プロローグ
不幸は、突然に訪れる。
毎年のように襲い来る残暑もようやく去り、寒い日が目立つようになった、紅葉色づく秋の昼下がり。
人の行きかう休日の街をあてもなく歩いていると、ズボンのポケットの中で、マナーモードにしていたスマホが震えた。こんな時間に連絡してくる人物は、一人しか思い当たらない。
ポケットからスマホを取り出し画面を見てみると、案の定、恋人からだった。
画面に表示された「波武成実」という文字を見ただけで、気分が明るくなる。道の端に寄って立ち止まり、通話ボタンを押して、俺は電話に出た。
「もしもし」
しかし、電話の向こうの声は、俺の思い描いていた人のものではなかった。
――もしもし。要弥育さん……ですか?
低い、男の人の声。聞き覚えがなかったが、どこか成実に似ているような……。
「どちら様ですか?」
――私は、成実の父親です。
「成実の?」
俺は一層眉をひそめた。成実の父親が、何故成実の携帯電話を使って俺に電話を掛けてきたのだろうか?
嫌な予感がした。
それはほとんど確信だった。
鼓動が速まり、喉が渇く。
――育さん、ですね。実は……成実が……。
その先の言葉は、本当に聞こえていたかどうか、自分でも分からない。もしかしたら、自分でその言葉を予想して、彼の言葉を聞く前に電話を切っていたかもしれない。いや、成実のいる病院に辿り着いたのだから、きっと場所まで聞いて切ったのだろう。
要するに、それだけその時の俺は混乱していた。
――成実が、交通事故で……死にました。




