第103話 S級の依頼
いつも誤字報告ありがとうございます
勇者ワタルを送り返した後、セーさんにせがまれ森の中で夕食を摂った。
予想通りセーさんはパワーアップしていた。
こちらの魔素の薄い森でも把握能力がアップしていて素材の調達をしてくれたのだ。
「勇者ワタルから何を奪ったの?」
「ふぉっふぉっふぉ、キズナでも分からんか。ならば秘密だの」
率直に聞いてみたが、軽くかわされてしまった。
初めに【鑑定】をしなかった事がここでも悔やまれる結果となった。
「こっちの森は魔素が薄いので良い素材が少ないが、キズナの腕なら美味いもんが作れるかの」
「まぁ調味料はあるし、いつも通りの味は出せるよ。それに向こうとは違った素材が多いから、それはそれで楽しめる料理ができると思う」
「ふぉっふぉっふぉ、それは楽しみだの」
セーさんは謙遜してたけど、それなりに良い素材を用意してくれている。
僕も、森の中とはいえ、ただ焼いた料理や煮る料理だけでなく、蒸したり炒めたり燻したりと、いろんなバリエーションが出来るぐらいの腕はある。
森の中の何も無いところでもそういった料理する環境を自分で用意できるからで、さすがの僕でも焚き火だけだとバリエーションは一気に減ってしまう。
ようは慣れと魔法の使い方だね。収納バッグを手にしたのも大きい。調理器具が全部入ってるんだから。
「ほぅ、こういう料理もあるんだの。美味い美味い」
手間の掛かる料理は時間が掛かる。でも、そこが腕の見せ所だ。
スープでも出汁の取り方ひとつだし、調味料の匙加減で味も変わる。肉も焼き加減は大事だ。表面はしっかりと焼くけど、中をどうするか、だね。熱は通さないといけないけど、しっかり焼くのか、それとも半生にするのか。それともほぼ生なのか。
料理はセンスと知識なんだよ。ポットちゃんとパンくんにだって負けてないんだけど、知識の点で負けてるんだ。
あの二人は基礎がしっかりしてるからね。バリエーションも僕より豊富だしね。
師匠は同じなんだけど、料理に関わってる時間が僕の何倍も多いからね。
いつも通り少食なセーさんだけど、時間はしっかりかけて夕食を終えた。
焼いた肉、生野菜、煮込んだ肉、軽く炒めた野菜、煮込んだ根菜、煮付けた山菜、蒸した芋などを少量ずつ堪能したセーさんは満足顔だった。
目は開いてないけど口元は緩んでたから分かりやすかった。
残った分は収納バッグ行き。こういう残り物が相当ある。毎回セーさんが食材を用意するから料理を作るしね。
作れない時のために取ってあるんだけど、残らない時はあっても足りない時は無いし、作れない時なんて無いから溜まる一方だ。
帰りはまた浮遊箱に乗り、行きと違ってセーさんに町の上空まで転送してもらって、上空からはゆっくり下りた。
真っ直ぐの上り下りは浮遊箱の機能だからね。安全に町に戻れたよ。
宿に着くと部屋は三つ取っていた。
僕とセーさんとハナノエさんの分だ。
ハナノエさんは既に食事を終え、部屋に入ってるようだ。
僕もセーさんと別れ部屋へと入る。
はてさて、これからどうするか。
僕としては勇者ワタルが気になるからローゼンハルツ王国へ行ってみたい気もあるんだけど、そのための足の確保もしたい。馬車を牽くやつの確保だね。
情報は冒険者ギルドが持ってるみたいだから、明日冒険者ギルドに行ってから決めればいいか。
行き先が正反対なら皆と相談だな。
翌朝、朝食時に三人で話し合った。
「とりあえず冒険者ギルドで災害級なのか災厄級なのか災禍級なのか忘れたけど、とにかくS級でも手に余る魔物がいるらしくて、その情報を受け取りに行ってからだね」
「ふぉっふぉっふぉ、キズナは豪気だのぅ。して、倒すのかの?」
「……無理」
「いえ、倒すんじゃなくて足になってもらおうかと」
「足とはどういう意味かの」
「馬車馬代わり?」
「……無理」
「ふぉっふぉっふぉっふぉ! そりゃ尚の事豪気だの! 足か足か、キズナにしか言えんの!」
「……むり」
珍しくセーさんが興奮している。目は開いてないけど。
その分、ハナノエさんの声がどんどん小さくなっていっている。
「でも、勇者ワタルがどうなったかも気になってて」
