温羅編2
どうにか荒波の海を泳ぎ切った桃は、船着き場までやってきていた。近くに停泊しているのは巨大な海賊船だ。
「クソッ、下僕とはぐれるなんて。サルとポチはいいとして、ウチで唯一役に立つ雉丸が……」
まるで自分は悪くないような言い方。三人を見捨てたのは誰ですか?
桃は慌てて物陰に隠れた。
人の気配がした。
そーっと辺りのようすを探ってみる。
すると、何やら話し声がこちらに近づいてくる。
「温羅の姐御も人使いが荒いよな、侵入者なんかいるわけねーよ」
「そう言うなよ。船は沈んだが、生きて島まで渡ってきてるかもしれないだろ」
「そんなわけあるか、島の周りは波が高くて、海の底には怪物はわんさかいるんだぜ?」
会話の内容を聞いていると、どうやら桃たちを探して見回りをしているらしい。
桃は隠れながら声の主に目を凝らした。
頭から虎のような耳を生やし、お尻からも黄色と黒の縞模様の尻尾が生えている。それ以外はどこにでもいるオッサン二人組だ。まさしくあれは鬼人族。
鬼人族の特徴は虎のような耳と尻尾、それ以外は普通の人間と変わらない容姿をしているのだ。
鬼の一人が何やら見つけたようだ。
「おい、あそこに何かあるぞ?」
「竹みたいだな」
竹みたいじゃなくて竹です。正確にいうと物干し竿です。つまり見つかってしまいました。
ぐっと息を呑む桃。
緊張の糸が張り巡らされる。
徐々に近づいてくる足音。
そして、突然の大声。
「会いたかったぜ姉貴!」
両手を広げて駆け寄ってきたのは猿助だった。
「アホ、大声出すなサル!」
桃の蹴りが猿助の顔面にヒット。それは蹴るというより『踏む』だ。
「おい、誰かいるぞ!」
鬼が声を荒げた。もう完全に見つかってしまった。
こうなったら出て行くしかない。
桃は物干し竿を振り回しながら物陰から飛び出した。
「おりゃーッ!」
剣は剣術、棒は棒術、武器には武術が存在するが、桃の戦いにそんなものはない。
力任せに物干し竿を振り回しているだけ。でも強い。
豪快にして華麗。
爆乳を激しく揺らしながら、優美な白銀の髪をなびかせ、しなやかな脚で地面を蹴り上げる。
猿助は桃の戦いに見惚れていた。主に揺れる乳とTバックのケツを熱心に見ている。
デカパイなのに決して垂れていない乳。ぷりぷりで脂が乗った吊り上がったケツ。どちらも甲乙つけがたい。
「どこ見てんだいサル!」
鬼たちと一緒に猿助も物干し竿でぶん殴られた。
気絶する鬼たち。
猿助も殴られたが、打たれ強いのか、ぜんぜんへーき。
「なんでオレのことまで殴るんだよ!」
「はぁ? 身に覚えがないって言うのかい?」
「オレが何したんだよ」
「そーゆーこと言ってると眼ん玉えぐり出して、一生お前の好きなケツとおっぱい見えなくしてやっていいんだよ?」
「はい、ごめんなさい。オレが全面的に悪かったです、はい」
猿助は急におとなしくなって頭を下げて謝った。威勢はいいが、相手に強く出られると弱いのだ。特に桃は怖いらしい。
桃が猿助に気を取られていると、気絶していたハズの鬼が何やら通信機を懐から出していた。
「侵入者だ……船着き……ぐげっ!」
桃の蹴りが這い蹲っていた鬼の顔面にお見舞いされた。
すぐに通信機を踏み潰して壊したが、もうきっと遅いだろう。
たちまちサイレンが鳴り響いた。
桃は猿助の胸倉を掴んだ。
「全部てめぇのせいだからな!」
「オレは何も……」
「アタイが隠れてたのに、バカな声あげて駆け寄ってきたのはどこのどいつだよ!」
「……ごめんなさい」
「わかればいんだよ。ほら、何ぼさっとしてんのさ、さっさと鬼どもをぶっ倒しに行くよ!」
言いたいことだけ言って、自分の気が済んだらさっさと次の行動。自分勝手だ。
どうして猿助はこんな桃のお供なんかしているのだろうか?
猿助は前を走る桃のお尻だけを追っかけていた。
きっとそれが理由だろう。
自他共に認める絶世の美女――その名は桃ねーちゃん。




