第13話 アンダーバット退治
ハーゲィさんが去った後、心配していたカゲールくんが出てきてくれて怪我の無い事が確認できた。
キラリちゃんも隠れていたようで、こちらの様子を確認すると出て来てくれた。
「よかった、怪我は無いんだね」
「うん、大丈夫だよ。ちょっとビックリしただけさ」
「わたしも心配したんだよ。怪我が無くてよかったー」
「ゴメン、ちょっと油断しすぎちゃった。マリア様にあとで叱られるかな」
「う~ん、報告はしないといけないものね。でも、キズナ様の活躍を教えてあげれば大丈夫なんじゃない?」
「そっか、そうだね。さっきのキズナ様、格好よかったもんね」
「そうそう、格好よかったね」
なぜか母さんの名前が出てきたけど、皆、戻ったら母さんに報告してんの?
何やってんの、母さんは! 僕は修行に来てるんだから危険はつきものなんだよ。この子達を責めないであげてよ。じゃないと、次から喚びにくくなっちゃうじゃないか。
せっかく小さな二人が喜んで飛び回ってたのを見てホノボノしてたのに。台無しだよ。
ここはハッキリと伝えとかなくちゃ、だね。
「キラリちゃんもカゲールくんも戻ったら母さんに報告するの?」
「ななななんの事でしょう」
「そそそそうだね、何の事かなぁ」
何を誤魔化してんの? 今、二人で言ってたじゃないか! もしかして秘密だったの? その動揺っぷりをみると秘密だったんだな? まったく何やってんだよ、母さんはー。もう聞いちゃったよ。
だけど、僕にも秘密にするぐらいだから、僕が知ってるって母さんにバレたらこの子達が叱られるんだろうな。聞かなかったフリをしてやるか。
「いや、もしかしたら、そうなのかなぁって思っただけ」
「そそそそんなわけないわよね」
「そそそそうだよね」
「でも、もしさ、母さんと話す事があったら言っといてほしいんだけど、もし君たちが叱られるような事があるんなら、次からは喚びにくくなるから叱らないで欲しいと僕が言ってたって伝えてくれる?」
「うん、わかったよ」
「うん、ちゃんと伝えるよ」
ちゃんと伝えてくれるかな? 次に誰かを喚んだ時にでも確認しよう。
さ、今はバンパイアだな。
「あのさ、話は変わるけど、さっきの奴ってバンパイアかい? どうも僕の知ってるバンパイアとは違うようなんだけど」
「え? 違うわよ。さっきのはバンパイアじゃなくて…なんだったかしら」
「アンダーバットだよ。バンパイアの部下の下っ端で、人間のフリをしたがるコウモリの魔物だよ」
そうだそうだ、そんな奴がいたっけ。弱いくせにムキになって向かって来る奴。そうそう、確かにいたよ。
という事は、そろそろ来るかな?
「キズナ様、どうするの? やっつける?」
「当然じゃない。だってカゲールに嫌がらせをしたのよ、キズナ様がぜーんぶ倒してくれるわよ。ね、キズナ様」
別にそれでもいいんだけど、もう怒りがどっかに行っちゃったし【スラ五郎】も何処かに飛んでっちゃったしな。
魔法だけでも倒せると思うけど、ちょっと心許ないんだよな。
「数が分からないからちょっとね。そうだ、キラリちゃんと【ユニオン】しよっか。そしたら何とかなるんじゃないかな」
「え? 【ユニオン】? やるやるー! 絶対やるー!」
「だったらボクは倒して落ちて来た奴を影に閉じ込めるよ」
「うん、カゲールくんにはそっちを任せるよ」
「うん!」
「じゃあ、キラリちゃん、準備はいいかい?」
「もちろんよ!」
「合体魔法」
「「【ユニオン】!!」」
合体魔法【ユニオン】を使い、キラリちゃんが僕の中に取り込まれた。
これで、キラリちゃんの能力も使えるようになった。
キラリちゃんの得意技は光魔法と飛行だ。
光魔法は僕にも使えるけど、キラリちゃんの光魔法は僕と違って上級まで使える。アンダーバットは光が苦手だから天敵とも言える光魔法はこちらとしては都合がいい。
「そろそろ来たみたいだね。ボクは影に潜るよ」
「わかった。まずは光魔法で目を眩ませるから、落ちてきたら影に閉じ込めてね」
「了解だよー」
返事をすると、カゲールくんは影の中に沈んで行った。
それを確認し、僕は真上へと浮遊を開始した。
ゆっくりと真上へと浮遊して行くと、前方180度全体からアンダーバット達が押し寄せてきた。森の外から入ってすぐの所だから、後方から来る奴はいない。
数としては百体はいるのではないだろうか。雑魚のくせに数だけは多い。しかもこいつらはしつこいのだ。
しかし、飛行して来る者はいない、全員樹上を走っている。こいつらって飛べなかったっけ? さっきの奴は飛んでたような……
そんな奴らを僕は樹上より三メートル上で浮遊して待ち構える。
目が真っ赤になってるのは既に確認済みだ。僕は視力には自信があるんだよ。
一番前の奴が近付くまでジッと待つ。出来る限り引き寄せてからの方が効果が高いからだ。
十メートル…九メートル…まだだ、まだ我慢だ…六メートル…五メートル…まだ、あと少し……ジャンプして来た! …一メートル…今だ! なに!?
