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第11話 森探索一日目


 それからハーゲィさんと町へ繰り出して、道具や食料なんかを見て回った。

 僕は背負いバッグや食材や調味料と鍋などの調理器具を少々購入し、ハーゲィさんはポーション類を補充していた。

 調味料は大したものが無かったのが残念だったけど、森に行けば調達できるから問題ない。

 昨日は時間もあまり無かったから採取しなかったけど、今日は調味料も探すと考えて動けばそれなりに見つかるもんなんだよ。


 何とか昼前には町を出る事ができたので『初心者の森』には、まだ太陽が高いうちに到着できた。

 目的は『はぐれオークの討伐』だ。まずは見つけないといけない。

 そこで、だ。【クロスオーバー】の事を教えてもいいのかどうかから決めないといけない。

 ハーゲィさんはいい人だ。秘密も守ってくれるかもしれない。でも、【クロスオーバー】を教えるって事は“友達”も教える事になる。

 僕の記憶によると、この世界にもメジャーじゃないけど召喚魔法はあったはずだ。

でも、特定の何種類かを喚び出す魔法だったと思う。

 僕の場合は、友達なら誰でも喚べるし、しかもその友達は全員話せるからね。説明にも時間が掛かるし、秘密が守れるかも心配だ。

 まして、僕の友達には魔物も多い。僕には見分けがつくけど、この世界の人達に見分けがつくかどうか……

 レア魔法が知れると、非常に有用な場合、拘束される場合もあるとも習った。


 んー…今回は【クロスオーバー】無しの方向で行くしかないかな。

 でも、それだとレベル7の僕でオークに太刀打ちできるのだろうか。

 いや、相手が一体ならいいんだけど、昨日のように群れだと心配なんだよね。


 あっ! 二人いた! 光の妖精キラリちゃんと闇の妖精カゲールくん! そうだよ、この二人ならこっそり喚び出しておけばバレないぞ。


 二人喚び出してもレベルは5を維持できる。ピンチの時にはまだ喚ぶ余裕がある。

 よし、森で休憩する時にでも喚びだそう。



 森に到着してすぐにハーゲィさんから休憩しようと提案された。


「本格的に森に入る前に休憩するぞ。森に入ればしっかりとした休憩が取れないからな」

「わかりました。でも、それなら野宿の場合はどうするんですか?」

「またここまで戻ってくるか、どこでもいいから森から出るこった。昼の森でも長休憩はできんのに、夜の森は危険すぎて小休憩もできんからな」


 ここは『初心者の森』じゃなかったの?


「あの、ここは『初心者の森』とも呼ばれてる森でしたよね?」

「そうだぞ、冒険者ギルドでは『初心者の森』と呼ばれるな」

「だったら、そんなに強い魔物はいないのでは?」

「確かに昼間はそうだ。昼間だったら森の最強の魔物はオークだ。だが夜は違う、奴らが出てくるのだ」

「やつら?」

「ああ、奴らだ」


 ハーゲィさんが周囲をキョロキョロと見回し、誰もい無い事を確認して小声で僕の耳元で囁いた。


「バンパイアどもだ。奴らは完全なる夜行性で昼間は絶対出て来んのだが、夜は奴らの独断場だ。Aランク冒険者でも苦戦するんだ」

「バン……」

「シッ! 奴らは昼間はいないが耳がいいと聞いている。何処で聞かれてるかも分からんからな、あまり奴らの名前を出すな」


 指を口に当てて大きな声を出すなと言うハーゲィさん。

 バンパイアってそんなに強かったかな? 『クロスオーバー』にいるキューキさんは僕より弱いんだけどな。こっちのバンパイアは強いのかな?


「だったら、昼間に根城を見つけてさっさと討伐してしまえばいいのに」

「それがそうも行かんのだ。まぁ今はそれよりオークだ。小休憩したらとっとと行くぞ」


 それでも、結界を使えば野宿だってできるのでは? という疑問は、これ以上は長くなりそうだったので口には出さなかった。

 小休憩と言ってたので時間も無いので、【クロスオーバー】を使うために『小便です』と言ってその場を離れた。



 【クロスオーバー】キラリ! カゲール!


