第104話 ハナノエさん、強化作戦
いつも誤字報告ありがとうございます
パワーアップしたセーさんの転送で一気に砦町の近くまで移動できた。
「セーさん? 縄張り以外だと力を出せないって言ってなかった?」
「そうだの、言ってた気もするの」
いやいやいやいや、どんだけパワーアップしたんだよ! それって勇者ワタルから吸収したんだよね?
「町の中のような魔素が薄すぎる場所は無理だがの」
「ここも濃いとは言えないと思うけど」
僕には魔素や気力が見えてるからね。この砦町付近って、セーさんのいた森の三分の一、いや四分の一ぐらいの魔素濃度しか無い。
獣人達を匿っていた森で三分の一ぐらいか。所々濃い部分はあったけど、平均してそんなもんだな。
それにしても縄張り内でも無いってのに、ここまで一気に転送できるなんて。どんだけパワーアップしたんだよ。
それだけの力を毟り取られた勇者ワタルにちょっと同情しちゃうな。
元々勇者ワタルが持ってた力じゃないとは思うけどね。
セーさんが持ってた力から勇者ワタルの力がキッカケになったのか、それとも単に上乗せされただけなのか。いずれにしても、勇者ワタルが関わった事によってのパワーアップってとこだろうね。
「ちと話をせんかの」
僕に向かってというより、僕を通してハナノエさんに話しかけてるみたいだ。
「いいけど、ハナノエさんの事?」
「そうだの。このお嬢は儂らと同行するには、ちと弱すぎる。そこで……」
「まさか、樹木龍のとこでノスフェラトゥ達と武者修行?」
「……いや」
僕達の会話に拒否反応を示したハナノエさんの顔色が悪い。もう瀕死の勇者ワタルぐらい悪くなっていた。
修行になにかトラウマでもあるんだろうか。
「……もう武者修行はいや。デコピンこわい」
しゃがんでオデコを押さえてブルブル震えだすハナノエさん。
「ど、どうしたの? 頭が痛いの? それともお腹でも痛くなった?」
「……武者修行、こわい。大婆様こわい」
「怖いって、たぶん単なるレベリングだと思うよ? 僕がいるから怖い…は少しあるかもしれないけど、痛いは絶対無いから」
ノスフェラトゥさん達との武者修行だとしても、僕が補助魔法をかけてあげれば怪我をするような事態にはならないと思う。
防御力アップ十倍、速度アップ十倍、魔力アップ十倍もしてあげれば魔の森の魔物でも中々ダメージを与えられないだろうし、魔力十倍効果で攻撃をされる前に倒してしまえると思う。
念のため、結界を張っておけばダメージゼロは間違いなしだ。
「キズナの言う通りだの。魔物が多かったり強かったりすれば怖い部分はあるだろうが、儂の修行で攻撃を食らうような真似はさせんでの」
「……ホント?」
「当然だの」
「……じじぃって言ってもデコピンしない?」
「……言うのかの?」
「……言わないけど」
「ならば、せん」
じじぃって呼んだらデコピンなの!? 初めて知ったよ!
それと、セーさんの修行というか課題というか、樹木龍の番に残したノスフェラトゥさん達って、結構痛い思いしてると思うなぁ。
「まずはハナノエの腕前が見たい。だいたい分かっとるが、攻撃力を見たいの。魔物は儂が用意するので攻撃してもらえるかの」
「……わかった」
デコピンをしないというセーさんの答えで気を持ち直したハナノエさんが、自分の力を見せる了承をした。
「まずは軽くこんなところかの」
セーさんの声と共に魔物、サイクロプスが突然三〇メートル先に現れた。
身長五メートルの巨人タイプの魔物だ。
頭の先が周囲の樹々より少し高く、その高さだけで威圧感は凄い。デカイというだけあってパワーは相当なものだが動きが鈍い。
これぐらい距離があれば魔法使いからすれば格好の的だ。
但し、その巨大さゆえに防御力も高い。ハナノエさんの火力が試されるには丁度いい魔物だろう。
セーさん……どこから連れて来たの。やっぱり魔の森の奥?
