Reincarnation
"All's for the best in the best of all possible worlds.“
(あたう限り最善の世界で万事しかるべく最善。)
Prologue
A long time ago in a galaxy far, far away...
今で言う【神々】と呼ばれる存在が人類の未知の領域の五次元に存在している。
人類が誕生する遥か遠い時空の彼方で神々は、自分達の趣向の場として四次元空間で、ある刺激を起こし、神々の箱庭を作っていた。
それは、我々人類にとって今から 約138億年前の遥か遠い昔の出来事。
その小さな刺激は、後に地球という星に誕生することとなる人類達は 【ビックバン】と呼んでいる。
神々の箱庭、地球人から【宇宙】と呼ばれる事になるその空間は、ビッグバンの爆発から138億年の歳月を過ぎてもなお、衰えることも無く凄い勢いで四次元空間に膨張し続けている。
膨張し続ける空間に、神々は各々自分の趣味、趣向を取り入れた多種多様な【銀河】を作り始めた。
それが【宇宙】のはじまりである。
今を遡る事、46億年以前。
とある神は、【天の川銀河】と呼ばれる銀河を作り、星の終焉に起こる超新星爆発で散らばった星間物質を再び集め核となる恒星を作った。
その恒星こそが【太陽】と呼ばれるものである。
その太陽を中心にその重力の影響を受ける星々を作った。それが【太陽系】と呼ばれる空間である。
太陽系を作る神は太陽の他に様々な惑星や衛星を作り楽しむ。
その中のひとつに【地球】と呼ばれる惑星を45億4000万年前に誕生させたのである。
他の多くの神々は宇宙自体をデコレーションとしての空間に恒星や衛星、ブラックホール、ワームホールや彗星、流星群などを起こし宇宙空間の変化や彩りを楽しんで居たが、太陽系を司る神は、他の神々とは趣向が少し違い、星に生物を誕生させたいと試行錯誤していた。
生物の誕生には様々な要因やバランスが必要とし、難易度の高いものであり、太陽系の中で幾つか試みた星の中で成功した星の1つが地球である。
第1章 Demiurge.
太陽系の創造主は、地球という星に誕生した原生生物を金魚鉢の金魚を見るように生育を楽しんだ。
しかし、創造した者でも、思いもよらない事は起きる。
原生生物はどんどん進化をとげ、複雑化して増殖していく、恐竜が栄華を誇った時代を見た創造主は、その星をもっと秩序良く均整の取れた空間にしたいと思い【生態系】と言う法則を作り、あらゆる生物に適応させる為に一度、恐竜達を淘汰し試みた。
生態系にはピラミッド型の頂点に立つ生物が必要となる。それに選ばれたのが【人類】であり、人類繁栄の始まりである。
しかし、また創造主が思う以上に進化し続ける人類は、繁栄し、栄華を誇る。
創造主は、必要以上に繁栄、進化し続ける人類の監視と抑制と生態系の維持のために【天使】と【死神】を作る。
人類の【生】を天使、【死】を死神が管理すると言うシステムを作り生物と地球の維持、管理を託した。
【天使】は、創造主が特別に造形した存在で神々の居る五次元の世界と四次元の宇宙または、三次元の世界の地球とのパイプ役でもある。
反対に【死神】は、天使又は、創造主から選らばれた人間の魂が輪廻の輪より外れて司る。
天使は、神々の領域と地球の各地に移動する手段にゲートを使用し、地球の各地に点在している。
そのゲートは天使か創造主しか作動しない物ではあるが、ゲート自体は遺跡のように人間からも形として見えている。
近年このゲートが人間に発見されてしまい、人間界で話題となり、調査がされている。
それに伴い天使は、極力人類に姿を見せないようにしており、移動に差し障りが出て、昔の様に自由に地球に往き来が出来なくなっていた。それは、死神にも影響する。
