第21話 パーティ結成?
十分後、ようやく落ち着いた三人だった。
三人が三人とも自分の世界に入っていたのだから、誰も元に戻せる者がいなかったのだ。
自分が放ったと思えない、信じられない魔法を見たブラッキーさん。
相棒の魔法力アップに大はしゃぎが治まらなかったホワイティさん。
次はどの魔法のレクチャーをしようか思案中のキズナ。
その中でも一番初めに戻って来たのはブラッキーさんだった。大はしゃぎのホワイティさんに何度も揺さぶり続けられたら戻って来るのも当然だろう。
「キズナ! あなた今何したの!」
両肩をガッチリ捕まれ大きく揺さぶられるキズナ。
「ちょ、ちょっと落ち着いてください。ブラッキーさん、ちょっと、痛いですから」
全然痛くは無かったが、そう言わないと離してくれなかっただろう。
「ご、ごめん。でも、今のは何!? あなた何をしたの!?」
「何って、さっきも言いましたけど、魔法の基本技である魔力操作です。ブラッキーさんの魔法の発動がおかしかったので調整したんです」
「調整って……あなた! そんな事ができるわけないでしょ!」
できるわけがないって、今やったのに見てなかったのか?
「今、やりましたけど」
「うぐっ…確かにそうだけど、そうじゃないわよ! そんな非常識な事をする人なんていないって話よ!」
非常識って。僕は先生達にこうやって教わったんだけど。
「非常識って言われるのは納得行きませんけど、どうでしたか? 【火球】は使える魔法でしょ?」
「それは、認めるわよ。だから、もう一度ちゃんと教えなさい。他の魔法も教えるのよ!」
それって教わる態度じゃないと思うんだけど。
それに、教える義理も無いし。
「授業料として金貨十枚払うわ!」
「教えましょう!」
ノータイムで即答だった。金欠状態の今の僕には金貨一枚でも即答しただろう。
それから日が暮れかかるまで、【火球】の練習をしたが、ブラッキーさんは物にできなかった。
途中でブラッキーさんの魔力切れもあったし、僕も寝不足で途中から集中力が無くなって来たのだ。もう二十四時間以上起きてるからね。
授業は繰り越して、翌日にもする事になって町に戻って解散した。
ピッピ、キラリちゃん、カゲールくんの三人には、帰る時に後ろに【クロスオーバー】のゲートを出して還ってもらったよ。
小声でブーブー言ってたけど、今日の所は勘弁してもらった。
今日も少しレベルが上がったはずだから、またすぐに喚べるからと言うと、渋々納得してくれた。
宿に戻るとすぐにベッドインした。
ハーゲィさんが飯の誘いに来たけど、眠いからと言って断った。
何かハーゲィさんに言う事があったと思うんだけど、もう眠いのが先だった。
翌朝、約束通り冒険者ギルドへ向かい、ブラッキーさんとホワイティさんと合流した。
起きた時にはもうハーゲィさんは冒険者ギルドに行ってて宿にはいなかった。
そんなに遅くは無かったんだけど、ゆっくり朝食も食べたかったし、今日は約束もあるからハーゲィさんとは別行動だ。
「おはようございます」
「おはよう。今日こそは物にするよ!」
「おはようございます。私も見てもらおうかと思ってるのですが」
挨拶をすると、意気込んでる二人からも挨拶が返って来た。
あれ? ホワイティさんもなの? 今日は修練場でブラッキーさんと練習するって約束だったはずなんだけど。
「ホワイティさんもですか?」
「はい、追加料金は払いますからお願いできますか?」
「ハイよろこんでー!」
またまた即答だった。
今は少しでもお金が欲しい。今日も二人との約束があったから冒険者ギルドで依頼を受けられない。
そんな中、追加報酬と言われれば、誰だって飛びつくと思う。
という言い訳を考えていると、「行きましょう」と言って二人が歩き出した。
「あれ? 修練場に行くんじゃ……」
「あ、それ予定変更です。付いてきてください」
え? と思ったが、向こうはスポンサー様だ。昨日の分もまだもらってないし、ここは黙って付いて行くのが吉だろう。
黙って二人に付いて行くと、冒険者ギルドから十分程度の所にある宿屋に入って行った。
ホワイティさんが受付に向かったけど、僕はそのままブラッキーさんと二階の部屋に入った。
ホワイティさんが遅れて入ってくると、扉の鍵を閉められた。
僕の泊まってる宿もそうだけど、宿の部屋には外から閉める鍵は無い。内から閉める鍵があるだけだ。
だから貴重品は持って出るか、信用のある場所に預けるんだ。
僕は雑貨屋で買った背嚢に入れて持ち歩いてたけど、冒険者ギルドだったり他のギルドだったり、ハーゲィさんのように宿の受付に預けたりする人もいるみたいだ。
「えーと……どういう事でしょう」
ここは二人の泊まってる宿だという事は想像がついた。
だけど、その美女二人と鍵の閉まった部屋にいる現実は未だに頭が付いて来ない。
ここにはベッドもあるんだ、妙な妄想が少し僕の脳内を支配し始めた。
成人したての十五歳の僕だって男なんだ。やっぱりそういうのは期待してしまう。しかも美女が向こうから来るんなら、ドンと来い! って感じだ。
ごめん、ちょっと盛りました。そこまで度胸は無いんだけど、やっぱり初めは手解きを受けたいって言うか……
「そこに座って」
「ひ、ひゃい!」
ふぁさっと脱いだローブをベッドに放り投げるブラッキーさん。
