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第18話 仕事をください


 トボトボと宿に着くとハーゲィさんは既に寝てしまっていた。

 今日はベッドで寝ると決意していたので、宿無しになるのは非常に困る。なので宿代を連泊で金貨一枚払っておいた。

 一泊銀貨十五枚、一週間連泊だと少し割引が利いて金貨一枚なので一週間の宿を確保した。

 最低限の食事(朝食と夕食、一人前ずつ)は込みの宿泊代金だったから食事も確保できてよかった。まぁ食事については食材も少し確保しているから心配はそれほどしてなかったけど、それでも食事付きは助かる。

 それよりも! この一週間でまた稼がないといけない。また薬草採取でいいか? それとも何か別の依頼を受けるか? いつから行く? 今日はもう眠いから明日から? いやいや、今は危機的状況になっている。そんな悠長な事を言ってたら一週間なんてすぐに経ってしまう。

行くなら今すぐ行動だ! だってここには守ってくれる母さんも先生達もいないんだから。


 まずは何がお金になるのか確認のため、冒険者ギルドに向かった。

 運良くラピリカさんのところが空いてたので窓口に行ってみると怒られた。


「キズナ様? こちらは登録専用窓口です。あちらの列にお並びください」だって。

 でも、今朝はハーゲィさんの依頼完了を受けてたのに……いや、よそう。ルールはルールだ、守らないとね。

 あれは朝一番で職員の数も少なかったし、常連でベテランのハーゲィさんだったからだろう。新人の僕が同じ扱いをしてくれるはずもないしね。


 列には十人程度しか並んでないのに、三十分以上かかった。

 皆、順番が来ると依頼内容を細かく確認してるんだ。中にはパーティメンバーだろう人達が順番になると現れて、その人達まで色々と質問するもんだから凄く時間が掛かったよ。


 僕の番になり、受付のお姉さんに尋ねた。


「すみません、依頼を受けたいんですが、そこそこ稼げる依頼はありませんか?」

「…あなた、ここのルールは聞いてない?」

「えーと…はい、一昨日登録したんですが、一昨日はすぐに薬草採取に行ったんで特には聞いてません」


 そういえばハーゲィさんが教えてくれるって言ってたけど、依頼の受け方までは教えてくれなかったな。

 僕も受付窓口に来れば依頼を受けれるものだと思い込んでたから聞かなかったよ。

 授業では習ってたはずなんだけどなぁ。


「そう…では教えるわね。依頼を受けたければ、あそこの依頼ボードに貼ってある依頼から自分の受けたい依頼を剥がしてここに持って来て。そうすれば受けられるわよ」


 あー! たしかそんな感じだったな。でも、それって……


「では、またこの列に並ばないといけないんですね?」

「そうなるわね。それよりもあなたは何ランク? 低ランクの依頼は早く行かないと無くなってしまうわよ?」

「えっ、それは大変だ!」

「自分のランクの前後一つまでしか受けられない決まりだからね」


 すぐに依頼ボードに向かって走った僕に、お姉さんが声を掛けてくれた。

 そうか、前後一つずつなのか。僕の場合はEランクだから、D・E・Fランクの依頼なら受けられるんだな。


 依頼ボードの前で【スラ五郎】も絡めて腕を組む。

 ……何にも無いじゃん! いや、中から高ランクの依頼はあるんだよ。Dランク以下で行けそうな依頼が何にも無いんだよ。

 全部、パーティ依頼になってるんだよ。

 ハーゲィさんがいれば二人パーティって言えるんだろうけど、僕一人だし受けられないよ。

 いや? 待てよ? 一人パーティ……う~ん、アリじゃね?


 ホーンラビット討伐捕獲依頼 十匹 ランクE 達成金、銀貨五十枚 パーティ依頼


 こんなの一人でも楽勝じゃん。なら一人パーティでもいいよね?

 そう勝手な解釈をして依頼書を剥がし、受付の列に並んだ。

 今度は四十分ぐらい並んだ。そしてようやく僕の番になった。


「この依頼、受けます」

「……あなたのランクは?」

「はい、Eです」

「あなた、文字は読めるの?」

「はい、読めます」

「ここにパーティ依頼って書いてるのが分からない?」

「分かりますが、僕は一人パーティなので。それに、ホーンラビット十匹ぐらいなら楽勝ですから」

「はぁ~…これは低ランクの冒険者が実力をつけるための依頼なの。だから態々パーティ依頼にしてるのよ。それに一人パーティって無いから。それはソロって言うのよ。分かる? はいこれ、依頼ボードに戻してきて」

「でも、受けれる依頼が無いんです。お願いします、これを受けさせてください」

「それは、早く来ないあなたが悪いの。ここのルールに従ってください」

「うぐっ、ルール……一番乗りで来てたのに……」


 朝一番で冒険者ギルドには来たのだが、その時はまだ食堂兼酒場であんなに弁償金を払わされるとは思ってなかったから、僕もハーゲィさんと同じく宿で寝ようと思ってたぐらいなんだ。

