酒呑童子編2
病室に現れた鈴鹿を見たかぐやの第一声は――。
「うわっ、なんでいるの?」
ごく当たり前の反応だった。
「その女を仕方なく治しに参りました」
鈴鹿はそう言ってふとんで寝込む桃の横に正座すると、両腰に下げていた二振りの妖刀を鞘から抜いた。
それを見た猿助は驚いて飛びかかろうとした。
「やっぱり止めを刺す気だな!」
鈴鹿は哀しそうな顔をした。
「妾は情けない。いくら愛した人とはいえ、ここまで信用されていないとは」
殺気などどこにもない。それに気づいた猿助は飛びかかるのをやめた。
気を取り直して鈴鹿は抜いた大通連と小通連を、背中から胸まで貫通した桃の傷口にかざした。
「この妖刀は元々大嶽丸という鬼から奪ったものなのですが……あいつったら、本当にキモイいしウザイし、ストーカーみたいで本当に困って……という話は置いておいて」
ストーカーなのはお前も同じだろ?
「この妖刀は生命の源、大嶽丸の命の分身と言っても良いものなのですのよ。そして、生命漲るこの妖刀を使えば傷などたやすく治るのです」
二振りの妖刀が淡く輝きはじめ、蛍火のような光が桃の傷口に舞い落ちる。
すると、なんと傷口は見る見るうちに塞がってしまったではないか!?
鈴鹿の言うことに偽りはなかったようだ。
しかし、傷が消えても桃はいっこうに目を覚ます様子はない。
「おかしいですわね」
と、鈴鹿は呟いた。
見るからに酷かった外傷は消えた。そして、桃の表情は穏やかに戻り、大量に掻いていた汗も引いている。
それでも桃は目を覚まさないのだ。
猿助は鈴鹿につかみかかるのをグッと押さえて口を開いた。
「どういうことだよ?」
「外傷は完璧に治しましたのよ。けれど……妾にもわからない症状ですわ」
「てめぇ!」
やっぱり感情を抑えられず猿助は鈴鹿に掴みかかってしまった。
しかし、軽くあしらわれ地面に叩きつけられてしまった。
「積極的なのは妾も嬉しいのですが、皆が見ている前で恥ずかしい」
「てめぇなに勘違いしてんだよ!」
「わかってますわよ。約束はちゃんとお守りいたします」
鈴鹿は背を向けて部屋を出て行こうとした。
猿助が呼び止める。
「どこいくんだよ!」
「外に止めてあった光輪車は返してもらいます。次にお会いするときは治療法を見つけたとき」
部屋を出て行く寸前、鈴鹿は振り返って微笑んだ。
「妾がいなくても寂しがらないでねダーリン♪」
こうして鈴鹿は部屋を出て行った。
「寂しかなんかねーよ」
吐き捨てた猿助の脇腹をかぐやが小突いた。
「鈴鹿お姉様に惚れた?」
「惚れてねーよ、だってあいつ鬼なんだぜ!」
「ふ〜ん」
「ふ〜んじゃねーよ。オレはあんな奴より、この太ももが……」
そう言って猿助は桃の太ももに頬をスリスリした。今だからできる暴挙だ。桃は起きてたら八つ裂きにされるだけではすまされまい。
だが、そんな猿助に鉄槌が下った。
「エロザルはさっさと出てけっ!」
かぐやにケツを蹴っ飛ばされて、猿助は部屋を追い出されたのだった。




