第107話 召喚術と召喚の魔道具
いつも誤字報告ありがとうございます
鳳凰の呼子はハナノエさんにあげた。
持ってるといつまでも気持ちが上がってこないし、試してみたい事もあったから。
因みに『鳳凰の呼子』とは直径一センチ長さ五センチほどの笛で、先に小さく鳳凰の立体彫刻が意匠されている木で出来た楽器というよりは美術品のような笛だった。
どうやら吹くと烈風鳳凰が召喚できる魔道具だった。
「……もらっていいの?」
「うん、僕よりハナノエさんが持ってた方がいいと思うんだ。移動はもちろんだけど、戦闘でも手助けしてくれるだろうから」
「……うれしい」
「でも、レベルは1からみたいだから、ハナノエさんと一緒に修行だね。一緒に戦闘して魔物を倒すと召喚された烈風鳳凰のレベルも上がるみたいだし」
「……授業…がんばる」
授業? 修行なんだけど、何故か授業って言い張るよね。やる事は変わらないんで構わないんだけど、何か勘違いしてる節があるよね。
でも、僕は試したい事があるんで、そっちを優先させた。
その前に、セーさんと今後についての相談もしないとね。
「セーさん、次に行く前に試したい事があるんだけど、少し時間が掛かるかもしれないんだ」
「そうか。ならばハナノエの修行でもして時間潰しでもしておこうかの」
「うん、頼めるかな。それと、次の予定だけど、直接王都に向かう? 遺跡に寄ろうと思うと回り道になるでしょ」
「回り道にはならんの。儂が連れて行くからの。それとも鳥を鍛えて連れて行かせるかの?」
「烈風鳳凰? それはまだ無理じゃない? レベル1からだよ?」
「それはハナノエ次第だの。やる気を見せておるんで行けそうな気はするがの」
やる気…ね。ハナノエさんって感情が分かりにくいけど、確かに今のハナノエさんはやる気になってるように見える。
さっきも頑張るって言ってくれてたもんな。
「何日ぐらい掛かると思う?」
「そうだの、三日もあればある程度ものになるかの」
「三日か…間に合うかな」
勇者をローゼンハルツ王国の王都に送ってもう二日目だ。敗戦から二日目と言い変えてもいい。
ローゼンハルツ王国側でも何か動き出してるかもしれない。
やっぱり僕はこの世界に来てお世話になったブラッキーさん達のいるバルバライド王国の味方をしないといけないと思うんだ。
ハーゲィさんだっているしメメジーさんだっている。魔の森だってバルバライド王国の一部と言ってもいいだろう。
「魔物と違って人間の大きな組織というのは動き出すまでが遅いからの。間に合うだろ。一応、様子は見ておるで、動きがあったら知らせてやるわい」
「う、うん、ありがとう」
今更だけど、初めて会った時は武将のような話し方をするイメージのセーさんだったけど、最近年寄り扱いが多いからか、年寄りくさい話し方が目立つ。
初めは敵だと思われてて警戒されてたからかな。年齢的? にも、こっちの話し方が素なんだろうね。メメジーさんもこんな感じで話すからね。実年齢は兎も角、あっちはもっと見た目年齢が年寄りだけど。
次の日は烈風鳳凰がいた山頂でハナノエさんと烈風鳳凰のレベリングだ。
ハナノエさんが『鳳凰の呼子』で烈風鳳凰LV1を喚び出し、二人でセーさんの用意する魔物を倒す。
主もいなくなって、セーさんはここにも魔物を連れて来れるようになったらしいから。
僕はレベリングの邪魔にならないように端の方で召喚術を試していた。
お供はスキル【クロスオーバー】で喚んだピッピ。
一人黙々とするのもいいけど、僕は一緒にいてくれる人がいた方が気分的に楽だからピッピに来てもらった。
「キズナ様ー。最近あんまり喚んでくれないね」
「そんな事無いと思うけど」
三日前が戦争だったから四人も喚んだけど?
