第15話 後始末完了
急ぎ足の始祖について行くと、広くて天井の高い部屋に辿り着いた。
部屋の奥の方に重症だと思われる三人の人がベッドに寝かされていて、その手前や周りにも多数のベッドがあり、三十人以上の人が寝かされていた。
重症までは行かなくとも、怪我をしている人達だろう。
これが全部、僕のせいで怪我をしたんだと思うと、非常に胸が痛んだ。今後、投擲する時には対策を講じなければと、そう心に固く誓うのであった。
「これは…やはり……」
「そうだ。ここにいる全員がその鉄棒の急襲によって怪我をした者たちだ。さっさと戻って人数分のポーションを持って来い。特にこの重症の三人には特級ポーションを用意するのだぞ」
話を聞き、怪我がどの程度なのか確認するために、重傷者のベッドに近付いた。
「何をしている。さっさと行かないか。まさか金が無いからと断わる気では無いだろうな!」
「いえ、お金は大丈夫なんですが、何とかなるかもしれませんので、先に容態を確認しますね」
「何とかなるとはどういう事だ。ま、まさか、其方は回復魔法が使えるのか!」
「いえ、そういうわけでは無いんですが、まずは診てみますね」
使えると言えば使えるんだけど、これだけ重症だと使う魔法は上級魔法になるから、下級魔法しか使えない僕じゃ無理かな。
でも、魔法を使うより簡単な方法があるんだよね。
重症の三人にはそれぞれ看護している何人も付いていた。
その人達の隙間に立ち、三つのベッドを回ってそれぞれの容態を確認する。
うん、これなら行けそうだ。
でも、原因が僕のせいってのもあるし、何よりこれだけ重症の人に対して失敗はしたくない。念のために保険をかけたいところだね。
「すいません、トイレは何処でしょう?」
「トイレか、何とも緊張感の無い奴だ。おい、連れて行ってやれ」
始祖に命じられたメイドがトイレまで案内してくれた。
「うおぉ! 広いトイレだなー!」
つい言葉に出してしまったけど、本当に広いトイレだった。今、泊まってる宿の部屋より広い。
でも、これなら喚び出せそうだね。
【クロスオーバー】ウーリン!
トイレの床に魔法陣が現れゲートが出現した。
そのゲートの奥から現れたのは水の妖精ウーリンだ。
「キズナ様ー!」
「シッ!」
出てきた途端、大声で抱きつこうとするウーリンを静かにするように諌めた。
「え……」
「ごめんごめん、ここでは大きな声を出しちゃダメって言おうとしただけなんだ。全然怒ってないから機嫌を直してよ。ね?」
いきなり叱られたと思ったウーリンが泣きそうになったので、必死で慰めるキズナ。
その甲斐あって、ウーリンはすぐに笑顔になった。
「怒ってない?」
「うん、ぜーんぜん」
「よかった!」
「うん、僕の方こそ。それでね、あまり時間が無いから手短に説明するよ?」
「うん!」
出来る限り小さな声で話し合う二人。それというのもトイレの外にはここまで案内してくれたメイドさんがいるからだ。
「まず、ウーリンがいる事や【クロスオーバー】の事は内緒にしたいんだ」
「うん、キラリちゃん達から聞いてるよ」
「その上で、怪我をしてる人を治したいんだ」
「うん、私の得意なやつだね?」
「そう、ウーリンは水妖精だけど、回復の泉の水妖精だもんね」
「そうなの! 私は治すの得意だよー!」
「だからさ、【ユニオン】して力を貸してくれる?」
「うん、わかった! 私に任せて!」
「じゃあ、行くよ!」
「いいよ!」
「合体魔法」
「「【ユニオン】!」」
合体魔法【ユニオン】を使うと、融合した者達の特徴が大なり小なりキズナの身体に現れる。
今回の水精霊ウーリンとの【ユニオン】の場合、ウーリンの特徴でもある身体の色がキズナに現れた。
その特徴的な青い身体の色がキズナに現れたのだ。
ウーリンほど真っ青ではなかったが、それでも一目見て薄い青色と分かる……顔色が悪いとは思われる色だった。
怪我人のいる部屋に戻ると、早速重症の三人のところへ向かった。
「どうした、顔色が悪いな。緊張でもしてるのか」
「いえ、あ…そ、そうですね、緊張してます。しまくってます」
誤魔化すにもちょうどいい設定だ。そのまま緊張してる事にしといてもらおう。
「すいません、瓶が無いので直接怪我人の上でやりますので、少し濡れるかもしれませんが、すぐに乾きますので気にしないでください」
「な、何をする気だ!」
説明してもいいんだけど、さっさとやってしまいたい。
母さんから面倒事には率先して関わるようにとは言われたけど、それとは違うと思う。
うん、このままやってしまおう。
「おい! 説明しろ!」
