第102話 種
いつも誤字報告ありがとうございます
今から夕食だというのでお暇する事にした。
当然、夕食を一緒にと誘われたのだが、セーさんの料理は僕の担当なので宿に戻る事にした。
ハナノエさんも一緒なので食堂に行ってもらえばよかったんだけど、セーさんの分のお金は僕が管理しているし、ハナノエさんがいくら持ってるのかも知らない。
夕食のお誘いは残念だったけど断って軍の砦を出た。
「やっと出てきたかの」
「セーさん!?」
砦の館を出るとセーさんが目立たぬように待っていた。
「あれ? ハナノエさんは?」
「ハナノエは宿で待たせておる。適当に食堂で飯でも食うておるだろ」
「いいの? セーさんは僕の料理を待ってたんでしょ? ハナノエさんも一緒の方が……」
「飯ではない! いや、飯も大事だが今はそうでない」
大事な用があるみたいだけど飯は大事なんだね。でも、その大事な飯より大事な用って何だろ。
「まさか忘れとるんではないだろの」
「……」
なんだろ。セーさんの食事より大事な用ってあったかな。しかも僕が関わってる案件なんてあったっけ。
「本当に忘れとるようだの。ふぅ、その場その場では最適解を導き出せるようだが、後始末では詰めが甘いようだの」
その指摘は的を得てるかも。
色んな状況での勉強という名の修行はつけられたけど、後片付けは全部先生達がやってくれてたからね。
「ほれ、行くぞ」
「え? どこへ?」
「まだ分からんのか。放置しとる勇者のとこだの」
「あー! そういえばそうだった! あれからどうなったの?」
「どうもなっとらん。森の中で放置しとる。ま、ちっとは養分をもらっとるがの」
最後は罠にかけるって言ってたはずだけど、勇者は見事に罠に嵌まったんだね。
それにしても養分って……勇者を肥料扱いだよ。セーさん、ぱねぇ。
「でも、砦の向こう側だよね? どうやって行くの?」
「それは、ほれ。前に乗ったやつがあるだろ」
「もしかして、浮かぶ箱? でも、あれって浮かぶだけで進まないよ?」
風魔法で移動……できるのかな?
船の上で扇風機を回して風を帆に当てても進まないって言うじゃん? いや、帆は無いし、風を逆に向けて噴き出してやれば移動もできる?
こればっかりは習ってないので実験するしかないんだけど。
「それについては儂に秘策がある。まずは出してもらおうかの」
秘策ってなんだろ。それはちょっと興味が沸くね。
早速、言われた通り浮遊箱を出して二人で乗り込んだ。
浮遊魔法の付与された箱に魔力を流すと音も無くゆっくりと上空に向かって浮かんで行く。
周囲はもう暗くなってるし、人通りも少ないから気付く人もいない。
上空五〇メートルぐらいで魔力を調節して、浮き上がるのを止めた。
「これぐらいの高さでいい?」
「うむ、上等だの。さて、まずは茶でも貰うとするかの」
まぁ、セーさんだからね。慌てる必要は無いって意味もあるのかもしれない。
「ふぅ、やっぱり茶葉は世界樹に限るのぅ」
「当然と言えば当然だけどね」
町には一切出回らない世界樹の葉で作られたお茶を二人で呑む。
世界樹の葉をポーション系に加工せず茶葉にするなんて、この世界で僕達しかいないと思う。
「では、そろそろやるかの」
一服タイムも終わり、セーさんが準備を始めた。といっても、普段通り開いてるか瞑ってるか分からない目で瞑想するだけなんだけど。
シュルシュルシュルシュルー
「え?」
どこかから伸びて来た蔓が浮遊箱にグルグルっと巻き付いた。
「魔素の薄い地とは言え、上空だと町の上も森の上も変わらんからの。魔素の濃さが均一であれば操作も楽だの」
セーさんの言う事は尤もだ。魔素濃度が違えば近距離はともかく、遠距離での操作は難易度が上がる。
恐らくセーさんは戦場となっていた草原地帯を囲む森から蔓を伸ばしたんだろう。
あとは蔓を操って浮遊箱を引き込むだけ。
確かにこの方法なら行きたい場所に浮遊箱を導けるな。ま、中距離までだろうけどね。
グルグルっと巻き付いている蔓がドンドン引っ張られて行く。
予想通り、行き先は戦場先の森のようだ。
戦場跡の砦入り口にも見張り兵はいたが、真っ暗な中の空なんて誰も見てない。
誰にも気付かれずに森へと辿り着いた。
「ふむ、いい感じに仕上がっとるの」
「キズナ様ー!」
「あれ?」
見た感じ、何があるのか分からないけど、セーさんの言葉からすると目的地のようだ。
それはいいんだけど、なんでシルフィーナさんがいるの? 還ったんじゃなかったっけ?
「シルフィーナさん?」
「はい! ちゃんと見張ってましたよ!」
何を?
