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温羅編4

 川の岸辺で横たわっていた猿助の指先が微かに、動いた。

「う……ううっ……」

 目を覚ました猿助がゆっくりと立ち上がる。

「うっ!」

 全身に走る激痛。

 打ち身や切り傷、水に流されたことよりも、タコ殴りにされたことが響いている。

 猿助は辺りを見回した。

「桃の姉貴!」

 返事は返ってこない。

「雉丸、ポチ、若いねーちゃん!」

 誰からも返事は返ってこない。

 歩みを進めようとすると、再び激痛が全身を走った。それでも仲間を捜さなくてはいけない。だって独りじゃ怖いから!

 川の上流にいけば何かあるかもしれないと思い、川沿いに歩みを進めた。

 途中で気絶している鬼を見つけた。

 口元を意地悪に歪ませた猿助が鬼を蹴っ飛ばしまくった。

「この野郎、さっきはよくも! てめぇ、この、ふざけんな、どっちが強いかわからせてやる!」

 気絶している相手によくもこんな非道なことをできるものだ。

 だが、気絶していたハズの鬼がピクッと動いた瞬間、猿助は地面におでこを激突させて土下座をはじめた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、オレは何もしてません。そうだ、貴方様を蹴っ飛ばしていた野郎はオレが今追い払いました……いや、ホント、マジで……」

 猿助はそーっと顔を上げて鬼のようすを伺った。

 動き出す様子はない。目を覚ます様子もないようだ。

 それを確認した猿助は再び強気になった。

「ビビったじゃねえか、ふざけんなよ、オレの強さにひれ伏してろ!」

 ガタダガっと石が崩れる音がした。すぐにビクッと体を縮めて猿助はすくんだ。

 風の悪戯か、それとも近くに誰かがいるのか?

 もしかしたら仲間かもしれない。

 猿助は気配を殺しながら辺りの見回した。見通しのいい場所だったが、どこにも人影などはなかった。

 静かに歩き出す猿助。

 足場は小さな石ころや岩が敷き詰められている。

 しばらくして、猿助の鼻に臭い香が届いた。

「硫黄の臭いか?」

 猿助の視線に映る湯煙。

 ピンと来た猿助は猛ダッシュした。

 辺りが見えないほどに視界を覆い尽くす乳白色の湯煙。

 猿助は身を屈めて岩場の影に隠れると、湯煙の中に目を凝らした。

 跳ねる水の音。

 湯煙に浮かぶ人のシルエット。

 その先に温泉があるのだ。

 猿助は鼻の下を伸ばしながらシルエットをガン見した。

 なめらかな曲線を描くシルエット。

 豊満そうなバスト、くびれたウェスト、ヒップは湯と同化している。

 猿助は確信した――若い娘に違いない!

 もっと見たい、間近で見たい、お近づきになりたい。今度の休日はヒマですかと問いただしたい!

 猿助は匍匐前進で湯船ギリギリのラインまで近づいた。

 おお、なんということか、若い娘が恥ずかしげもなく露天風呂。しかも一人だと思っていたら、三人組の大盤振る舞い。

 ハーレムだ!

 興奮を抑えられなくなった猿助は服を着たまま湯船にジャンプした。

「オレと混浴しようぜ、ねーちゃんたち!」

 三人娘が振り返って微笑んだ瞬間、娘がオッサンに変身した。

「騙されたなエロガキ!」

「えっ?」

 怖そうなオッサンたちが腕を広げて待っている。厚い胸板に飛び込んでこ〜い!

「ぎゃぁぁぁっ!」

 湯煙に呑み込まれた断末魔。

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