避難場所の高校へ。
主人公視点だと説明が不足気味ですよね。
7/24修正
書き始めてほんの1週間程度しか経過してないのに何か忘れ始めている。
この世の地獄と向き合う決意をしてから、二時間ほど経過した。
ゾンビ共はすぐに見つかり、その行動を観察しながら、探すのに苦労した食料や水などが入った災害時用のバックパックの中身をチェックする。
俺の両親が災害時に備えて用意したものだ。
家族分の食料や水がある。
それもかなりの量で、これだけでも一週間以上は余裕で持つだろう。
バックパックは2つあるが、一つで二人分なのだろう‥‥2つ持つのは重さの面からかなり危険だ。やめておくか。
そんな準備をしながらもゾンビの観察を続ける。
奴らは鈍く、ゆっくりとした足取りで徘徊している。
音で反応しているのか、所々に停止してあるパトカーのサイレンに反応して大量のゾンビが集まっている。
感覚が鈍りすぎているのか、倒れているのに足をばたつかせながら動いている奴もいる。
ゾンビの数もかなりのものだ。
この街、崎神市の人口がどれくらいなのか知らないが、仮に数万程度だとしても、その数の半数以上がゾンビになっていると仮定すると、やっぱり数が多い。
とはいえその分布もだいぶバラつきがある。
恐ろしい数が密集しているエリアもあれば、逆に全くいないエリアもある。
上手く移動すれば最小の遭遇だけで高校までいけるだろう。
ゾンビ達への武器も考える必要がある。
良くあるゾンビ映画では、斬れ味の良すぎる刃物でバッタバッタとなぎ倒していくシーンがあったりするのだが、現実的に考えるとそんなことしたら‥‥包丁やナイフなんかではすぐ壊れてしまうだろう。
それでも無いよりはマシ、と台所から包丁を拝借する。
槍のような一撃で仕留められ、距離も取れる武器が一番良いだろう。
日本では自衛隊や猟師くらいしか持ってないが、銃が最も威力面ではいいかもしれない。音が気になるけど。
よし、と。
だいたいの準備はできた。
俺の通う高校‥‥崎神高校は、ここから2キロもないくらい近い場所にある。
が、俺の家からだと最短コースは住宅が邪魔でどれだけゾンビがいるのか全く予想がつかない。
よって危険度すらわからないルートは避け、ある程度道が見えてゾンビの少ないのが目視で確認できるルートで向かう。
‥‥いや、流石の俺も1キロとか2キロ先の道が鮮明に見えるわけじゃないから、父が子供の頃に買ってくれた双眼鏡を使って確認したんだ。そこまで視力がいいわけじゃない。
1度だけ目に痛みが走ると、その直後だけ遠くの光景が鮮明に見える時があった。
あれは一体なんだったのだろう。
ちなみに双眼鏡はバックパックに入れた。子供用のアイテムだったがちゃんと機能は果たせるし大丈夫だろ。
双眼鏡の活躍の場面を想像しながらいれる。
子供の頃はあまり気にしてなかったけど。
「チェックよし、行くか」
バックパックを背負い、包丁を右手に持つ。
これだけ見ると不審者として即通報されそうだが、もう既に通報する人間がいるのかすらわからない。
不思議な事に、外を観察していた時に生存者は殆ど見ていない。
時々車が通っていって、その後ろをゾンビがのろのろと追いかけていくのはみたが、そのくらいだ。
生きている人はみんな避難したんだろう、と頭の中で無理やり帰結し、玄関ドアを開け放つ。
家の前の道路には既に何人かゾンビがいるが、足が遅いので相手にする必要すらない。
問題無く俺は予定通りのルートを走っていく。
ゾンビのいない道路では歩きに切り替えて体力を回復させながら進んでいく。
不思議と疲れは貯まらなかった。
いつもより運動量が遥かに多いが、疲れはほとんど無い。
アドレナリンが出て麻痺しているのかもしれない。
そう結論した俺はより一層スピードを上げて進んでいく。
問題が発生したのはそれから15分後、崎神高校まであと10分程度で到着する、という所だった。
先程家から見えた生存者の乗った車。
その車が、こちらに底面を見せて横転していたのだ。
おそらく死体を踏み越えようとしてスリップしたんだろう。
車は横転しただけだったが、中の人間は‥‥?
裏に回ろうとして、そこにゾンビが2体いることに気づく。
新鮮な死体に集まってきたのだ。
「‥‥ん?」
車の中をよく見る。
シートベルトに押さえ付けられるようにして、1人の女の子がまだ生きていた。
声も出ないのか、無言でこちらを見ている。
こういう時、他人を救うのは危険な行為だ。
例えば自身などで倒壊した建物からの救出活動。
ああいったものに一般人が参加しようとするとまず拒否される。
瓦礫に足を取られないように行動する技術が必要であり、素人が行うのは無謀なのだ。
だが、今回の状況。もはや時間の猶予は無い。
確かに危険な状況だが、これに躊躇するような教えは父から受けてこなかった。
なら選択肢は一つだ。
「よし」
俺は包丁を握る右手に力を込め‥‥一気にゾンビ2体の背後から脳天目掛けて突き込む。
頭に突き刺した瞬間、ほんの一瞬の抵抗の後に脳まで突き刺さる。
そのゾンビからの抵抗は全くないまま、ゾンビは力尽きる。
「‥‥柔らかくなっている?」
頭に差した時の違和感から、ゾンビの肉体は腐っているのかもしれないと感じた俺は、包丁を引き抜きながら次のゾンビの右肩目掛けて包丁を振った。
次の瞬間、千切れた右腕は胴体から離れていった。
ただの包丁でそんな切れ味がある筈がない。
間違いなくゾンビ達は柔らかくなっている。
そう思った次の瞬間、ゾンビの左腕が俺の右肩を掴み、口を開けて噛み付こうとしてくる。
俺は包丁を口に挟むようにして抵抗しようとして、『包丁を噛み砕かれた』。
「っ!?」
反射的に俺はゾンビを蹴る。
腕の力は弱く、それだけで振り払うことができた。
だがある事に気づいた俺は、ステップを踏んで離れた距離をもう1度詰める。
続けてもう一度蹴り込み、更にゾンビを3mほど吹き飛ばす。
ゾンビは道路の端にまで押し込まれ、そしてガードレールまで到達する
その下は溝になっていて、ガードレールは落下防止の為にある。
「落ちろ!」
最後の1発、今度はより力を込めて蹴りを放ち、ゾンビはガードレールを超えて溝に落ちる。
ゴッ、という鈍い音が聞こえる。残ったのは横転した車だけだ。
これでしばらくは安全だろう。
俺は横転した車の元まで戻りまだ生きているだろう女の子に話しかける。
「大丈夫か!今お兄ちゃんが助けてやるから待ってろ!」
母が愛用していた包丁は亡くなってしまったようなものだが、女の子1人の命との引き換えなら母も喜ぶだろう。
そんなことを思いながら、俺は女の子を助け出したのだった。