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スペースかぐや編9

 操舵室から隣の部屋、かぐやが逃げ込んだ先はトイレだった。

 基本女子トイレしかないラビットスター内。

 トイレは当然のように全て個室。

 桃がトイレに飛び込んだとき、とある個室に飛び込んだかぐやの横顔を見えた。

 すぐに桃はプロテクトスーツを脱いで、その個室の前に立った。

「便所になんか隠れてねぇーで、さっさと出てきな!」

 ゴンゴンゴン!

 桃はドアを殴るようにノックした。

 すると返事が返ってくる。

「入ってまーす」

「知ってるつーの!」

 ゴンゴンゴンゴンッ!

 さっきよりも激しく叩いた。

「入ってまーす」

「だから知ってるつーの!」

 ドンガンゴン!

 殴る蹴るした。

「入ってまーす」

「てめぇいい加減にしろよ!」

 ドゴォーン!

 桃は思いっきりドアを蹴破った。

「…………」

 呆然とする桃。

「逃げられた!?」

 個室の中はもぬけの殻。

 ノック音に反応する音声再生機がトイレのフタの上に置かれていた。

「どこ行った?」

 トイレには“故障中”の張り紙。水を流すレバーには“触れるな危険”の張り紙。

 ……怪しい。

 桃は躊躇せずに触れると危険なレバーを下げた。

 すると本来なら水が流れるハズが、代わりにトイレの脇にあった隠し扉が開いた。ここからかぐやは逃げたに違いない。

 狭い入り口から続く先も狭い路だった。人ひとりが通るのでやっとだ。天叢雲剣がちょー邪魔。

 長く続く一本道を抜けると、そこは大きな球体状の部屋だった。

 球は網柄の床で半分に仕切られ、床の一部を切り抜いた部屋の中央には、漆黒に輝く巨大な球体が自転していた。

 かぐやは部屋の向こうでドアを引いたり押したりしていた。

「マスターキーどこで落としたんだろう。お願いだから開いて、早くしないとクソババアが来ちゃう!」

 かぐやの背後に忍び寄る鬼気。

「クソババアって誰のことだい?」

 ハッとしてかぐやが振り向くと、そこにはやっぱり桃がいた。

「もう来たの早すぎっ!」

「あんたの言ってたカギってコレのことかねぇ?」

 桃は黄金の鍵を指先で摘みながら、ユラユラ揺らして見せた。

「あっ、返してかぐやのカギ!」

「そんなに大事なカギなら、どうしてさっきの隠し通路なんか落としたんだい。ドジな子だねぇ」

「かぐやドジじゃないし、不可抗力だし。そのカギがないと困るんだから返して!」

「具体的にどんな風に困るんだい?」

「たとえばここの扉が開かないとか、ラビットスターが発進できないとか……って何言わすんじゃボケッ!」

 それだけ聞けば十分。

「絶対返してやんねぇーよ」

 意地悪に桃は笑った。

 この黄金の鍵はかぐやがジパングに落ちてきたときから首に提げていた物。記憶を失っていてもずっと肌身離さずお風呂のときも持ち歩いていた。無意識にもこれが大事な物だと認識していたのだ。

 かぐやがジパングで記憶喪失になっている最中、この大事な黄金の鍵がなかったために、ラビットスターに残された部下は大変苦労したらしい。

 なんとしても黄金の鍵を取り返さなければならない!

「早く返して!」

「返して欲しけりゃ力ずくで奪ってみな!」

「……仕方ない」

 かぐやは呟いた。

 そして、かぐやは謎の小壺を取り出した。

「これが何だかわかる?」

「茶色い壺だろう?」

「中身を聞いてるに決まってるじゃん!」

「そんなの知るわけないだろう」

「この中にはラビットスターのスーパーメインコンピューター“ウサッピー”が弾き出した、あなたの弱点が入っているのよぉっ!」

「なにぃ!」

 桃は劇画チックな顔で驚いて見せた。かなりのオーバーリアクション。

 が、すぐに気を取り直した。

「アタイに弱点なんかあるわけないだろう。そんなもんがあるなら見せてもらいたいねぇ」

 強気な態度。本当に弱点がないのかもしれない。

 だったら小壺の中に入っているモノは?

「ウサッピーが導き出した答えに間違いないし。なんで弱点なのかまでは計算できなかったけど、使ってみればわかること!」

 かぐやが小壺のふたを開けて中から取りだしたのは――梅干し!

 これさえあれば白米何倍でも行けちゃうぜ。ジパングを代表する国民食だ。

 生唾を呑んだ桃の顔色が明らかに変わった。

 ゆっくりと桃が後ずさりをしていく。

 桃が、あの桃が怯えている!