 前回と同様に地面からゲートがせり上がってくる。

 そしてゲートから出てきたのは、ピッピと同じぐらいの羽の生えた小さな女の子と男の子。キラリちゃんとカゲールくんだ。


「「キズナ様―!」」

「二人ともよく来てくれたね、ありがとう」

「キズナ様、もっと喚んでくれてもいいじゃないか」

「そうよ! もっともっともーっと喚んでくださーい」

「そんな事言っても君達を喚ぶのに制限があるのは知ってるだろ? これでもまだ三回目なんだよ」


 不満を言うキラリとカゲールを宥めるキズナ。

 本当は今ならもう何度でも喚べるのだが、キズナはまだ気付いてない故の回答だった。


「わかったよ。じゃあ、喚べるようになったら十回は喚んでよ」

「わたしは百回でも二百回でも喚んでほしい!」

「だったらボクは千回だ!」

「わたしは……千…いっかーい!」

「じゃあボクは千…二回!」

「わかったわかった、たくさん喚んであげるって」


 いつまでもキリが無いので宥めて止めるキズナ。


「それでね、あんまり時間が無いので簡単に説明するよ?」

「「うん!」」

「キラリちゃんは上空から一人でいるオークを探して欲しいんだ。カゲールくんは影からね。本当なら一緒に探せればいいんだけど、一緒にいる人には君達の事を教えたくないんで見つからないようにしてくれるかな」

「うん、わかった! 見つけたら知らせるよ」

「ホントだー、ピッカピカでツルッツルの人がいるよー!」


 カゲールくんは返事をしてくれたけど、キラリちゃんは上空の上がってハーゲィさんを確認したようだ。

 絶対に本人の前では言わないようにね!

 出て来ない前提だから大丈夫だとは思うけど、ちょっと心配だ。


 キラリちゃんとカゲールくんに探索をお願いし、ハーゲィさんと合流、そのまま『はぐれオーク』探索を始めた。

 昨日行った方角は後回しにして、別の方向から探索を開始。


 う~ん、確かに出会う魔物は弱い魔物ばかりだね。

 昨日も出会ったホーンラビットにリスの魔物で大きな太い尻尾を持つスクテイル。後は、ネコ系やネズミ系や虫系の魔物ばかりだ。強さも大きさもホーンラビットと大差のない雑魚ばかりだ。


 確かに『初心者の森』と呼んでいいレベルだね。

 因みにスライムは見かけたがゴブリンには出会ってない。ゴブリンはこの森にはいないらしく『初心者の草原』かダンジョンの浅層にいるらしい。


 そうか、ゴブリンは別のとこにいるんだね。『クロスオーバー』の世界では、ゴブリンのゴーブルくん達とは仲が良かったんだけど、こっちのゴブリンは友達になれないんだろうな。

 ま、見れば理性があるかどうかぐらいは判断できるか。こっちでも友達になれる子がいればいいなぁ。



 二時間ほど探したが、出会うのは雑魚魔物ばかりでオークは見掛けない。


「いませんね」

「……そうだな。仕方ねぇ、昨日の集落に行ってみて、それでもいなけりゃ明日に持ち越しだな」

「そうですね、了解しました」

「だが、昨日の今日だ、向こうも警戒してるかもしれねぇ。遠くから見るだけだぜ」

「分かりました」


 そうか、昨日は後ろを振り返る余裕も無かったんだもんな。オークが全滅したのは知らないか。

 昨日、言いそびれてしまったからなぁ。だって倒した証拠はスランチ達が持ち帰っちゃったから言っても信じてもらえそうもないし……あれって、また持って来てくれるってできないんだろうか。



