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酒呑童子編6

 鉄の城門の前で黒いふんどし鬼が門番をしていた。

「なんだお前たち、酒呑童子さまの城にノコノコやってくるとは良い度胸だな」

 口元を布で隠す爆乳ベリーダンサーが前に出るのを制止させて、横にいたマジシャンハットの男が眼鏡を直しながら口を開いた。

「私たちは旅芸人です。道に迷ってここにたどり着いてしまったのです」

 雉丸の声だった。

 バニーガールの格好をした不機嫌そうなかぐやもいる。となると、ベリーダンサーは桃だろう。

 扮装した三人。あとは荷車に積まれた大きな葛籠が二つあった。

 鬼は桃の体を舐め回すように視姦した。

「女とガキは召使いとして生かしてやろう。だが、男はここで血祭りにあげてくれる!」

 緊迫した空気が流れ、雉丸はリボルバーを隠しているマジシャンハットに手をかける寸前だった。

 だが、ここに新たな鬼が現れ状況は一変した。

「お待ち!」

 紅梅のきながしを着た茨木童子だった。

「旅芸人なんておもしろそうだわぁん。とりあえず通して酒呑童子さまにご意見を伺いましょう」

 こうして桃たちは城の中へ案内されることになった。

 中は城と言ってももとは洞窟だったらしく、要塞という表現のほうが正しいかもしれない。

 トラ耳の鬼たちの他に、若い人間の娘たちの姿も数多く見受けられた。おそらく無理矢理ここに連れ来られ、働かされているのだろう。

 廊下を先に進むにつれて、生臭い風、甘い女の香、そして酒の臭いが漂ってきた。

 茨木童子の案内で通された部屋。

 その部屋の奥に立て膝をついて座っている褐色の上半身裸の鬼。片手には酒壺、両脇には若い娘、首にも娘が抱きつき、肌と肌をすり合わせていた。

 それが一目で酒呑童子だと知れた。

 引き締まった肉体。鼻梁の下で笑う形の良い口から覗く八重歯。そして、女を虜にする鋭い眼で酒呑童子は桃たちを見た。

「何者だ?」

 その声を聞いたとたん、周りにいた女たちは体を痺れさせ、目をとろんとさせてしまった。

 茨木童子が恭しく頭を下げて答える。

「道に迷った旅芸人だそうですわ。酒呑童子さまがお喜びになると思って、ここまで通して参りました」

「なかなかおもしろい格好をした者たちだな、酒の肴にちょうど良い。おい、オレ様に何か芸を披露しろ。おもしろければそこの男も生かしてここに置いてやろう」

 では、さっそく――。

 雉丸は用意した輪に火を点け、桃はかぐやの首根っこを掴んで酒呑童子に軽く会釈をした。

「これからとっておきの芸をご覧にいれましょう。今からのこのバニーちゃんが見事、燃えさかる火の輪をくぐれたら拍手喝采、くぐれなかったときはご愛敬」

 この展開にデジャブを感じたかぐやが叫ぶ。

「ちょっと、まさか投げる気じゃ!?」

「うおりゃーっ!」

 かぐやロケット発射!

「ぎゃぁぁぁっ!」

 放たれたかぐやは火の輪にグングン近づき……燃えた。

 見事に火の輪にぶつかったかぐやのウサ耳に火が付いて、顔面を蒼白にしながら床に転げ回った。

「熱っ熱っ熱っ!」

 すぐさま雉丸がバケツの水をかけて消火終了。

 びしょ濡れになって力尽きているかぐやを見て、酒呑童子は床を叩いて大喜びをした。

「あははははっ、なかなかおもしろいぞ。他にももっとあんだろ、どんどん見せろ」

 続きましては息絶え絶えのかぐやを板に磔にして、雉丸がダーツの矢を構えた。それもまとめて八本、指に挟んだ。

 桃だけでなく、雉丸までそんなことするなんて……。

「己ら我を殺す気かボケッ!」

 かぐやが威勢よく叫んだ次の瞬間には青ざめていた。

 ビュン、ビュン、ビュン……!

 連続して放たれたダーツはかぐやの股の下から耳の横、ギリギリにところに突き刺さった。

 そして、最後に桃が一本のダーツを構えていた。

「アタイも一本投げようかね」

「アンタは投げるなボケッ!」

 ツバを飛ばしながらかぐやは叫んだ。だが、口で止めたくらいじゃ止まらない。だって桃だから。

 野球の投球フォームから、剛速ダーツが投げられた!

 ズゴォォォッ!

 明らかに風を切るダーツの音が違う。

「ぎゃぁぁぁっ!」

 ガシッ!

 な、なんとかぐやは歯でダーツを受け止めた!