 それが一転してギリギリ生活になってしまったもんだから仕事をしないといけなくなって焦ってるんだけど、仕事が請けられないとなるとどうすればいいんだろう。


「困った……」


 依頼ボードにホーンラビットの依頼書を貼り付けガックリと肩を落とした。


「あれ? それいらない? だったら貰っていい?」


 僕が今、依頼ボードに戻した依頼書を貰ってもいいかと尋ねて来た人がいた。

 もちろん、僕には依頼が受けられないから返したのだから、持って行ってもらっても構わない。

 だけど、羨ましい……パーティがって事が羨ましいんじゃないよ? この依頼を受けられるのが羨ましいだけだから。


「はい、僕には受けられないそうなので、どうぞ」

「そう? じゃあ、遠慮なく貰うわね」

「はい……」


 ぐぬぬぬ…羨ましい……


 僕が戻したホーンラビット討伐依頼を剥がして行ったのは、女性二人組みのパーティだった。

 どちらも魔道士系に見える二人だ。

 一人は白いローブで自分の背丈ほどの長杖を持っていて、もう一人は黒いローブに長さ五〇センチぐらいの頭に大きな丸い魔石を付けた短杖を持っていた。二人ともフードを被っていたけど、フードをしていても脇から零れる髪の色は、白ローブの女性が青で、黒ローブの女性が赤だった。

 タボっとしたローブのせいで体系は分からないけど、身長は二人とも155センチぐらいかな? 僕よりちょっと高いぐらいだよ。うん、ちょっとだけね。そう、ほんの十センチぐらいさ。僕の中ではちょっとなんだよ!


 装備から見ても回復系の白魔道士と攻撃系の黒魔道士かな? 分かりやすいな。僕なんてスライム戦士って誰が見ても分からないだろうからね。

 っていうか、この世界にスライム戦士って職業ジョブあるの? 先生達の授業でも、今まで聞いた事が無いんだけど。


 恨めしそうな目で黒ローブの女性の握る依頼書を目で追いかけた。


「なに?」

「い、いえ……」

「この方も受けたいのではないのですか?」

「え?」

「え?」


 黒ローブの問い掛けに目を背けて否定を示すと、白ローブから声を掛けられた。

 意外な言葉だったので、僕も黒ローブも驚きの声を出してしまった。


「違いましたか? もし、そうならご一緒に如何でしょう。私達は二人のパーティですし、見ての通り後衛だけですから、前衛の方がいらっしゃると心強いのですが」

「なっ! ホワイティ! 何を言い出すのよ! ホーンラビットなんて私一人でも十分よ! こんな弱そうな子を態々誘わなくてもいいから!」

「いいえ、ブラッキー。あなたの実力は私も認めるところですけれど、あなたが魔法を放ったあとは素材が残らないではありませんか」

「むぐ…それはそうだけど……だからダンジョンに行こうって言ったじゃない」

「ダンジョンはDランクにならないと行けないのは、あなたも知ってますよね? 今の私達はEランクですから、もう少し依頼を熟さないとダンジョンには行けないではないですか。それに達成金だけでは心許ないので、素材もお金に換えた方がいいというのは分かってますよね?」

「むぅ……」


 えーと……今の会話で色々分かった事があるんだけど、どこからツッコんだらいいのやら。

 まず力関係でいうと、白ローブに軍配が上がるんだね。

 それとランクはEで、素材採取には向かない攻撃力を持った黒ローブ。だからダンジョンに行きたいがランクが足らない。

 でも、お金は欲しいから素材は売れる状態で狩りたい。確か、討伐数は勝手に冒険者ギルドカードがカウントしてくれるんだっけ。

 あれ? だったら、ハーゲィさんが“はぐれオーク”を討伐してないってバレちゃわない? あ、いいのか。僕と一緒に行ってるし、証拠に現物出してるもんな。もし聞かれたら僕が倒したって言えばいいもんね。

 でも白ローブがホワイティで黒ローブがブラッキーって…分かり易すぎだ。


「如何ですか?」


 ニッコリ笑って問い掛けられた。

 うわぁ……綺麗な笑顔だ。輝いてる……


「き…きれい……」

「へっ!? きれ…えっ! え?」

「え? あ…いや、そうじゃなくてですね。いえ、そうではあるんですけど、そうじゃないと言いますか。えと……すいません!」


 あまりにも笑顔が素敵だったから、つい呆けて口に出ちゃった。

 綺麗な人は母さんも含め、『クロスオーバー』の世界にも多々いたんだけど、こっちに来てからムサいおっさんと接する事が多かったから、つい見惚れてちゃってポロっと口から出てしまった。


「……」

「……」


 真っ赤になって押し黙る二人。

 見かねたブラッキーさんが割って入った。


「この子、あんまり免疫が無いから、程々にしてあげてね。で? どうするの?」

「え? あ、いえ…あの…すみません」


 困り顔でブラッキーさんに聞かれたが、僕も動揺していて上手く言葉が出なかった


「はぁ…依頼を受けてくるから、それまでに考えてて。ホワイティもそれまでにはシャキッとしてるのよ」

「……すみません」

「……」


 ブラッキーさんは溜息をついて受付に向かって行った。

 ホワイティさんはまだ顔を真っ赤にして俯いて黙ってる。

 なんで、口から出ちゃったかなぁ。普段は絶対出さないようにしてるんだけど。

 心の声を出そうもんなら、先生達から手加減知らずの補修の嵐だったからね。つい出てしまったもののほとんどが先生達に対する愚痴やツッコミだったのもあるから自業自得でもあったんだけど。

 だから、ポロッとの癖は治ったと思ってたんだけどな。


「あの…すみません…でした」

「はぅっ、い、い、いえ、ここここちらこここそ……」


 結局、ホーンラビット討伐依頼に同行する事になった。

ブラッキーさんが戻って来た時には、僕は復活してたんだけど、ホワイティさんはまだ上手く話せないようだった。

 これは暫く掛かりそうだね。僕もポロッと口に出してしまうのには注意しないとね。


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