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桜色の忘却―夢幻の廃跡―  作者: 星利
<廃遊園地の怪>
4/14

ユメミルオモイ


翌朝、大学に到着した私は1人、キョロキョロと辺りを見渡していた。


昨日の黒い星座柄の傘を、持ち主に返さなければならないという使命感。



大学はやっぱり、高校までと規模が違う。


楽しそうにワイワイ騒いでいる男女グループに、盛り上がってバカ笑いしている女子達、それに互いに少し遠慮し合っているカップルなどが目に入る。


毎日がこんな風に、お祭り騒ぎなのだろうか?


人でごった返している門をくぐり、噴水の前をぼっちでスタスタと歩いていく。



「軽音部入りませんかっ?」


「ドルサーでぇす♡よろしくね~♡」



目の前に差し出されるビラに向かって会釈し、講義室へと向かうことにした。


今の私にはまだ、先輩達と目を合わせる勇気さえない。



すると、その時だった。


「廃墟部です。僕達と一緒に、思い出の色を紡ぎませんか?」


そんな宣伝が聞こえてきたので、私は不意にそちらの方へと目をやった。



(はいきょ、ぶ…?)


そんな名前、聞いたことがない。珍しいと思った。



そっと見ていると、廃墟部と書かれた灰色の看板を手に、ビラを配っている男の人を発見した。


(あっ、あれは昨日の…!)


とっさに、私はそちらの方へ駆け出していた。



「…あっ、あの、昨日はどうも…ありがとう…ございました…。」


「あぁ、春灯さん。返しに来てくれたんだ、ありがと!」



(また、私の名前…!)



知らないはずの人に名前を呼ばれ、不信感と得体の知れぬ懐かしさに、胸がドキリと浮くのを感じた。



「あれ、…もしかして、忘れちゃった…?」


目の前にいる彼が、少し残念そうな低い声でそう言ったので、私はきょとんとした。


彼をまじまじと見る。



春風になびく黒髪。キリッとした目鼻立ち。爽やかなはにかみ笑顔。スラッと脚の長い細身なスタイル。私より頭1つ高い身長。オシャレに着こなした白シャツに黒いパンツスタイル。漂うインテリジェントな雰囲気。



「うっ、うーん?」


ダメだ。知り合いにこんなイケメンがいただろうか。(不覚にもクラッとしてしまった。)



「…ほらよ。」


彼は手を眼鏡型につなげ、自分の目に当てて見せた。


「…もっ、もしかして…!」



頭の中に、ある考えが浮かんだ時、私の心はパンと弾けた。


「ち、ちぇるしー先生?!」


「…バレたか。ならしゃーなし。」



自分から仕向けたくせに、ちぇるしーは少しきまり悪そうに目を逸らした。


「卒塾したとこなのに、忘れたのかと思って焦ったわ。」



(えっ、えっ、)


「エェェェーー?!」


次の瞬間、私は我を忘れて叫んでいた。大学からは大人しいキャラでいこうと思っていたのに…。



(あのちぇるしー先生と同じ大学だなんて…!)


そう、これはきっと夢。夢なんだ。


自分にそう言い聞かせて頬をパシパシと叩いたら、痛かった。



◇◆◇◆


「春灯さん、後で説明会来る?」


夢見心地でぼんやりしている私に、ちぇるしーは言った。


「…説明会、ですか?」


「そ。俺らの部室で、廃墟部について説明してやるよ。…春灯さん、興味あるんだろ?」


「…もっ、もちろん!」


(あちゃー。)


私は目を輝かせていたが、決して廃墟に興味があるわけではなかった。


…ただ、先生に会えて嬉しかっただけなのだけれど、それがバレるぐらいなら誤解された方がましだ。


「じゃ、講義終わったら噴水前に集合な。何限まで?」


「3限です。」


「了解。15時に噴水前ってことで!じゃあな!」


そう言って、挨拶代わりに片手をサッと上げると、先生は行ってしまった。


だんだん小さくなり、遠ざかっていく背中を暫く見つめていた。




「あ、」


ハッと我に返る私。


このままだと、流れで興味皆無の廃墟部に入ることになるかもしれない。


(…まっ、先生――今は先輩だけど…、と同じサークルに入れるなら何でもいっか。)


気を取り直し、ふわふわした気分で初めての大学の講義とやらを受けた。



(何だか、ワクワクする。)


新しい世界への扉がそこにあって、開く一歩手前の瞬間。


…もしくは、宝箱がそこに置かれていて、開けるその刹那。


そんな気分だった。


そこに待っているものがどんなものかは分からないけれど、悪い気はしない。

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