「問題ないの。して、どれにするのだ? あまり大き過ぎても邪魔になろう。儂としてはバイコーンあたりがお勧めだがの。彼奴らは一日で千里を駆けるでの」
「僕としては飛んだ方が楽かなって」
「…………むり」
「ならば、ペガサスあたりか。疾風龍というのもええの」
「烈風鳳凰なんかどうかと思って」
「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ! それはええの! それはええ!」
「…………ぜったいむり」
騒々しい朝食を終え、かなり上機嫌になったセーさんと、どんよりと落ち込んでるハナノエさんと共に冒険者ギルドへと向かった。
受付で冒険者カードを見せて事情を話すと簡単に資料を見せてくれた。
因みに僕達は冒険者が装着している腕輪は上着で隠している。
僕とセーさんは色が濃すぎて目立ちすぎるので敢えて隠している。そんな僕達の事情を聞いてハナノエさんも真似しているので三人とも腕輪をしていないように見える。
ハナノエさんは魔法特化の色をしていたけど、特筆するような濃さでもなかった。
気力を表す中央部分の色は黄色が濃くなるほど気力を持ってる事を示す。
その色がほぼ白のままだから、気力はほぼ無いと言ってもいいだろう。
縁の部分の魔力を表す色はグレーより黒に近いダークグレーって感じだ。ここまで濃いのもあまり見ないので魔力は多いんだろうけど、僕やセーさんにはまったく及ばない。
でも、【鑑定】や浮遊魔法など特殊な魔法を知ってるみたいなので優秀な魔術師だろうとは思う。
奥の個室に誘導され、数枚の紙が出された。
内容は場所を示した地図と魔物の詳細。
地図が一枚と魔物の名前と特徴を書いたものが一枚。計二枚がワンセットになっていて、それが八セット。八種八箇所の魔物の情報だった。
溶岩龍
タペット火山に生息し、数年に一度噴火を誘発して周囲に溶岩を撒き散らす。
噴火の方向は様々で、タペット火山周辺には住む事ができない。
渦巻龍
大陸北東のマルマン湾沖に生息し、時折大渦を巻き起こす。
そのため航路はかなりの迂回路を強いられ、航海日数の短縮のため何十年も前から討伐依頼が出ている。
黒鋼蠍
チギリス砂漠に生息。黒鉄蠍や黒胴蠍など、各種蠍の親玉である。
暴風獅子
アイギス平原を縄張りとしており、広大な平原の何処にでも現れる。
そのため、広大な平原の開発に着手できずにいる。領地争いの近隣各国で討伐の競争になったが、もう百年以上も討伐できずにいる。
地空炎合成獣
今は亡きケンガーン王国跡地を縄張りとし、周囲の魔物や旅人を餌としている。
ケンガーン王国を滅ぼしたのも、この地空炎合成獣だと言われており、地空炎合成獣を造ったのもケンガーン王国だとも言われている。
烈風鳳凰
何処を棲家にしているかは不明。数年に一度姿を見せては村を全滅させて飛び立って行く。
頻度としては数ヶ月に一度姿を見られているが、魔物の群れも餌とするので、人間の村が襲われるのは運である。
百足大蛸
大陸南東のデルタ湾沖に生息し、行き交う船を襲っている。
襲われる頻度としては数年に一度だが、襲われると99%逃げられないので水に特化したSランク冒険者が待ち望まれている。
白金自動人形
滅びの古代都市コナムにあるダンジョンを守るゴーレムだ。
通称オートマータとも呼ばれている。
「これって強さの表記がありませんけど、どの魔物が一番強いんですか?」
資料を持って来てくれたギルド職員に聞いてみた。
僕達が資料を読んでる間、ずっと黙って待っていてくれたのだ。
「いずれも大差ありません。と言いますか、今までのSランク冒険者では歯が立たなかったので測りようがないのです」
そりゃそうだね。だから古くから依頼としてあるんだから。
「この依頼の請け方ですが、どうすればいいんですか? 依頼を請けたとして、期限とかあるんですか?」
「いえ、こちらの八件に関しましてはSランクの常設依頼となっております。達成報告も事後で結構なのですが、何か達成した素材が必要です。死骸があればいいのですが、海や火山の魔物など討伐部位が確保できないケースもあるでしょうから、その場合は冒険者カードにて判断させて頂きます」
