第14話 始祖登場
「キズナ様ー! 大漁大漁! こいつらどうするの? ここで止めをさす? それともこのまま持って帰る?」
「持って帰れるの?」
「うん、夜の間なら影も多いし大丈夫だよ。生きてるのが多いけど、持ち帰れば先生達もいるしね」
凄いな、カゲールくんは。相当な数の魔物を取り込んだ能力もそうだけど、それをそのまま持ち帰れるとは。
カゲール君たちだけだと心配だけど、先生達がいれば安心だしね。
「だったらお願いしようかな」
「うん、わかったよ。先に一度戻ってもいい?」
「そうだね、このままじゃ安心できないからそうしようか」
「キラリは?」
「そっか、キラリちゃんも一緒に帰ってもらおうか。【リリース】」
【ユニオン】が解除されキラリちゃんが現れた。
「キラリちゃん、ありがとう助かったよ。【ユニオン】してなかったら危ないところだったよ」
「え? それほどでも~?」
アンダーバットからの攻撃を防いだのがキラリちゃんとの【ユニオン】のお陰だと思ってお礼を言ったキズナなのだが、【ユニオン】中の記憶がないキラリちゃんは意味も分からず返事をしていた。
実際にはキラリちゃんとの【ユニオン】で、アンダーバットの攻撃を防ぐほどステータスは上がらない。キズナのレベルが異常なほど急激に上がった事で防御力が強化されたためにアンダーバットの攻撃が一切通らなかったのだが、キズナはそれをキラリちゃんとの【ユニオン】のお陰だと思い込んでいた。
だが、それを説明できる人はこの場にはいなかったのだ。キズナの勘違いはもう暫く続くだろう。
「キラリちゃん。カゲールくんは帰るんだけど、キラリちゃんも一緒に行って色々と説明を頼めるかな?」
「うん、いいよ」
「じゃ、二人とも頼んだよ。【クロスオーバー】」
いつもなら声に出さないけど、二人にも分かるように【クロスオーバー】と声に出した。
地面に魔法陣が描かれ、その魔法陣からゲートが現れる。
これも一回なんだろうか。帰り用だからカウントされないんじゃない?
だって、昨日のスランチ達はゲートを一回出しただけで何度か往復してたもんな。あれは一回のカウントだろ? そうじゃないと合わないもん。スランチ達は延べ二十往復はしてるはずだし、ピッピも一緒に帰ってるんだからね。あの時は十回分も無かったはずだし、それでいて今日もキラリちゃんとカゲールくんを喚び出せたんだから、やっぱり一回なんだよ。
他の事は一通り教わったんだけど、スキル【クロスオーバー】に関しては実践あるのみって言われて、詳しい情報は教わってないんだ。
『クロスオーバー』の世界ではカウントについてはよく分からなかったからな。だって同じ世界で喚んだって転移みたいになるだけだし、カウントの法則も教えてもらってないんだもん。
今日の所は問題なく喚べたし還す事も出来た。
明日からは、また【クロスオーバー】を使うために魔物を倒して経験値を稼がないとね。と明日からの予定を立てるキズナであった。
さてと、ハーゲィさんは何処まで行ったかな。もう大丈夫だと伝えてあげないと。
「ふぅー…やっと…着いたか。くっ…これは…君の…か?」
急に呼び掛けられて、吃驚して声のする方に振り向いた。
すると、さっきバンパイアが現れた空中にバンパイアとは違う奴がいた。
ただ、あれって……あの手に持ってるのって【スラ五郎】だろ? ずっとプルプルしてるんだけど。
「凄く…重いんだ…が、もし…其方の…なら…」
「はい、僕のです。態々届けに来てくださったんですか?」
重くてプルプルしてたんだね。メインは鉄で超圧縮したから、まぁまぁ重いとは思うけど、そんなにプルプルするほどかなぁ。
見た目は僕のよく知るバンパイアの親分、吸血鬼種の中でも上位種に当たる始祖だ。『クロスオーバー』の世界の、確か十三位までいた始祖達にソックリだ。
目は……大丈夫そうだ。この人なら話が通じるんじゃないかな。呼びかけられた時も殺気はまるで感じなかったからね。
「そう…だな。色々と…言いたい…事が…あるが…まず…は、渡そうと…思う……もう、これを…落としても…いい…か?」
飛んでるんだけど、すごく辛そうだ。浮遊状態も上下していて安定してない。そろそろ限界なのかもしれない。
「はい、そのまま落としてください。下で受け取ります」
もう耐え切れなかったのか、始祖はすぐに手を離した。
【スラ五郎】が落下して来るのを確認すると、透かさず落下地点に回り込み【スラ五郎】が落ちて来るのを待った。
そして、そのまま落下してきた【スラ五郎】を地面に落ちる前にパシッと受け止めた。
