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第19話 臨時パーティ


 町から出て、『初心者の草原』へと向かう予定だ。

 僕は先日『初心者の森』でホーンラビットを倒して美味しく頂いたんだけど、ホーンラビットは『初心者の草原』にもいるらしく、大半の冒険者は『初心者の草原』に行くのだそうだ。

 町からも『初心者の草原』の方がやや近く、他にゴブリンやスライムなど、雑魚中の雑魚の魔物もいるから、ついでという意味合いも大きいみたいだ。


 そんな話を道中ブラッキーさんとしてたら、ようやくホワイティさんも落ち着いたようで、話に混ざってきた。


「先ほどはすいませんでした。ブラッキーさんには挨拶したんですけど、ホワイティさんにも改めまして。僕はキズナと言います、一昨日登録したEランクです」

「は、はい! ホワイティです。料理はあまりできませんが、食べるのは大好きです。歌を歌ったり本を読んだりするのが好きです。あと、星を見るのも好きです」

「……あの、得意なものは何ですか?」

「はい、得意技は果実酒の一気飲みです」

「え?」

「へ?」

「ホワイティ……そこは、戦闘時の得意技の話よ」

「……」

「……」

「……」


 話が噛み合わない二人に、ブラッキーさんが解説してくれたんだけど、ホワイティさん…まだ本調子じゃなかったみたいだ。

 すごくお淑やかで冷静な女性ってイメージだったんだけど、自爆してくれたから色々と知れてよかった、のかな?


 それから、またしばらくホワイティさんが黙ってしまったので、ブラッキーさんと戦術の話をした。

 ホワイティさんは予想通り回復魔法が得意なようで、あと支援魔法も使えるそうだ。

 ブラッキーさんも攻撃系の魔法が得意で、火と風の二属性が使えて、得意なのは火魔法だと教えてくれた。


「キズナはやっぱり棒術が得意なの?」


 僕の持つ、八角鉄棍【スラ五郎】を指して尋ねられた。


「いえ、得意って無いんですよね。何でも出来る代わりに、何も得意が無いって感じです」

「何でも?」

「はい、何でもです」

「そう……」

「はい、今は武器がこれしかないんで、お見せできませんが、格闘もできますよ。因みにこの棍は【スラ五郎】って言うんです」

「そ、そう……名前が付いてるのね」

「はい!」

「……」


 ブラッキーさんには若干……いや、かなり引かれたが、【スラ五郎】も紹介する事ができた。

 まだ三日目だけど、無くなったと思っても戻って来たりしてるから、結構愛着が湧いてるんだよね。


「キズナさんは棍法ですか。私は杖術も使えますが、あまり前には出ませんからお見せする機会は無いかもしれませんね」

「結構、似てる技もありますからね。今度、立ち合い練習でもしましょうか?」

「そうですね、機会があればお願いします」

「僕にさん付けはいりませんから。キズナって呼んでください。ブラッキーさんにも、そうお願いしましたから」

「キ…キズナ……ですね」

「はい」


 意外と武闘派なのか、ホワイティさんが話に入ってきた。

 ただ、名前を呼ぶと、また真っ赤な顔して俯いてしまった。もうすぐ現場に着くのに大丈夫だろうか。




「先行します!」

「ま、待て! まずは威嚇するって言ってるだろ! ちょっと待てって!」

「はぁ、呆れますね。何なのでしょう、あのスピードは」

「まったくね。人の話も聞かないし、これ全部あの子が一人で倒したのよ?」


 もう十戦目になるだろうか。ホーンラビット以外にも雑魚とはいえ魔物のいる『初心者の草原』。

 臨時で三人パーティを組んでいるキズナ、ブラッキー、ホワイティ。

 隊形としては、前衛にキズナ、中後衛にブラッキー、最後尾にホワイティと組んで形作っているが、まったく機能していない。

 全て、キズナが飛び出して行き殲滅しているのだ。


 それというのも、キズナが友達になれそうな魔物がいた場合、先に保護しようと飛び出していたからなのだが、ブラッキー、ホワイティの二人としては、キズナのスタンドプレーにしか見えない。