身体全体を光らせる魔法【フラッシュシャワー】を発動しようとした直前、僕の身体が拘束された。ロープのようなもので身体を巻き付けられたのだ。
「これは…蜘蛛糸か……あっ、さっきの! ぐっ」
そう口に出た時には初撃を顔面に食らってしまっていた。
引き付けすぎていたので両手諸共身体を蜘蛛糸で巻かれ、自由が利かなかったのだ。
奴らの武器は鋭い爪。その爪で僕の顔面を突いてきたのだ。
ガキィッ!
バンパイアの鋭い爪がキズナの顔面にヒット!
ちっ! さっき倒したアンダーバットが空中で引っ掛かってたのは蜘蛛糸だったのを思い出した。こいつら蜘蛛の魔物と組んでたんだな。
くそっ、そこまで気が回ってなかった。仲が良くないと思い込んでた僕のミスだ。この世界ではアンダーバットと蜘蛛の魔物は組んでたんだな。
でも……
「あれ? 痛くない……なんで?」
顔面を強襲されたキズナはほとんど動いてない。逆に強襲した側のバンパイアが吹っ飛び腕を押さえて蹲っている。
キズナが不思議に思うのも無理はない。彼は自分のレベルが多めに見積もっても10だと思っているのだ。
だが、今日の探索中に倒した魔物と、先ほど倒したアンダーバットでレベルが150を上回っていたのだ。
ここに群がって来るアンダーバットは一番強い奴でも、せいぜいレベル25だ。
元々の基礎能力が天と地ほど違う上に、これだけレベル差があると、攻撃は全く通らない。逆に、攻撃したアンダーバットが弾き飛ばされ、爪が全て折れていた。
「なんだか分かんないけどチャーンス!」
これで決まったと思ったアンダーバット達が一瞬気を抜いた隙に、腕に力を入れて強引に蜘蛛糸を引き千切った。
「ふんっ!」
キズナが身体に力を入れると、拘束していた蜘蛛糸がブチブチと音を立てて千切れた。もうキズナを拘束するものは無い。
【フラッシュシャワー】!
キズナの全身が光り輝いた! そして、全方位に収束した光の雨を降らせる。キラリちゃんの得意技、光魔法だ。
キズナも光魔法は使えるが、ここまで広範囲に渡る強烈な光魔法はまだ使えない。
目を焼かれたアンダーバットが悲鳴を上げて樹上から落ちて行く。と同時に、他の魔物も光のトバッチリを受けて落ちて行く。
大半はアンダーバットと蜘蛛の魔物だったが、別の魔物や動物達も一緒になって落ちて行く。
下で待ち構えるのはカゲールくん。カゲールくんの得意技は影に潜る事と操作する事だ。
その影に潜る得意技を応用して、魔物だけを影の中に捕らえていく。動物は捕らえないように選別するぐらいカゲールくんにはお手の物だった。
現在は夜、全体が影だ。地上はカゲールくんの独壇場となっていた。
僕はそのまま樹上一メートル上を飛行し、取り零してるアンダーバットがいないかどうが確認をし、見つければ叩き落してカゲールくんに任せた。
そして十分後、もう取り零したものはいないようなので、地上へ降り立ちカゲールくんと合流した。
第09話と第12話に加筆しました。
オーク⇒二メートル半
ハーゲィ⇒180センチ
少し話も加えてますが、話の流れは変わってませんので、そのまま続きをお読み下さい。