死神は、天使から届く生命の終焉の監視と輪廻転生へのナビゲーターである。
死神の多くは、自ら命を絶った者の中で魂の若い者、慈愛の高い者が候補に選らばれ、その魂自身に黄泉の奥底でいつ来るか分らない転生の時を待つか、死神としてこの世とあの世の狭間で現世を見定めるかを選択をし、死神になることを望んだ者からなっている。
自らの命を絶った者の魂は基本、輪廻転生からは外れはしないが寿命を全うした者とは、やはり待遇は違う。
寿命をまっとうした魂は、浄化され、黄泉で次の転生を待つ、魂によりその時間は様々だが明るい、暖かな魂の休息のできる空間、世に言う【天国】より次の転生までの時を待つのに対して、自殺者は何百倍もの長い時間をかけて魂を浄化され、冷たい暗い何もない黄泉の奥底、世に言う【地獄】で次の転生を待つ事となる。
死神候補者は、天使から先ず死神としてこの世と関わるか?地獄で次の転生を待つかの選択を問われる。
しかし、死神の素養の有るものが自殺する割合も極めて少ないので、例外的に素養の有ると思われる魂を選びその魂の強く望む願いを賭けてゲームをし、ゲームに破れると死神として選らばれている場合もある。
第2章 It invites to darkness.
自分の記憶だけが永遠に心に留まり
自分の存在は時の流れとともに
遙か彼方に忘れ去られた
掛け違えた瞬間は
何度やり直してもそこにある
もし、願いが叶うなら
多くを望みはしない
終わりの見えないこの永劫回帰から脱け出したい
あの瞬間を乗り越えたい
何度繰り返しても
何1つ変わらない悪夢から 目覚めたい
朝、目覚めるとそれは長い長い夢だったと
誰かそう囁いてくれ
天使がとある死神の所にやってくる。
その死神は、先代の死神と盟約を交わしゲームをしたが、夢破れて死神となった。
自分の愛する人を事件で失い、何度も時間を戻り事件を回避しようとしたが結局力及ばず愛する人の運命は変えられ無かった。
「新しく死神になった者だ。仕事を教えてやってくれ」と1人の死神の姿をした魂を紹介する。
「久しぶりの新入りだな」とその死神は新入りをまじまじと見ながら言う。
「なかなか、死神の素養のある魂は少ないからな。そろそろお前も、自分の代わりを見つけて代替わりして転生したらどうだ?お前、死神になってかなり長いだろ?」
「そうだな、俺と同時期に死神なった奴等の大半は、転生していったな。
だが、どういう訳か俺には、なかなか素養のあると思える魂に出会えないからな」と死神はぼやく。
新入りの死神が聞く。「死神の素養って?」
「死神は色々な魂、人の人生を、生き様を全て見分けて冥界へと案内しないといけない。それには、現世と未練を絶ち切り、強い精神力と慈愛が必要だ。
心が強く、やさしい魂でないとできない。
しかし、現世に未練のない魂など稀だ。特に強い信念がある魂はな。
自殺者の魂から選ばれるのは、大半が現世に絶望し、未練が少ないからな。
だが、そう言う魂は、心が弱い者が多いから、中々該当しないのが現状だ。
なので、こいつのように自殺ではない者も選ばれる。しかし、楽しい仕事でもないからな。自分で命を絶った訳でもないしな。
だから、ある一定期間勤めると代わりになりそうな素養のある魂を見つけて盟約を交わし、ゲームを行い、そのゲームに勝ち、負けた魂に死神の任を渡すことが出来れば、転生することができる」と天使が説明する。
「なら、俺も、代わり見つければ転生できるのか?」と新入りは聞く。
「自ら命を絶った者は、創造主の赦しが出るまでは出来ない。だから、早く転生したければ一生懸命に魂をナビゲートすることだな。
まぁ、こいつのように反対に創造主に気に入られ過ぎて中々、転生出来ない奴も希にいるがな」と天使は言う。
「|彼処(現世)には戻りたいとはあまり思わないけどな?」と新入りは呟く。
