スペースかぐや編1
酒呑童子がやられたという噂はジパング各地を巡り、しばらくの間は怪物も身を潜めていた。だが、今は逆に温羅や酒呑童子の二強がいなくなり、その座を巡って怪物どもは前にも増して活発に暴れている。
そんな世の中、桃は今日も呑気に昼寝をしていた。
猿助が桃の体を揺さぶった。
「姉貴〜、そろそろ怪物どもをドド〜ンと退治に行こうぜ、なぁ?」
「うっさいねぇ、行きたきゃあんた一人で行きゃいいだろう」
酒呑童子を倒したあとから、桃はずっとこうな調子で宿から一歩も出ていない。簡単にいうとヒッキーだった。
怪物退治で集めた蓄えならいくらでもある。この生活を続けようと思えばいつまでも続けられてしまう。別に遊んで暮らしても大丈夫くらい財宝を蓄え込んでいる。
桃がいる部屋を出て猿助は隣の部屋に移動した。
その部屋には雉丸、ポチ、かぐや、いつもの面々が揃っている。
雉丸が猿助に尋ねる。
「桃さんの様子はどうだった?」
「いつもと同じ。あのままじゃブタになっちまうぞ」
雉丸にハグハグされているポチが驚いた顔をした。
「人間って怠けてるとブタに変身しちゃうの!?」
見事に全員聞き流した。
桃に何があったのか誰にもわからない。聞いてもめんどくさそうに答えてくれない。
ただわかるのは、酒呑童子を倒してから、ずっとあの調子ということだ。
かぐやが何かひらめいて手を叩いた。
「きっとアレは恋だわ!」
「それはみんなで後押ししなくてはいけませんわね!」
と、声をあげながら部屋に飛び込んできたのは鈴鹿だった。
鈴鹿は部屋に入って来るなり猿助に抱きついて頬をスリスリ。
「ダーリンの失恋の痛手は妾が癒やして差し上げますわ」
「失恋なんかしてねーよ!」
ムキになって猿助は怒った。
ラブラブハートのカップルが二組。
雉丸は酒呑童子の一軒以来、なぜかポチにたいする溺愛っぷりが目に見えて激しくなった。
一人取り残されているかぐやはぼーっと窓の外を眺め……眺め……瞳孔を開いた。
「何アレっ!」
窓の外に広がる火の海。
京の都が華やかに滅亡の危機にあった。
鈴鹿がポンと手を叩いて思い出した。
「あ、そういえば、そのことでここに駆けつけたのでしたわ。酒呑童子が倒されたことを知った父親の八面大王が、八岐大蛇に変化して京の都に攻め入ってきましたの!」
早く言えよっ!
すぐに立ち上がった雉丸を心配そうな瞳でポチが覗き込んだ。
「兄さま、まだ無理しちゃダメだよぉ」
「大丈夫だよ、もうだいぶ傷も癒えたから」
酒呑童子の鋸刀でやられた傷がまだ尾を引いていたのだ。
ショットガンを背負って準備をはじめる雉丸を鈴鹿が見つめた。
「怪我かご病気をなされておりますの? だったら妾に申しつけてくださればよかったのに、ダーリンのお友達ならいくらでも治して差し上げますのに」
「やむを得ない状況でなけらば鬼の手は借りない。俺が先に行く、サルは桃さんを呼んでこい」
準備を整えた雉丸は駆け足で部屋を出て行った。
すぐに猿助も隣の部屋に駆け込んだ。
「姉貴! 起きろってば、恐怖の大王が都に攻めて来たんだぜ!」
「アタイには関係ないね」
「関係なかないだろ、ここでいつぶっ潰されるかわかんないだろ!」
「そんときゃそんとき。そのときになったら考えるとするよ。ふあぁ〜、これからまた一眠りすんだから邪魔すんじゃないよ」
「クソッ、勝手にしやがれ!」
猿助は部屋の扉を力任せに閉めて外に出た。
部屋の外ではポチとかぐやが待っていた。
ポチは心配そうな瞳をしている。
「姉御さんどうだったのぉ?」
「あんなの桃の姉貴なんかじゃねーよ、付いてこられても足手まといにんるだけだ。ほらっ行くぞ!」
猿助はポチとかぐやの袖を掴んで無理矢理歩きはじめた。
かぐやは足を踏ん張って抵抗する。
「なんでかぐやまで行かなきゃなんないのよ!」
でも結局、引きずられて行った。