あー、このカードね。情報を丸裸にするやつだ。隠し事ができないのには困ってたけど、こういう時に役に立ってくれるのはいいね。
「あ、もし仲間にできたらどうすればいいんですかね?」
「仲間!? テイムされるおつもりですか!?」
「……むり」
「テイムになるのかなぁ。テイムって従えるんですよね? 仲間だから友達になるって感じかな?」
「……それはパーティメンバーという意味でしょうか。あっ、討伐に向かうためのテイムという意味ですね。魔物の場合は冒険者登録なんてできませんから、主人の従魔での登録となります。冒険者ギルドで承っておりますので、いつでもお申し付けください」
「……違うけどムリ」
職員も混乱しているのか、普通にテイムに関する情報を提示してくれた。
「方向としては東寄りの北に向かいたいんだけど、この中だと溶岩龍と渦巻龍ぐらいかな。烈風鳳凰は神出鬼没らしいし、少しズレて白金自動人形かな」
「……どれもむりだから」
「ふむ……烈風鳳凰の、恐らく近い内に北の砦のある町に現れるかもしれんの」
「ホント!?」
「そのような情報はありませんが!」
「いや、なに。彼奴には習性があっての。この大陸を円を描く様に順に回っておるんだの。周期的にも季節が関係しておるし、そろそろ北の番だと思うがの」
「そのような情報……やはり冒険者ギルドでは把握しておりません」
さすがはセーさん、長生きなだけあって物知りだ。頼りになるな。
それにしても北の砦って、あの獣人を解放した砦町だよね。あそこなら場所も知ってるし、方角的にも北になる。
少し西へ行く事になるけど急いでるわけでもないし、もし烈風鳳凰を仲間にできたらその後が楽になる。行かないという手は無いな。
「じゃあ、先に砦町に行って、それからローデンハルツ王国の王都に向かうって感じでいいかな」
「もちろん途中で寄り道はするがの」
「……むりだから」
砦町に行く事によって、白金自動人形のいる滅びの古代都市コナムに行くのにもそう難しくは無くなった。
溶岩龍のタペット火山にも行けそうだし、王都から少し足を延ばせば渦巻龍のいるマルマン湾にも行けそうだ。
全ては烈風鳳凰によるけどね。
でも、この世界にも、この世界の魔物にも古くから詳しいセーさんの情報だ。信じていいと思う。
でも、セーさんの言う寄り道って、何か違う気がする。
いい情報をもらったんで、僕達を即行動に移った。
町で必要なもの……特には無いんだけど、今回も報酬は貰ったんで、三人で等分して町に買い物に出た。
町には屋台もあれば店もある。服や調味料や食材を少し買い足して町を出た。
「ハナノエさん。ずっと無理って言ってるけど、残ってもいいんだよ?」
「……それはもっと無理」
「だったら、僕とセーさんをもっと信じて欲しいな。僕達ならさっきのリストの魔物を倒すなんて簡単なんだよ。でも、仲間にするとなると手加減が必要だからさ、ちょっと難易度が上がるけど、それでも問題ないって思ってる。ハナノエさんもパーティメンバーになったんだから僕達をもっと信用してくれないかな」
「……わかった。ごめん」
ひとつだけ知らない魔物…というかゴーレムがいたけど、それ以外は全部知ってる魔物だった。
更に上位種と言われても『クロスオーバー』時代のレベルが低かった時の僕でも負けなかったし(勝てもしない相手もいたけど)、今のレベルなら負ける事は絶対無い。手加減だってできる…はずだ。
ただ、どうやって仲間にすればいいのか、そこが分からない。テイムも習ったけど、やった事無いしな。
だって『クロスオーバー』の世界ってみんな友達だから、テイムなんてする機会なんて無かったんだもん。
少し不安はあるけど、三人で町を出た。
少し森に入ってからセーさんに転移をお願いした。
さすがに今回は直接ルートの馬車が無かったし道も無かった。
時期も差し迫ってるようなので、セーさんも折れてくれた。
「では行くとするかの」
「うん、お願い」
でも、烈風鳳凰を仲間にできたらゆっくり旅って感じじゃなくなるんだけどね。
セーさんのためにも馬車は別で確保しておこうかな。