「これから色々な人の人生を見届けて行けば、お前が生きた現世より、思う以上に不条理で悲しい人生を嫌と言うほど見ることになる。
それと同様に恵まれた羨ましい人生も見届ける事もな。
それにより、己自身の魂の素養を磨く事だ。そうする事で、そのうち自分も、より素晴らしい人生を歩んで見たい。やり直して見たい。と思うようになるさ。
もし、ならなければずっと魂が消滅するまで死神と言う役割を楽しめばいい。魂に依っては死神の役割を気に入り現世と黄泉の狭間に漂う事に楽しんでいる者もごく希にいるしな」
「そう言うものなのかな」と新入りは呟く。
「取り敢えず、新入り頼んだぞ」と天使は天空に消えて行く。
ベテランの死神は溜め息をつきながら新入りを見る。
「言いたく無ければ言わなくてもいいが、なぜ自ら死を選んだ?」と新入りに尋ねる。
「何もかもが上手く行かず、愛する人にも先立たれ、 信頼していた人から裏切られ、何を支えに生きて行けばいいのか、どうすれば良いのか解らなくなった時に死の誘惑に駆られ、死ねば何もかも解決するように思えたんだ」
「そうか、軽率だったな。これからは、もっと孤独で自分の無能さを思い知らされ、他人の人生に一喜一憂しながら何も出来ず、ただ見守り、どんなに不条理な最後の時でも、ただ魂を決められた黄泉へと案内するだけだ。
俺達には、人の寿命をどうこう出来ない。ましてや、その人の宿命を変える事など出来やしない。
現世の人間が寿命が尽きるのを目前で手をこまねいてただ見届けるだけの存在だ。
【そう、約束された人生最後の時を迎えるのを……】
まぁごく希に、何かの手違いでまだ寿命がまだ有るにも関わらず黄泉の入口までさ迷っている魂が居るからそいつらは現世へと戻してあげる事はあるけどな。本当に極希だ」
ベテランの死神は空間にA5サイズ位のスクリーンを新入りの死神に向け何やら映し出す。
どうやら生前の新入りの歩んで来た人生とその魂の素養らしい。
見終わると「なるほどな」と呟く。
新入りは察したのか「悲惨な人生だろ?」と言うが、ベテランの死神は「恵まれた方だ、お前がきちんと他人を理解しようと試みればこんな誤解や行き違いは無かっただろう」と言う。
「誤解?行き違い?」
「あぁ、丁度いい。仕事を教えるついでにある物を見せてやるよ。
それと後ひとつだけ教えておいてやると、お前はお前の愛した人とは、自らの命を絶たたなければ、来世でまた廻り合い一緒に幸せに暮らせる宿命を持っていたのにな。輪廻から外れて運命が変わったな」
「えっ?俺が次、転生したら?また逢える?」
「残念ながらもう無理だ。完全に輪廻のサイクルが変わったからな。
ん?そろそろ時間だな。よし、一緒に来い」
ベテランの死神はとある村に降り立つ。
「ここは………。ここは!俺が生前居た村だ」と新入りはキョロキョロ周りを見渡しながら呟く。
「本日これから、とある老人が黄泉へと旅立つ。仕事を覚えるついでにお前も一緒に見届けるといい。
先に言っておくが今のお前の姿、形は、生者からは見えない、極、極、希に俺達が見える生者がいるが、死神になった時点でお前の風貌は生前とは違っている。
お前の生前を知っている知り合いの生者がもし、お前の姿が見えたとしてもお前だと気づかない。
生者の目には、その人イメージによって風貌や姿が変わる。そう、見る人によってお前の見え方が違うんだ。それにお前が、生者の傍でどんなに叫ぼうとも俺達の声は生者には届かないからな。覚えておけよ」
死神2人は、ベッドで命が尽きようとしている、老人の枕元に立つ。
すると、新人の死神が「こいつ、こいつだ!年をとってはいるが俺は忘れない!俺を裏切った奴だ」と叫ぶ。
「言っただろ?叫んでも無駄だ。大人しくしろ!きちんと見届けろ。
それにちゃんと仕事も覚えろよ」
ベテランの死神はそう言い、老人の命の終わる最後の時をじっと待つ。
すると間もなく、その老人は予定されていた時刻に人として最後の時を迎える。
