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La promesse brillante  作者: 灰猫と雲
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乃蒼の章 「勝ち負け」

相変わらず私たちはクラスメイト達の中では教室の中に存在していなかった。けれど私は初めてそれを快適だと思い感謝さえした。誰にも邪魔されず、キラキラのなっちゃんを独り占めできる。そしてそのなっちゃんは私をキラキラだと言ってくれる。世界は少しだけ私に優しくなった。その優しさはほんの少しかもしれないけど私にご褒美をくれた。なっちゃんにもちょっぴりだけど笑えるようになったのだ。敬語だった言葉遣いもなっちゃんとケンカして仲直りしてまたケンカしていくうちに次第に普通に話せるようになっていった。私は「生きている」を実感していた。母が私に「生きる意味と理由」をくれたのなら、なっちゃんは「生きる楽しさ」をくれた。ケンカは誰かがいないとできないし、仲直りするまでがケンカだとどこかの国の偉いお医者さんが言っていたけど本当だと思った。ケンカしている時は相手と距離が開くけど、仲直りはケンカする前以上に近づけてくれた。


私たちは毎日のように放課後遊んでいたけど、金曜日だけはなっちゃんと遊ぶことができなかった。何か習い事してるの?と聞かれたので華道をお母さんと習ってるんだと教えたら

「のんちゃんお花習ってるの?大和撫子だね」

と言われた。私と同じようになっちゃんも賢い子どもだったので、大和撫子という四文字熟語を当たり前のように日常会話の中に盛り込んでくる。もちろん私もその意味を知っている。だから日本人に憧れるニホンジンの私はその言葉に心の中で狂喜乱舞していた。

「着物も着るの?見たい!のんちゃんの着物姿みたい!きっと似合うんだろうなぁ」

というので、着物姿の写真を家から持って来てなっちゃんに見せると

「わぁぁぁぁ!のんちゃん可愛い!いいなぁ着物」

とべた褒めしてくれてちょっぴり恥ずかしかった。もちろんそれ以上に嬉しかった。私は密かな期待を込めて、なっちゃんもお花習いに行かない?と誘ってみた。

「ん〜。やっぱダメ。私は超負けず嫌いだから、のんちゃんに勝ちたくなっちゃう」

勝ったっていいのに、と思う。なっちゃんならきっとすぐ私を追い抜いてしまう気がする。

「ううん。花はのんちゃんに譲るよ笑。その代わり他のことは負けないけどね」

他のことって?

「例えば勉強とか。のんちゃん頭いいもんなぁ」

私は1人ぼっちが長かったので、学校から帰っても本を読むか勉強するかしかなかった。幸い元から賢い子どもだったのでクラスでは断トツにテストの点は良かった。けれどその牙城を崩しにかかったのがなっちゃんで、私は僅差で辛勝しているといった感じだった。

「ま、体育は私の勝ちだな」

体育は無理だ。私は典型的な勉強しかできないタイプの人間で、50m走は下から3番目、跳び箱も4段しか飛べない。その点なっちゃんは運動神経がいい。50m走も女子では1位だ。跳び箱なんて8段も飛べる。ただしそんななっちゃんにも唯一ダメな事がある。

「音楽だけは負けを認めるよ」

なっちゃんはてっきりパーフェクトな小学生かと思っていた音楽の歌のテストの時、なっちゃんの歌声は、それまでクラス内で消えていたはずなのに突如として圧倒的存在感を輝かせるまでに音痴だった。もしも漫画だったらその歌声でガラスが割れ、飛んでいる鳥は落下し、隣のおじさんが耳を塞ぎながら怒鳴り込んでくるほどの音痴だ。アメリカは新しい武器開発に核なんかではなく環境に良いなっちゃんの歌声に注目すべきだと思った。危うく先生を含むクラス38人が救急搬送されるところだった。きっとなっちゃんは喉が壊れているんだろう。そうでなければあの歌声にはならない。私はなっちゃん以上に喉が壊れている人を知らない。

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