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煉獄で生きる  作者: レゼ・モノクロ
和馬編1
4/29

いざ崎神高校へ。

7/24

修正と加筆

ゾンビ達を警戒しながら救出を行う。

緊張で一時間にも思えたその時間は、実際は五分にも満たないものだった。


助けた女の子‥‥小学生か、或いは中学生程度の身長だ。

後髪は肩まで行かない程度に切りそろえられているが、切った人が見逃していたのか、逆に前髪だけ少し長かった。目に入ってないかこれ?

‥‥少なくとも今は気にすることじゃないか。


余計な事を頭から振り払い、女の子に俺は話しかける。

名前は常に自分から名乗れ、と父に教わったからだ。


「えーと‥‥俺は一条和馬、君は‥‥って聞きたいんだけど、ここは危険だからお兄さんと一緒に避難してくれるか?」


時間はあまりない。ほかのゾンビが集まってきたら今度は死ぬ。

女の子はまだ呆然として、横転した車の運転席を見ていた。

そこには女性が頭から血を流して死んでいた。

多分この子の母親だろう。

目の前で親が死んでいくのを見るのは、どんな気持ちなんだろうか。

想像したくはないが、このパンデミックが続く間はそれが当たり前になっていくのだろう。


「君の母親かい?」

「‥‥‥‥」


返事はない。

‥‥ここに留まっていても仕方ないか。

女の子の手を掴み歩き出そうとするが、女の子は動いてくれない。

仕方ないな。


背中に背負ったバックパックを持ち直し、胸に掛けるようにして持つ。

そして空いた背中に、


「よっ、と‥‥暴れないでくれよ」


女の子を持ち上げ背負う。

ずっと昔、妹と遊んだ時に肩車をしたことがあったが、その時と同じくらいの重さだ。


「急がないとここもヤバくなる」


そう呟いて崎神高校への道を歩き出す。

女の子は顔の向きこそ母親に向いたままだが、特に抵抗無く背負われてくれた。


「この先にある崎神高校に向かうんだ」

「そこは避難場所だから、もしかしたら友達が見つかるかもしれないね」

「お兄さんは家族を探してるんだ、崎神高校に避難してるはずだけど」


どれだけ話しかけても、返事は無かった。

俺も‥‥俺の両親や妹がもし死んでいたら。

どうなってしまうんだろう。

だんだんと俺の口数も減っていくがしかし、俺の足取りはより強くなっていった。

この子は守らなくちゃいけない。


あと一時間か二時間で日も落ちる。

急がなくては。






「よし、着いたぞ」


崎神高校の門は相変わらず閉まっていた。

ゾンビ共の数も住宅街から変わってはいない。

時々フラフラと数人彷徨いているのを見るくらいだ。

不自然に少ないように感じる。

とっとと中に入りたいが、やはり正門が立ちはだかる。


「乗り越えなきゃダメか‥‥」


崎神高校の正門は自動開閉式で、手動の開閉が出来ない。

幸いにして1.5メートル程度の高さだから、1人ずつなら乗り越えられるだろう。

裏口の扉は手動開閉出来るが、回り込むのも面倒だし‥‥

しょうがないと覚悟を決めて、まずは女の子の方からどうにかすると決める。


「よし、じゃあお兄さんが持ち上げるぞ‥‥それ!」


女の子を持ち上げ、正門の上に乗せる。

その後に俺自身も正門を乗り越えると、再度女の子を背負うって歩き出す。


「避難場所は体育館か、まずはそっちに向かおう」

アスファルト舗装の地面を歩く。

ゾンビ達の死体が幾つかあり、戦闘があったことが分かるが、生存者の姿は見つからない。

外は危険だし、中に固まっているのかもしれない。


「ふぅ、やっとついた‥‥‥ってアレ?」


体育館の前に到着した。

が、シャッターが閉じられて中の様子すら全くわからない状態になっていた。

シェルターか何かなのかこの体育館は?


「しょうがない‥‥入口は幾つかあるし、一番近い2階の入口から1度確認しよう」


ただ一つ、違和感があるとすれば。

避難してきた人が沢山いるであろうその体育館からは、何一つ声が聞こえなかった。

まぁ、体育館というのは防音を重視して建てられるらしいし、案外うちの学校のは高性能なのかもしれない。

それとも何かの異常かもしれない。


「‥‥嫌な予感がする」


違和感は拭えなかった。

2階への外階段の踊り場で、俺は女の子を下ろしてここで待つように言う。

そして体育館2階入口にたどり着き、ドアを開ける。


体育館2階は基本的には移動用の廊下ぐらいしかなく、1階まで吹き抜けになっている。

そのためドアから少し歩くだけで1階の様子をチェック出来る。

だから見えてしまった。

100や200を超えるゾンビ達が‥‥1階にいる!


「‥‥っ!」


俺はドアまで戻り、急いで外に出て閉め直す。

目の前にゾンビが迫っていた訳では無いが、閉めなきゃダメだ。

鼻が曲がりそうなほど強烈な腐臭だけが残る。

吐きそうになるが、なんとか堪える。

家を出る前に食べた食料を吐き出す訳にはいかなかったし、なにより目の前に、泣きそうな目をした女の子が居たからである。


「‥‥てかないで」

「いまなんて‥‥」

「置いていかないで、和馬お兄さん」


女の子はそれだけ言うと、また口を閉じてしまった。

やっとショックから立ち直った‥‥のか?

というか。


「覚えてくれてたのか、俺の名前」

「助けてくれて、ありがとう」


女の子はあまり喋らない気質なのか、言葉を選んで端的に話してくる。

とりあえず、俺が一番聞きたいのは‥‥


「君の、名前は?」

「‥‥‥‥‥‥鈴鹿」


そう呟いて、今度こそ何も喋らなくなってしまった。

鈴鹿か、いい名前だ。苗字も教えて欲しいのだが、名前が知れただけでも十分。呼び合うための名前は大事だ。

なんだか感動系映画のワンシーンみたいだな、と思う。

実際はスプラッタホラーなんだから笑えやしないが、鈴鹿がショックから立ち直ったようで良かった。

鈴鹿は俺の隣にピッタリくっついて離れない。

‥‥立ち直ったというか、懐かれたのかもしれない。


ただ、これで目的地が無くなってしまった。

「これからどうしようか‥‥」

と悩み始めた時。


「アレ?和馬じゃん!アンタ生きてたんだー?」

「和馬‥‥?和馬!お前なのか!?」


上空から声が聞こえた。

俺と鈴鹿は揃って上を見上げる。

崎神高校の本棟の4階教室のベランダ部分。


そこには、知らない金髪ギャルと、知り合いの親友が居た。


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