と言う始祖を無視して患者の顔の上に両手を出した。
両手の中にはさっき採取した薬草が握られていて、今から直接ポーション精製を始める。
複数の薬草からの薬効抽出・回復効果成分のある水錬成・魔力融合・成分合成・錬金・精製。
合わせた両手を膨らませ、その中で作業を行なう。
容器が無いので、魔力操作に長けていても少しぐらいは顔に水滴は落ちる。
水滴が落ちた所では、回復効果アリを示すように、僅かに光を灯し傷もやや回復する。患者も少し楽になった表情に変わる。
すると、横で煩くしてた始祖もそれを見て大人しくなる。
ポーション精製が終わり、患者の口元に手を近づけて、ギュッと絞る。
ツーっと手からポーションが流れ落ち、患者の口に吸い込まれた。
手の中にある全てのポーションが無くなった時、患者の身体から淡く優しい光が放たれた。
ポーションの効き目があった証拠の光だ。
俄かに『おおー』っとどよめきが起こるが、ここは怪我人の沢山いる部屋。そのあたりは全員が弁えているのか小さなどよめきだった。
患者の表情が穏やかなものに変わり、顔にあった傷も消えている。呼吸も安定しているのを確認すると次の患者に向かった。
すると、何人かの介護人が付いてきて、三人目の時には多くの介護人に囲まれる中で行なう事になってしまった。
目立つのが嫌というわけじゃないけど、自分の力だけで出来たのではないので気恥ずかしい気持ちもあって堂々と自慢する気になれない。
やはり、ウーリンの力が大きかったと分かっているし、今回ウーリンの力を借りれたので、治療もできた事はいい判断だったとは思ってるんだけど。
周りからの視線に居たたまれなくなったので、少し部屋から出たかった。
「あの、少し外の風に当たってきます」
「ああ、顔色を見る限り、その方がいいだろう。三人の容態も安定したようだし、今は休んでくれ」
許可も出たので外に出た。
そこで見たものは瓦礫となった壁などの残骸だった。
「そうだった、壊れてたんだった。これも僕のせいなんだよね。余計に気が滅入るな、残りのポーションでも作って気分転換しよっか」
折角、外に出たのに気分転換にならない。別の事でもして気を紛らわしたい。
そう思って、まずはポーションでも作ろうと瓦礫に近付いた。ポーションのための瓶作りだ。
石が多そうな所を見繕って錬成を開始した。
収集・解体・錬成・収集・錬成・魔力注入・合成・錬金・精製。
途中、錬成の時にポーションの成分を含む水を練り込むと、回復効果が上がる瓶ができる。効果の日持ちも長くなる。
回復(小)が回復(中)ぐらいまで上がる効果が出て、賞味期限も長くなるという事だ。
良いポーション瓶にはそれ程の効果があるのだ。
折角の機会だし、少し多めに作っておくか。薬草もまぁまぁあるしね。
そう思って、回復(大)を十個と、回復(小)を百個作った。回復(小)とは言っても、ポーション瓶の効果で回復(中)になっている回復薬だ。
自分で持つ分は五本もあれば十分なので、あとはここに置いて行こう。
「【リリース】」
ウーリンとの【ユニオン】を解除した。
「ウーリン、ありがとう。助かったよ」
「いいの、役に立てて良かった。今日はもうお終い?」
「そうだね、まだここでお話もあるし、ここの片付けもしないといけないんだ。だからゴメンだけど今日はお終いだね」
「わかった、また喚んでね」
また【クロスオーバー】でゲートを出しウーリンを見送った。
さて、この瓦礫もやってしまおうか。
「【クロスオーバー】ノムヤン!」
また魔法陣が現れゲートが出現し、一人の妖精が出てきた。
帽子を被った小さな男の子で、手にはスコップを持っていた。
「ノムヤン、来てくれてありがとう」
「いいっていいって。こっちこそキズナ様に会えて嬉しいから」
「それで早速だけど、ここの瓦礫を元の壁の状態に戻したいんだ。手伝ってくれる?」
「わかったわかった。壁の修復と補強だろ? 任せとけって、オレの得意分野だ」
「そうだよね、ノムヤンは土の妖精だから得意だと思って喚んだんだよ」
「そうかいそうかい。だったら早くやろうぜ」
「うん、そだね。合体魔法」
「「【ユニオン】」」
キズナと土の妖精ノムヤンが合体した。
今回キズナに現れた特徴は帽子だった。ノムヤンの帽子はピッピの羽のような身体の一部だったのだ。
「さてと、早速やっちゃいましょうか」
壁の補修&補強は簡単だ。ただ規模が大きいだけ。土魔法でも初歩中の初歩。コツとしては、仕上げた後に自分の魔力を残さないようにする事だ。