「なっ! なぜそんなに軽々と……」
「ありがとうございます。こっちに来て初めての武器らしい武器なんで、少し愛着が湧いて来たとこだったんですよね。いや、助かりました」
上を見上げながら柔やかにお礼を言った。
「其方は、力持ちなのだな」
始祖はそう言いながら僕の前に降りてきた。
態々届けてくれたんだから、お礼に何かしたいところだね。
「いえ、それ程でも無いですよ。でも、態々届けてくださったのですから、何か僕に出来る事があったら言ってください。出来る限りの事はさせてもらいますから」
「そうか。では言わせてもらおう」
それは、さっきまでプルプルしてた人とは思えないほど威厳を持った態度だった。
あれ? この始祖って女性だったの? 話し方も男性っぽかったし、タキシードみたいな服を着てるから男性だと思ってた。
見た目年齢は二十歳過ぎぐらいかな? でも始祖って寿命がバカほど長かったはずだ。見た目以上に年を食ってるはずだよね。
でも、僕と同じ黒髪なのは好感が持てるよ。目は金色だね。赤目じゃなくてホント良かったよ。
「賠償を求める!」
「へ? 賠償…ですか?」
いきなりの賠償請求に戸惑うキズナ。
「そうだ! その鉄の棒が余の城に突き刺さり、城の壁が一部崩壊した。三名のメイドが大怪我を負い、現在も治療中だ。その損害賠償を求める!」
「え……?」
どうやら僕が投げた【スラ五郎】が、この始祖の城を襲ったようだ。
その結果、壁が大破し、巻き込まれたメイドが重症を負って現在も治療中。
確かに、申し訳ない事をしてしまった。相手が魔物の類いとはいえ、これは償うべきだろう。
しかし、賠償ってどうすれば出来るんだろう。お金で解決するものなのか? 昨日、使いすぎちゃったけど、使わなかったとしても城の修理って相当な金額だろうし、何とか別の方法にならないかな。
「それは申し訳ありませんでした。もちろん、償うべきだと思いますが、その賠償というのはどうすればいいんでしょうか」
「ふむ、話が早くて僥倖だ。それでは城まで来てもらおうか」
「今からですか?」
「当たり前だ! メイドが大怪我をしているのだ。治してやらねばならぬだろう」
それって回復魔法ありきの話だと思うんだけど、僕って魔術師に見えるのかな。多少なら回復魔法も使えるんだけどさ。
「回復魔法で治すんですよね?」
「もちろんだ。だが、其方は戦士のようだ。だから特級ポーションで手を打とうではないか。そのためにも一度城に来ないと届ける場所が分からんだろう」
確かに城の場所を知らないや。まずは城に行って、ポーションを取りに戻れという意味かな? ちょっと言葉足らずな人みたいだね。
ハーゲィさんの事も気になるけど、こっちは重症だと言ってるし、それが僕のせいなのであれば尚更放ってはおけないよね。
「分かりました。では城まで行きますので、案内をお願いします」
「ふむ」
返事をした始祖は、そのまま来た方向に振り返ると、そのまま飛び去って行く。
何の確認もせずに飛び立ったものだから、慌てて始祖を追いかけた。僕は飛べないから走るしかないんだけど、それでも余裕をもって追いかける事ができた。
足には自信があるからね。これぐらいのスピードなら、もっと深い森でも大丈夫だな。
少し余裕もあるし、折角森の奥部に行くんだから、いい薬草や調味料があれば採取してもいいな。
始祖を追いかけて五分ほど走ったら、大きな城が見えてきた。五分とは言っても、かなりの距離を移動してきた。凡そだけど、森の端からオークの集落までの十倍ぐらいは移動したと思う。
しかし、まぁまぁのスピードで追いかけてたんだけど、始祖は一度も振り返らなかったよ。
ちゃんと付いて来てるのが分かってるのかな? それとも、そういうのを気にしない性格なのか?
ま、こっちを向いてないんなら少しぐらい寄り道したって分かんないよね? 折角こんなに薬草が豊富な場所まで来てるんだから、そりゃ薬草採取師の血が騒ぐってもんだよ。そんな職業があるかどうかも知らないけど。
城に着くと壁には大きな穴が開いていて、瓦礫も散乱していた。龍の襲撃にでもあったような悲惨な光景だ。
うーん、【スラ吾郎】を無闇に投げると、運が悪ければこうなるのか。大惨事になっちゃってるよ。
「こっちだ」
城が破壊されている状況を眺めていると、始祖から声が掛かった。治療中だというメイドの所へ案内されるのだろう。
あとで、城の修復もしてあげないとな。
でも、今は怪我を治すのが先だね。どういう状態なのか確認を急がないと。