廃遊園地の挑戦状
「…ふむふむ。」
紙とペンを前に、考える人のポーズをしているちぇるしー。
「まず気になるのは、この"寝血襖"だな。」
「ねけつふすま…?」
彼は、紙に平仮名で"ねけつふすま"と書いた。
ブツブツと呟きながら、その暗号を並び替えたりしている。そして、「…そういうことか!」と言いながら、手をポンと叩いて頷いた。
「春灯さん、さっき説明したシーザー式暗号かもしれない!」
「シーザーサラダですか?」
やれやれと首を振りながら、ちぇるしーは説明してくれた。
「あのなー…。古代ローマの軍事的指導者、ガイウス・ユリウス・カエサルって世界史で習っただろ?
そいつは、英語読みでシーザーっつうんだ。
そいつが使用したとされる暗号。」
「あー、カエサルは聞いたことあります!カエルとサルみたいなんで。」
「…バカにしないで、それぐらいちゃんと覚えとけ!」
「…はい。」
思わず叱咤されてしまい、しゅんとする私。
「でさ、その暗号では、アルファベットや平仮名などの文字を、いくつか同じ数ずつずらすんだ。」
「へぇ、…いくつずらすんですか?」
「モノによるよ。これは、わざわざ"ラッキー7"って書いてあるから、試しに前に7つずつ進めてみよう。」
ちぇるしーは紙にあいうえお順で"あ"から"ん"までの文字を書き、1文字ずつ7つ前に進めてみせた。
すると、"ちいさなかね"という文字が浮かび上がった!
「小さな金?つまり金欠ってことですね!私と一緒です!」
興奮する私に対して、ちぇるしーは冷静な顔をしている。
「おっけ、分かった。」
「それって、ポケベルのことよね?」
いつの間にか、薫さんも輪に加わっている。
「ぽけべる…?」
ほへぇとしている私。
「ポケベルっつーのは、日本で1986年頃から急速に普及した、携帯電話の前身みたいなもんだよ。
1996年にポケベルブームはピークを迎えた。
ちょうど俺らが生まれた頃だな。」
「へぇー、データ発信できる初期の機械と言ったところですか…。」
私は、少し賢そうな風をまとってそう言った。(今日の授業に出てきたフレーズである)
「でも、何で"小さなかね"がポケベルなんですか?」
「"ポケット"には"小さな"という意味があり、また、"かね(鐘)"は"ベル"と同義…すなわちポケットベルだからでしょう。」
向こうの席で廃墟についての論文を読んでいた星野さんが、冷静沈着な声で答えた。
「そう。だから、この数字をポケベルの暗号表に合わせてみよう。」
ちぇるしーは、あいうえお順の平仮名、アルファベット、数字、記号を10×10のマスに書いて表を作り、上から下にかけて1~0、左から右にかけて1~0とした。
「じゃ、春灯さん。この数字に当てはまる文字を探してほしい。」
そう言われたので、基本的に2つの数字を1組にして確かめると…。
「キタぁぁぁ!!」
私はぴょんと飛び上がった。暗号の謎が解けたのだ!
それを大声で読み上げる。
「うらのゆめみらんどへ ようこそ
ろくじゅうごねんたったとき きょうふのとびらは ふたたびひらかれる
ねんげつはときのながれ
いちどうおまちしております」
「…。」
「……。」
静まり返る一同。
…一体、何が始まるというのか?
「ちえた、あたし、この"年月は時の流れ"っていう言葉が、どうも腑に落ちないのよ。」
怪訝そうな顔をしている薫さん。
「年月は、時…、つまり時間…。」
そう呟いたちぇるしーは、顔を真っ青にして目を見開いた。
「裏野夢見ランドが開園したのは1952年12月24日。…いや、ちょっと待て…。
誰か、裏野夢見ランドの建設工事が行われ始めた日にちって知ってるか…?」
「それなら、1952年4月8日です。」
淡々と星野さんが答えた。
「えっ?えっ?」
話についていけない私は、首を傾げる。
「…つまりだ、今日は2017年4月8日。
裏野夢見ランドの本当の出発点となった日から65年経った今日…、」
ごくりと唾を飲み込む私達。
「1952年が時間…、おそらく19時52分に、何かが起こるかもしれない――!」
その言葉は、鉛のように私達の心にのしかかり、暗雲を運び、地震のような衝撃をもたらした。