仕上げた壁に魔力が残ってると、その魔力が消えた時に、そこから崩壊が始まるんだ。だから、土魔法で作った後に魔力を抜いてガチガチに固めてやらないと長持ちしないんだ。
もってせいぜい五〇年ってとこかな。でも、魔力をしっかり抜いてやると半永久的に建ち続けるんだよ。
補修にはキズナ一人でも十分可能だったのだが、土の妖精の協力を得られればあっという間に完了した。
さすがノムヤンとキズナは感心しているが、ほとんどキズナ一人でやったようなものだ。【ユニオン】せずとも十分なほどレベルが上がっているのだが、元々広く浅くの実力のキズナは、規模の大きな補修工事だったため、ノムヤンのお蔭だと思い込んでしまっていた。
壁の補修工事を終えると、ノムヤンをすぐに還して回復薬を集めると、さっきの怪我人の待つ部屋へと戻った。
「ふむ、顔色は良くなったようだな。あとは壁の補修だけでいい。残りの怪我人の方は二~三日もすれば治るだろうから、補修業者の手配を頼むぞ」
顔を見るなり、始祖からそう声を掛けられた。
一応、顔色を気にしてくれる辺り、優しい部分も持ってる人のようだ。
「その件なんですが」
「ん? 補修工事の分の金か。本来ならそちら持ちだが、今回はよい。すぐにこの者らを治してくれた事で大目に見てやろう。其方は業者を手配してくれればいい」
「いえ、補修工事は終わらせました。それとこれは残りの怪我人の分です」
「なに! 終わっただと? それは誠か!? それにその薬はさっきの回復薬か」
「いえ、これはさっきのより効果は低いですが、ここの人達の怪我程度なら治せると思います」
「ふむ、わかった。これは頂いておこう。それより補修工事が終わったとは信じられん。確認するぞ」
確認すると言った始祖は、自分だけ先に出て行った。
この人は、誰かが付いて来るとかどうでもいいのかもな。
「なんと! 本当に直ってるではないか!」
「はい、これでいいですか?」
「ふむ、よい。完璧だな。前より綺麗になっておる」
「では、これで許してもらえますか?」
「ふむ、いいだろう。回復薬も余分に貰ってこれだけの仕事をしたのだ。其方を許してやろうではないか」
「ありがとうございます」
ほっ、やっと許してもらえたか。
そうだ! ホッとしたらハーゲィさんの事を思い出したよ。早く帰らないと心配してるかも。
「どうもすみませんでした。では、僕はこれで。あっ、そうだ! さっき会った場所にバンパイアがいたんですけど、何か知ってますか?」
「バンパイア? そんなところにバンパイアなどおらぬはずだが……いるとすればアンダーバットぐらいだが」
「やっぱり……」
やっぱりあれはアンダーバットだったんだ。ハーゲィさんは、なんでバンパイアだなんて言ったんだろ。
「それがどうかしたか」
「いえ、そのアンダーバットがいきなり襲って来たんです。その時に友達に危害を加えられて助けようとコレを投げたらこういう事になってしまって……」
【スラ五郎】を見せて、自分に非は無いと少しアピールしてみた。
今さらだけど、言い訳にはなるんじゃないだろうか。
「ん? アンダーバットは余の家来の下僕だ。そうか…アンダーバットが原因か」
「あなたの家来の下僕……」
「そうであったか。原因はこちらにあったか……」
もしかして、こいつが元凶? じゃなさそうだね? だってこいつの家来の下僕って言ったら、こいつが大親分なわけだけど、何も知らなかったみたいだし。
でも、家来の下僕が手を出してきて、その報復を受けたトバッチリで城が壊れただけだろ? だったら自業自得なんじゃないの? 城を壊した責任だと思って修理したけど、修理する必要はなかったんじゃない?
さすがに見知らぬ人とはいえ、怪我をしてたら助けてあげたいから、さっき回復薬で治してあげたのは後悔はしてないけど、城の修理までする事はなかったんだよ。
「ふむ、しばし待て」
始祖は少し考え込むと、近くのメイドに指示を出し、再びこちらに向いた。
「其方の話を纏めると、余の家来の下僕であるアンダーバットが其方と敵対したのだな。その戦闘の結果、其方の投げた鉄棒が城を襲撃したと。そう言いたいのだな?」
「はい、その通りです」
「先に手を出したのは?」
「そっちです」
「ふむ、これは弁解の余地がないの。さて、どうする。余と戦うか」
え? そうなるの? でも、家来の下僕の仇を討つという意味では合ってるか。
でも、もう全部終わった件で戦う意味がある?
いやいや、母さんにも面倒事には積極的に関われと言われたけど、面倒事を作りたいわけじゃないんだよ。
ここは戦わない方向でお願いできない?