 それで、一戦毎に注意をするのだが、キズナは聞く気配が無い。

 元々戦闘には参加しない白魔道士のホワイティとしては助かるのだが、黒魔道士のブラッキーとしては、何もせずに分け前だけを貰う事を良しとしない。

 それで、攻撃参加しようとするのだが、キズナが邪魔で攻撃ができないので怒っているのだ。


 ブラッキーは、前衛が攻撃中に魔物をピンポイントで狙える程の精密さは無い。しかもキズナが速すぎるのでフレンドリーファイアーが怖くて一度も魔法を撃ってない。

 今回こそはしっかりと言い聞かせてやろうと戦闘が終わるのを眉を吊り上げて待つブラッキーだった。


「お疲れ様。はいこれ、今回はホーンラビット五匹だった、よ?」

「キーズーナー! さっきから言ってるでしょ! 私が魔法を撃ってからが、あなたの出番なの! 少しは作戦を守りなさい!」

「良いではないですか、ブラッキーが攻撃すると素材が残らないのですから。キ、キズナが倒すと良い状態で倒せているのです。この調子で行きましょう」


 ブラッキーからの雷は落ちたが、ホワイティがそう言って庇ってくれた。


「それよりも、そろそろ休憩にしませんか? キ、キズナもずっと戦い続けてますから、この辺りで一息入れましょう」

「僕はまだ全然……」

「そう。それならこの魔物の山を何とかしれくれるかしら」


 まだまだ大丈夫と言い掛けたら、ブラッキーさんから注文が入った。

 僕が倒した魔物は解体もせずに放置中だ。

 ゴブリン十五匹、スライム二十匹、ホーンラビット三十匹、ビッグラスマウス二十匹が解体もせず、纏められて山となっていた。


「解体しないといけないよね。だったら休憩も兼ねてやってしまいますか。ついでにホーンラビットで昼食でも作りましょうか?」

「まだ私は一匹も倒してないんだから休憩なんて……」

「それはいいですね! キ、キズナは料理もできるのですか?」


 休憩に反対しようとするブラッキーを抑えてホワイティがキズナに賛成した。

 仕方がないのでブラッキーも渋々同意するが、解体を手伝うのはプライドだ許さなかったようだ。


「私は一匹も倒して無いんだから、倒したキズナが責任を持って解体するのよ」

「まぁ、慣れてますから別にいいですけど。そしたら、待ってる間に火をおこしておいて貰えますか?」

「火?」

「はい、今から料理を作りますから、火をおこしてください。鍋は持って来ましたから、これに水を入れて沸かしておいてください」

「水? 水なんてどこにあるのよ」

「え? 無ければ魔法で……あ、そうか。ブラッキーさんは火と風の魔法でしたね。では、水は入れておきますので、沸かしておいてください」


 荷物から鍋を取り出して温めのお湯を入れた。あまり熱すぎると間違ってかぶって火傷をしてはいけないとの配慮だ。

 お湯にしたのは、もちろんその方が沸くのが早いからだ。


「え? キズナって魔法も使えたの?」

「はい、使えますよ。あれ? 言いませんでしたか?」

「聞いてないわよ!」

「えっと…何でも一通りできるって言ったと思いますが」

「何でもって…あなたね! あの時のあなたが何でもって言ったら、どんな武器でも使えるって思うでしょ! 実際に武術使ってるし、普通は魔法を使えるとは思わないでしょ!」


 普通はって…『クロスオーバー』の世界では僕の方が普通なんだけど。いや、どちらかしか使えない人もいたか。

 でも、両方使える人は多かったと思う。


「でも、ホワイティさんだって白魔法と杖術が使えますよね?」

「それはそうだけど……じゃなくて、そのレベルの使い手が両方ってのがおかしいって言ってるのよ!」


 そんな事言われても、そういう教育を受けてきたんだから仕方ないじゃないか。

 説明するのも面倒だし、まだ解体も残ってるから先にやってしまおう。


「じゃあ、僕は解体して来ますから、火熾しとお湯をお願いしますね」

「ちょっと待ちなさいよ! 話はまだ終わってないわよ!」


 まだ文句を言ってるブラッキーさんをスルーして魔物の山に向かった。

 ゴブリンは討伐部位だけでよかったよね。スライムはそのままでいいし、ホーンラビットとビッグラスマウスを解体するだけだね。楽勝楽勝。


 一昨日作った解体用ナイフでサクサクッと解体していく。

 血抜きは倒した時に先に切ってから放置してたから済んでるし、皮を剥いで肉の部位を分けるだけだね。


 僕が解体を始めたので、ブラッキーさんも諦めて火熾しの準備を始めていた。

 ホワイティさんもそれを手伝っている。

 軽く穴を掘り、周囲に大き目の石を組み上げていく。

 ここは草原なので手頃な石はあるのだが、燃やす木が少ない。なので、簡易かまどを作った後は、二人で薪を集めに行ってしまった。


 その間に僕は、解体で出た不要なもの(ゴブリンの死骸や解体後の内臓など)を放り込むための穴を土魔法で掘り、その穴にどんどんと放り込んで行った。後でブラッキーさんに燃やしてもらおう。


