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第17話 また金欠?


 始祖の城のメイド達に見送られ、夜の森に飛び出すキズナ。

 足には自信があるけど、やはりここは【ユニオン】した方がいいと考え、【クロスオーバー】で韋駄天の子供のテンちゃんを呼び出し【ユニオン】した。


 行きと違い、採取は諦め只管ひたすらに街道を目指して森の中を走りきった。

 街道に出れば、後は町を目指すだけ。先行してるハーゲィさんには追いつかないかもしれないけど、もしかしたらこちらに引き返して来てるかもしれないので、【ユニオン】を解除して街道を走った。


「ハーゲィさん……」


 門の前でオークの下敷きになって力尽きているハーゲィさんを発見した。

 今夜は色々とあって遅くなったので、もう門は閉まっている。

そうは言っても始祖の城に行って帰って来るまでの時間は二時間も掛かってない。一時間半ぐらいだと思う。それでも、始まりが遅かったので、今は夜半過ぎあたりだろうか。

門は日が暮れると大門が閉まり馬車の出入りが出来なくなり、それから二時間程で脇の小門での人の出入りもできなくなる。余程の緊急性があれば別かもしれないけど。

 だから、ここまで遅くなってしまえば門が閉まってるのも当たり前なんだけど、ハーゲィさんはなんであんな状態になってるのか。


 少し予想をしてみよう。

 自分より大きなオークを背負ってここまで走って…まぁ、走ってるつもりでも歩いてるより少し速いぐらいでしかないだろうけど、それでもここまでは辿り着いている。

 薬草採取に行った場所とそう変わりが無い場所だったから、徒歩で二時間強だったから、それより少し早いとしても一時間から一時間半、到着してからそんなに時間は経ってないと思う。


「ふむ、わかったぞ。ここでオークを解体して門兵に振舞って入れてもらおうとしてたのか」

「ちげーわ! ぜぃぜぃ……」


 ぜぃぜぃ息を切らせながら名探偵の僕にツッコみを入れるハーゲィさん。


「あ、起きてたんですね」

「ぜぃぜぃ…一回も寝てねーわ! ぜぃぜぃ」


 息が完全に上がってるにも関わらず、律儀に突っ込むハーゲィさん。


「だったら、何をしてたんです? さすがにハーゲィさんでも解体しないと、そのままではオークの皮も布団代わりになりませんよ?」

「ぜぃぜぃ……」


 ジト目になり、こっちを見るだけで突っ込まなくなったハーゲィさん。


「そろそろそこから出てきませんか? いつまでもオークの下にいると息苦しいでしょ?」

「そう思うなら早くどけやがれ! ぜぃぜぃ」


 僕の質問に、キレ気味に言い放つハーゲィさん。

 どうやら、僕の気遣いが通じなかったようだ。

 どけろと言われたのでオークの死骸をどけてあげたが、息が整わずまだゼィゼィ言って動けないようだ。

 これって昨日も見た気がする……デジャブ?


「水、飲みます?」


 未だにうつぶせのまま、コクコクと頷き、クイックイッと手で寄越せと合図していた。

 どうやら寝返りをうつ気力も残ってないようだ。

 やっぱりデジャブ?


 用意していた水筒を渡そうとしたんだけど、そのままじゃ飲めないので、ハーゲィさんを仰向けにひっくり返して背中を押して座らせてから水を渡した。力にはまぁまぁ自信があるからね。

 ハーゲィさんは渡された水筒を咽ながら何度かに分けて飲むと、ようやく息が整ってきた。


「ぶはぁー、助かったぜ。急いで戻ろうとしたんだが、ここまで来るのが限界だった。すまねぇな、キズナ。それで、バンパイアは来なかったのか?」

「バンパイアですか? ええ、来ませんでしたよ」


 来たのはアンダーバットだからね。バンパイアにも始祖の城で会ったけど、あの場には来てないから嘘にはならないよね。


「そうか、そうか、そうか……お前ぇが無事でホントによかったぜぇー……」


 俯いて呟くハーゲィさんの目からは涙が零れていた。

 本気で僕を心配してくれてたようだ。

 本当に人情深い、いい人だよなぁ。


「それで、どうしましょう。門は通れないんですよね?」

「ああ、通れねぇな。このままここで徹夜するのが一番安全だ。スタンピードでも無ぇ限り、あまり魔物は町には近付かねぇからな」

「そうなんですね。では、その間にオークの解体でもしておきましょうか?」

「いや、それは辞めておこう。今回の依頼は“はぐれオーク”の討伐だからこのまま見せた方がいい。“はぐれ”の特徴がある頭部分は潰れちまってるが、それでもこのままの方がいいだろう」