ハナノエさんも意図を理解したようで、すぐに攻撃に移った。
「……【風花乱舞】」
ハナノエさんの選択は風魔法の乱れ撃ちだった。
ハナノエも大婆様シオンヌの下での修行で詠唱破棄は覚えさせられたが、術名省略までは至らなかった。
しかし、修行前に比べて術の威力も格段に上がっており、更にはティアマト・ダンジョンでの成果でレベルも上げていた。
それによりAランクとして恥かしくない実力にはなったが、今回は相手が悪かった。
サイクロプスの防御力はハナノエの【風花乱舞】では薄皮一枚を切る程度の威力しかなかった。
魔法を食らっても歩みを止めないサイクロプスに、次なる魔法を唱えるハナノエ。
「……むむむ。【嵐斬】」
次は大きな刃をイメージした風の刃を選択。
これにはサイクロプスも少し足を止めたが、腕をクロスさせ顔を防御して再び歩き出した。
ハナノエさんの【嵐斬】によって受けたダメージは大した事がなかったようだ。
それでも左腕に一文字についた傷跡からは血が滴り落ちている。多少はダメージが入ってるようだ。
「……むむむむ。【嵐斬】ダブル」
次は【嵐斬】の二重攻撃。だが、顔面を狙っているハナノエさんの攻撃はクロスした腕に阻まれている。
サイクロプスも攻撃を受けると血を流すが、再生能力も高いようで、初めに受けた腕の傷はもう塞がっていたし、今受けた攻撃の傷も既に塞がりかけている。
サイクロプスはハナノエさんの攻撃を脅威とは見ていないようだ。
「……むむむむむ。……【竜巻斬】」
【竜巻斬】とは四枚の【嵐斬】の曲げ幅を大きくして回転をさせ竜巻を巻き起こし、内側も外側も切り刻む極悪な魔法だ。
だが、ハナノエさんの【竜巻斬】は規模が小さすぎる。しかも回転力が遅すぎる。あれではサイクロプスに致命傷は与えられないだろう。
ズンズンと近寄って来るサイクロプス。【竜巻斬】はあまり効いてないようだ。まだ【嵐斬】の時の方が一瞬でも立ち止まった分、効いてるかもしてない。
傷の方も【嵐斬】の時よりも浅いようで、傷は付いてるがすぐに塞がって行く。
痛みはあるようだが、しっかりとガードを固めて覚悟を決めれば歩みを止めるほどでも無いのだろう。
「……あ、ああぁ」
サイクロプスの圧に負けてハナノエさんがジリッジリッと後退を始めた時、周囲の樹々がサイクロプスを襲った。
ドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュ!
四方八方から太い枝がサイクロプスを串刺しにした。
セーさんが周囲の樹々を操作したんだろう。
「ふむ、これはちとマズいの。あまりにもお粗末すぎるの。そう時間が取れんのだが、キズナは何か手はあるかの」
「そうだねー、昨日の種なんてどう? 魔法は僕が手解きするから、スキルも増やして乱打戦って感じなんかいいと思うけど」
「ふむふむ、どのぐらい時間がかかるのかの」
「ハナノエさんって魔法のセンスありそうだから、手解きには一時間も掛からないんじゃないかな。あとはレベリング?」
「それならば間に合いそうだの。乱打戦には良い場所があるでの、任せるがよい」
セーさんは納得してくれた。だったら後はハナノエさんだな。
浮遊魔法なんかもサラっと使えてるし魔法の使い方は上手だと思うんだけど、詠唱短縮や詠唱破棄がギコちない。
「ハナノエさん」
「……ん」
