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桜色の忘却―夢幻の廃跡―  作者: 星利
<廃遊園地の怪>
13/14

新緑日和


早速最寄り駅近くのカフェでバイトをすることになった私は、5月10日土曜日の朝、ホールでぼんやりとしていた。


このカフェの名前は"ほのぼの日和"である。


ノスタルジック感漂う古びた小さなレンガ造りの建物で、内装もオシャレだ。"隠れ家的カフェ"として度々雑誌に掲載されている。


白い壁、木のテーブル、幾何学模様のソファ、細い(はがね)で猫をかたどった小物、7色パステルカラーのキャンドル、ステンドグラスでできた星々のライトなど、小さな雑貨がちょこんと置かれている。


味のある手書きのメニューに載っているのは、手作りサンドイッチ、カレーライス、パスタ、ハンバーガー、ケーキ、パフェ、パンケーキなど。


特にオススメなのは、ハンバーガー。外はサクッ、中はふわっとした優しい味のバンズに挟まれたフレッシュなレタス、トマト、そして肉汁の溢れる…


グウゥゥ~…ギュルギュル…


(あ、お腹鳴った)


考えただけでも美味しそうだということがお分かりだろう。



このカフェは、場所が場所なだけに、お昼時以外は比較的空いている。私が住んでいる所は、京都の田舎の方だ。



「では、次は裏野夢見ランドについてのニュースです。」


カフェに1台置かれている、小さなテレビから聞こえてきたニュースに耳を傾ける。



すると…。


「話題になった事件の起きた裏野夢見ランドについて、8月9日土曜日をもって取り壊されることになったというニュースが今朝入ってきました。」と、ニュースキャスターの美人なお姉さんが、少し残念そうに伝えている。


(え…?)


1度だけでいいから訪れて見たかったのに、残念だ。私はガックリと肩を落とす。


その日のバイトは、沈んだ気持ちを隠し切れず、お客さんに対してつれない態度を取ってしまいそうだった。



◇◆◇◆


(あぁ、今日は昼間凄く混んでて、疲れた…。)


16時になり、バイトを終えた私は、私服に着替えて裏口から出る。


「お疲れ様でしたー!」


「おっ、春灯ちゃんお疲れ!」


そして、帰路をスタスタと歩いていく。その時、ふと好奇心が顔を出した。


(家に帰ったら、裏野夢見ランドのチラシに書かれてた間違い探し、答えてみようっと!)


不可解な事件の時に、空から降ってきた裏野夢見ランドのチラシには間違い探しが載っており、答えをメールで送信するようになっている。もう取り壊されるなら、試しに送ってみても何も起こらないだろうという安易な考えだった。


簡単な間違い探しの答えをメールで送り終えると、私は机に突っ伏して夢の世界へ…。




◇◆◇◆


居眠りしていたことに気付き、飛び起きた午前4時半。まだ外は薄暗い。


私は何気にスマホをチェックする。


すると、1件の新着メールが届いていた。


(今どきメールなんて、珍しいな…。誰からだろう?)



「……ふぁっ?!」


そのメールを見た私は、雷に打たれたように衝撃を受けた。


「★☆★☆★☆★☆★


差出人:裏野夢見ランド支配人


裏野夢見ランドへ、ようこそ!


この度は、私達のチラシの間違い探しに参加していただき、ありがとうございました!


当選おめでとうございます!あなたは、選ばれし者です。


楽しい楽しい夢の国へ、1日限定招待致します!



日時:今年(2017年)8月8日 AM10:00

場所:エントランスの入場ゲート前


※5名様をご招待致します。必ず5名様揃ってご来場下さい。


廃遊園地で、素敵な夢のひとときを♪


★☆★☆★☆★☆★」


そんな文言のメールに、地図の画像が添付されていた。


(な、何これなにこれナニコレ…?!)


イタズラ?迷惑メール?それとも…。



私は、すぐさまちぇるしーに相談することにした。


先程のメールをスクショして、LINDのトーク画面で送信する。


すると、たまたま見ていたのか1分で返信が来た。


「?!」というマークの書かれた、首を傾げた可愛いゆるキャラパンダのスタンプだ。(イベントの友達追加でもらえる無料のもの)


(!)


私は、不意打ちをくらってしまった。そして、不覚にもキュンとしてしまった。そんなことを感じている場合ではないというのに。


「今、電話していい?」


(えっ、ちぇるしーと初電話?!?!)


動揺した私は、トクントクンと高鳴る胸を押さえて返信する。


「…い、いいですけど…!」



すると、すぐに電話がかかってきた。


「もしもし、春灯さん?」


「もっ、申す申す…いや、もしもしっ?」


アハハ、と笑ったちぇるしーは、すぐ普段のテンションに戻り、冷静に声をひそめた。


「春灯さん…、それ、悪いけど俺1人で行っていい?」


「へ?何言ってるんですか?」


「だって、廃墟部としてはこんな機会2度とないから、素晴らしい廃墟ブックが作れるだろ?


でも、春灯さんや薫、星野さんは女子だ。


危険な目に遭わすわけにはいかないし、さ。」



身勝手なことを言うちぇるしーに、私は強気になる。


「なっ、何言ってるんですか!


5人で来てって書いてあるじゃないですか!


勝手なことはさせませんよ!」


「んなのきっちりしなくてダイジョーブ。そもそも、廃墟部って今4人っしょ?」


「あ、」


意表を突かれた。


「うーん、何なら玲夜も連れて行けばいいですよ!」


「…あ、確かに。」


玲夜はお邪魔虫だが、この際そんなことを言っていられない。


「ま、いいけど、……。」


何かを言いかけたちぇるしー。


「何ですか?」




「俺から、離れるなよ。」


そんな声が、ぼそっと聞こえた。


「はっ、離れるわけ…!」



…。


……。



暫く沈黙が流れた。私は今、顔から湯気が出そうなほど発熱している。



「…じゃあな。」


ツー、ツー、ツーという音がする。一方的に切られたのだ。


(まったく、先輩は罪です!)


プンスカと足を踏み鳴らしながらベットにぼふっとダイブする。



澄み切った青空がどこまでも続いていて、新緑が眩しかった。


青に緑のコントラストが鮮やかで、初夏の訪れを知らせている。


爽やかなそよ風が頬を横切り、今年もまた夏が巡ってくるのがそう遠くないと思えるほどだ。


――待ち構えている、じとじとした雨と台風に脅かされる梅雨の暗雲を抜ければ、すぐそこに夏がある。

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