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煉獄で生きる  作者: レゼ・モノクロ
和馬編1
7/29

平和な時間、しかし壊れた日常。

ゾンビ達の行動パターンを知っている人間は、生存者として長生きできるでしょう。

CoDとか海外ゲームのTipsみたいな事を書いてみた。

その後、屋上に戻った際に特に何かあった訳でもなく。

しばらくの間世話になることにした俺は、持ってきた携帯食料や水を配ったりしてそれなりの歓迎を受けた後、運動用のマットレスを借りて鈴鹿と2人で雑魚寝する形で就寝した。




翌日の朝。


「和馬先輩ー、起きてくださーい」

「先輩、起きろー」

俺は誰かに揺すられる形で目覚めを迎えた。

ちょっと昔の和葉がこんな感じで起こしてくれていたな。


「すまん和葉、俺はまだ眠い‥‥ムニャ」


「花梨、和馬先輩寝ちゃったんだけど」

「真凛、コイツどうやって起こす?」

片方微妙に口が悪くないか?


「‥‥どいて」

「す、鈴鹿ちゃん?」

「その手に持ってるのは‥‥?」

「‥‥」


俺の髪の上に何かが乗った。

ソイツは髪に張り付くようにして、そして


『ミーンミンミンミンミンミン!!!!』


「セミじゃねーかよ!!!!!?」

うるせぇ!おぁぁ!耳が!死ぬ!!

俺は即座に起き上がり、髪に張り付きながら未だに鳴き続けるセミを引き剥がして屋上フェンスの更に上に向けてぶん投げる。


「‥‥6月のセミはレアなのに」

「そういうもんなの?」

「そういうもんなのね」


「いやそういうのが聞きたい訳じゃねーんだよなぁ!」

普通セミを目覚ましに使うか!?