 何の変哲もない梅干しにどんな恐怖が詰まっているというのだ!?

 さっそくかぐやは梅干しを一つ手に取り、剛速球!

「喰らえクソババア!」

「そんなもん喰えるかクソガキ!」

 桃は天叢雲剣で梅干しを打ち返した。

「クソババア、食べ物に粗末にすんなよボケッ!」

「てめぇが投げてんだろ!」

「避けるババアが悪いんだろボケッ!」

 結論、梅干しは投げても打ってもいけません。

 そんなことなどお構いなしにかぐやが梅干しを連続で投げる。

「喰らえ梅干し乱れ打ち!」

「乱れ打つのこっちだよ!」

 投げてきた梅干しをすべて打ち返した。

 互いに息を切らせるかぐやと桃。

 かぐやは新たな梅干しを取ろうと小壺に手を突っ込むが……ない!?

 相手の反応を見て桃は凶悪な笑みを浮かべた。

「もう終わりかい? 残念だったねぇ……」

 ギロリ!

 桃の眼で睨まれかぐやはすくみ上がった。

 ここから桃の反撃がはじまる。

 と、思いきや。

 かぐやは地面に落ちている梅干しを拾って投げた!

「喰らえババア!」

「うわっ!」

 不意を突かれた桃はらしかれぬ情けない声をあげてしゃがみ込んだ。

 本気で梅干しが怖いのだ。

 チャンスを見いだしたかぐやがしゃがんだ桃に梅干しを投げつける。

「梅干しが怖いだなんて笑っちゃうんだから!」

「やめーっ!」

 顔を防いだ桃の手に梅干しが当たった。

 眼を丸くしてかぐやはその一部始終を見た。

 叫ぶ桃。

「あぁぁぁっ!」

 その手が見る見るうちに萎れていく。まるで老婆のような枯れた手。

 かぐやはピンとひらめいた。

「梅干しアレルギー!?」

「違うわっ!」

 アレルギーではないにしても、あれほどまでに桃が梅干しを畏れる理由がわかった。単純な好き嫌いではなく、何らかの理由で人体に害を及ぼすのだ。

 そうとわかればかぐやは床に落ちている梅干しを拾って投げるまで!

 梅干しを拾おうと伸ばしたかぐやの手が止まる。

「揺れた?」

 それは震度一にも満たないごく僅かな揺れ。

 しかし、巨大なラビットスターが振動したということは、どこかで大きな爆発があったのかもしれない。

 すぐにかぐやはうさ耳をそばだてた。

「……なに……もっと強く念を送って……」

 突然の独り言。

 かぐやが危ない人になってしまった!?

 一時休戦してでも桃はツッコミを入れずにはいられなかった。

「何独り言言ってるんだい、気でも狂ったかい?」

「ちょっと静かにして、仲間とテレパシーで交信してるんだから!」

「テレパシーなんか使えるのかい!?」

「かぐやの種族が体得できる高位の……って静かにしてよ!」

 かぐやは仲間との交信に集中した。

「なになに……格納庫が破壊され……脱出ポッドも全滅……って、マジでーっ!?」

 なんだか救急事態が起こっているらしかった。

 急に真剣な顔をするかぐや。

「あなたと遊んでる場合じゃないみたい。あなたの仲間のせいでスペースかぐやは滅茶苦茶よ」

「アタイの下僕たちが悪さでもしたのかい?」

「まずはご主人様から責任取ってよね!」

 かぐやの手が梅干しの伸びた!

「させるか!」

 桃が天叢雲剣を振った。

 鋭い骨の塊がかぐやに直撃する寸前、彼女は苦い顔して桃を指差した。

「ラビットビ〜ム!」

 なんとかぐやの耳からビームが出た!