「私が喚ばれてないって言ってんの!」
「だって、みんな順番だって言ってたじゃん」
「別に一人ずつ喚ばなくても、今のキズナ様だったらいっぺんに喚べるでしょ!」
「そりゃピッピクラスだったら喚べるけど、来てもらっても何もする事無いよ?」
「無くてもいいの! キズナ様といたいだけなんだから!」
「……わかったよ。じゃ、他のみんなも喚ぶ?」
「き、今日はいいわ…明日からね」
明日から用がなくても低級の妖精達を喚ぶ事になった。
短剣―――もう長剣と呼べそうなぐらいまで長くなってるけど、またちょっと足りない。
だったら低級の妖精達を喚んで少しでも稼いでおく方がいいかもね。
「それで何するの?」
「うん、召喚術を試してみようかと思ってるんだ」
「ダメ――!」
「え? なんで?」
「召喚術なんて覚えたら私達の事を喚んでくれなくなっちゃうじゃない!」
「そんな事無いって。今まで召喚術って一度も使った事無いから試してみるだけだって」
「ホントにぃ~?」
使い勝手がよければ今後も使うだろうけど、それで『クロスオーバー』の友達を喚ばなくなるのとは違うよ。
召喚術の場合は友達じゃなくって家来か従者みたいなもんだろうからね。
「スキル【クロスオーバー】は『クロスオーバー』の世界の友達が来てくれるスキルで、召喚には違いないんだけど、どっちかって言うと転移門って感じじゃん。召喚は別世界から手助けしてくれる人を喚ぶ…的な? あれ? 言葉にするとあんま変わんない?」
「やっぱりダメ――!」
「いや、そうじゃなくて、召喚術で喚んだって友達が来るんじゃないでしょ? だから僕の中での意味合いとしては全然別物なんだよ」
「むぅ……じゃあ、試しに一回やってみてよ。それによっては封印してやるから」
封印って、どうやって封印するの? ピッピにそんな事できるの?
疑問は尽きないが、今は先にやりたい事をやろう。
「じゃあ、やってみるよ」
一度も召喚した試しがないので、念のため声に出してみよう。
「【召喚】!」
やり方は習っている。魔法陣も覚えてる。『クロスオーバー』の世界で試しに唱えた事もある。
だけど、こういうのは初めての経験だ。
「どうしたのキズナ様? 何も起こらないよ?」
魔法陣は現れたが、何も起こらないのでピッピが不思議そうに尋ねて来た。
うん、そうだろうね。だって、まだ完成して無いもん。
今、僕の目には召喚リストがズラズラ~っと沢山出ていて、まだ選択してないんだから。
このリストって初めて見るけど、あんまり覚えが……
「ちょっと待って。まだ途中なんだけど、これって……」
地龍、炎龍、雷龍、翠龍、蒼龍に数々の魔物の名前が並んでいる。最後には烈風鳳凰の名前も。
烈風鳳凰の名前でようやく何のリストか気がついた。
「これって、この世界で倒した魔物のリストか!」
そう、【召喚】と唱えて魔法陣を出したら召喚できる魔物のリストが現れたのだ。
その数は数え切れないほどある。
「これって倒した順か。強い順に並べ替えないとな。種族分けや系統分けもしておかないと」
でも、まずは先に、実際に召喚できるか確認だ。
「せっかくだから【烈風鳳凰】、顕現せよ!」
発動を待っていた魔法陣が即座に反応を示し光を放った。
そして光が収まると、そこには烈風鳳凰がいた。召喚が成功したのだ。
「おお!」
「わっ! キズナ様ー!」
僕は初めての召喚成功に感動の声を上げたが、ピッピは急に現れた烈風鳳凰が怖くて僕の後ろに避難してきた。
確かに烈風鳳凰は低級妖精には荷が重い存在だ。
だけど敵意も感じないのにピッピがここまで怯えるって……
あー、目が赤いや。こっちの魔物と同じで理性が無いのか?
だったら襲ってくるとか?