「はぁ……」


 ハーゲィさんが言うには、どの魔物でも“はぐれ”になると、耳なり目なり頬なり、どこかしらに傷を持ってるそうだ。

 群れから“はぐれ”になるのだから、群内での覇権争いに敗れて傷を負うからだそうだけど、それが“はぐれ”の特徴として確認されるのだとか。


 危っぶねー! 頭、潰しててよかったー! このオークは群れてたもんな。傷があったか見てないけど、これは僕のファインプレーだ!

 脳内で自画自賛してると、どちらかが見張りをしてどちらかが寝るか、それとも二人で起きておくか提案された。


 野宿を一日で二度も経験するとは。

 まだこの世界に来て二日目なのに、おかしな体験をするものだ。

 明日は昨日のように宿で寝ようと誓うキズナであった。といっても、昨日は食べ過ぎの苦しみでベッドを堪能できなかったから、明日こそはちゃんと寝たい。


 ハーゲィさんが言ってた通り、門の前は安全で、何事も無く日の出を迎えた。

 開門すると、早速ハーゲィさんがオークを担ぎ冒険者ギルドへ向かった。


「あ、ハーゲィさん。おはようございます」


 受付のラピリカさんから声が掛かった。

 朝早くからご苦労様です。

 一昨日同様にハーゲィさんと僕が一番乗りだ。今日は徹夜明けとも言うけど。

 昨日は宿からそのまま『初心者の森』に向かったもんだから、冒険者ギルドには寄ってないんだよね。


「おーラピリカ、おはよう。依頼を済ませてきた。確認してくれるか」


 おはようという気分じゃないだろうけど、笑顔で挨拶をするハーゲィさん。僕も遅れて挨拶をした。


「依頼というと“はぐれオーク”ですか?」

「ああ、大口窓口の入り口前に置いてあるんだ。向こうはまだ誰もいないだろ。開けてくれないか」


 冒険者ギルドには入り口が三つあり、一つは通常の入り口、一つは大口や大型の魔物のための買取用の大きな入り口、一つは隣接している食堂兼酒場の入り口。

 食堂兼酒場には冒険者ギルドのフロアからも入れるようになっている。因みに、冒険者ギルドでは安宿もやっていて、食堂から上がれるようになっている。一昨日、依頼を失敗してたらそこで泊まれる様にアルガン統括が手配をしてくれてたみたいだ。


 なんだろ、この世界はいかつい人が優しいのか? ギャップで攻めてくるのか?


「わかりました。開けに行きますので、表に回ってください」

「おお、頼むぜ」


 ラピリカさんはすぐに対応してくれて、ハーゲィさんが必死になって運んだオークを無事納品する事ができた。


「はい、確かに受け取りました。確認は買取・解体担当が来てからになりますが、オークを確かに受け取ったと伝えておきます。買い取りの方は如何いたしますか?」

「わかったぜ。今日は眠みぃから夕方にまた顔を出すぜ、そん時に分かるだろ。魔石も肉も全部買い取りで構わねぇからよ」

「毎度ありがとうございます。ええ、そうですね、判定も午前中には終わってるでしょう。あ、それとキズナ様には酒場から伝言を預かっています」


 すぐには依頼達成にならないんだな。と思ってたら、僕に酒場からの伝言があると告げられた。


「え? 僕ですか? はい、なんでしょうか」

「酒場のマスターから呼び出しを受けてます。何でも代金請求と伺ってますが」

「代金請求?」


 なんだろ。確かに大盤振る舞いをした覚えはあるけど、ちゃんと精算は済ませたはずなんだけど。足りなかったのかな?


