序章
むかし書いた、ストック品です。
麗子さんが、苦労します。
では、ごゆっくり。
いとこのポン酢(お姫さま騒動)
― 序章 ―
「体験入学をされます、聖護院富子さんです。」
春四月、新学期も始まって、校庭の桜もすっかり葉桜になってころ、二年B組担任の静香先生に招かれて、教壇に上がった少女は、まあ、ぷくぷくとして色白で、血色のよいほほをした女の子でした。
目鼻立ちは上品と言ってもいいでしょう。
すっきりとした眉は涼しげで、やや丸めの目も、愛らしいです。
鼻は若干小さめで、顔の真ん中にちょこんとある感じ。
唇も小さめで、いかにも小食そうな印象。
ピンク色のほほは、健康そうにぴんと張っています。
額は白く、少し広い感じですが、賢そうな形をしています。豊かな黒髪をおじゃる分けにして、後ろでゆるく束ねています。
「みなのもの、仲良くするがよいぞ。」
全体的に、ふっくらした様子は…
贔屓目に見るならば、おたべ人形さん。
ちょっとつっ込んで言うと、い◎よくる◎のく◎よさん(酒井スエ子さん)のような…
どやさどやさって、言いそう。
あ・でも足はきれいね!
私立精華学園の制服に包まれて、ゆったりとしたお辞儀で挨拶しました。
それはもう、教科書に載せたいようなきれいな所作で、しっかりした教育が染みついている様子です。
「あの子、ナニモノ?」
芦屋雁子は、白峰麗子に向かって、ひそひそと話しかけました。
「しっ、雁子。あれ、素でやってるわ。」
麗子は、車椅子をくるりと回して、雁子に返事しました。
そうです、麗子は車いすに乗って、学校に通っているのです。
麗子の足は、中学生のころに自動車事故に会い、歩行困難になっていますので、こうして車椅子で授業を受けています。
一年生の三学期は、フランスで手術とリハビリを受け、一ヶ月も休みましたが、無事進級させてくれましたので、こうして同級生のみんなと、同じ教室にいます。
従姉妹の麗お姉さまがさそってくださって、お姉さまの旦那さまと、ほかの従姉妹二人とパリに遊びに行ったのが一月の三日。
お姉さまはいつも一緒についてくださって、すっごく嬉しかったんですけど、まさかそのパリ旅行が、麗子の足の、手術のためだったなんて、申し訳ないやらうれしいやら。
なにしろ、麗お姉さまと言えば、財界でも有名なお嬢様で、箱入りで、ボディガードが通常三〇人というウワサです。
麗お姉さまは、脇坂家の跡取り娘で、去年の秋に結婚して片岡麗となりました。
今は、実家の事業を少し受け継いで、会社を二〇ばかり引き受けたところです。
ワキサカグループには三七八社の傘下企業があり、連綿と受け継がれてきた名門でもあります。
麗子の家は、この脇坂家と縁続きで、麗お姉さまとは母方の従姉妹という間柄でもあります。
そんなお姉様が、まさか普通の人と結婚されるとは思ってもみませんでしたもの。旦那様は、とても優しくて博識でいらっしゃいます。
のっぽさんで、瓜実顔で少し糸目なんです。
そんなお二人と、二人の従姉妹と訪れたパリは、とてもすてきでした。
しかしながら、これでまた半年も入院したら、ただでさえ事故の時に一年落第しているのに、もう一年落第しちゃうところでした。
これも、麗お姉さまが学園に話してくださったので、なんとか進級できたということです。お姉さまは、学園のOGでもいらっしゃいますから。
話は元に戻ります。
さて、雁子は、机に伏せるようにして、麗子にささやきました。
「ほんと?麗子ォ、ちょっと引くわね~。」
「富子でおじゃる、家から出るのは初めてでおじゃる。みな、よしなにたのむぞよ。」
その口調を聞いて、麗子は改めて雁子に言いました。
「どうします?あの人、お公家さんじゃありませんよ、きっと。」
「へ?まさかその上←?」
「たぶん、しかも本当に箱入りだと思うわ。」
「あああ、あんたんち公家とつながりがあったわよね。」
「だめよぉ、ウチの直接のつながりじゃないもの。」
麗子は、嘆息して答えました。
「あんたんちは?華族でしょ?」
雁子は、はす向かいの伊丹あやに聞きました。
「だって、ウチは土佐藩つながりよぉ、ぜんぜん京都とは関係がないのよ~。」
あやは、情けない声で答えました。
「どうしましょう?先生、こちらを向いていますよ~。」
麗子が軽い悲鳴を上げました。
「うわ、下見て、早く。」
雁子もあわてて、声をかけます。
「ああ、はいはい、下ね…」
それより一瞬早く、先生は雁子を見たのでした。
「芦屋さん、クラス委員の伊丹さんといっしょに、お世話をお願いしますね。」
「あっちゃ~、あたっちゃったよ~。」
「よしなに頼むぞよ~。」
扇をぱたぱたさせて、そんなことをクチに乗せているものだから、一人は、しぶしぶ、もう一人は勢いよく、たちあがってお辞儀をしました。
どうやら、今回の生き物がかりは、芦屋雁子と伊丹あやに決定したようですね。
つづきます。




