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爪を集める趣味があった。

作者: 数菜

子供の頃から、人とは違った変な趣味があった。

それは、切った爪や抜けた髪の毛を集めるといったコレクションだった。

どれも”自分”から削げ落ちた部品の収集であり、どのような理由であったかはわからない。

それから10年程経ち、もうやめられるかと思ったが、そのようなことは一切なく、今でもそれの収集は続いている。

貯めに貯めた指に付属していた硬い爪は、透明なガラス瓶をいっぱいにした。


そのような趣味を持ちながらにして、初めての彼女ができた。

高校2年生の夏のことであった。


その頃思いを寄せていた女子に勇気を振り絞り、告白したのだ。

返答は自分が望んでいたものであり、自信が無に等しかったものであるから、驚きを隠せなかった。


しかし、そこで一つの問題が発生した。

というのも、自分の趣味であるコレクションをどう説明すればよいのだろうか。

付き合い始めてすぐの頃は、まだ互いのことを深くは知らず、ましてや家に遊びにくることはなかった。

大きな喧嘩もなく、半年程付き合っていれば仲も深まり、ある日彼女に家に遊びに行って良いか、と聞かれた。


もちろん断る理由もなく、快く家に迎え入れたのだが、それまで家に遊びに来る。ということで頭がいっぱいであり、コレクションを入れている瓶や、箱のことをすっかり忘れていたのだ。


箱はともかく瓶などは、ひと目見るだけでその異様な姿に不信感を抱いてしまうだろう。

これらの趣味は家族にすら言っておらず、ずっと自室の押入れの奥にしまっておいた。


問題は、今日の朝その瓶を、学校を出る前に眺めてから、部屋の真ん中に置いてきたままにしていた。ということだ。


母は、度々無断で自室に侵入して、勝手に掃除を始めてしまう所があり、母に知られてしまったらどのような顔をするか、容易に想像することができた。

きっと、眉間にシワを寄せ、頬を引きつらせ、うわ、キモ。などと罵るに決まっている。


彼女は学校帰りに家によることになった。

母が勝手に自室に入り込んでいないことを願って家の扉をくぐった。

家に入り、廊下を歩いている時に母と出くわした。既に母と彼女は顔見知りであり、母は、彼女に簡単な挨拶を交わした後、僕に近づいてきて、耳打ちをした。

「あんた、部屋にあった、あれ、なに?汚いから捨てちゃったわよ、あんな変なもの置いとくなんてあんたも変な趣味してるのね」


目の前が真っ暗になった。

呼吸が荒くなるのがわかった。爪を集めること自体変なことだ。そのようなことは分かっている。

そしてそのようなものを母に捨てられただけで動揺する自分が情けなかった。


彼女をその場に置いて自室に走り出した。

その部屋は2階に位置しており、階段を上がって右に曲がってすぐの所にあった。

肩を上下させ、ドアノブを握りしめ、勢い良くドアを開けた。

そこには例の瓶の姿はなく、綺麗に整理された自分の部屋があるのみだった。


立ちくらみをおこし、次に取った行動は、ゴミ箱に向かうことだった。

初めからそこへ行けばよかったものの、あまりに気が動転しており、気が回らなかった。

もう一度部屋を飛び出し、思いっきり扉を閉めた。そこには後を追いかけて来た彼女が困り果てた顔をして立っていた。

「どうしたの?いきなり走りだして」

素直に打ち明けられるわけもなく、彼女の横をすり抜け、階段をまっすぐおりた。

背後で彼女の声が聞こえた。

「何かなくしたの!?私も探すよー?」

探してもらうわけにはいかず、台所にあるゴミ箱の中に手を突っ込んだ。

しかし中には集めた爪らしきものは一つも見当たらなかった。


すると後ろで料理をしていた母が言った。

「あんたねーなんで食べかけのパンを机の上に置きっぱなしにしてるのよ、ほんとに汚いわね、彼女さんに引かれるわよ、私が掃除しといて良かったわね」

母が捨てていたものはコレクションではなく、パンだったのだ。思い出した。今日の朝は、朝食であるトーストを食べながらコレクション鑑賞をしていたのだ。

そして遅刻ギリギリの時間であることに気づき机の上に食べかけの食パンを置いて、そのまま急いで学校へ向かったのだ。


では、瓶はどこへ行ってしまったのか。もしかしたら無意識の中で元あるべき場所へしまったのかもしれない。


彼女の声がした。

「ねえ、ほんとになにを探しているの?」

「あら、大丈夫よ、気にしないで」

母が応えた。

ふらふらと混濁する思考のなかで立ち上がる。

手を後ろで組んで立っている彼女に自室に戻ろうかと提案し、隣を並んであるいて廊下をすすんだ。

階段を上がり、開きっぱなしだった扉をくぐり、部屋に入り、扉を閉め、床に向かいあった状態で座った。

「探してたのって私には言えないもの?もしかして変な本・・・とか?」

彼女に変な誤解をされていることを恥じた。

しかしここで正直に趣味を打ち上げられるはずもなく、ごまかしておこうと、頭を下に振った。

「そうなの?これは?」

項垂れて床を見つめていたのだが、その視界に見覚えのある瓶が入ってきた。

驚きを隠せず、あわてて彼女の顔を見上げる。

彼女はとくに変な表情などはしておらず、いつもと変わらない、きょとんとした顔であった。

「どっどこでこれを!?」

「ん?押入れの中に入ってたよ?」

「勝手に開けたのか!?」

「ごめん・・・私も探してあげようと思ったの」

自分がゴミ箱をあさりに走った後に、彼女は部屋の中を詮索していたらしい。

やはり、朝、急いでいたものの、瓶を押入れの中に入れていたのだ。しかし、急いでいたので、押入れを開けてすぐの所においていたのだ。長年バレていなかったこともあり、油断していたのだ。


心臓が激しく跳ね打っていた。それは、彼女に趣味のことがバレて、引かれたのではないかと心配するものであった。彼女は、人生で一番好きになった人であり、決して失いたくはなかった。それもこのようなことで。

「ごめん、引いただろ」

これがこのふざけた癖を捨てる良い区切りだと思った。

「もう、止めるから、嫌いにならないでくれ」

絞り出した言葉は、存外重く、唇は震えていた。心の中ではこの瓶のことを馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、いざ捨てるとなると謎の悲しみがあり、捨てるのに抵抗があった。


切り落とした爪ですら、自分の一部であったのだ。


「ううん、おもしろい、続けなよ、これ」

彼女の返答は予想とは遥かに違うものであった。

その言葉をすぐに理解することはできず、しばらく呆けてしまった。

「き、きもいとか・・・思わないの?」

「全然おもわないよ、ほんとに面白いとおもう」

まさかこんなことを言ってもらえる人に出会えるとは思っても見なかった。

素晴らしい人に出会ったと素直に感動した。

それからしばらく室内ですごし、彼女は帰ることになった。

「今日は、その、ありがとう」

心からでた言葉であった。

「またくるね」

短い言葉を交わした後、彼女は自宅へ帰っていった。


一人で自室に戻り、座り込んで、考えた。

もしかして、これは、そんなにおかしい趣味ではないのかもしれない。

自分の尺度で測り、気持ちが悪いものだと思い込んでいたのだ。

人に言っても、意外と受けれられるのではないか。

隠し通すのが、少し限界に感じていた物であり、母に打ち明けることにした。


「うわ、キモ」


この世界は僕に辛辣であった。


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