 すぐにかぐやはダーツを吐き捨てた。

「ペッ……マジで殺そうとしたやっがなクソババア!」

 とても芸とは思えない迫真の演技(?)だ。

 それを見て酒呑童子は腹を抱えて大笑いした。

「あはは、あははははっ、愉快愉快。てめぇら最高におもしれーな、オレ様の城で飼ってやろう!」

 好感度も上げられ相手の信用を得たところで、雉丸は葛籠の中から酒壺をいくつも取りだして見せた。

「これは都でも評判の酒です、どうぞお受け取りください」

 酒と聞いて酒呑童子はさらに機嫌をよくした。

「なかなか気が利くじゃねーか。よーし、宴だ宴の準備をしろ!」

 さっそく宴会の準備がされ、人間の女たちが次々と料理を運んできた。

 仕事をしていた鬼も次々と姿を現し、宴は華やかに行われた。

 酒を浴びるように呑む鬼どもは臭い息を吐きながら上機嫌だが、お酌をしながら抱き寄せられる人間の娘たちは悲しげ表情を一様に浮かべている。

 今回はただ鬼どもをぶっ倒せばいいというものではない。取られえられている人間の娘たちも無事に救出しなければならなかった。そのため、いつものように桃が大暴れしては娘たちが危ない。

 酒呑童子は桃を近くに呼び抱き寄せた。

「オレ様が見てきた中でもおめぇが一番好い体してやがる。その布を取って素顔を見せてくれねーか?」

「見たいなら自分で取ってみな」

 眼が笑ってない。いつボロが出てもおかしない。

 自分を前にしても強気な桃に酒呑童子は八重歯を覗かせ嬉しそうに笑った。

「気が強そうだな、そういう女好きだぜ」

 酒呑童子は桃を押し倒して襲ってきた。

 しかし、桃は瞬時に足で酒呑童子の腹を蹴り上げて投げた。

 宙を舞った酒呑童子の姿を見て、部下の鬼どもは息を呑んで一瞬にして場が凍り付いた。

 腹心の茨木童子が鉤爪を抜いて桃に飛びかかろうとした。

 だが――。

「待て!」

 酒呑童子の一喝で茨木童子は身をすくめた。

 腹を押さえながらゆっくりと立ち上がる酒呑童子。

「その女に手を出したら八つ裂きにするぞ。その女はオレ様の妻にすると決めた」

 その言葉を聞いた茨木童子は憎悪に満ちた顔をして桃を睨みつけた。だが、鉤爪をそっとしまって、奥の席に消えていった。

 桃は酒呑童子を力強い眼で見据えた。

「ほう、アタイを妻にしたいなら、力ずくでどうぞ」

「あはははっ、やはり好い女だ。今すぐに力ずくでやってやってもいいが、今は酒を楽しもう。そのあとでじっくり相手をしてやろう」

 こうして危機は一つ去った。あのまま桃が暴れ出してしまったら、すべて計画は水の泡だ。

 酒はどんどん進み、見覚えのある黄色いふんどしの巨漢が、男らしい舞を披露した。

 それが鬼イエローだと気づいた雉丸は、すぐにシルクハットを深くかぶったが、桃は堂々と鬼イエローの横に出た。

 桃は物干し竿を手に取り、物干し竿を地面に突き刺しポール見立て、ポールダンスを披露した。

 その艶やかな肉体を駆使した桃の激しい踊りに、鬼は一斉に歓声をあげて鬼イエローのことは大バッシング。

 桃は手を滑らせたフリをして、物干し竿で鬼イエローの股間を激しく強打した。

「あら、ごめんよ」

 泡を吐いて鬼イエローは気絶した。さらに歓声があがった。

 楽しそうに桃の踊りを見ている酒呑童子に酒を持った雉丸が近づいた。

「男の酌で申し訳ありませんが、ぜひお近づきの印に一杯どうぞ」

「ありがたくいただくぜ」

 大皿に注がれた酒を酒呑童子は一気に飲み干した。

 雉丸はさらに酒を勧めながら尋ねる。

「酒呑童子さまの盗賊団は鬼の中でもっとも残虐で、多くの人間を殺しているとお聞きしましたが?」

「ん? 失敗するな、てめぇらのことは気に入った。変な気さえ起こさなきゃ殺したりしねーさ」

「人間がお嫌いですか?」

「大っ嫌いだな。ここにいる若い娘は別だがな」

 酒呑童子は脇に抱えている人間の娘を抱き寄せた。

 さらに雉丸は酒を注いだ。

「どうしてそんなに人間がお嫌いで?」

「もっと若いころに裏切られたからか……いや、裏切るもなにも奴らは最初っからオレ様のことを澱んだ眼で見てやがった。人間つーのは鬼を見ればすぐに逃げるか殺そうとしてくる、奴らは鬼が怖いのさ」

「それは鬼が人間を殺すからではありませんか?」

「それは違うな、もしも鬼が手を出さなければ……現に先に手を出したのは人間のほうだって話だぜ、遠い遠い今じゃ鬼の誰もが覚えてねぇ昔の話だけどよ。人間は鬼を恐れてる、それは鬼が自分たちよりも優れた存在だからさ。力も度胸も、人間の持ってねぇ技術だって鬼はたくさん持ってるんだぜ、多くはとうの昔に失われちまったらしいけどな」

 饒舌にしゃべる酒呑童子は、今度は雉丸に酒を勧め、さらに話を続ける。

「知ってるか人間? オレ様たち鬼の祖先は遠い遠い空の向こうから降って来たんだと。まるでおとぎ話みてぇな話だけどよ、浪漫があっていいじゃねぇか。オレ様もいつかは空の上に行って、天界のやつらにご挨拶でもしてみてぇーもんだぜ」

 そう言って酒呑童子は笑った。

 宴は何時間もの間続き、鬼どもの中にその場で眠りこける姿がちらほら見えはじめた。

 やがて酒呑童子も呑み疲れたのか奥の部屋に姿を消してしまった。

 宴は不気味にまで静かに終わりを迎えた。

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