「ふぉっふぉっふぉ、ご苦労だったの。そろそろ頃合いかの」
「はいー。これなら当分悪さもできませんー」
「何の話を……あっ! 勇者! ……勇者?」
装備を見る限り、昼間見た勇者ワタルだと思うんだけど、カリッカリに干からびていてガリガリの皺々になってる人がいた。
生きてるの?
「シルフィーナさん? それって勇者ワタルで合ってる? 生きてるの?」
「はいー、昼間の勇者さんですー。生きてますよー」
何気に楽しそうに見えるね。
「シルフィーナさんはずっとここにいたの? もう還ったと思ってた」
「えー、ヒドいですー。ブラッキーさんとホワイティさんに挨拶した時もいましたよー」
あー、確かにいたかも。で、その後は一緒に付いて来なくてここで見張ってたと。
あの時は雰囲気が悪かったし、ハナノエさんが先に行っちゃうもんだから気にする余裕がなかったよ。
でも、シルフィーナさんがここにいるって事は……
「……」
「……君もいたんだね。メタスランも見張りご苦労様」
ピョンピョンと跳ねて喜びを表すメタスラン。
君って話せなかったっけ? 話せたはずなんだけどなぁ。分かるからいいけど。
「それで、あれ…どうするの?」
聞いた先はもちろんセーさんだ。
「結構な養分になってくれたでの。もう解放してやろうかの」
「解放って……あれじゃこのまま解放したら死んじゃうよ。その前に歩けないんじゃない?」
「いやいや、中々にエネルギーを持っておったでの。奴を送るぐらいはやってやるぞ」
「あのままで? いやいや絶対死んじゃうって! 目も焦点合ってないし、そもそもどんだけ吸収したの!?」
「どれだけか? そうだの、この森を儂の縄張りにするぐらいは頂いたかの。いやなに、こっちの森は元々魔素が少ないでの。すぐに縄張りにできたの」
縄張りって……じゃあ、こっちの森でもセーさんに死角無し? どこまで縄張りにしたのよ! 森って言っても凄っごく広いよ!?
「いやぁ、キズナとの旅はおもしろいのぉ」
僕はあんまり面白くないけど? 別にセーさんの勢力圏拡大のための旅じゃないんだけどさ!
「一応、ポーションはあるけど、勇者に使っても大丈夫かな?」
さすがにこのままじゃ可哀想だ。
「おお! そいつか名案だの! ポーションで生かして更に吸い取るとはの。キズナも中々黒いのだの」
いやいやいやいやいやいや、そんな鬼畜な考えなんて無いから! 僕をなんだと思ってんだよ!
「セーさん!」
「いやいや冗談だの。だが、案外……」
「セーさん!」
「ふぉっふぉっふぉっふぉ、冗談冗談。だが暫し待て。このまま復活させてまた暴れられても敵わん。ちょいと仕込みをするでの」
セーさんは蔦で雁字搦めになってる勇者ワタルに近付き、パラパラっと何かの種を勇者ワタルの胸元に蒔いた。
するとすぐに種が芽を出し、するする~っと三〇センチ程伸びるとヒマワリのような小さな花を咲かせた。
大小違いはあるが、全てヒマワリのような花を咲かせていた。
「ふぉっふぉっふぉ、流石は勇者と呼ばれるだけの事はあるの。いや、大漁大漁」
満足そうにセーさんが花を刈り取っていく。
花を刈られると、茎は皺々に枯れて行き、勇者の胸元から消えて行った。
何の種!? 流石にそれは習ってないんだけど!
「ほぅほぅ、これはこれは、中々のレアだの。ほれ」
そう言って投げ渡された花を見た。
「【鑑定】、できるようになったのだろ? 見てみるといい」
言われるがままに【鑑定】してみた。
職業の種(勇者)
レア度★★★★★
職業の種~!? なにそれ!
「これなんかも使えるんではないかの? キズナにはもう不要かもしれんが、今後必要になるかもしれんしの」
次に投げ渡されたものも【鑑定】してみる。
スキルの種(鑑定)
レア度★★★★☆
スキルの種!? しかも【鑑定】って! なにこれ!
次々にセーさんから投げ渡される花の種を【鑑定】してみる。
スキルの種(火魔法)
レア度★★★☆☆
スキルの種(水魔法)
レア度★★☆☆☆
スキルの種(剣術)
レア度★★★☆☆
スキルの種(無限収納)
レア度★★★★☆
スキルの種(自動翻訳)
レア度★★★★☆
称号の種(ドラゴン・スレイヤー)
レア度★★★☆☆
スキルの種(体術)
レア度★★★☆☆
スキルの種(雷魔法)
レア度★★★☆☆
レベルの種
レア度★★★★★
称号の種(異世界人)
レア度★★★★★
耐性の種(毒)
レア度★★★☆☆
耐性の種(麻痺)
レア度★★★☆☆
耐性の種(魅了)
レア度★★★☆☆
勇者の種とか鑑定の種とか、これって何!?