 両耳から出たビームは螺旋を巻いて一本になり、天叢雲剣を弾き返した。

 驚いて口を開ける桃。

「まともに戦えるんじゃないか?」

「これもかぐやの種族が体得できる技のひとつなの。できれば使いたくなかったけど」

「他にはどんなことができるんだい?」

「喰らえ梅干し……と見せかけてエネジードレイン!」

 かぐやは桃の腕を掴んで精気を吸い取った。

 すぐに腕を振り払って桃は飛び退いた。

「それがそうかい?」

「ええ、これは初歩中の初歩。かぐやの種族なら誰でもできる技」

「とっておきはないのかい?」

 わざわざ挑発する桃。

 その挑発にかぐやは乗った。

「見せてあげるわ、究極の脱兎をね!」

 脱兎――つまり逃げ足だった。

 かぐやの姿が残像を残して一瞬にして消えた。

 辺りを見回す桃。

 音もせず、姿も見えず。

「喰らえラビットビーム!」

 横から飛んできたビームを桃は爆乳を揺らしながらバク転しながらかわした。

 着地してすかさず天叢雲剣を薙ぎ払った。

 手応えはない。

「こっちだよクソババア!」

 振り向くと大量の梅干しが飛んできた。

 慌てて桃は高く跳躍した。

「クソッ、姿を見せやがれ!」

「ラビットジャップ!」

 背後に迫る気配。

「ラビットビーム&梅干し!」

「させるかっ!」

 大きく円を描いて横に振られた天叢雲剣。

 かぐやのバリアが発動した。それでも押さえきれない。

 空圧に押されたようにかぐやは後方の壁に激しく叩きつけられ、地面に落下してうつぶせになった。

 華麗に着地した桃の爆乳が上下した。

「もうダウンかい?」

「……梅干し」

 かぐやはうつぶせになりながら桃の胸を指差した。

「……ッ!?」

 驚いて桃は自分の胸の谷間に挟まれていた梅干しを払った。だが、すでに時遅し、胸が当事者比較一五〇パーセントくらい下に落ちていた。

 あの張りのあった美しい乳が、垂れパイになってしまったぁぁぁぁ〜。

 あまりのショックに桃は床に四つんばいになった。

「ジパング一の絶世の美女が……」

 心が折れそうだった。

 むしろこんな醜態を晒すくらいなら自分で追ってやりたかった。

 勝ち誇った高笑いをするかぐや。

「あほほほほっ、かぐやのナイスなボディにひれ伏すがいい!」

 今やナイスバディの代名詞はグラマラス美女かぐやのモノになってしまったのか!

 が、かぐやは何か違和感を感じた。

 なんだから目線が急に低くなってしまったような。

「きゃぁぁぁっ!」

 可愛らし声で叫んだかぐやの体が幼女になっていた。

「しまった、エナジーを使いすぎた!」

 だからラビットビームなどの技を出すことに渋っていたのだ。

 かぐやも桃と同じポーズで落ち込んだ。

 そのとき、隠し通路から猿助を背負った鈴鹿が現れた。

「大丈夫ですか桃さん!」

 ダメだった。まだ落ち込んでいる。

 さらに扉が轟音を立てながら破壊され、カートが部屋の中に突っ込んできた。

 雉丸が部屋の真ん中にある球体を指差した。

「ポチここがエンジンルームだよ……桃さん?」

 そこには落ち込んだ桃がいた。

 ちなみにポチはやっとカートが止まって放心状態。目を見開いたままブルブルしている。

 鈴鹿の背中に乗っていた猿助が自らの意志で床に降り、ヨボヨボの体を震わせながらフルフル桃に近づいていった。

「姉貴の……パフパフ……」

 夢遊病者状態だった。

 すっかり爺さんの顔になってしまった猿助が桃に手を伸ばす。

「ももぉ〜」

 まるでスローモーションのように、猿助の手が猿助の手が……。

「むねぇ〜けつぅ〜ももぉ〜」

 プルプル震える猿助の手が桃に触れようとした瞬間。

「どこ触ろうとしてんだい!」

 爆乳を激しく揺らしながら怒りの鉄拳が決まった!

 バチコーン!

 鼻血を噴きながらぶっ飛ぶ猿助。

 美脚を伸ばして仁王立ちする桃の見事な尻に食い込むフンドシTバック。

 そして、張り裂けんばかりの垂れてない爆乳!

 いつの間にか桃は精気を取り戻していた。

 ついでにぶっ飛ばされた猿助はそのまま部屋の中心にある巨大な球体と衝突。

 かぐやは連続瞬き世界記録に挑戦して、部屋中に響き渡る大声があげた。

「なんてことしてくれたのよボケッ!!」

 刹那、球体が大爆発を起こした。

 煙が渦巻く室内にスピーカーから合成音が響いた。

「アト一〇秒デらびっとすたーノ全機能ヲ停止シマス――5、4、3……」

 煙の中から笑い声が聞こえた。

「あははは、終わった」

 それはかぐやの笑い声だった。

 さらに続けて桃の声がした。

「終わってないっつーの。これからたっぷりお尻ペンペンしてあげるよ!」

「ちょ……」

「下僕の分際でアタイに逆らうじゃないよ!」

 ドガッ、バキッ、ベギッ、ボキッ!

 そのあとに聞こえたかぐやの悲鳴にこの場にいた誰もが耳を塞いだのだった。

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