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澄み切った空の下

星空の中に放り出されて、次に目が覚めたとき、僕の前には澄み切った青空が続いていた。


…青空はキライだ。あまりによどみのない空気にさらされて息ができなくなりそうになる。


空は海のようだ。


きっと包み込まれたら窒息してしまう。





「あら、お目覚めになられたのですね。


ようこそ野薊のあざみの世界へ…ここへこうして迷い込んだのも何かの縁ですわ。


どうぞこの世界に‘存在する権利‘を存分にご堪能してくださいませ。


わたくしの名前は水みな、同じくこの世界に祝福を受け‘案内人‘としての‘権利‘を享受した者です。」





青空の下には蓬のような色をした髪の毛をお団子にしている女の人がいた。


正確にいうと、見覚えのない知らないコスプレしたとしか思えない姿の女の人に僕は膝枕をされていた。


不本意だったので、速攻で無言で立ち上がった。





「あらあら、恥ずかしがらなくてもよろしかったのに。


それにしても…あなたはとても野薊の神様から気に入られているようですわ。


こんなにも多くの‘権利‘を迷いこんだ時からもっている方を見るのは初めてです。


そして、そんなあなたの‘案内人‘を務めることができるなんて…わたくしの案内人冥利に尽きますわ!


これもそれも野薊の神様のお導き…感謝いたします。」





‘権利‘ってのも‘案内人‘ってのもなんだかは分からないけれど、目の前にいる見知らぬ緑色の髪を年甲斐もなくお団子にした女性は今にも口の端から涎を垂らすんじゃないかと思うくらいに恍惚とした表情を浮かべながら僕を見ていた。


まぁ、そんな変人はほおっておくにしても、僕には一つとにかく気に入らないことがあった。





「…空くうはどこ?」





「空くう?…申し訳ありません、わたくしはあなた様しかここで見かけておりません。」





「…そう、ならいいや、僕、空くぅがいないならここにいる意味ないから。」





僕と空くぅは常に二人で一つでなくてはならない。


空くぅが横にいないなら、こんなところで寝転がっている場合ではない。





「どこへ行かれるのですか?」





「空くぅのところ」





「失礼なことをお聞きいたしますが、空くぅさんとあなた様のご関係性は?」





僕はイライラしていた。


こんなにも急いでいるのに、当然のことをどうして聞いてくるんだ。





「空くぅは僕のふた……?」





喉の奥に言葉が詰まった。


イライラする…


喉をかきむしりたくなるような感覚…





「まぁ…なるほど…わかりましたわ…あなたがそれだけの‘権利‘を持ってこの世界に迎え入れられたのは、元の世界にいたときにあなたが最も大切にしていた‘権利‘を失うだけで十分すぎるほどに野薊の神様が満たされたから。


だから他の‘権利‘は奪われなかった。」





「どういう意味だよ!?」





女の妖艶なほほえみ。


値踏みするように僕の身体に絡みついてくる視線。





「あなたはよほどその方と‘双子である権利‘を大切にされたていたのですね。」





「っ!?当たり前だろ!?僕のすべては空くぅのためにあって、空くぅのすべては僕の為の物なんだ!!」





「なら…あなたと空くぅさんの関係を説明してみてください。」





トンと軽く女の指が僕の心臓のあたりを叩いた。


鼓動が大きく波打つ。何故か全身から汗が止まらない。


‘双子‘そう説明すればいいだけなのに、その言葉を口にしようとすればするほどその認識が砂のように崩れこぼれおちていくのを感じる。


真夏のアスファルトの上に落ちた氷のように…存在が液化し、気化していく…。


焦りが止まらない。


なんとしてでも僕は空くぅをこの手の中につかみ取らなくてはならないんだ。


それができなければ…僕が…ボクデナクナッテシマウ。





「なら、わたくしと共にまいりましょう。


あなたの一番大切な‘権利‘を探すために。


そうすればおのずと空くぅさんとも再会できますわ。」





差し出された手を僕は見つめる。


…どうしてあの時、空くぅは僕の手を離したんだろう。


あの時、しっかりと手を繋いでいたならば僕らは離れ離れにならずにすんだんじゃないのだろうか。


あの瞬間の空くぅの笑顔が頭をよぎる。





どうしてあんなにワラッテイタノ?





「…案内人って言ったよね…僕を空くぅのところまで連れて行ってくれる?」





「おおせのままに、それこそが私の幸せです。」





一刻も早く、空くぅを見つけるためには情報が少なすぎるこのなかで、使えるものはなんでも使うべきだと判断した。


たとえそれが得体のしれない‘案内人‘を名乗る女だとしても。





「じゃ、一応僕は天てん。天空寺天てんくうじてん。」





「改めまして、わたくしは水みなです。天てん…まるで神が与えてくださったような名…。


必ずわたくしめが天てん様の‘権利‘をすべて取り戻して差し上げますわ。」





「あー、うん。ヨロシクネー。」





「あら、まったく素っ気無いお返事ですこと…どうぞ宜しくお願いいたしますわ。」





水みなはふわりとスカートの裾を持ち上げて丁寧にお辞儀をしてみせた。


彼女の動きにあうように、周囲の草木が風に舞う。


夜空にほおりだされた僕は目が覚めたらよくわからない場所に一人でたどり着いて、


何よりも大切な空くぅを失った僕は、


そこで出会ったさらによくわからない水みなと世界を旅することとなった。





僕の始まりは、息苦しいほどに澄み切った空に見守られていた。



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