「キズナ様……」
「いや、大丈夫みたいだよ。魔法陣の中では動けないみたい」
不思議な事に、僕が描いた魔法陣は直径一メートルも無かったのに、今は烈風鳳凰の身体の大きさに合わせて直径五メートル以上になっている。
烈風鳳凰を選択して顕現させた時に魔力を消費したようだけど、その際に魔力も消費したみたいだ。
召喚する対価としての魔力もあっただろうけど、魔法陣の分も含まれてたんだろう。
「ホント、動かないわね。これってキズナ様からの命令を待ってるの?」
「たぶんそうじゃないかな。どういう命令まで実行できるのかな。試してみたいと分からないか」
例えば目の前の敵を倒せと言って、単体ならいいけど集団でも可能なのか。パーティメンバーがいた時にフレンドリィファイアじゃないけど、味方にも攻撃しないかとか、パーティメンバーじゃない第三者がいた時に攻撃をしてしまわないかなど、検証する部分は多い。
まずは低ランクの魔物から検証してみようか。
それから三日、ハナノエさんと『鳳凰の呼子』で召喚された烈風鳳凰のレベリングが終了した。
ハナノエさんのレベルは86まで上がっていた。
当の目的であった烈風鳳凰のレベルは44。倒した時のレベル程度まで上がったので、まずはレベリングは終了でいいだろう。
これからもハナノエさんが追々レベリングをしてあげればいいと思う。烈風鳳凰もこれだけレベリングをしておけば戦力になると思うしね。
僕の方も検証は終わった。
リストの整理も済んだし、できる事も把握できた。
まず一番戦力として使える方法は、召喚した魔物に即座に最大攻撃をさせるのが一番簡単だった。
RPGゲームなんかでよくある方法だね。召喚、即得意攻撃。そして去って行く。
うん、簡単だ。
集団戦でのフレンドリィファイアの心配は無かった。僕が敵と認識する者に対してだけ攻撃するようだ。
あと、索敵や移動のために乗せてもらうとか馬車を牽かせるのも出来た。索敵では『同調』も出来たので、今まで魔素に頼った索敵が視界も合わせて確認できるようになったのが大きい。
召喚時間は『鳳凰の呼子』と同じレベル×10分なので、今の僕なら余裕過ぎる。丸一日召喚していても余裕で余る。
同じく『鳳凰の呼子』を操るハナノエさんでも半日以上召喚できるし、必要な魔力は召喚時にだけなので、半日も経てば魔力も回復しているから、Dランク程度の冒険者でも一旦送還してからの再召喚も連続でできるだろう。
そうは言っても『鳳凰の呼子』で召喚に必要な魔力は100なので、1500近い高いMPを持つハナノエさんなら上手く使い熟してくれるだろう。
一度召喚してMAXパワーの火力を出させて送還し、再びパワー全快となった烈風鳳凰を召喚するとか戦法としては色々あるだろう。
『鳳凰の呼子』との違いは出せる魔物の種類と強さだろう。
『鳳凰の呼子』で召喚できるのは烈風鳳凰のみ。しかも育てなければレベルは低いまま。育ててレベルを上げればそのまま維持してくれるが、レベルを上げるまでが大変だ。
その点、召喚術では初めに喚び出す為の魔力が100で、低級の魔物でレベル×5のMPが、中級でレベル×10のMPが、上級でレベル×20のMPが必要になる。
例えば同じレベル50の魔物を召喚するとしたら、低級のフォレストウルフだったら100+250のMPでいいが、中級のレッドオーガだったら100+500のMPが必要になり、上級の龍や烈風鳳凰なんかだと100+1000のMPが必要になる。
MP1000以上持ってる人が何人いるか分からないが、そう多くは無いと見ている。Aランクを名乗っていたハナノエさんですら、このレベリングでようやく1000を超えたのだから。
しかもハナノエさんは魔道士だ。前衛職だともっと魔力は少ないだろうし、この世界で上級の魔物を召喚できる召喚士は非常に限られた存在だと思う。
そういう意味では『鳳凰の呼子』は育ててしまえばレベルの高い魔物をMP100で召喚できるのだから非常に有用な魔道具だと言えるだろう。
ただ、『鳳凰の呼子』は烈風鳳凰しか召喚できないが、召喚術は倒した魔物であれば制限無く冥界から召喚できるのはいい。もちろんパーティでもいいが自分で倒したのが前提となるが。
