新たな生存者と情報交換。
説明回のような‥‥?
『とにかく上がってこいよ!あ、非常用の外階段で上がれよ!必ず!』
という(天にしてはやたら近い位置にいる)天の導きに従い、俺と鈴鹿は一段一段が妙にキツイ外階段を登っていた。
「これ誰が設計したんだよ‥‥」
滅多に使われない非常階段である。避難訓練の時にしか出番が無かったが、こうして登るとなるとものすごく大変だった。
ちなみに鈴鹿の場合はもっと大変で、俺の右腕を掴んで手すりのようにして上がっている。
時々鈴鹿が小さな声で何か言っているのだが、聞き取れなかった。
「‥‥してやる」
とかそのくらいの音量である。
その後、無事に階段を登りきり、既に開いている非常扉を通り抜ける。
そしてさっきの2人がいた部屋に入る。
「お、来たか!3日ぶりだな‥‥和馬」
「久しぶり、遼之介」
日向遼之介。俺の昔からの友達だ。
剣道部のキャプテンだったが受験の為につい最近辞めたらしい。
「ちーっす和馬っちー!」
「えー、と。誰?」
金髪ギャル。誰だコイツ。
「ひどいなー、同じクラスの美咲だっつの」
「‥‥‥‥あぁ! 金髪だから全然分からなかったよ」
辰野美咲。同じクラスでたしか‥‥委員長だったような‥‥?
そもそも黒髪だったし、あの真面目系の委員長が‥‥?
「パンデミックが起きて、校則もクソも無くなったから思い切ってイメチェンしましたー、的な?」
的な?って言われても、その。
違和感がありすぎて何言ってるのかわかりません。
「普通に考えて委員長がこんな金髪になってたら誰も気づかねぇよ‥‥まぁ座れよ和馬、そこの子も座ってくれ」
俺と鈴鹿は適当な椅子に座る。
情報交換の時間だ。
「まずは俺等から質問させてくれや、お前、この三日間どこにいたんだ?」
「自宅だよ。パンデミックが起きたその日、俺は学校を休んでたんだ」
「お前が休むのは滅多に無いから、珍しいと思ったんだが‥‥なんで休んだんだ?」
それは犬に噛まれた噛み跡が酷くて、と説明しようとして‥‥
そういえば。
俺の足の噛み跡はどうなってたんだっけ?
「ええと、それは‥‥‥‥これを見てくれればわかるかも」
確認の意味も込めて俺は足の噛み跡を見せようとした。
「‥‥何も無いんだが」
「なーんにも無いね?」
何も。
傷痕も、青くなっていた肌も。
全部元の状態になっていた。
「‥‥アレ?」
「どういうことー?」
「休む日の前日、近所の犬に噛まれたんだ。その傷痕がひどい状態だったから休んだんだけど‥‥」
「‥‥何も無いな、痕すら無いじゃねーか」
俺の身体に何が起きているんだ‥‥?
「まぁいい、お前は嘘をつかない奴だし信じるさ。とにかく初日はわかった。じゃあ後の2日は?」
「えーと、傷に関わるんだけど、避難しようとした時に傷痕が熱くなって、それで意識を失って‥‥気づいたら今日の昼頃になってたんだ」
「2日も意識を失う程の傷‥‥?一体なんなのかしら」
「委員長、口調が戻ってるぞ」
辰野さんは元々清楚系として人気だった。その頃の口調だ。
できればそのまま戻らないでくれ、キャラがもうわからなくなってきた。
「ん、んん!へ、へー、なんかよく分かんないけど凄いジャン」
もうブレッブレの人だなぁ、と思う。
「うーむ、結論を決めるには材料が足りないな。この話は後で考えよう。さて最後の質問だが、その子は誰なんだ?」
遼之介は鈴鹿を見ながら俺に聞く。
「あぁ、こっちに来る途中で横転した車の中から助け出してきた。名前は」
「鈴鹿」
鈴鹿が一言だけ喋る。
「そう鈴鹿だ。見ての通り滅多に喋らない」
余計な一言だったのか鈴鹿から軽く叩かれる、痛い。
「そうか‥‥大変だったな。次はそっちが質問してくれ、答えられることなら答えよう」
聞きたいことか‥‥それなら沢山ある。
「このパンデミックは何なんだ?あのゾンビ達も‥‥何なんだ?」
「俺たちにも良く分かっていない。全世界で同時に発生して、そして一日でインフラを壊滅させたことぐらいしか」
「つっても、あのゾンビ達の特徴はある程度分かってるんだけどねー、頭部の筋肉以外が軒並み弱くなって?顎の力が跳ね上がってて、あとはー」
「夜になると奴らは素早くなる」
「そうそれ!」
辰野さんが遼之介に向かって指をパチンと鳴らす。
だいたい持ってる情報は同じか。
「顎の力は俺も1度確認した。包丁を噛み砕かれたんだ」
「そりゃ記録更新だな、俺達が確認したのは箒の持ち手部分を噛み砕いたとこまでだ」
嫌な更新だよそれ。
「所で、夜になると素早くなる、というのは‥‥?」
「もうそろそろ夜だしー、その時に見られるかもね!」
想像出来ないし、実際に見て確認するしかないか‥‥
あとの質問は、と。
「次の質問は‥‥この学校で生き残っているのは2人だけか?」
「いや、屋上にまだ数人いる。俺達の担任と2年の山田と、1年の朝倉姉妹だな」
「双子の姉妹っていいよねー、私も妹か弟欲しかったなー」
「案外生きてる‥‥というか、避難場所は体育館じゃなかったの?さっき見た時はひどい有様だったけど」
それを聞くと、遼之介も辰野さんも嫌な顔をしていた。
「‥‥避難してきた人の中に感染者がいた」
「それも深夜に発症して襲いかかるのだから、見回りで外に居た人、体育館に行かなかった人、体育館から逃げ出した人以外は全員‥‥死んだわ」
「それは‥‥‥‥‥‥」
「その時見回りにいた私達2人が体育館に戻った時にはもう手遅れで、全員、瀕死かゾンビだったわ」
「だから俺たちは体育館の2階に行って、防火用のシャッターを閉じて奴らを閉じ込めた」
あのシャッターは遼之介が閉めたのか。
「つまり、生存者は‥‥」
「和馬達を入れても8人だな。全く‥‥最悪だった」
重い空気の中、俺は最後の質問をした。
「最後に聞きたい。その避難してきた人達の中に‥‥俺の両親を見なかったか?」
「‥‥いや、見ていない」
遼之介は俺の両親を知っているし、お互いに顔を合わせている。
俺は両親がまだ生きている希望を持てたことに感謝すると同時に、同じように学校に避難したであろう妹を心配せざるを得なかった。
和葉‥‥生きていてくれ。
遼之介達のエピソードも描きたい