「いいか?このスクリーンとこの人物の見ている走馬灯を照らし合わせて間違いがないか?ちゃんと運命をまっとうしたか確認する」と説明し、老人の走馬灯をみせる。
それを見た新入りは驚き、老人を見つめる。
「おい、こら、きちんと仕事しろ。ちゃんと最初から最後まで見届けるんだ」
しかし、新入りは混乱してただ立ち尽くしている。
ベテランの死神が代わり見届け寿命とその老人の魂の素養を調べる。
「この魂は、125年後に転生する。それまで黄泉で魂の浄化と休息をする。さぁこれからナビゲートするぞ!」
「おい、待ってくれ。この男は俺を裏切った訳では無かったのか?」
「さっき見た通りだ。走馬灯に嘘、偽りはない。生者の生きてきた記憶全てが映し出される。例え本人が忘れ去られた記憶でも脳は全てを記憶している。それが死により、全て解き放たれる。
この男は、走馬灯の通りお前が、愛する人に先立たれ、人生に絶望し、やけを起こしているのを見るに見かねて、お前を敢えて突き放しもっと強く生きるようにと仕向けたがお前は、表面だけしか見ず、何も理解しようとせず、真実はおろか夢も希望も見ようともしなかった。その結果、ただ上部だけの見て、この世の中の全てを悟ったかのように絶望し死んだ。
この男は、お前の死を聞いて、自分の選択は間違いだったのか?お前をもっと違う形で諭した方が良かったのか?と自責の念に苛まれてたな。
お前がもっとしっかり世の中を見据えられれば、この男の誠意が理解出来たはずだ。
だからほら、見て見ろ。この男の魂は汚れは少ない。
悪行を行うと、魂は黒く汚れて小さくなって行く。ある程度の汚れは黄泉での浄化により綺麗に取り払えるが、殺生や、不道徳の行いを繰返せば、魂はその分速く汚れて、消耗していく。
魂の色でその人物の悪業が分ると言う事だ。
まぁ、基本自分の前世との関わりのある者のナビゲートは本来、回っては来ないが今回は、特別だ。
確認が出来たら、その魂にあった黄泉のゲートを開いて誘導する。
忘れずにちゃんと寿命と死亡日時に間違いないか?開くゲートに間違えが無いか?の確認を絶対に怠るなよ」といい死神は黄泉へのゲートを開き魂を見届ける。
魂がゲートに入るとゲートを閉じなから「希に死神候補になり得そうな魂を見付けたら天使に届けろ。
まぁこのデータを天界に提出するから天使が見極めるだろうがな。
この一連の作業が俺達の仕事だ」と説明し、旅立った老人の家から出て天空に帰ろうとしていると。
「ん?今日は忙しいな。もう次の仕事が入ったな」
「ん?どうして仕事が入ったと分るんですか?」
「仕事が入ると目の前に星が大きく瞬き、このスクリーンに次の魂の所在地とデータが映し出される」と言いながらスクリーンを見るとベテランの死神が怪訝な表情を浮かべる。
その表情を見た新入りは不安そうに聞く。
「どうかしましたか?」
「今宵は地上の悪魔の終焉に立ち会う羽目になりそうだ」と言う。
不思議そうな顔をしている新人にスクリーンのデータを見せる。
自分の知らない遠い国の統治者の様だ。革命で命を落とすらしい。
「先輩。どうしてこの魂が地上の悪魔?」と新入りが聞く。
「ここを見て見ろ」とスクリーンを指差す。
次の転生日時が空欄になっている。
「後ここもな」ともう1ヶ所指差す。
今までの転生回数6回と記載されている。
「次の転生が無い魂も多分にある。それは、魂も永遠に転生する訳ではないからだ。魂も消耗し、衰えて最後は消えて行く。しかし、転生回数は平均的に30回以上は越える。
しかし、この魂は6回だ。あまりにも少なすぎる」
新入りは「確かに少ないですが、どう関係が?」と首を傾げる。
「6回しか転生してない若い魂だが、浄化出来ない程、悪行非道を繰返したということだ。
前回の転生から今回の転生の期間も長い。悪業を代々繰り返したのか?
