あの歌が聞こえる
ちぇるしーの爆弾発言を受け、静まり返った教室内。
カチ、コチ、カチと時計の音だけが響き渡っている。
私達廃墟部4人は、まるでこの世界で自分達だけが時限爆弾の存在を知ってしまったかのように、その場に立ち尽くしていた。
只今、19時。
ボーン、ボーンと鳴る教室の柱時計の音が、いつもより何倍も不気味に聞こえた。
「なぁ、知っとるか?
この柱時計、鳴る時と鳴らん時があるらしいで。」
「もう、止めてよ玲夜!
…って、玲夜?!」
私は、柱時計の音よりも、廃墟部の活動教室にいきなり現れた玲夜の方に驚いた。
「おー、園田。何でこんなところにいるんだ?」
ちぇるしーが素朴な疑問を投げかける。
「あぁ、智瑠先輩!
そろそろ活動終わりの時間かと思ったんスよ。」
「…そっか。」
目を閉じてうん、うんと頷いているちぇるしー。
(いやいやいや、答えになってないし意味分からないんですけど!)
「そんなことより玲夜、大変なの!」
私は、先程見つけた"ユキペディキュア"からのリンク先に書かれていた言葉について、玲夜に手短に説明した。
すると、玲夜は子供だましの映画を見せられたティーンエージャーのような顔をした。
「何やそれぇ?
…アホくさ。単なるガキのイタズラやろ。」
「そうだといいんだけど…。」
「そうではありません。」
星野さんが割って入った。いつものように無表情で落ち着き払っている。
「ユキペディキュアのサイトの右下からリンクしていたあのサイトは、偽物ではありません。なぜなら、ドメイン名が裏野夢見ランドによって取得されたものでしたから。」
「それって…。」
玲夜が怪訝そうな顔をする。
「"Uranoyumemiland.wonder.com"です。
つまり、あのサイトは本物なのです。ですから、"ガキのイタズラ"ではありません。…バカですね。」
「お前…!」
玲夜は、星野さんを睨みかけた。
「さっきから思っとったけど、愛想悪すぎやろ。
普段人と話す時は、ちょっとぐらい笑わんかい!」
「ちょっと、止めなよ。」
私は彼を止める。…確かにそれは私も思ったし、性悪女だとも感じたけれど、何か理由があるのかもしれない。
「……うぅ…!」
玲夜はうめき声をもらしながら、逆立った毛を落ち着ける猫のように大人しくなった。
◇◆◇◆
そんなこんなで、時計を見るともう19時半。
その日の活動を終了した私達は、一斉に外に出ることになった。最寄り駅まで5人で歩いていく。
「玲夜、何でついてくるのよ!」
「えぇやん。…どうせ帰り道一緒なんやし。」
「そ、そうだけど…。」
「物騒なことがあるかもしれんやろ!」
「だから何よ!あんたの顔見たらきっと逃げるわよ!」
「なんやとぉ!人を犯罪者扱いすな!」
私と玲夜は、いつものように言い争いをした。(いつからか、顔を合わせると言い合いをするようになった)
私達は今、駅の近くのショッピングセンター前を通過する。ショッピングセンターの壁には大きなテレビ画面が付いており、ニュースが流れている。この近辺は、小さなお店が集まり賑わっているのだ。
時計を見ると、ついに19時52分!
その時だった。パチッという音がして、街中の電気が消え、辺り一帯真っ暗になった。
「何や?」
「て、停電…?」
キョロキョロと周りを見渡す私達。すると、一斉に私達のスマホに同じ音声が流れ始めた。
…お化け屋敷よりも不気味な子供の笑い声。
それはどんどん広がり、現実世界においても四方八方から聞こえてくる。
「な、何や!
…スマホが勝手に…!」
「消せないわよ、これ…!」
フフフフフ…
イヒヒヒ…
ウフフフフッ
アハハハッ…
「な、何?!何なの…!」
私は思わず、自分のスマホをアスファルトに放った。ガシャンと音を立て、割れる画面。
笑い声が鳴りやんだと思えば、次はどこからか遊園地の昼のパレードで流れるような、夢見心地で厳かなファンファーレが聞こえてきた!
♪ドミファソドラレドシラシソド~
行進曲と、子供の笑い声。昼に聞けば愉快な気分になったかもしれないが、夜の停電した街中で、勝手にどこからか流れだすなんて恐怖でしかなかった。
街行く通行人も立ち止まり、困惑している。
すると、ショッピングセンターの壁に付いているテレビがビリビリと音を立て、ノイズ画面になった。次の瞬間、口の裂けた青白い女の子が映り、甲高い声で語りかける!
「いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく…。
…みーつけた。ねんげつは、ときのながれ。
…連れ出して ゆめのくに
夢の世界で 子供が一二三
幻に夢中で 消えるよ
あの子も くびつり人形
だれかさんに 訊ねてみれば
答えは 牢の中…
あくまが教えてくれたのは
あの頃の幻影
鏡の森で輪廻転生 まるで人違い
地獄の拷問 首を取られぬよう
回転木馬 空に舞って
回転永劫回廊 時間よ戻れ…
連れ出して ゆめのくに
連れて行こう ゆめのくに
帰りたい 故郷に
楽しい 楽しい 裏野夢見ランドへ…」
(何、このわらべ歌…!)
恐怖で、ガタガタと全身震えが止まらない。
青白い女の子は続ける。
「うらのゆめみらんどに、ようこそ。」
(え?)
次の瞬間、空から雹のように勢いよく、白いものが降ってきた。
ザァァァァ!
「な、何?!」
私は、恐怖で目を閉じた。音が止んだ時、ゆっくりと目を開けると、目の前には私をかばう玲夜の姿。
「な、玲夜…?!」
「いや、気にすんな。…それよりこれ、紙やな。」
「紙…?」
そこにばら撒かれていたのは、"裏野夢見ランドへようこそ"と書かれた招待状。
次第に街中の電気が元通りに点き、私達のスマホも正常になった。(私のスマホ画面は割れてしまった)
「…あー!怖かった!何なの、ねぇちえた!」
薫さんが口を開いた。
「…あれは、裏野夢見ランドのわらべ歌だ。
裏野夢見ランドが営業してた頃、CMで流れて社会現象になったそうだ。
…やっぱり19時52分に起こったな…。」
「それにしても、あれは犯罪よ!」
「詩織、大丈夫か?」
真っ先に私の方を見る玲夜。
「お前、顔真っ青やぞ!しかも震えてるし…。」
「だって、…!」
半泣きの私に、ちぇるしと玲夜は同時に言った。
「大丈夫、もう大丈夫だ。」「大丈夫、もう大丈夫やで。」
その場で平然としているのは、星野さんだけだった。(相変わらず能面のような表情をしていた)




