら消すなって……勝手な事言ってるよ。

 頑張って練習してくださいね。


 それからの上達は早かった。

 今までの自分の実力とは雲泥の差がある魔法を発動できるのだから、彼女達はそれはもう楽しそうに魔法を撃ちまくった。

 魔力の節約の効果もあり、数が熟せたのも大きかったと思う。

 二人とも昼には詠唱無しで魔法陣が描けるようになっていた。


「あー楽しかったー! こんな修行ならいつまででもできるわ!」

「私も! こんなに充実したのはいつ振りでしょうか」


 そろそろ魔力も底になるので、昼食タイムにして休憩を取った時の彼女達の感想だった。


「では、昼食後は、一発試しに撃った後に魔法陣を消しますね。もうそれでも出来るはずですから、イメージをしててください」

「ええ、もう大丈夫だと思うわ。絶対できると思う」

「はい、私も自信がつきました。本当に詠唱はいらなかったのですね」


 そうだよ。本当の詠唱ならいざ知らず、なんちゃって詠唱なんか邪魔になるだけだから。

 だって、僕も思い出したよ。習った詠唱を。

 さっき二人が夢中で魔法を撃ってる時に小声で試してみたら、巨大な魔法陣が現れてビックリ。

 すぐに解除しなかったら、大変な事になってたかも。

 いやぁ~、詠唱って有効だったんだ。でも恥かしいから人前では辞んないけどね。


 予定通り、昼イチに午前中通り一度魔法を放ったあとはイメージが残ってる間に魔法陣を消して魔法を使ってもらった。

 結果は成功。威力は少し小さくなってしまったが、後は慣れだ。毎日練習を積めば威力も上がってくるだろう。

 ただ惜しいのは、魔法陣隠蔽ができないとこだ。

 魔法陣を隠せないという事は、詠唱と同じで今から魔法を撃ちますって教えてるようなものだ。

 詠唱するよりは全然早いから、後は慣れてもらって、起動から発射までの時間をもっと短縮すればある程度形にはなると思う。

 魔法陣隠蔽は、この二人の魔法レベルだと修得するのに十年でも無理かもしれない。


 そんな残念な目で二人を見るけど、二人とも嬉しそうに魔法を撃ちまくってる様子を見ると、今のとこはこれでいいかと納得した。

 これで契約料分の仕事は果たせたよね。と安心したのだが、ブラッキーさんから思わぬ一言が。


「次は風魔法ね。あと、使える魔法は他にもあるから短杖に描いて。じゃんじゃん覚えるわよ!」

「私も、長杖に描いてください。次は【キュア】に挑戦します。これはパーティ内での協力活動ですから報酬は発生しませんよね?」


 まだ終わらなかった。しかも無償みたいだ。


「当然よね。私達が強くなると、パーティレベルも上がるんだから必要な協力なんだし、キズナも喜んで協力してくれるわよね?」

「……はい」

「ありがとうございます。キズナのお蔭で私も役に立てそうです」


 そうでしょうとも。仲間どころか敵対する魔物まで回復させるんだから戦闘では役立たずだったろうね。

 よくこれまで二人でやって来れたもんだよ。Eランクだから強い魔物の討伐依頼なんて無かっただろうけど、この『初心者の草原』でも近付かれたら危なかったと思うよ。

 ホワイティさんが素材も残らないって嘆いてたから、近付かれる前に詠唱魔法で燃やしてたのかもしれないな。

 ここの魔物のレベルなら、今までの詠唱魔法でも何とかなっただろうしね。


 昼食時にはホーンラビット肉の魔力が多めのところを料理したので魔力の方も八割方回復したようだし、昼からは別の魔法の魔法陣を杖に描いてあげて練習に励んだ。

 僕には鑑定ができないから回復具合は自己申告を聞いただけ。調子に乗って多め申告してたのはすぐに分かったけどね。

 だって、予想以上に早く魔力切れを起こしてたから。


「ふぅ、楽しいけど、魔力切れはやっぱり辛いわね」

「そうですね。もっと余裕があると思っていました」


 楽しくて調子に乗ってるからね。そう思い込んでたんだろう。

 僕の魔力で描いた魔法陣のお蔭で、魔力の節約もできてたから、余計にそう思い込んでしまったのだろうね。


「今日はお終いかな。まだ早いけど、ある程度回復したら帰ろうか」

「そうね、まだやりたいけど魔力マナポーションは高いから勿体無いし、仕方が無いわね」