「ハナノエさんが何故僕達と一緒にいたいのかは分からないけど、僕達を信じてくれるって言ってくれたし、それにもうパーティメンバーだ。僕だってハナノエさんを信じる。セーさんも信じてくれているから一緒にいれるようにハナノエさんの実力を見たかったんだと思う」
「…………それはわかる。私も同じ。見せ付けたかった」
「でも、サイクロプス程度の魔物に梃子摺ってるようなら僕達と同行するのは危険だと思う」
「……」
「そこはあまり信じられないかな?」
「……わかる。今の樹操作の攻撃も凄かった」
「ありがとう。それでね、まずは見本を見せるよ。その後に手解きというかコツみたいなものを教えるからよく見ててね」
「……ん」
まずは【風花乱舞】から。風魔法の乱れ撃ちだ。
本来ならノールックで放つんだけど、それだとハナノエさんが見損なうかもしれない。
なので、「あそこの樹を見ててね」と前振りをして初級の風魔法の三〇連撃を放った。
当然ノーモーションで手は下げたままだし、当たり前だけど無詠唱だ。
突然樹の周囲に風魔法が現れ樹をズタズタにしていく。太さが直径五〇センチはあろうと思われる樹に半分以上の切り目を入れた。所々切断もされ一部の切れた部分が散乱していた。
もしあれがサイクロプスだったら同じようにズタズタにされて致命傷となっただろう。
「次は【嵐斬】だね」
「……」
一応、分かるように指差してから【嵐斬】を放った。
ちょいと大きめのウィンドカッターだね。
地面スレスレに放った【嵐斬】はそのままズタズタにしていた樹の根元辺りにヒットし、そのままスパン! と樹を切り倒した。
「【竜巻斬】も見る?」
プルプルと首を振り拒絶したハナノエさん。
もう見なくてもいいみたいだ。
よかったよ、【竜巻斬】を使うには大きな的が必要だからね。
この周辺にある樹だと技を見せる前に樹が切り倒されてしまうからね。
中級の龍ぐらいがいいと思うんだけど、【竜巻斬】を使うと素材は使い物にならないだろうね。
「そう。今のを見比べてもらえると分かるけど、ハナノエさんの魔法は威力が足りない。起動も遅い。だからまずは僕がコツを教えてあげるね。その後にレベリングをしよう。その方がレベリングで時間短縮になるから」
「……あんなの私には無理。できる…はずない」
「そんな事無いよ。ハナノエさんって器用そうだから、たぶんすぐに覚えられるって」
「……むり」
「むりむり言ってないでやるよ。まずは魔法陣の焼付けからがいいかな。あっ、そうだ! スキルの種を貰ってたんだ! たぶん魔法が上達するだろうから先に使おうか」
セーさんが勇者ワタルから奪った種の内、火魔法、水魔法、雷魔法の魔法の種と、耐性の麻痺、毒、魅了の種をハナノエさんに使ってもらった。
食べてもいいらしいけど、種を胸元に持って行くだけで吸収できた。
複数あるものだけね。勇者の種やドラゴンスレイヤーの種など一つしか無いものや、自動翻訳や無限収納は辞めておいた。
あと、レベルの種もこの後レベリングをするんだから勿体無いし渡してない。
「……ふわぁぁぁぁぁぁぁ」
ハナノエさんが凄く気持ち良さそうに声を漏らしてる。
「あ、忘れてた。これもあった方がいいね」
体術の種と必要なさそうだけど余ってるんだからと剣術の種も渡した。
「……ふえぇぇぇぇぇぇ」
再び気持ち良過ぎて漏れ出る声を出すハナノエさん。
そんなに気持ちがいいのかな? だったら僕も一度試してみようかな?
