第22話 おさらい
翌朝目覚めると、朝食前に、まずは現状の整理をした。
今日はこの世界に来て五日目だ。
初日に冒険者ギルドに登録して薬草採取に行った。その時にオークも倒したりしたけど、薬草採取の分だけで僕は大金持ちになったんだ。
そしてその夜、大盤振る舞いをした。
二日目、ハーゲィさんの依頼を手伝った。
“はぐれオーク”の討伐だ。
結局、“はぐれオーク”は見つからなかったが、代わりのオークを出して依頼達成となった。
その時に、吸血鬼系の魔物達と一悶着あったけど、何とか解決して後日ボスである始祖と会う約束をして終わった。
収入は無しだ。逆に備品を買って少し支出があった。
三日目、門の前で余が明けるのを待って冒険者ギルドに行った。
そこで、討伐証明のオークを提出し、ハーゲィさんは宿へ。僕は食堂兼酒場に行き、大金を支払った。
そして、その穴埋めのために臨時パーティを組んで『初心者の草原』に行ったんだ。
そこでブラッキーさんに魔法を教える契約をした。
四日目、今度はホワイティさんにも魔法を教える事になり、二人と共に再び『初心者の草原』で練習をした。
そこに行くまでに、どういうわけか【乙女魔女】というパーティのメンバーに僕も入っていた。名前も変更になって【三叉槍の魔法使い】になっていた。
メンバーは僕と黒魔道士のブラッキーさんと白魔道士のホワイティさん。
目標はダンジョンで荒稼ぎだそうだ。
その夜、ハーゲィさんの親切心でいくらか出すぞと言われたが、いつの間にか全額僕の負担になっていた。
三日目と四日目に収入はあったはずなんだけど、いくらだったか。
ブラッキーさんとホワイティさんの契約料として金貨十枚ずつで計二十枚。
『初心者の草原』でのものは貰ってないな。これは請求するべきなんだろうか。そういや、ハーゲィさんからも貰ってないけど、“はぐれオーク”の件は僕も手伝いたかったから別にいいかな。
今後、三人でパーティを組んで行くんなら、後で揉めないようにお金の事はハッキリさせた方がいいかもな。
で、今日が五日目なんだけど、何か約束があったような……
たった五日なのに色々な事がありすぎて、頭が追いつかないよ。
こういう時はアレだ。
全部無かった事にして、一旦リセットすればいいんだ。
そして今日から新たな気持ちで頑張ればいいんだよ。
うん! そうしよう!
「おぅ、キズナ。おはよう」
「あ、ハーゲィさん。おはようございます」
朝食を摂るため食堂に来ると、ハーゲィさんが先に来ていた。
いつもながら、早いな。今日は絶対に僕の方が早いと思ってたのに。
「今日はどうする? 一緒に薬草採取に行くか?」
「そうですね。あれ? 何か忘れてるような……」
「なんだ、何か用があるのか?」
なんだったか。さっき整理したんだけど。
いや、一旦リセットするって決めたんだ。今日から新たな気持ちで薬草採取をして頑張るんだ。
「いえ、行きます。でも、ハーゲィさん。薬草採取の依頼って依頼ボードに無かったんですが」
「そりゃそうだろ。薬草採取は常時依頼だ。依頼ボードにゃ貼ってねーぞ」
「常時依頼?」
「そうだ、いつでも受け付けてますって事だ」
ガーン!
そうだったのか……だったら無理して『初心者の草原』に行かなくてよかったんだ。
あれ? 『初心者の草原』? 何か忘れてるような……
「あっ! ハーゲィさん、すいません! 僕、『初心者の草原』に行かないといけないんです!」
そうだよ、思い出したよ。僕、パーティ組んだんだよ。
「あ? 『初心者の草原』だぁ? キズナはもう薬草採取はやらねぇのか」
「いえ、僕としては薬草採取希望なんですけど、新しくパーティを組む事になりまして、その方達がダンジョン希望のようでして」
「新パーティか。なんてパーティだ」
「たしか……【三叉槍の魔法使い】です」
「聞かねぇ名前だな」
「まだ登録はしてないそうです。今、魔法の練習をしていて、ちゃんと覚えたらパーティ登録するって言ってました」
確か、そんなような事を言ってたはずだ。昨日はボーっとしてたからよく覚えてないんだけど。
「なんだそりゃ。新人か?」
「いえ、Eランクって言ってたから新人じゃないと思いますけど」
「お前ぇだって新人でEランクじゃねーか。で? メンバーは誰なんだ」
「二人とも女性で、ブラッキーさんとホワイティさんって人です」
「あー、あいつらか。あいつらは女しかメンバーに入れないって言ってたはずだ。なんでキズナが入るんだ?」
「さ、さぁ……」
ホント、なんで入る事になったのか、色ボケしすぎて自分でもよく分かってないから。
「さぁってどういうこった。自分の事だろ」
「そうなんですけど、なし崩し的にと言いますか成り行きと言いますか……」