「セーさん! これって……」
「此奴から拝借しただけだの。称号やレア度の高いもんは一粒しか取れんがの。だが、レベルの種は一粒でレベル1上がるから、ようさん付いとるの」
勇者の種と鑑定の種、あとは称号の種は一粒しか付いてない。
他は五~十粒とバラつきはあるけど、レベルの種は五〇以上付いていた。
「これってどうやって使うの?」
「花から種を取って胸のところに持って行くと、勝手に身体に取り込まれる。食べても構わんがの」
そう言われても、試すのはちょっと躊躇われる。
「レア度の違いは? 火魔法なんかで★3も付いてるけど」
「強力な魔法を覚えとる場合もレア度は高いようだの」
という事は剣術や体術なんかも、強力な技を覚えてたって事か。
耐性の★はそれだけ耐えれるのかな?
「儂には必要ないもんばっかりだ。全部キズナにやるから誰かに使えばいいの」
誰かにって、誰に使うの? ちょっと今、思い当たる人はいないんだけど。
まぁ、レベルの種に関しては、また上位精霊に来てもらったらレベルが下がるだろうから、その時に使わせてもらおうかな。
他はいらないかな。って、今更【鑑定】スキルに出てきてもらってもなぁ。
というか、これって勇者から奪い取ったって事なの?
【鑑定】
名前 ワタル
職業 勇者
レベル 1
HP 5/100(瀕死)
MP 5/80(枯渇)
スキル (剣術:初級)(体術:初級)(魔法:初級【火】【水】【雷】)(鑑定:初級)
ユニークスキル (無限収納)(自動翻訳)
耐性 毒(弱)麻痺(弱)魅了(弱)
称号 異世界人 ドラゴン・スレイヤー
ふ~ん、持ってたもんが無くなるわけじゃないんだ。全部初級に戻されるだけなんだね。
称号も無くなってないし、ユニークスキルはコピーって感じなのかな?
「この種をこの勇者に戻せばステータスも元通りになるの?」
「当然だの。まさかと思うが戻すつもりではなかろうの。此奴は戦いを挑んで来た。そして負けたのだの。殺されんだけよかったと思うがの」
確かにそうかもしれないけど、日本人の記憶を持つ僕とすれば、同じ日本人の彼には酷かと思ってしまう。
ただ、戦いを挑んで来たのは彼の方からだし、セーさんは魔の森で生き残ってきた人だ。本来なら命まで奪うつもりだったんだろう。
僕に遠慮して命だけは取らないようにしたのかもしれない。
だったら、この種を彼に戻すのはセーさんに申し訳ないか。
「わかった。この種は遠慮なく貰っておくよ。今は使わないけど、機会があれば使わせてもらうね」
「うむ、そうしてほしいの」
セーさんから渡された花を種付きのまま収納バッグにしまった。
「じゃあ、回復させるよ」
「うむ? なんだ、魔法でやるのかの。ポーションではないんだの」
「え? うん、ポーションだとHPしか回復しないから回復魔法で魔力まで回復させてあげようかと」
「それぐらいのサービスは許そうかの。レベル1だしの」
ポーションだとHP回復ポーションとMP回復ポーションの二本が必要だし、この状態だと飲めるかどうかも怪しい。
ぶっ掛けても効果はあるんだけど、これだけのものを提供してくれたんだからサービスしておこう。出会った時の印象の悪かった彼だけど、こっちは誰も被害にあってないんだからこれぐらいはね。
【バーニング・ヒール】
炎系の回復魔法で勇者ワタルのHP・MPを回復させた。MPまで回復させるなら水系や光系より炎系の方が効率的だ。
レベル1に対しては過剰な回復だったけど、僕にはほとんど負担にはならないんだからこれぐらいはサービスだ。
勇者ワタルのHP・MPが全快した。
まだ目覚めそうな気配はないけど、いつ目覚めてもおかしくはない。
「ならば儂もサービスで送ってやるとするかの。此奴には力も頂いたしの」
スキル以外にもまだ何か奪ってたの? 勇者ワタル……踏んだり蹴ったりだね。
これも勇者なのに戦争なんかに関わるからだよ。僕達に喧嘩も売ってきたしね。
【鑑定】を持ってたんなら分からなかったのかな? シールダーさん達の事も見えてたようだし、僕の【鑑定】では現れない特別な力を持ってたのかもしれないけど、【鑑定】で自分との力の差ぐらい分かるはずなんだけど。
よく【鑑定】を忘れる僕が言えた義理じゃないけどね。
「ほれ、もう来るんではないぞ」
蔦に絡まっていた勇者ワタルが姿を消した。
干からびてた姿から、出会った時のような血色の良い姿に戻ってたから死にはしないと思うけど、何処に送ったんだろう。
「心配せんでいい。ちゃんと奴らの国の大きな町の門前に送ってやったからの。人もおったようだし死にはせん」
奴らの国って、縄張り内じゃないのにそんな遠くまで転送できるようになったの?
セーさん…勇者ワタルから何を奪ったんだよ。