「そうですね。残念ですけど、そうしましょうか」


 今日の練習は終了だと言うと、二人とも不本意ながら賛成してくれた。


「では、忘れる前に渡して置きますね」


 と、ホワイティさんが金貨の入った袋をくれた。


「え? 報酬無しって言ってたのに」

「これは魔法のお礼ではありません。ここで狩った魔物の素材を売った分です。もちろん三等分してますよ」

「あー、そうなんですね。ありがとうございます。でも、遅かったですね」

「はい、冒険者ギルドに買い取ってもらわずに肉屋とか皮加工をしてるお店に直接売りましたから査定に少々時間が掛かりました」

「え?」


 買い取ってくれるのは冒険者ギルドだけじゃないの? 店で直接買い取ってくれるの?

 そういった担当はホワイティさんがやってるのか、結構詳しそうだな。


「依頼の分は冒険者ギルドで買い取ってもらいましたが、冒険者ギルドで売ると税金を引かれるので手取りとしては安くなってしまうのです。依頼分を冒険者ギルドに納めれば査定はされますが、依頼以外の分は査定に入りませんから、他で売る方が高く買ってくれる場合が多いんです」


 キズナの解体は綺麗ですから高く売れましたよ。と、笑顔で説明してくれるホワイティさん。

 マジか……それは習って無かったよ。

 店に直接ね……その発想は無かったよ。だって、店って業者からしか買い取らないと思ってたから。

 『クロスオーバー』の世界には店は無かったし、薄れ行く日本の知識でも直売りは無かったと思う。


「因みに薬草はどうなんでしょう」

「薬草は冒険者ギルドでも大差ありませんが、薬屋に直接売る方がいいかもしれません。買い取り金額に差はありませんが、査定もあまり評価には繋がりませんし、薬屋で売った方がポーションを安く買えたりしますからお得でしょう。特に今回は、キズナの倒したスライムを高く買って頂けましたから、魔力マナポーションも安く譲って頂けましたよ」


 ガーン! マジか……薬草まで直売りの方がいいなんて……

 しかもスライムも素材として評判がいいって……僕の中の常識が崩れていく。


「スライムも、ですか」

「はい、薬屋の方が凄く驚いておられました。是非専属で、とおっしゃっておられましたわ」


 スライムって解体できないから倒す時に少し気をつければいいだけなんだけどね。

 核となる魔石を真っ直ぐ突いて素早く抜くだけ。それだけだ。

魔石を突いて逆側へ魔石を飛ばすんだけど、突くだけだと外膜に穴が開いてしまうし、逆側の魔石が出た側も穴が開いて体液が全部漏れてしまう。だから穴が開かないような早い速度で魔石を弾き飛ばし、穴が開く前に素早く引き抜くと体液が漏れないんだ。

 コツとしては、素早く真っ直ぐ突いて真っ直ぐ引き抜く、これだけ。

そうすると、スライムって液体だけで身体が出来てるから、ある程度のスピードで突いた穴なら戻ろうとする力が働いて勝手に塞がるんだ。



「でも、薬草については薬屋の方もおっしゃってましたが、最近は薬草採取をする方が減ってきてると嘆いておられました。冒険者ギルドでも少し頑張ってくれるようになったようですけど」


 それでも割りのいいものではありませんが。と付け加えられた。


「先日、誰かが上級の薬草を大量に持ち込んだとの噂がありましたが、そんな夢のような話など眉唾物ですし、薬草採取はお勧めではありませんね。それよりダンジョンに行けば稼げるのです。早くDランクになってダンジョンに行きましょう」


 上級の薬草か。僕の持ち込んだ薬草は中級だったし、噂されるレベルの話でも無い。どこで採れたのか気になるけど、本当かどうかも分かってないみたいだし、もし本当でもそんな情報を教える人はいないだろうな。

 しかし、薬草は効率が悪いのか……

 『初心者の森』は行きたいけど、今はある程度お金が溜まるまでダンジョンを目指す方がいいのかもしれないね。

 ハーゲィさんには申し訳ないけど、まずはお金を稼がないといけないから。


そろそろストック切れです。

少し更新間隔が開きます。

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