ブラッキーさんが椅子を勧めてくれたけど、緊張で声が裏返ってしまった。だって、ローブの中の服はボディラインがクッキリと分かるピチっとした革素材の服で、上下が分かれてるセパレートタイプで臍が丸見えなんだ。
色もご丁寧に上下とも黒。上は半袖でVネックでヘソ出しルックだし、下は短パンタイプ。色っぽい事この上ない。
袖付きのローブを着てたから分からなかったけど、非常にデカイ。スイカとまでは言わないけど、メロンはあると見た。
まずはブラッキーさんからか。じゃあ、ホワイティさんはその間、どうするんだろう。
勧められるまま椅子に座ると、ブラッキーさんが僕の前に椅子を持って来て向かい合わせで座る形になった。
宿の部屋なので脇机はあるけど、大きなテーブルは無い。少し離れてるけど、僕とブラッキーさんの間には何も無い状態だ。非常に緊張する。
「まずは、約束のお金。はい」
「ひゃい! ありがとうございます!」
金貨十枚が入ってるだろうと思われる布袋を渡されたが、僕には中を確認する余裕も無かった。
「お金は渡したけど、ちゃんと覚えるまでは付き合ってよ?」
「ひゃい! もちろんです!」
付き合うって……えへへ、女性からそんな事、言われたのは初めてだ。『クロスオーバー』の世界でも言われた経験は無いよ。でへ。
「それで、ホワイティも見てもらうわけだけど、同じ金額でいい?」
「ひゃい! それで結構です!」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
いつの間にかホワイティさんもローブを脱いでた。
ブラッキーさんと同様の服を着ていたが、こっちは白のふわふわ系の革素材の服だった。
でも、デザインは似ていてやっぱりヘソ出しルックの短パンだ。違うのはブラッキーさんは艶々してる革だがホワイティさんの服はふわふわの毛皮だった。
美人でスタイルのいいホワイティさんによく似合っててエロさが三倍増しだ。
やっぱりホワイティさんもか。これって三角関係? 二人は親友って感じに見えるんだけど大丈夫なんだろうか。いや、そこも男として仲を取り持ってあげなきゃな。
「それで今後の事についてなんだけど」
「ひゃい! 頑張ります! 僕に任せてください!」
「え? いいの?」
「もちろんであります!」
「だったら話が早いわね。ホワイティ、これでいい?」
「私は大賛成なのですが、ほんと良かったのかしら。キズナは、迷惑ではないですか?」
「迷惑だなんて、とんでもない! 僕の方こそよろしくお願いします!」
よーし、これでお互いが了解したわけだ。
あとは、むふふふ。
「じゃあ、パーティ名を決めないとね」
「そうですね。今までは女性が二人だったので【乙女魔女】って名乗ってたけど、男性が入るとおかしいですものね」
「パーティ名?」
三人で付き合うのにパーティ名なんているかな?
この世界ではそうなのかもしれない。その辺は習ってなかったからね。
「そうね、やっぱり変えないといけないわね」
「う~ん、三人だし、トライデントなんてどうでしょう?」
「え? え?」
「いいわね! 全員魔法も使えるし、三叉槍の魔法使いなんていいかも!」
「そうね! 【三叉槍の魔法使い】に決めましょう!」
「え? え?」
あれあれ? どういう事? ガチのパーティ名を考えてる? 全然色っぽい話にならないんだけど。
「じゃあ、昨日と同じく『初心者の草原』に行くわよ」
「『初心者の草原』?」
「それはそうでしょう。『初心者の森』で火系の魔法は使えないでしょ。それに、あんな魔法を他の人に見せたくないから修練場は無しよ」
「え? 魔法?」
「そうよ、教えてくれるって契約したじゃない。あ、ホワイティの分のお金はこれね」
また、お金が入った布袋を渡された。
「それは、パーティに入る前の契約だからキズナが受け取る権利があるものね。でも、これからは三等分だから。あ、それとうちはパーティ内恋愛禁止だからね」
「え? え?」
「さ、行くわよ」
え? え? いずこへ? 僕はここでいいと思いますよ?
あれ? なんで二人ともローブを着ちゃうわけ? まだ何も始まってないよ?
そうして整理のつかないまま連れて来られたのは、宣言通り昨日と同じ場所『初心者の草原』だった。
どうやら僕は、いつの間にかこの二人と三人でパーティを組む事になったようだ。
いや、パーティを組むとか言ってた気がするけど、脳内妄想が暴走しすぎて、未だに何も整理がつかない。
そんな状態でも、魔法は身体が覚えてるので、二人への指導は恙無く進む。
そうして日が暮れると町へ戻って来て解散したが、僕は頭の整理がつかずに冒険者ギルドの前でポツンと佇んでいた。
「よぉ、キズナじゃねーか。結局、今日は休んだのか?」
薬草採取帰りのハーゲィさんだった。
「なんか迷惑かけちまったみてぇだな。俺も少しは出そうか?」
「え?」
「いや、酒場のマスターから聞いたんだがよ、いくらとは聞いてねぇが結構な額を払ったみてぇじゃねーか」
「え? あ、そうですね」
「なんだ、あんまり感心無さそうだな。それぐらいは余裕ってか!」がっはっはっは
薬草採取で大金を手にしたのを知ってるハーゲィさんは冗談混じりに笑ってる。
そうして、ハーゲィさんに連れられて宿に戻った時には、酒場の弁償金も全部僕が持つという話に治まってしまっていた。
なんだろう、色々大損をした気がしてならないんだけど。
こんなんで、僕はやっていけるんだろうか……