 必要なものと不要なものを分け終えると手持ち無沙汰になってしまった。二人がまだ戻って来ないのだ。

 だったら今の内にと、【クロスオーバー】でピッピとキラリちゃんとカゲールくんを喚び出した。


 帰りの分も入れて六回だから、なんとか行けると思う。

 そう判断してスキル【クロスオーバー】を使ったキズナだが、実際は百回以上使える余裕はあった。

 それというのも、レベルが大幅に上がっている事をキズナ自信が実感してないからだ。

 鑑定スキルが無いのもそうだが、キズナ自身、本気の100%を出し切ってないから分からないのだ。

 普段は手を抜いてると言うと語弊があるが、余裕を持って行動しろと教育されて来たため、普段は力加減を抑えている。ここ一番でも100%の力は出すな、切り札は最後の最後に出すものだ。そう教育されて来たためだ。

その教訓があるから、アンダーバットに【スラ五郎】を投げつけた時でも全力では無かったのだ。恐らくキズナが本気で投げてたのなら城の形は残ってなかったかもしれない。その前に、城を大きく通り越えたかもしれないが。


そういった理由があり、この世界に来てからは、まだ一度も本気を出してなかったのだ。

 そのため、自分の現在の力を大幅に見誤ってるキズナなのであった。



 【クロスオーバー】ピッピ、キラリ、カゲール!


「キズナ様ー」

「遅いよう、もっともっと喚んでくれなきゃ」

「今日はどんな事をするのー」


 喚ばれた三人が僕の周りで騒ぎだす。

 一人で送り出された僕としては、仲良しのこの子達のお蔭でホームシックにならずに済んで凄く助かっていたりする。

 まだ三日目とはいえ、やっぱり一人は心細いもんだよ。


「みんな聞いて。今日も見張りをお願いしたいんだ。でもね、他にも二人いるんで見つからないようにしてほしいんだよ」

「またぁ~? 今度はどんな人?」

「あっ! 本当だ! フード被ってるけど二人とも女の人みたい」

「マジマジ? あっ、ホントだ!」


 カゲールくんが聞いて来た時には、キラリちゃんとピッピが既に上空に上がっていてホワイティさんとブラッキーさんを見つけたみたいだ。

 前も思ったけど、行動が早いね。


「ね、ね、あのハゲの人は? ピカーってなってた人だよ。目が、目がぁぁぁって言ってた人はいないの?」


ハゲって……確かに目がぁぁって言ってたけど。


「……ハーゲィさんは宿で寝てるよ。僕はお金を稼がないといけないからここに来てるんだ」

「お金~? お金って何~?」


 カゲールくんがお金について聞いてくる。

 そうだった、『クロスオーバー』の世界にはお金の概念が無いんだった。

 何となく覚えてる日本の知識と、授業でも習ってる僕には分かるんだけど、なんて説明すればいいんだろう。


「んー、物々交換するのに便利なものかな? 一旦お金にしておくと、誰とでも何とでも交換してくれるんだよ。その価値によって種類や枚数が変わってくるんだけどね」


 宿に泊まるとか荷物や手紙を運んだりとか物じゃないのもあるけど、そこまで細かく説明しなくていいかな。


「ふ~ん、そんな便利なものがあるんだね。だったらいっぱい集めないといけないね」

「そうなんだ。それで友達になれない魔物を退治してるんだけど、一人じゃできない仕事だったから手伝ってもらってるんだ」

「へぇ~、そうなんだ。それってダンジョンにいる魔物みたいな奴ら?」

「そうだよ」

「だったら退治しないとね」

「それでね、ピッピとキラリちゃんには周囲の見張りと、カゲールくんには影に潜んでもしもの時の二人の護衛を頼みたいんだ」

「わかったよ! まかせて!」


 そう言ってカゲールくんは僕の影に潜って行った。

 ピッピとキラリちゃんも話は聞いてくれていたので、そのまま上空で待機して周辺警戒すると返事をしてくれた。


「キズナー! 誰かと話してた?」


 こっちの話が終わったと同時にブラッキーさんの呼ぶ声が聞こえた。


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