スペースかぐや編2
すでに都中から陰陽師や武士まで、戦える者なら誰でも集められ、八岐大蛇との攻防戦を繰り広げていた。
先陣を切っているのは安倍晴明だ。
「とにかく近づいては危険だ、遠くから矢を放て!」
整列する弓矢隊から一斉に矢が放たれた。
しかし、矢はすべて堅い鱗に弾かれ地に落ちた。まるで爪楊枝ほどの攻撃力もない。
晴明は使役している式神を呼び出した。
「出でよ前鬼後鬼!」
すると頭に角を生やした二人の少女が現れた。双子のようで見分けるのは難しい。
晴明が前鬼後鬼に命じる。
「八岐大蛇の進撃を防ぐんだ。最低でも帝様の元に近づけてはならぬ!」
前鬼後鬼は顔を見合わせ互いに抱き合った。
「いやぁ〜ん、あんな大怪獣となんて戦えないですぅ」
「戦っても負けちゃうもんねぇ、わたしたち」
うんうんと前鬼後鬼は示し合わせた。
役立たずだ!
だからと言って前鬼後鬼を責めることはできない。相手が悪すぎるのだ。
八つの頭と尾を持ち、背中には苔や草木が生えている蛇龍。その背は都のどの建物よりも高く、尾は川のように長く先がどこにあるのかわからないほどだ。
その巨体で歩くこと自体ですでに凶器となる。
雉丸は鞭のように撓る尾の一本を駆け登っていた。
木々が生えた背はまるで山そのもの。登山道に迷い込んでしまったような錯覚に陥る。
一本の頭まで登り詰めた雉丸は大声をあげた。
「八面大王、俺が誰だかわかるか!」
すると地鳴りのような声が返ってきた。
『誰が我の名を呼ぶのは?』
「貴様の不肖の息子だ。呉葉の子だと言えばわかるか!」
『ウォォォォン!』
突然、八岐大蛇は首を大きく振り乱し、振り飛ばされまいと雉丸はしがみつく。
遠くから誰かの叫ぶ声が聞こえた。
「暴れるなよ蛇野郎!」
八つある別の頭に乗っていた猿助だった。
さらに別の頭にはポチが乗っていた。
「うわぁ〜ん怖いよぉ、高いの怖いぃ、揺れるの怖いぃ〜」
さらにさらに別の首にはかぐやが必死にしがみついていた。
「てかあんたらなんで別の首に乗ってんのよ。他人の体の上ではぐれるなんて聞いたことないわボケッ!」
さらにさらにさらに鈴鹿もいた。
「ダーリン、すぐにそちらへ参ります!」
大通連に乗った鈴鹿は宙を飛び、もっとも移動効率がよかった。
で、ついでにもう一人。
「ぼ、僕を人質に取ったつもりか、この卑怯者めっ!」
晴明が巨大な歯に着物を挟まれて宙ぶらりんだった。
嗚呼、無力だ。
人間というのはなんてちっぽけなものなのだろう……大怪獣に勝てるかボケッ!
もうダメだ、世界の終わり世紀末だ。
八岐大蛇は口から炎まで吐きやがってくれてます。
都は死の劫火に焼かれようとしていた。
この世にも恐ろしい怪物に対抗する術はあるのか!?
陰陽師や武士たちの間を縫って紫の着物を着た女が前に出た。
「嗚呼、なんと嘆かわしいことじゃ。それでも我が息子かえ?」
「ママ!?」
叫んだのは晴明だった。
樟葉は臆することなく八岐大蛇に向かい、体から金色のミサイルを発射した。
「黄金飛翔破!」
九つの誘導ミサイルは次々と八岐大蛇の首を追撃して、残りの一発はカンチョーを決めた!
『ウォォォォン!』
狂ったように暴れ狂う八岐大蛇。甚大な被害が出て状況は悪化した。
そして、さらに状況を悪化させる出来事が起きた。
樟葉が身をよじらせたかと思うと、いきなり金色の狐に姿を変えて巨大化しはじめたのだ。
八岐大蛇よりは小さいが、そのサイズは見上げて首が痛くなるほど。金色の狐には尾が九尾あった。ジパングでも三本の指に数えられる妖魔――九尾の狐だ。
しかも、その尻尾を振るもんだから建物が壊れる壊れる。
それを見た晴明は他人の振りを決めこんでいる。
八岐大蛇VS九尾の狐
人智を越えた怪獣大戦争がはじまろうとしていた。
先に仕掛けたのは八岐大蛇だ。
燃えさかる火炎を口から吐き出した。
すぐに九尾の狐が自慢の尻尾で応戦する。
『竜巻旋風尾殺!』
クルクル回る九尾がまるで扇風機のように風を起こし、炎を瞬く間に消し去ってしまった。と、同時に強風で建物が吹き飛ばされた。
かぐやが晴明に向かって叫ぶ。
「あんたのママは必殺技の名前言わないと技使えないわけ! デカイ口で叫ばれると頭にガンガンくるんだけど!」
巨大化した分、声も巨大に鳴り響く。
怪獣同士がぶつかり合っている中でも、ちっぽけな存在たちは頑張っていた。
大通連で空を飛ぶ鈴鹿の背中に抱きついている猿助。
「落ちる落ちる!」
「もっと体を密着させてお掴まりくださいまし!」
ジェットコースターのように宙を飛ぶ鈴鹿の運転。それもすべて襲い来る八岐大蛇の頭をかわすため。
巨大な存在を前にたとえ無力と思えても、何かできることが必ずあるはず。
小通連が八岐大蛇の眼を狙って飛んだ。
しかし、巨体の割りに細やかな動きでかわされてしまう。
猿助が懐から何かを取り出して投げた。
「くらえ、忍法コショウ爆弾!」
投げられたコショウ爆弾は見事に八岐大蛇の眼を潰した。
コショウの痛みで一本の首が激しく暴れ回る。そして、しがみついていたかぐやが……落ちた。
「ぎゃぁぁぁっ!」
さよならかぐや!
雉丸はショットガンを巨大な眼球に撃ち込んだ。
再び首を激しく揺らして暴れ回る八岐大蛇。
たとえ鱗は堅くとも、こうやって眼球を一つずつ潰せば勝機があるかもしれない。
そして、ポチは――。
「わぁ〜ん、ここどこぉ!?」
八岐大蛇の背中で迷子になっていた。
さらに晴明は食道を登っている最中だった。
「このまま胃に落ちてたまるかぁ〜っ!」
どうやらいつの間にか食われていたらしい。
他の者は八岐大蛇と九尾の狐の戦いを白い顔しながら見守ることしかできなかった。
――嗚呼、都が二匹の大怪獣に壊される。