その後、セミの鳴き声と俺の悲鳴で慌てて来た他のみんなに大爆笑される羽目になったのは言うまでもない。




「ええと、そっちが花梨で、こっちが真凛だな?」

「和馬先輩、間違ってますよ」

「和馬先輩は顔すら覚えられない、なるほど」

いやわかんねーよ、お前らものすごく似てるしな。


朝食代わりの携帯食料を食べた後、この朝倉姉妹から自己紹介を受けたのだ。

すごく良く顔が似ている。これが噂に聞く一卵性の双子か。

今のところ口調でしか見分けがつかない。

口が丁寧なのが花梨、微妙に口が悪いのが真凛だ。


「その、なんだ。頑張って見分けられるようにするから宜しく頼むよ」

「はい、宜しくお願いしますね!」

「宜しく。あまり期待してないけど」

「口の利き方だけで見分けがつくかもしれない‥‥」

なんだか印象的な双子だった。




「ところで、鈴鹿ちゃんはどうして和馬っちの膝から離れないの?」

委員長、もとい美咲さんが聞いてくる。


日が登ってきて、スマホの時計は10時を示していた。

「一時間くらい前から乗ってるんだけど、離れてくれないんだ」


「それは知ってるけど‥‥ねぇ鈴鹿ちゃん、私と遊ばない?」

うぇへへ、と女性が出す声としては失格なんじゃないかと思うくらい欲望丸出しで美咲さんは鈴鹿に話しかける。


「‥‥やだ」

当然、鈴鹿の返事は拒絶だった。

「ガーン‥‥お姉さんショック‥‥」

「しっかし美咲さん、ギャルっぽくなっても性格は変わってなくて安心したよ」


ショックを受けていた美咲さんは割とすぐに立ち直った。

「そお?今までの私とは全然違うと思うんですけど」


「そうかな?子供好きな所は変わってないし、俺の事も覚えてくれてたみたいだし」


「え、あたしって前から子供好きだったっけ?」


「ずっと前の話だけど、美咲さんが学童保育に参加してたの見たことがあるんだよね」


「そこは憶えてて、名前は忘れてたのね‥‥」

うん、その、ごめんな‥‥


「そっかー、あたしは変わってないかー」

美咲さんは黄昏たように太陽を見るが、如何せん今はお昼前だし、夏も間近なので眩しい。

うっ、とすぐに目を逸らしていた。

しかしその顔は、何か不満げでもある。


「何かあったのか‥‥?」


「うーん、まぁ和馬っちになら話してもいいかな」

そう言って美咲さんが語り出す。


「あたしね、2年くらい前から、こんな感じの金髪ギャルな友達がいたんだ」

へぇ、と俺は一つ一つ相槌を打つ。あの委員長にそんな友達がいたのか‥‥


「その子、勉強が苦手でさ。親にも先生にも色々押し付けられて、それが嫌になって全部投げ出して、学校をサボって毎日遊んでるような子だったの」


「あたしはその子が病気で休んでるのかと思ってプリントを届けに行って、それで‥‥持ってくるなと怒られて」


「でも、なんだか諦められなくて、意地を張って彼女が受け取ってくれるまで玄関前で待ち続けたの」


「結果だけいえば彼女は出てきてくれた。そしてものすごく怒られた。私なんかの為にこんな事しなくていいのに、って。あたしはそこで逆ギレした」


「だったら私が教えてやる、友達として、同じクラスの仲間として、勉強でもなんでも教えてやる。って、彼女なんて言ったと思う?」

続きを促した。

鈴鹿も黙って美咲さんを見ていた。


「だったら‥‥だったら私も、教えてやるから。だって、その時から私も彼女から色んなことを教えて貰ったの。学校じゃ教わらないような事とかね」


「通りで外見だけは完璧なギャルなわけだ」

近くで見るとシャギーまで入れてるのか。


「外見だけ、は余計よ。それでいつしか親友として付き合うようになってたってわけ。‥‥このパンデミックが起こるまではね」

‥‥ここから先は聞いてはいけない、そんな気がする。

でも、俺は彼女の言葉を止める事は出来なかった。


「彼女‥‥死んだの。避難場所の体育館にまだ彼女のゾンビがいるわ」

美咲さんの声が涙声になっていく。


「最近、やっとテストで90台取れるようになったって言って、学校も遊びも楽しいって‥‥今度一緒にカラオケに行こうねって‥‥約束したのに‥‥!」

美咲さんは顔を隠しながらも話を続けていく。


「‥‥あたしは彼女を‥‥美玲の事を忘れない。誰にも忘れさせない。だから‥‥」

だからこうして自身の外見も内面も変えようとしているのか。


「‥‥‥‥ごめんね、突然こんな話聞かせちゃって。和馬も鈴鹿ちゃんも色々あったんでしょう?」

俺は鈴鹿がこの場に居ることを思い出した。

だけど鈴鹿は何も言わず、ただじっと美咲さんを見つめていた。


「俺は美咲さんほどじゃないよ‥‥なぁ美咲さん。一つ言ってもいいか?」

美咲さんはただ一言、大丈夫、とだけ返した。


「アンタ、自分だけ生きてて申し訳ない、とか思ってないか?」

美咲さんが目を見開く。

鈴鹿もこっちを見上げてきた。


違和感があったのだ。親友の死がショックなら悲しみだけが残るはずなんだ。

ただ美咲は、その親友になり切れない事を不満に思うような顔をしていた。

それは‥‥多分、自分よりもその親友が生きるべきだと思っているだろう。


「美咲の親友が死んだことと、美咲がこうして生きていることは何も関係ない。その親友は美咲に生きていてほしいと思っているだろうし、俺も‥そう思う。多分、他のみんなもだ」


「で、でもね‥‥」


「でもも何も無い。俺は美咲が生きていて良かったと思うよ。だから‥‥あんまり背負い込むな、無理をするな」


美咲はまだ涙が止まらないのか、顔を隠し続ける。

鈴鹿はこっちを見上げてきたままだった。

先に口を開いたのは美咲でも俺でもなく、鈴鹿だった。


「和馬お兄さんは‥‥鈴鹿に生きててほしい、って思うの?」


それは、勿論。

「そりゃそうだ、でなきゃ背負って運んだりはしないさ」


「そっか‥‥」


それだけ話すと、鈴鹿は再び黙ってしまう。

次に美咲が口を開いた。

「‥‥そうね、和馬の言う通りだわ。あたしどっかで多分‥‥そう思ってた」


「でも和馬のおかげで少し‥‥少しだけど、スッキリしたかも」


「それは良かった」


「でも‥‥さっきから聞きたかったんだけど。なんで私の名前呼び捨てにしてるわけ?」

あれ?


「‥‥‥‥‥‥無意識で呼び捨てにしてた。ごめん」


「あ、怒ってるとかそういう訳じゃないから!むしろそのまま呼び捨てにしていいよ!私も和馬って呼び捨てにしてるわけだし」

美咲は笑顔でそう言う。

涙はいつの間にか流さなくなっていた。


「んじゃあ‥‥これからもよろしく、美咲」


「宜しく任された!」


「なんだそりゃ‥‥」


と、話が一つ終わったところで、遼之介がこちらに来るのが見えた。


「おはよう3人とも、これから食料の調達に行くから、まずは午前のうちに準備するぞー」


「おーっし!ご飯だぁ!」


「なんか委員長、テンション高くないか?」


「人はご飯の前ではテンションが上がるものなのよ!」


「美咲はあの姉妹と違って口調で判断出来ないだろうなぁ‥‥」


「ん?いつの間にか委員長の事呼び捨てになってたのか、知らなかったな」


「色々あったんだよ」


ちょこっとだけ重い話を聞いただけだ。

そんな雑談をしながら、俺達は再び地獄を見る準備を始めた。

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