でも、一粒のもの以外は全部持ってるし、持ってるものを追加で吸収しても同じ効果があるとも思えない。
やっぱり勿体無いし辞めておこう。
ハナノエさんが落ち着いて、魔法を放ってもらった。
火と水と雷の魔法だ。
「うん、スキルだから当たり前だけど発動は早いし、無詠唱だね。でも、威力はまだまだだ。レベルを上げると威力が上がるんだったかな? 熟練度を上げると威力が上がるんだったかな?」
どっちもかな? レベルリングをしての結果から考えればいいだろ。魔法のスキルなんて持ってないからね。僕が持ってるのは全部自前の魔法だし。スキルだって『クロスオーバー』だけだからね。
スキルじゃない魔法と比べてみれば分かりやすいかな。
「ハナノエさんは風魔法が得意なの?」
「……風と無属性が得意」
「だったら風魔法は僕が教えるから、レベリングの後で今の三つの魔法と比べてみよう」
それから一時間かけて風魔法について説明と実践である程度形になった。
「魔法陣は完全に覚える事」
「……ん」
「徐々に描くんじゃなくて、魔法陣の形が一瞬で頭で描ける事」
「……ん」
「魔法陣に均一に魔力を維持できる事。特に頂点となる各角には多めに維持する事」
「……ん」
「今は覚えたてだから手を前に出すのも目標を視認するのもいいけど、行く行くは僕みたいにノールックで手を下げたままできるようになること」
「………………ん」
最後のだけは自信が無さそうなハナノエさんだった。
慣れるとできると思うんだけどね。
ブラッキーさん達みたいに杖に魔法陣を描かなくてもハナノエさんはキチンと記憶してくれた。
空中に魔法陣を描いて、その上で魔力の流れをゆっくり見せて、懇切丁寧に説明したらハナノエさんは理解してくれた。
元々風魔法の馴染みのある魔法陣だったからだと思うけど、一時間で魔法の発動まで形になった。
及第点が取れたのはウィンドカッターとウィンドサークルスピンの二つのみ。
この二つだけでも組み合わせれば【風花乱舞】や【嵐斬】の威力も上がるだろうし、【竜巻斬】の回転力も格段に上がると思う。
後は慣れとレベルアップによる魔力の上昇に期待だね。
「セーさん、おまたせ。先に昼食にしようか?」
「そうだの、この後は食べる暇も無さそうだしの。しっかりと食っておかんとの」
「わかった。料理する? 今まで余分に作って残ってるものもあるけど。それに、食材も十分に残ってるよ」
今までの余剰分が沢山収納バッグの中に残っている。
セーさんは少食だし僕も普通の一般男子が食べる程度しか食べない。食材は余る一方だし料理だって鍋ごと残ってるものが多数ある。
鍋も沢山購入してはいるけど、鍋ばかりあっても効率的ではないので土魔法で作った壷に移したりはしているけど、それでも料理が入ったままの鍋もたくさんある。
だって……
「食材は用意するでの、料理を頼む」
毎回こう言って食材を用意してくれるから溜まる一方なんだ。
ま、何かあった時のために置いておくのはいいかもしれないけどね。僕の持ってる収納バッグは『クロスオーバー』の皆が来た時に色々と効果を付与してくれていて、時間硬直効果もあるみたいだしね。
ゆっくりと時間を掛けて(主にセーさんの食べるのが遅いため)昼食を終わらせて、昼からのハナノエさんの修行(レベリング)だ。
セーさんの転移でやって来たのは洞窟の前だった。
「あれ? ここ知ってる」
「そうかの? 儂は始めて来るがの。この周囲は拓けた場所があるし魔素の濃い場所もあって魔物も豊富だ。呼び込むのも用意なのでな、ここにしたんだの」
「確かに魔物の強さも手頃だし多く生息してるみたいだね」
僕も魔素を介して周囲探索してみたら、セーさんの言う意味が分かった。
ハナノエさんのレベリングにはちょうどいいかもね。
「ハナノエさん」
「……ん」
「そんなに緊張しなくていいから。ハナノエさんには絶対怪我が無いようにするって」
「……ぽ」
「え? 返事? まぁいいか。まずは風魔法を一通り使ってみて。その後はスキルね。スキルは魔力の消費が非常に少ないし連打も利くからどんどん連続して撃ってね。初めは威力が弱いから連撃しないと倒せないし、守れるとは思うけど近寄られると危ないからね」
「……ん」
「では始めてもいいのかの」
「うん、セーさんお願いします」
こうしてハナノエさんのレベリングが始まった。