召喚術の検証とハナノエさん達のレベリングが終わり、次を目指す。
セーさんが言うには、ローデンハルツ王国の敗戦と王都に送られた勇者ワタルの対応にはまだまだ時間が掛かると言うが、念のため王都に向かって備えた方がいいんじゃないかと提案してみた。
「勇者ワタルって一人で異世界召還されたわけじゃないと思うんだ。パーティなのかクラスごとなのか分からないけど、仲間が来たらブラッキーさん達が危ないと思うんだ」
「何をそんなに心配しておるのかの。人間共ならまだ何も動きを見せておらんし、勇者の仲間の気配も無い。もし来たとしてもキズナがおれば問題なかろう」
勇者は幾度と無く魔の森を縄張りにしていた世界樹の精霊であるセーさんの下を訪れていたようで、勇者の独特の気配は知っているそうだ。
目的は世界樹の葉や樹液だったようだけど、世界樹の番人であるセーさんが都度押し留めていたので、勇者がいれば分かるらしい。
セーさんの分かる範囲にローゼンハルツ王国の王都も含まれていて、いるのは弱くなった勇者ワタルだけみたいだ。
王都にはようやく敗戦の報が入ったらしいが、まだ兵の動きは無いとの事。
今の内なら寄り道しても問題ないと自信をもってセーさんが答えてくれた。
「だったら行けるのはここから更に北に行った火山に生息する溶岩龍か、北東の古代遺跡を護る白金自動人形か、王都の先にある湾の沖合いに生息する渦巻龍になるか」
「全部行けばよかろう」
「全部!? そんなに時間はないでしょ」
「各一日であろう。海というのも行ってみたいしの、人の集落は最後でよかろう」
各一日って、魔物の強さは別としても一日で攻略できる場所なの?
溶岩龍は火山にいるって決まってるし渦巻龍だって海の沖合いだ。
白金自動人形なんか古代都市らしいから、どんな罠が待ってるかも分からないじゃん。
色々と整えてからがいいんじゃないの?
「その為に召喚術を確認しておったのではないのかの? 火山なら炎龍で炎熱操作をしてくれれば熱対策はできるであろうし、先に氷結系の魔物を倒しに行ってもいい。キズナもそれぐらいは出来るであろうしの」
「まぁ、できなくはないけど……」
僕もできるけど、『クロスオーバー』の友達を喚んでもいいしね。
「それにの。ハナノエは早く試したくて仕方が無いようだぞ?」
「えっ!?」
セーさんの意表をつく言葉に、バッとハナノエさんに視線を送ると、合った視線を慌てて逸らすようにそっぽを向くハナノエさんだった。ちょっと耳が赤くなっている。
しっかり視線が合った時のハナノエさんの表情はワクワクという言葉が非常に合う表情だった。セーさんの言うように、育てた烈風鳳凰を試したくて仕方が無いのだろう。
「はぁ、わかったよ。でも、異変があったらすぐに教えてよ」
「まぁ、当分無いだろうがの」
「なんで分かるの?」
「この大陸に勇者が他におらんからだの。別の大陸から来たのだろうから、もし仲間が来るにしても海を越えて来ないといけないだろうしの」
僕の疑問にセーさんが的確な回答をしてくれた。
確かに、今の戦力だと戦争をするにしても、どちらも決め手に欠けると思う。
ローゼンハルツ王国の戦力がどれぐらいか分からないけど、一方的に敗戦したんだ。バルバライド王国に対しても楽観的に攻める事は無いだろう。
「じゃあ、どこから行く?」
「溶岩龍は烈風鳳凰とは相性が悪いでの。先に最北の氷山に棲む『氷結鳥』と『暴風雪龍』を倒すとするかの。上手く行けばまた『呼子』を持ってるかもしれんしの」
「……さんせい」
今回の『鳳凰の呼子』で味をしめたのか、ハナノエさんが賛成を示した。
無理無理ばっかり言う後ろ向きのハナノエさんばっかりだったので意外だったのだ。
でも、普通は強力な手札を持つと試してみたいか。それが自分で育てたのなら尚更だな。さっき見たハナノエさんの目はキラキラだったもんな。
「じゃあ、烈風鳳凰が活躍できそうな氷山に行こうか」
「……ありがとう」
「氷山は寒いでの。野宿など無理であろうから、さっさと倒して次に行くかの」