今回で浄化できない程の悪業をしつくしたのか?
どちらなのかは分らないが相当な極悪非道を犯した魂だ。
今回はもう浄化すら不可能な【不浄の魂】と天使が沙汰を下したのだろう。
それは、走馬灯には見るに耐えない酷いシーンが多分にあるぞ。
でも、俺達は、目を反らさず確認をしなければならない。どうする?
これは、今入ったばかりの新入りには、キツすぎる案件だ。
こんな奴は、死神をしていて1回お目にかかるかどうかの代物だ。無理に一緒に来なくても良いぞ?」
「なぜ、そこまでしてその魂の走馬灯を確認しなければならないの?」
新入りが不思議そうに聞く。
「それは、俺達が選んだ業だからだよ。
色々な人生を見て学ぶ事で魂を豊かにするのさ。論より証拠、何がより良い事か何がダメなのか、お前が前世ではあの老人の真意が見極めることが出来なかったのはお前に魂の素養が貧しかったからだ。
色々な人生を見る事でお前の魂が高みへと向かうと創造主は判断したんだろうよ。
人の人生は、嫌と言うほど不公平な物だ。生まれてすぐ死を迎える者。何もかも準備万端で恵まれた人生の者。
なぜ?どうして?人々の嘆きや感嘆尽きる事なく聞こえてくる。それと同じ位、喜びや幸せの声を聞くことになる。
しかし、人生単位ではなくその魂の単位で見れば、その所業の応報なのではないのか?人生を嘆いて死を選んだ者には、他の多くの人生を見届ければ 理解するだろう。
お前が強く素養のある魂に成長すれば、次の転生が巡ってくる。
そうすれば今度はより良い人生を選ぶ。
そうすることで幸せは必ずやって来る。
そう言うことだ」
「しかし、先輩は自殺したわけではないのでしょ?」
「まぁそれは、仕事を終わらせてからの話だ。
まぁ、走馬灯は見届け無くても、浄化不可能な魂の終焉を見届ける事は、なかなかないからな。
取り敢えず一緒について来い」
ずっと内戦が続いていたのかその魂の終焉の場所はかなり荒れ果てていた。
激戦地だったのだろう。周りには内戦で亡くなった人の魂とそのナビゲート役の多くの死神が集まっていた。
これからも死者が増えるのか?死神がどんどん集まってくる。
そこへ、あの天使もやって来た。
「やっぱり君が今回のナビゲート役に選らばれたのですね。
まぁ、確認だけで黄泉へのナビゲートは今回は有りませんが」
「俺ばかりに、こんな仕事を押し付けて!」
ベテランの死神は文句を言うが、天使は「あのお方の信頼が厚い証拠ですよ。十分に恩を売っておきなさいな。その分、貴方の望みが叶うのですから」と言う。
「既に十分過ぎる程、恩を売って居ると思うがな」と皮肉を返す。
「そろそろ時間ですよ」と天使が言う。
その時が来た。死神は怪訝な表情をしながら走馬灯とデータを確認する。
体から抜け出てきた魂は驚く程、黒く小さかった。出てきたその小さな真っ黒な塊を天使は何か唱えながら両手のひらに乗せると蒸発する様に消えた。
「御苦労様でした。後で天界に入らしてください。創造主様がお会いになりますよ」と天使は言う。
「俺達死神も、天界に行けるの?」と新入りが聞くと天使は「この御仁だけですよ。天界には私達天使と神々しか入れません。ですがこの御仁だけは入れる許可が有るんです。まぁ、それだけの大きな役割を果しているからですよ」 と天使は、言う。
「これで、ここは平和な国になるのか?」とベテランの死神は、天使に聞く。
「さぁどうでしょうね。この国の人々次第ですよ。私達天界は人の意思まではどうこう出来ませんからね。浄化不能な程汚れた魂の淘汰位ですよ。私達に出来ることは」
天使は、そう言って死神のもとを離れこの革命により命を落とした他の魂の幾つかを淘汰して行った。
「さて俺達の役目は終わった。さっさとここを離れるとしよう」とベテランの死神は言いながら移動する。
死神の安息の場所は雲の上である。
必要以上に下界を見ることもなく、必要以上に天界に関わることも無い。
第3章 Memory's Journey.