「なんだ、煮えきらねーな。嫌なら嫌だと言やいいじゃねーか。俺が言ってやろうか?」
「い、いえ、別に嫌ってほどでもないんですが」
「そうか。だったら今後はダンジョン中心になるんだな。お前もそっち側の奴だったのかよ」
「いえ、薬草は個人的にも欲しいですし、薬草採取自体は行きたいんですよね」
そっち側って、棘のある言い方だな。
でも『初心者の森』には僕的には行きたいんだ。薬草の採れる森の中って、【クロスオーバー】を使いやすいんだよね。
友達を喚んでも誰にも見つからないし、僕としては『初心者の森』は率先して行きたい場所なんだ。
薬草は採れるし、程々に魔物も狩ってレベル上げもできるし、森の深いところまで行けば色んな素材が採れるからね。
森の深いところ……何かあった気がする……う~ん、思い出さない。
昨日、色々ありすぎて頭の回転が鈍くなってるよ。
「だったら今日はいいとして、薬草採取はいつ行くんだ。冒険者ギルドからもキズナを連れて行けと催促されてるんだが」
「そうですね、ブラッキーさんとホワイティさんの魔法がある程度仕上がったら行こうと思います。今日はその相談もしてきます」
「わかった。それはいつ頃になるか分かるか?」
「そうですねぇ…たぶん、今日か明日には何とかなる気がするんですけど、こればっかりは本人達のセンスもありますし」
「ん? あいつらは魔術側でも有望だと聞いてたが、あんまセンスが無ぇのか?」
「いえ、今までやって来た事と全く違う事をしていますので、それなりに時間が掛かってるんだと思います」
「ほぉ~ん。つまり秘密の修行ってわけだ。それで修練場じゃなく態々『初心者の森』まで出張ってんのか。で、キズナはその間、見張り役ってわけだ」
「まぁ、見張りもやってますけど」
「これ以上詮索する気はねぇ、あまり詮索しすぎるのは冒険者としてルール違反だからな。ま、同じパーティならそういった協力も必要な仕事だ、せいぜい頑張れや。薬草採取に行けるようになったら声を掛けてくれよ」
ホント、ハーゲィさんは薬草採取“命”って感じだな。でも、冒険者のいろはもよく知ってるし、面倒見もいい人なんだよね。詮索しすぎるのは冒険者のルール違反ね、覚えておこう。
先日の飲み過ぎでは僕も被害を被ったけど、荒くれ者が多いと習っていた冒険者にしちゃマシな方なのかな? 一応は、少しは払うという意思も見せてくれたしね。
先に出て行くというハーゲィさんを見送って、僕はゆっくりと支度をして冒険者ギルドに向う予定だ。
待ち合わせの時間には早過ぎたからだ。
普通、夜明けと共に待ち合わせなんてしないからね。
ハーゲィさんは冒険者ギルド一番乗りを毎朝実行してるから、そんな人が行く時間に待ち合わせをする人なんていない。
なので、少し部屋で時間を潰してから冒険者ギルドに向かった。
ブラッキーさん、ホワイティさんと合流すると、予定通り『初心者の草原』へ。
「今日こそは修得してみせるわ!」
「私も、もう少しな気がします。今日も頑張りましょう」
『初心者の草原』に到着すると、先にある程度周囲の魔物を退治したあと、魔法の練習を始めた。
昨日の事はよく覚えてないので、まずはお浚いから。
「詠唱せずにできませんか?」
魔法陣を出して調整をするんだけど、二人とも詠唱をしないと魔法陣が出せない。
しかも、詠唱から発動まで一連の流れだから、途中で止める事もできない。
「キズナじゃあるまいし、そんな事できるわけないでしょ!」
キズナじゃあるまいしって、僕の立ち位置ってどうなってんの?
「いや、できますって。だいたい、ブラッキーさんの詠唱って《火の精霊よ、我が手に集い弾となり敵を討ち滅ぼせ!》でしょ? どこに精霊がいるんですか。言いたい事を言ってるだけでしょ?」
「そんなわけないでしょ! これはやっとの事で苦労して師匠に教わった詠唱なんだから!」
師匠がいたんだ。その師匠を問い詰めたい。『精霊を見たんか!』って。
だって、精霊なんていないんだもん。精霊の力を借りてなんかいないのに『精霊よ!』って、何言ってんの? って感じ。
二人の魔法を見る限り、魔法陣は自分の魔力で描いてるし、その後も全部自前の魔力で補っている。どこにも精霊力なんて働いてないから。
でも、詠唱すると魔法陣は出るんだ。と言っても、詠唱によって魔法陣を出してるんじゃないんだけどなぁ。もう癖になってるから詠唱無しだと魔法陣も出せないみたいなんだよね。
魔法陣自体は形が段々直って来てるのを見るに、魔法陣操作はできてるんだ。それだけイメージによって修正出来るんだから、詠唱無しで魔法陣作成も出来るはずなんだけどなぁ。
これは基本に立ち返った方が近道か。少し方針を変えてみよう。