 ハーゲィさんの先導でオークの集落付近に来てみたが、辺りにはオークどころか魔物の気配が一切しない。


「うーむ、おかしい。昨日はこの辺で出くわしたんだが……静かすぎるな……嫌な予感がするぜ、もしかしたら罠を張って待ち構えてるのかもしれねぇ。今日の所は引き返すぞ」

「……わかりました」


 それは単純に集落が壊滅したから静かなんだよ。他の魔物もいきなり集落からオークが全員いなくなってるから戸惑って近付かないだけだと思うよ。

 でも、ベテラン冒険者のハーゲィさんの言う事は聞いておいた方がいいだろうね。

 ここで言い争うよりも、まだ一日あるんだ。焦る必要は無い。キラリちゃんとカゲールくんも探してくれてるしね。

 それに、本命はこことは別にいる『はぐれオーク』なんだから。


 無事、森の外まで出ると、野宿の準備に入る。

 今日の探索中に倒した魔物達だ。一応、食材は少しだけど買って来ているが、そう多く買ったわけでは無いのでもしもの時のために温存だ。


 魔物肉は『クロスオーバー』の世界でも食べている。解体もまぁ得意な方だ。

 魔物の肉は高ランクになればなるほど美味いとされていて、解体さえキチンとしてやれば安全に食べれる。

 魔物には魔石と呼ばれる魔力の塊があり、身体の大小ではなく、魔石の大小で魔力の大きさが決まる。

僕はそう先生達に教わったので、そうなんだと思う。それと、例外はあるけど、魔石の大きな魔物の方が美味しいのだ。


 その魔石自体は、食べると毒なので真っ先に取り出さなければならない。他でも有効活用できるしね。

 だけど、ただ魔石を取り出すだけなら簡単なんだけど、魔石周辺の魔力が高い部位の見極めが難しいんだ。

 実は魔力が高い所の方が美味いんだよね。しかも、魔力の補給にもなったりするんだ。

 でも、魔石の影響を受けすぎている部分の肉は毒になってしまう。この見極めができなければ怪しい部位は大きめに切り抜かないと、間違って食べてしまうと大変な事になるからね。お腹を壊すだけで済めばマシなんだけど、最悪の場合は死んじゃうか、魔物化してしまうからね。見極めをしっかりしないといけないんだよ。


 内臓処理も結構大変だけど、やり方自体は習ってるから知っている。でも、僕の場合はスライムの友達がいるから汚い部分や食べれない部分は処理してもらえるから楽だったんだ。

 友達のスライム達がちょちょいと処理を手伝ってくれるのを見たら、一から内臓処理なんてバカらしくてやってられないって。でも先生達がいる所ではやらされてたんだけどね。


「お? キズナ? お前、解体がやけに上手く無いか?」

「そうですか? まぁ色々と教わりましたから人並み程度にはできますね」

「人並み? 俺より格段に上手いんだが……おい! その部位は毒だろ! なに食べれる方に分けてんだ!」

「これですか?」


 指摘された部位を手に取り再確認した。今、解体しているのは今日の探索中に倒したラージパイソンだ。魔物にすれば小さい部類に入る大蛇の魔物だけど、通常の蛇よりは遥かに大きい。

 襲ってきた所を【スラ五郎】で返り討ちにしただけなんだけど、ハーゲィさんにはラージパイソンの方が自分で【スラ五郎】に突っ込んだように見えたらしく、「運が良かったな」と慰められた。

 イマイチ納得は行かなかったけど、「そうですね」と返しておいた。


「そうだ、それだ。そんなもの食ったら死なねぇまでも、明日は寝込んじまって動けねぇぞ」

「これは大丈夫ですよ」


 そう言って、食べられない方に分けた部位と比べられるように両手に持ち説明した。


「まず見た目でも分かるんですが、ここ色がこの濃さになってしまうと食べられませんが、この程度なら安全に食べられて、しかも凄く美味しいんです」

「ホントか!? 俺はいつもその部分は捨ててたぞ。いつも捨ててたから実際に食った事はねぇが、キズナの解体作業を見る限り詳しいようだし、信じてもいいのか……?」

「大丈夫です。保証しますよ、当然美味しさもね」

「そ、そうか」


 戸惑うハーゲィさんに笑顔で答えると、渋々ながらも賛成してくれた。

 そして、実食。


「うめぇぇぇぇ! ホントにこの部位は安全なんだな? いや、そんな事が言いたいわけじゃねぇ、この際そこはどうでもいい。なんだこの美味さは! こりゃ肉の旨味だけでもねーだろ! キズナ! お前、どんな魔法を使ったんだ!」

「魔法って…魔法では美味しくなりませんよ? 少し調味料で味を調えただけです」

「調味料って、そんなものどこから持って来たんだ」

「どこからって、町でも少し買いましたけど、森にいくらでもありましたよ?」


 今日の探索中に集めただけだ。

 調味料や入れ物は出掛けに雑貨屋で購入した袋もあったんだけど、思いの外この森には調味料が多くあったし、袋は倒した魔物をササッと解体して作ったものだ。

 解体した肉類と途中で採取した野菜類と調味料類を三つの袋で分けている。

 いつやったかって? そんなの歩きながらに決まってるよ。それぐらいできなかったら先生達からの補習が待ってたからね。立ち止まってするほど大きな魔物に出会わなかったのも大きい。さすがに中型以上の魔物だと立ち止まらないと解体出来ないからね。


 ハーゲィさんから高評価を受けた食事を終え、就寝準備に移る。

 ハーゲィさんは寝袋を用意してたけど、僕は毛布のような毛皮が二枚だ。敷く用と掛ける用だ。この気候ならこれで十分だと思ったんだけど、ハーゲィさんからは「今はいいが将来的に寝袋は用意してた方がいいぞ」とアドバイスをもらった。


 寝袋って緊急の時に素早く起きられないんだよね。

 その場合どうするのか聞いてみたら、「だから見張りをつけるんだ」と言われた。

 たしかにそうなんだけど、緊急時にはパッと起き上がれる方がよくない?


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