「先程の質問に答えよう」
ベテランの死神は遠い遠い昔の出来事を淡々と話し出す。
それは彼にとって、何度も何度も繰り返し記憶に刻み込まれた出来事。
昨日の事のように鮮明な出来事。
どんなに忘れ去りたいと願うも、記憶が薄れゆくことも、忘れ去る事もない悲しい出来事。
それは自らが願い、希望し、挫折した応報。
「俺は確かに寿命は全うはしたが、ずっとある事を気にかけてこだわり続けて生きていた。
有る意味あの時から抜け殻で、既に心は死んでたのかも知れないな」
「何を拘り続けたの?」と新入りは興味深そうに聞く。
彼は遠くを見つめゆっくりと話し始める。
「俺は20才を迎える年に最愛の人を不慮の事件で亡くした。
2人でこれから一緒に幸せにやっていこうと約束した次の日の出来事だった。
今思うと人生で一番幸せな時から一転して1晩で人生で一番最悪に叩き落とされた」
彼の表情は既に悲しみが究極点を越した結果か無表情だが、けれど冷たく重い痛々しいオーラが感じ取られる。
「その翌日は、たまたま俺は仕事の都合で村を離れた時に起こった事だった。
その日、俺の住んでいる村が野盗に襲わた。
不幸にも村には、野盗に対抗できる若い男性は狩りに出ていたり、山の畑などに出かけていて、村に残っている村人は弱者と言われる年寄りや女子供だけだった。
その結果、野盗は全てを盗み取る為、その時そこにいた村人を全員を皆殺しにして全ての金品を奪い尽した後、証拠隠滅の為、村に火をつけ焼き払って逃げた。
俺が戻った時には、そこは何も無い変わり果てた廃墟だった。
その日から数日、いや数年間は俺は事実を受け入れられてなかった。
何かの間違いだ。村人は危険を感じて何処かに逃げたはずだ。まんまと殺されるはずはない。自分の愛する人も一緒に……。
だから、ここで待って居れば安全を確認した後ひょっこり戻ってくると……。
季節は変わり、時が流れて認めたくない現実を少しずつ感じながらもそれでも俺はまだ事実を認めたくなかった。
残念ながら村人は殺されたかも知れない……。
でも、彼女は機転のきく賢い人だ!易々と殺されるはずがない。きっと夜盗の目を盗んで上手く逃げたはずだ!あまりに怖い体験をしたのと、自分だけ逃げ延びた罪悪で心の整理ができておらずまだ帰ってこれないだけだと…… 。
人と言うものは、不幸のどん底に居るとどんなに現実を突きつけられようとも、自分の都合の良い解釈を展開し、 何の根拠もない希望的願いを事実の如く思い込む。
それから、またどのくらい月日が経ったかわからないが、事実を未だに受け入れられず、帰って来れないなら自分が彼女を探し、会いに行こうと探すようになった。
俺はどうすれば 、もう一度彼女に会える?
