表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/5

僕色の花を咲かせたい

「見て見て、くう、降ってきそうな星空だよ、綺麗だね!」


「待ってよ…てんちゃん…わぁ、本当に綺麗だね。こんな星空、僕はじめて見たよ……本当に、綺麗。

でもあんまり遠くに行くとお父さんたちに怒られるから戻ろうよ…。」


くうは心配性だなー。大丈夫だよ、お父さんは‘一人で遠くに行くな‘って言ったんだから、僕とくう二人一緒だからこのくらい平気だって!

あ、見て見てこの看板!この先熊が出るんだって!」


「天ちゃん、笑っている場合じゃないって熊は益々危ないよ!

星空はコテージからでも見れるよ…ねぇ帰ろうよ…。」


僕の名前は天空寺てんくうじ くう、そして僕を引っ張って先を歩いているのは双子の天空寺てんくうじ てん

双子だけど僕たちはいつでも正反対で、陰と陽で光と影だった。

いつでもてんちゃんは僕を文字通り引っ張っていろんな景色を見せてくれる。僕はその後ろをついて行って恐る恐るその景色を見つめるだけ。僕の世界は、すごく小さく閉じていて、でも僕はそれでも十分で手に余っていて…そこにてんちゃんが見せてくれる世界はいつも入りきらなかった。

それでも、僕はてんちゃんの後ろをついて行く。

僕はきっとてんちゃんがいないと生きていけないから。

…でも、少してんちゃんは向こう見ずと言うか無鉄砲なところがあって、今日も家族で来たキャンプでお父さんに「地面が雨で緩んでいるから遠くに行ってはいけない」と言われていたにもかかわらず、夜中に二人で探索に出かけることになっていた。


「熊なんてでないよ、それにほらあそこ、空の好きな花が咲いてる!

ほら、すごいたくさん絨毯みたいだよ!あそこまで行こう!」


「本当だ、ノアザミが咲いてる…じゃぁ、そこで帰るよ?」


「あの上に寝転がって星見たら、絶対に最高の思い出になるよ!」


この時、僕はこの手を引っ張るべきだったんだ。

ノアザミの花がいくら綺麗な赤紫色でその花びらを僕らを迎えるように広げていたとしても、その葉や茎には小さなとげが待っている。

ー野薊に (さは)れば(おゆび) やや痛し 汐見てあれば すこし眼痛しー

そう詩歌にも詠まれていたのに…。


てんちゃんが赤紫色の世界にむかって駆けだすのを僕は見ていた。

そしていつものように少し遅れて僕も後を追いかけた。

だから…僕は見ていた。


ー天ちゃんの足元が崩れ落ちていくのを。天ちゃんが僕に手を伸ばすのを。-


ぐにゃりとした感触…不安定に揺れる視界…そうして僕は悟った。


ー自分の足元ももうすぐなくなるということを…。-




降ってきそうな星たちに見送られて…僕はてんちゃんの双子の妹である権利を失った。

てんちゃんの双子の妹」でなくなった僕は…すべてを失った。

てんちゃんが必死に伸ばす手。

いつもならつないでいたはずの手。

離れた手を掴む努力もせずに、僕は天ちゃんの伸ばす腕をただぼーっと見つめていた。

天ちゃんは助けを求めているというよりは、こうなってまでもなんとかして僕を助けようとしていた。

あまりにも僕のことを思い過ぎている姿がもはや滑稽にすら見えて笑えてきた。


「っ…あはははははは!!」


天ちゃんごめんね。


僕…少し安心したんだ…これでもう天ちゃんの妹って言われなくてすむって…

涙を流しながら落ちていく天ちゃんの顔を見ながら多分、僕は笑っていたと思う。


世界が逆さまになって、僕は落下していく。

暗くて、下がどうなっているのか分からないけれど、こんなに長く落ちているのだ。

多分、僕はこのまま死んでしまうのだろう。

 

なのになんでだろう…僕、今すごく自由なんだ。


ノアザミの花びらが僕の後を追うように月明かりに照らされて舞っているのを綺麗だなって思った。


ノアザミの葉に触れる痛みを感じることなく

                 僕は僕と言う名の花を最後に咲かせる…  

                    僕という名の花は一体どんな花になるんだろう


どうせなら…

どうせなら…せめててんちゃんよりも自由に咲き誇る花に…僕はなりたい。

もう、僕を定義付けるものはなくなって僕は僕として…誰かが手折りたくなるような花に…



        

                                 さようなら







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