「分かりました。では、この後行ってみます」

「お願いしますね」


 一昨日の薬草採取で金貨101枚稼いだものだから、酔ったハーゲィさんの勢いに乗せられて、店にいた客全員に奢ってあげたんだ。

 それでも、金貨十枚もあれば足りるって言われてたし、店の人にも帰る時に金貨十枚渡して納得してもらったはずなんだけど。


「じゃあ、俺は先に宿に帰ってるからよ。流石にもう眠いわ」


 ふぁ~と大あくびをするハーゲィさんを見送って、僕は食堂に向かった。


「すいませーん」


 食堂に入ると開店はしてるようだけど、まだ客は一人もいなかった。

 朝食もやってるんだね。今度食べに来ようかな。


「はーい」


 ウエイトレスの若いお姉さんが厨房から出てきた。


「モーニングセットですか?」

「いえ、僕はキズナというのですが、ここのマスターさんに呼ばれてるとラピリカさんから聞きまして、それで来たんですが」

「マスターから? あら何でしょうね。ちょっと待ってくださいね。マスター!」


 モーニングセットか。どんなセットなんだろ。凄く気になるんだけど。

 この『アナクライム』の世界って、コーヒーは無かったよな。じゃあ、紅茶かな? それとも果汁? パンに卵は付くのかな? サラダは?

 『クロスオーバー』の世界では、モーニングセットって言ったら、コーヒー・トースト・ゆで卵・サラダだったもんな。母さんの話では僕の提案だったみたいだから、これは日本人だった時の記憶から来るものかもしれないけど、『クロスオーバー』の世界ではよく食べてたよ。


 う~ん、モーニングセットが気になるなぁ。


「悪いな、待たせたか? ん? どうした、なに悶えてるんだ」


 モーニングセットが気になりすぎてクネクネとしちゃったみたいだ。ちょっと恥かしい。


「いえ、別に悶えてません。おはようございます、マスター。ラピリカさんに言われて来ました」


 シャキッとした感じで答えて誤魔化す。

 マスターは朝も出てるんだね、夜も朝もでご苦労様です。


「おー、昨日来なかったから逃げたのかと思ったぞ。実はな、一昨日の晩の飲み代なんだが、全然足りなかったんだ」

「えっ! そんなはずは……金貨を十枚渡しましたが」

「そうだな、金貨十枚は確かに貰ってる」

「だったら……」

「お前は先に帰ったから知らないだろうが、あの後もハーゲィが色々とやらかしてな。あの日の分はお前の奢りだって言うじゃないか。お前が支払ってくれるんだな?」

「はい、確かに僕の奢りでしたが、そんなに飲んだんですか? 因みにおいくらでしょう」

「やっぱり合ってたか。ハーゲィに直接請求しようと思ってたんだが、お前が支払って行ったって言うし、その後もハーゲィが「キズナの奢りだ! 飲め飲め!」って言ってたからな」


 確かに奢りだとは言ったけど、ハーゲィさんはどれだけ奢ったんだよ。


「あのー……」

「おぅ、飲み代だったな。全部込み込みで金貨九十枚だ。先に十枚貰ってるから、残りは八十枚だな」

「九十枚~!?」

「ああ、飲み代だけなら、あと金貨十枚もあれば足りるんだが、色々と壊しやがってな。その弁償も入ってる」


 どうやら、店で喧嘩をしたらしい。

 その時に、食器類や家具なんかも壊して、その弁償の分も入ってるそうだ。あと、怪我人のための上級ポーション代も含まれてるのだとか。


 ノオォォォォォォォォッ!!


 何してくれちゃってんの! 金貨九十枚も出したら、僕破産しちゃうよ? 備品なんかも買ったから、残りは金貨三枚も残らないんじゃない? おーい、ハーゲィさーん! どうしてくれんだよー!


 ここで揉めるわけにもいかないから、渋々支払ったよ。

 金貨一枚残れば三~四日は宿に泊まれて食事もできそうだけど、金貨101枚が一晩でパァ~って……ショックだぁ。

一体どんな暴れ方をしたんだよ!



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