どうやったら彼女に連絡ができる?
誰か彼女を見た人は居ないか?
旅に出かけもした。
居るはずのない彼女を探し求めた。
何をしていても、無意識に彼女の姿を探し、どうすれば彼女のもとへ行ける?
と頭の中はそういった事ばかりで、意味の無い事を考え続けた。
責めて夢の中でも、幻でも君に会えるなら……。
奇跡が起こるなら…… 。
もしも願いが叶うなら……。
君の面影を…… 。
君の笑顔をもう一度俺のもとに……
と切に祈り続けた。
祈っても、願っても何も起こらない。
彼女は帰ってこない。
この世のどこにも居ないと長い時間が指し示す。
そして、時は流れ、否応なく冷たい現実を認めるしか無くなった。
そうすると、今度はずっと俺は何故、あの時村を離れた?
何故愛する人を一緒に連れて行かなかった?
何故、用を済ませたら直ぐに戻らなかった?
と自責念と後悔だけの日々を送った。
その頃の自分は、周りの心配をよそに、自ら人里離れた場所に移り1人こっそりと余生を過ごした。
人が生きているとは言えない抜け殻が、そこに存在しているだけ状態だった。
俺の人生最後の日に現れたナビゲート役の死神からある提案を受けた。
『そんなに後悔しているのなら……。
そんなに強く願うなら……。
お前の願いを叶えてやろう。
時間を遡り人生を好きなだけやり直してみるか?
お前にあの出来事を変えることがてきるか試してみるか?
もし、本当にお前が思い願う様にあの事件を未然に防ぐか、お前が愛する人を無事救い出す事が出来れば、お前の勝利だ。
そのまま、お前の望んだ人生をやり直せる。
しかし、途中で叶わないと悟りゲームを降りるのなら俺の僕になる』とな。
『魂が消滅するまで好きなだけやり直すといい。
戻れるのは、事件の起こる10年前からだ。
当然事件やその間の記憶はない。
自分が後悔し続けてきた結果は、果してどうなるのか試してみるか?
しかし、このゲームには、リスクもある。
お前はこのゲームをすることで輪廻の輪から外れる。
しかも、失敗した回数だけお前の大切な人の魂に不幸が襲い掛かる。
成功すればそれまでの失敗分は消えるがな。
さてどうする?』と提案された」
昨日言われたかのようにはっきりと話す。
「受けたんですよね?」
「あぁ、即答で受けて見事に負けたよ。
散々、嫌と言うほどやり直してな。
やり直す度にどれだけ自分がバカで愚かなのか嫌と言うほど痛切に思い知らせながらな。
だから、今こうして彼女に俺のせいで降りかかる不幸を取消して貰う為に、創造主に恩を売って居るのさ。
他人の人生を見届けることで色々な事を悟る。
あの時の選択を間違え無かったらとか、ああしていればとか考えてもそれは結果が分って居るからだとな。
お前もその弱い心を他人の人生から何か学び取れと言う事だ。
一通りの仕事は教えた。後は自分で学べ」
死神はそういって立ち去って行った。
Epilogue
それからどれだけの時間が流れたのか分らないが、またあの時の新入りとばったりと会うことがあった。
「まだ、死神されて居たんですね。 俺、この仕事終わったら転生できるんですよ。先輩も、早く転生したらどうですか?」
「そうだな。そうしたい所だ。しかし、次の人生は全うしろよ」と言うと。
「今度は何が起きても自分から命を断つことはしませんよ」と新入りは笑いながら去っていった。
Fine.
創造主に気に入られ長い時間死神として時を過ごした彼も
1人の魂を見つけ盟約を結びます。
選んだ死神との盟約の相手は………。
そのゲームの結果は………。
Eternal Return ~永劫回帰~へと物語は続きます。
【All the characters in this book are imaginary.】